新型肺炎とマクロ政策(18)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年4月10日


はじめに

本稿では、4月9日の自動車消費の安定・拡大に関する共同記者会見の概要を紹介する。

4月9日 自動車消費の安定・拡大に関する共同記者会見
国家・発展改革委員会
(1)自動車産業の現状

わが国の自動車産業の発展の歴史からすると、現在、わが国の自動車産業は既に急速発展の段階を過ぎ、数量拡大から品質向上への転換期に入った。しかし、産業の長期に安定し好い方向へと向かう発展態勢に変わりはなく、未来の市場の余地は依然として非常に広大である。

わが国で自動車は1990年代初めに家庭に入り始め、自動車の生産量・販売量は、もともと100万台に満たないところから最近の2800万台に達し、長年連続世界一となっている。現在、わが国自動車保有台数は、おおよそ2.6億台前後であり、千人当り保有量は、もともと10台に満たないところから急速に伸びて180台余りと、世界の平均水準に達した。

2018年以降、わが国の自動車生産・販売量は確かに変化が発生しているが、総体としては産業発展の法則に合致しており、産業の長期に安定し好い方向に向かう態勢に変わりはない。現在、先進国の千人当り自動車保有量は総体として500~800台の水準であり、人口規模・地域構造・資源環境の国別の差異を考慮すると、わが国は将来、個人所得が不断に上昇し、消費が不断にレベルアップし、都市化が徐々に推進されるに伴い、わが国の千人当りの自動車保有量は依然としてかなり大きな成長の余地がある。

一面において、保有量の不断に増加に伴い、毎年更新される消費量は現在の900万台前後から、徐々に増加して2000万台以上に達する可能性がある。他方で、わが国の三線以下の都市の自動車消費の潜在力は比較的大きく、将来わが国の自動車消費の新たな成長エンジンとなる。

産業で発生している変化に対して、国家は一面において、自動車消費を安定させる政策を打ち出し、自動車消費の環境整備に重点を置き、自動車消費の潜在力を十分に発揮させ、自動車市場の伸びの変化が産業にもたらす衝撃を穏やかにした。他方で、産業が質の高い発展へ踏み出すよう積極的に誘導し、産業の電動化・スマート化に向けた転換・グレードアップの加速を推進した。

総合的に見ると、最近の疫病は短期間内、自動車産業に対して確実にかなり大きな衝撃と下振れ圧力をもたらすが、我々はこの情況は一時的なものと考えており、わが国の自動車産業の長期的に好い方向に向かう趨勢に影響は及ぼさない。調整・最適化を経て以後、中国の自動車市場は徐々に回復し、かなり長期間安定を維持するだろう。

(2)自動車産業の重要性

国家は、自動車産業の発展を非常に重視しており、国家がこの時点で自動車消費を安定・拡大する政策を打ち出したことは、主に自動産業が十分重要だからである。現在疫病から受けた衝撃が比較的大きく、有力な措置を採用して自動車消費を促進し、自動車産業の業務・生産再開を推進する切迫した必要がある。

自動車産業は経済社会発展において、一挙手一投足が全局面に影響する重要な地位を占めている。供給の角度からすると、自動車産業のチェーンは比較的長く、関連度が比較的高く、波及面はより広い。自動車製造業の付加価値は、全工業付加価値の約7%前後を占めている。2019年、わが国の工業付加価値は、大体32兆元であったが、自動車製造業は2兆元余りを占めており、このウエイトは比較的高い。

消費の角度からすると、自動車は国家の民生に関わる重要な消費財である。現在1件当りの価格10万元前後の消費財のうち、別の製品では自動車には太刀打ちできない。自動車消費が社会消費品小売総額に占めるウエイトも高く、10%前後を占める。2019年、わが国の社会消費品小売総額は大体41兆元であり、自動車は4兆元近くを占めた。

今年に入り、新型肺炎疫病の影響を受け、自動車の生産・消費は確かに大きな衝撃を受けている。わが国の産業は比較的すべて揃っており、産業の頭から尻尾まで連なり、互いに需給をなしている。もし、自動車生産・販売量が引き続き下落すると、自身に影響が及ぶだけでなく、その他の産業の業務・生産再開にも影響し、さらに最後には経済全体の平穏な運営にまで影響が及ぶことになる。このため、党中央・国務院は自動車等の重点産業の発展を高度に重視し、関係部門に産業の業務・生産再開を内需拡大と一緒に結びつけ、消費を牽引し、有効な内需を拡大する政策措置の早急に検討・制定するよう要求した。

党中央・国務院の政策決定・手配に基づき、国家発展・改革委員会は、今日集まった財政部、商務部、生態環境保護部等と、当面のわが国の自動車消費の情勢について分析を進め、自動車消費を安定・拡大する政策建議を検討・提起した。この建議は、国務院常務会議の審議承認を経て後、既に対外的に公表されている。これらの政策が実施に移されて以後、新エネルギー自動車の発展成果・優位性は一層強固となり、老朽自動車の廃棄処分・更新を加速し、中古者の流通・取引を円滑にし、疫病の影響に有効に対応して、自動車消費を安定・拡大することになろう。

