新型肺炎とマクロ政策(17)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年4月9日


はじめに

本稿では、4月8日に開催された党中央政治局常務委員会会議を中心に紹介する。

4月6日 新型肺炎対策領導小組会議

応急処置と常態化した防御を結びつけることを堅持し、地域とレベルを分けて生産秩序を回復し、有力に秩序立てて業務・生産再開の加速・範囲拡大を推進しなければならない。ローリスク地域は、土地の事情に応じて、業務・生産再開における防御措置を最適化し、これまでの緊急防御の際に採用し、現在の生産生活秩序回復と適応しない措置を、遅滞なく整理し取り消して、必需の防御物資と応急処置能力を保障しなければならない。警戒心を失うことを防ぐのみならず、一律制限をも防がなければならない。

企業・事業単位の主体的責任を強く迫り、科学的・精確に職場の疫病防止をしっかり行わせる。これは、順調に業務・生産再開を推進することに資するものである。従業員個人への防護要請を実施し、業務・生産再開における人員の流動を合理的に手配し、不必要な従業員の密集・集団活動をできる限り減らさなければならない。いったん疫病を発見したら直ちに報告し、事前に準備した対応策を始動させ、適切に処置し、情報をオープン・透明に公表しなければならない。

4月7日 国務院常務会議

現在、世界で疫病が大流行し、急速に伝播しており、世界経済と国際貿易・投資に巨大な衝撃をもたらしている。党中央・国務院の「雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想」を安定させる政策の手配に基づき、開放拡大を堅持し、対外貿易を安定させ、外資を安定させる一連の措置を採用し、わが国経済とりわけ雇用が受ける深刻な影響の軽減に努力しなければならない。

(1)クロスボーダーEコマース(越境EC)総合試験区の増設

近年、わが国の越境EC輸出入規模は、引き続き急速に伸びており、対外貿易発展の新たなスポットライトとなっている。現在、伝統的な対外貿易が疫病のかなり大きな衝撃を受けており、越境ECの独特な優位性をより大きく発揮させ、新業態によって対外貿易の困難克服・前進に助力しなければならない。

既に設立した59の越境EC総合試験区の基礎の上に、さらに46の越境EC総合試験区を設立する。越境ECの発展を促進する有効な方法を普及させると同時に、総合試験区内の越境EC小売輸出貨物に対して、規定に基づき増値税・消費税の免除、企業所得税の査定・課税の支援政策を実行し、条件を備えた総合試験区を都市における越境EC小売輸入テスト範囲に組み入れることを検討し、企業が海外倉庫を共に建設し共有することを支援する。

(2)加工貿易支援

加工貿易は、わが国の対外貿易の4分の1を占めている。内外貿易の発展を統一的に企画し、加工貿易企業の困難緩和を支援し、外資・雇用の安定を促進しなければならない。

①加工貿易の保税原材料・部品あるいは製品の国内販売について、年末まで延滞税の徴収を暫時免除する。

②加工貿易企業の国内販売について、輸入原材料・部品ベースあるいは製品ベースの関税納付を選択することを認めるテストを、すべての総合保税区に拡大する。

③外国からの直接投資を奨励する産業の範囲を拡大し、加工貿易を禁止している商品の種類を縮小する。

(3)広州交易会

世界で疫病が蔓延する峻厳な情勢に対応し、第127回広州交易会は6月中下旬にインターネット上で開催する。内外の顧客企業を広く招き、オンラインで製品を展示し、先進情報技術を運用して、全天候型のインターネットによる推薦・紹介、需給のリンク、オンライン商談等のサービスを提供し、品質が優れ特色のある商品のためのオンライン対外貿易プラットホームを作り上げ、内外顧客企業が足を運ばず注文ができ、商売を行えるようにする。

(4)貨物輸送

中欧列車(中国とヨーロッパを結ぶコンテナ列車)等の貨物輸送能力を高め、貨物積み替え条件等の条件改善を推進し、全力で海運・航空輸送から移ってきた貨物を引き受け、グローバルサプライチェーンの安定と業務・生産再開を支援しなければならない。