(3)自動車産業の業務・生産再開

今年に入り、自動車産業は確かに新型肺炎疫病のかなり大きな衝撃を受けているが、各方面の共同努力の下、自動車産業の業務・生産再開は既に有効に展開されている。初歩的な予測では、産業が早期に正常に戻るという見込みは、なお総体的な判断である。疫病の影響を受け、これまでの個人の消費意欲は一時的に抑制され、自動車販売に大幅な低下が出現した。業種協会の統計によると、1-2月期、わが国の自動車生産量・販売量は、前年同期比でいずれも40%余り低下した。もし2月のデータを単体で取り出せば、影響はさらに大きく、2月の生産・販売量の前年同期比減少率は80%に達する。

疫病の影響に対し、党中央・国務院の手配に基づき、関係部門と地方政府は積極的に多くの措置を採用した。重点は、人・モノ・資金の流れを円滑にすることであり、企業の業務・生産再開のために有利な条件を創造することであった。自動車企業も方法を考え、人員の職場復帰問題、物流・輸送問題、部品供給・防疫物資等の問題をしっかり解決し、業務・生産再開の加速に努力した。

全国の疫病防御の情勢が引き続き好転するに伴い、生産生活秩序は不断に回復し、自動車生産・販売は徐々に反転上昇している。データ観測によれば、現在主要な自動車企業は既に全面的に業務を再開しており、日産量も徐々に回復し、昨年同期の水準の75%以上に達しており、回復は比較的速いといえる。ディーラーからすると、ディーラーの契約は正常水準の65%以上に回復しており、悪くはないが生産段階よりやや遅い。総体としてみれば、自動車の業務・生産再開は既に全面的に展開されており、市場販売も回復している。

わが国は自動車生産大国であるのみならず、自動車部品の生産・輸出大国でもあり、大部分の部品は国内で調達できるが、ごく少数の部品はなお輸入の必要があるかもしれない。今の時期、海外の一部部品供給が疫病の影響を受け暫時生産停止となっているが、業種協会が組織的に調査・研究を行った情況では、現在国内企業が輸入している部品の在庫は比較的余裕がある。これまでに一部契約を増やしており、現在この部品は輸送の途中なので、現在自動車企業全体の生産でまだ部品が原因の影響は出ていない。今後の情況について、我々は密接にフォローし、注意を払っていく。

このため、将来自動車消費を安定・促進する政策の効果が不断に現れ、庶民の生産生活が徐々に正常な軌道に回復するに伴い、疫病が抑制してきた自動車購入需要が徐々に解放されてくるので、自動車生産・消費の循環は円滑になり、産業は速く正常軌道に回復するだろう。

商務部
(1)自動車消費の現状

2019年、わが国の自動車販売量は前年比-8.2%であり、新型肺炎が自動車消費の下振れ圧力を一層増大させている。現在、国外で疫病が拡大・蔓延しており、自動車生産・消費・輸出入にもたらす影響は避けられない。このことを党中央・国務院は高度に重視し、国務院常務会議は一連の政策措置を決定し、市場の自信を極めて大きく増強した。これは、自動車消費を奮い立たせることにとって意義重大である。

国内の疫病防御の情勢が引き続き好転するに伴い、自動車企業は既に全面的に業務・生産を再開し、市場の需要は着実に反転上昇している。3月下旬、商務部は重点的に小売企業の自動車販売額を重点的にモニタリングしたが、2月下旬に比べ8.9%増であり、中国自動車流通協会の統計では、3月の乗用車販売は104万台であり、2月に比べ伸び率が37.5ポイント回復した。

わが国は、世界最大の自動車・新エネルギー車の生産・消費国であり、世界の重要な自動車部品・原材料の生産・貿易大国でもある。近年、わが国の自動車消費には、主として4方面で特徴が現れている。

①規模を不断に壮大にする。

自動車生産・販売量は、既に連続11年世界一位であり、2020年末、わが国の自動車保有量は米国を超えると見込まれる。

②構造調整を加速する。

農村住民の家庭の自動車保有量は15.5%増え、既に連続5年都市の伸びを上回っている。

③レベルを徐々にアップする。

ミドル・ハイエンド乗用車市場のシェアは不断に拡大し、SUV車の販売量のウエイトは43.7%に達し、前年比で1.5ポイント高まった。

④グリーン発展を際立たせる。

新エネルギー車の販売は120万台を超え、世界の販売量の50%以上を占めている。

多くの要因の影響を受け、わが国の自動車は既に連続2年下降し、長年の急速成長を経て以後、段階的調整のプラットホームの時期に徐々に入っているが、これは決して自動車販売が引き続き低下することを意味しない。

わが国の自動車消費は、なお発展の天井には達していない。わが国の人口のベースは大きく、発展の潜在力は十分である。千人当り自動車保有量は世界平均水準を超えたばかりであり、先進国との格差は甚だしく大きい。