(5)インクルーシブファイナンス

小型・零細企業、個人工商事業者、農家に対してインクルーシブファイナンスサービスを強化し、彼らの難関克服を支援するため、財政・金融政策が連動し、既に期限が到来した税制優遇政策の一部を2023年末まで延長する。これには、次のものが含まれる。

①金融機関が小型・零細企業、個人工商事業者、農家向けに行った100万元以下の貸出の利息収入への増値税を免税する。

②栽培・養殖業のために保険サービスを提供した際の保険料収入については、その90%を所得税の課税所得額に算入する。

③マイクロファイナンス会社が行った10万元以下の農家への貸出の利息収入への増値税を免除し、その90%を企業所得税の課税所得額に算入し、その年末貸出残高の1%を貸倒引当金として計上し、所得税の課税前控除を認める。

4月7日 国務院金融安定発展委員会

新型肺炎の疫病が爆発して以降、国務院金融安定発展委員会は、党中央・国務院の疫病防御と経済社会発展を統一的に企画・推進することに関する政策決定・手配に基づき、疫病防御を当面の最重要政策として取り組み、前後10回の会議を開催し、「予想の安定、総量の拡大、分類した取組み、期間延長の重視、手段の刷新」という政策方針を確定し、多様な政策手段を総合的に運用して、流動性の合理的な充足を維持した。株式市場の正常なオープンを堅持し、企業の低コストによる資金調達のルートを開拓し、疫病の影響がかなり大きい地域・産業・企業に対して差別化した金融サービスを提供し、疫病を有効に防御し、業務・生産再開を支援し、経済の安定・発展の大局を擁護した。

現在、世界経済の成長は疫病の深刻な衝撃を受けており、経済・金融の発展はかなり大きな試練に直面しており、わが国の疫病防御は「外は疫病輸入の防止、内は疫病再流行の防止」の情勢に直面しており、さらに業務・生産再開のカギとなる段階にある。

今後、国務院金融安定発展委員会は、引き続き党中央・国務院の政策決定・手配に基づき、政策の実施を強化し、経済社会の発展・秩序の常態への回復を着実に推進する。

①マクロ政策の実施を強化し、穏健な金融政策をより柔軟・適度にし、実体経済の回復・発展支援をより際立たせて位置づける。

②貸出資源が、疫病の打撃がかなり大きい中小・零細企業と民営企業をより多く支援するよう誘導する。

③資本市場の中枢としての役割を発揮させ、基礎的な制度建設を不断に強化し、各種の偽造品製造・詐欺行為を断固として取り締まり、発展の需要に適応しない規制を緩和し取り消して、市場の活性度を高める。

④多様で有効な方式を採用して、中小銀行の資本充実を強化し、リスク抵抗・貸出能力を増強する。

⑤国際的な疫病と経済・金融情勢の検討・判断・対応を高度に重視し、国外リスクの国内への伝播を防止する。

4月8日 党中央政治局常務委員会

新型肺炎防御活動と全国業務・生産再開情況の調査・研究報告を聴取し、内外疫病防御と経済運営情勢を分析し、常態化した疫病防御措置の実施、業務・生産再開政策の全面推進を検討・手配した。経済関連部分は、以下のとおりである。

(1)習近平総書記の重要講話の概要

現在、わが国の疫病防御の段階的成果は一層強固となり、業務・生産再開は重要な進展を得て、経済社会の運営秩序は急速に回復している。

同時に、国際的に疫病が引き続き蔓延しており、世界経済の下振れリスクが激化し、不安定・不確定要因が顕著に増大している。わが国の疫病輸入防止圧力は不断に増大し、業務・生産再開と経済社会の発展は、新たな困難・試練に直面している。

峻厳・複雑な国際的疫病と世界経済情勢に対して、我々は最低ラインを守るという考え方を堅持し、かなり長期間外部環境の変化に対応する思想と政策をしっかり準備しなければならない。疫病防御と経済社会発展政策を統一的に企画・推進し、外では疫病の輸入を防ぎ、内では疫病の再流行を防ぐ防御活動を決して緩めてはならず、経済社会発展政策を強化しなければならない。