国家の中長期計画では既に自動車の低炭素化・情報化・スマート化の発展方向を明確にしており、引き続き高性能・低排出・省エネルギー型の自動車消費を不断に推進する。経済発展、環境保護、交通・旅行の3方面の要求を統一的に企画し、経済発展の水準、公共インフラ建設、資源の受容量等の要因を総合的に考慮すると、わが国の自動車消費はなお非常に大きな発展の余地がある。

(2)地方の自動車消費促進策

概括すると、主として8方面である。

①自動車購入制限政策を最適化する。

広州・深圳・杭州は、購入制限指標を増やした政策を打ち出し、最近上海もナンバープレート入札の指標を増やし、貴陽は購入制限措置を廃止し、海南は新エネルギー車の購入制限を廃止した。

②新車消費への補助を実施する。

広州・深圳・珠海・佛山・寧波・長沙・南昌等の地方は、新車を購入した消費者に補助を与え、嘉興等の都市は自動車消費券を支給している。

③中古車から新車への切り換えを展開する。

上海・南京・長春・広州・佛山等の地方は、中古車を廃棄あるいは売却して新車を購入した場合は補助を与えている。

④老朽自動車の廃棄を加速する。

北京・天津・陝西・海南・済南・成都・武漢・太原等の地方は、老朽自動車を廃棄した場合は補助を与えている。

⑤検問による都市への進入制限を廃止する。

河南・河北・遼寧・雲南・湖南・新疆・重慶・寧波等の地方は、検問による都市への進入制限を廃止した。

⑥中古車取引を促進する。

関係地方は、積極的に中古車の他地域への移送制限政策を廃止し、湖南は中古車流通促進特別資金を専門に設立している。

⑦自動消費促進活動を組織化する。

遼寧・広東・浙江・新疆・ハルピン・桂林等の地方は自動車の農村普及、自動車の集団購入、自動車消費節、オンライン自動車購入節、中古車購入節等の販売促進活動を主催している。

⑧自動車消費環境を改善する。

海南・貴州・広州・深圳等の地方は新エネルギー充電施設、駐車施設の建設支援を強化している。

財政部
(1)新エネルギー車支援

党中央・国務院の政策決定・手配に基づき、中央財政は2009年から新エネルギー車購入に対して補助を与え、2014年9月1日から新エネルギー車の車両購入税を免除している。この2つの政策・計画は、今年末に期限が到来する。関連政策と各方面の努力の下、わが国の新エネルギー車産業は無から徐々に壮大になり、既に連続5年生産・販売量は世界第一位である。

産業の発展になお存在するいくらかの問題について、自動車消費を促進するため、今年3月31日国務院常務会議は、今年年末に期限が到来する新エネルギー車の購入補助と車両購入税の免除を2年延長することを確定した。これは、以下を考慮している。

①問題解決に助力し、産業の質の高い発展を推進する。

わが国の新エネルギー車の立ち上がりは早く、スタートは良好で、発展は速かったが、現在いくらかの現実の困難が存在する。それは、主として新エネルギー車の製造コストが比較的高く、伝統的なガソリン車との競争が難しく、引き続き支援を与え、容易ではなかった発展の成果を強固にし拡大することが必要である、というところに表れている。

②発展の趨勢に順応し、綜合的な競争能力を高める。

国際的な自動車産業の発展の趨勢からみると、電動化が自動車産業の転換・グレードアップの方向である。欧米等の自動車産業先進国は、新エネルギー車への支援を強化しており、この情況下、新エネルギー車への財政・税制政策支援を継続し、産業の良好な発展の勢いを維持し、産業競争力を高める必要がある。

③疫病の影響をヘッジし、自動車消費を促進する。

新型肺炎疫病の新エネルギー車市場に対する衝撃は比較的大きく、1-2月期の新エネルギー車の生産は前年同期比-63.8%、販売は同-59.5%となり、優遇支援政策を延長し、自動車市場の消費を牽引する手助けをし、疫病の影響をヘッジする。同時に、関連業種・企業の早急な業務・生産再開にも資する。

今後、財政部は関係部門と、手順に従い新エネルギー車購入補助に関連する政策調整の具体的措置を早急に打ち出し、市場の予想を安定させ、自動車の消費需要を顕在化させるために良好な条件を創造する。

(2)中古車ディーラー支援

中古車事業は多くの個人顧客を相手にしており、同時に増値税専用領収書により控除を受けにくい。この現実問題に対し、事業者の税負担を軽減するため、これまで中古車ディーラー企業の販売した中古車について、増値税の簡易課税政策を打ち出し、3%の税率を2%に減じて増値税を課税している。

中古車が異なる都市の消費需要を満足させ、消費市場が巨大な潜在力を含んでいることを考慮し、自動車消費を牽引し、自動車産業の転換・グレードアップを推進するため、政策支援を一層強化し、負担を軽減すると同時に、手続を簡略化し、今年5月1日~2023年末、中古車ディーラー企業の中古車販売について、消費額の0.5%を減じて増値税を課す。この規定によれば、中古車ディーラー企業の税負担額は75%に減ることになる。