常態化した疫病防御の中で、生産生活秩序の全面回復を早急に推進し、業務・生産再開が直面する困難・問題を早急に解決し、疫病が生み出す損失を最低限度まで引き下げるよう努力し、小康社会の全面実現の決勝・脱貧困堅塁攻略の決戦のための目標・任務の実現を確保しなければならない。

(2)会議の概要

現在、わが国の経済発展が直面する困難は増大している。

各レベル党委員会と政府は、土地の事情と時期に応じて疫病防御措置を最適化し、あらゆる手を尽くして業務・生産再開に有利な条件を創造し、時機を失せずに産業の循環・市場の循環・経済社会の循環を円滑にしなければならない。

業務・生産再開政策の実施を強化し、困難な業種と中小・零細企業への支援を強化し、内需拡大に力を入れ、秩序立てて各種ショッピングモール・市場の業務再開・再オープンを推進し、生活関連サービス業の正常な経営を促進し、個人消費を積極的に拡大し、投資プロジェクトの建設を早急に推進し、需給の良性の相互作用を形成しなければならない。

民生の保障・改善を強化しなければならない。

わが国の農業は年々豊作であり、穀物備蓄は充足しており、穀物と重要農産品の供給を保障する完全な能力がある。春季農業生産にしっかり取り組み、穀物市場価格のモニタリング・監督管理を強化し、豚肉・果物・野菜等の副食品の生産・流通を引き続きしっかり組織化し、市場供給と物価の基本的安定を保障しなければならない。

困窮層への基本生活の保障を強化し、都市・農村最低生活保障、公傷病者及びその遺族への救済補助等の保障基準を適切に引き上げ、疫病・病気で困窮に陥った者を救済の範囲に組み入れ、疫病の影響が深刻な地域に対して臨時の生活補助を支給し、物価関連補助と連動させたメカニズムを遅滞なく始動させなければならない。失業保険のカバー範囲を拡大し、失業者の基本生活をより好く保障しなければならない。

4月8日 国家発展・改革委員会等6部門が「段階的物価臨時補助政策を一層しっかり実施することに関する通知」を発出(新華社北京電、2020年4月8日)

わが国は、社会救済・保障基準を物価上昇にリンクさせる連動メカニズムの物価臨時補助を段階的に強化する。各地方は、現行の連動メカニズムによって推計した補助基準を基礎として、毎月の物価臨時補助基準を段階的に2倍にまで引き上げる。執行期限は、2020年3月~6月とする。

国家発展・改革委員会等6部門は、「段階的物価臨時補助政策を一層しっかり実施することに関する通知」を発出した。

通知は、次のように指摘した。

当面の情勢下、低所得層とりわけ困窮層に対して保障を強化することは十分緊要である。各地方は、「社会救済・保障基準を物価上昇とリンクさせる連動メカニズムを一層整備することに関する通知」の規定を真剣に執行する基礎の上に、孤児・事実上扶養者のいない児童及び失業補助金を受領している者を、連動メカニズムの保障範囲に組み入れなければならない。執行期限は、2020年3月~6月とする。

通知は、次のことを明確にした。

都市・農村最低生活保障の対象者、特別困窮者、国家から定期的に公傷病者及びその遺族への救済補助を受けている者といった優先救済対象者に対して、補助基準を高めるための資金の支出増加と、孤児・事実上扶養者のいない児童を保障範囲に組み入れるための資金支出増加については、中央財政が困窮層救済補助資金を通じて、地域ごとに補助を支給する。うち、東部地域への補助は30%、中部地域への補助は60%、西部地域への補助は80%とする。失業保険金を受領している者と失業補助金を受領している者に対する資金の支出増加については、失業保険基金から支出する。その他の資金支出増加については、地方財政が保障を与える。

通知は、次のように要求している。

各地方は、情報化の手段を十分利用して、相談・届出・審査等各段階の施策の効率を高め、できる限り支給までの時間を短縮し、20活動日内に全額を困窮層の手中に支給しなければならない。