新型肺炎とマクロ政策(15)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年4月6日


はじめに

本稿では、財政を中心に概要を紹介する。

証券日報3月30日「13年を経て再び特別国債。発行規模はあるいは4兆元に達すると予想される」

3月27日の党中央政治局会議で久々に発行されることが決まった、特別国債について解説したものであり、概要は以下のとおり。

(1)過去の経緯

中信証券の明明固定収益チーフアナリストは、次のように述べている。

「財政政策の有力な掴み所として、これまで財政赤字の対GDP比の引上げと特別地方債の額引上げは既に予想されていたところであるが、今回の政治局会議が提起した特別国債の発行は、積極的財政政策をより積極的にし、結果を出す助けとなるものである」。

理解するところでは、わが国はこれまで2回特別国債を発行しており、それぞれ1998年と2007年である。

東邦金誠研究発展部の馮琳高級アナリストは、次のように述べている。

「1998年、当時銀行資本金不足問題を解決するため、財政部は4大銀行に方向を定めて2700億元の特別国債を発行した。2007年、特別国債の発行量は1.55兆元(うち、1.35兆元は当時まだ上場していない農業銀行に方向を定めて発行し、さらに中央銀行が農業銀行から購入し、実際上、中央銀行の出資・購入に等しいものであった)であり、主として外貨の購入に用いられ、国家外貨投資公司を設立する資本金の原資となった。このほか、2007年に発行した特別国債のうち一部は2017年に満期が到来した際、財政部は方向を定めて引き続き発行し、発行量は6000億元となった」。

前2回特別国債を発行した時期と成果から見ると、特別国債は経済変動をヘッジする積極財政措置であり、内需を刺激し、消費を牽引する方面で巨大な役割を発揮し、国内経済は相対的に平穏でかなり速い発展速度を維持した。

馮琳は、次のように述べている。

「特別国債が特別なところは、以下の方面に現れている。

①特別国債は、特殊な時期に特定の用途のために発行されるもので、非伝統的な財政手段であり、応急的措置に属する。

②特別国債は中央財政の国債残高管理に組み入れ、財政赤字にはカウントせず、その収支は中央政府基金予算に組み入れる。

③特別国債の資金用途は、決して統一的で明確な限定があるわけではなく、発行の実際の政策需要に基づいて特別計上し、資金用途をより柔軟にしている」。

(2)今回の発行

人民大学重陽金融研究院産業部の卞永祖副主任は、次のように述べている。

「特別国債は、いずれも1つの特定目的のために発行しているものであり、決して地方政府の債務を増やすものではなく、用途は比較的柔軟である。今回の特別国債の発行は、まだ具体的用途を公開説明していないが、目的はやはり新型肺炎の疫病が経済にもたらす打撃をヘッジするためのものであり、主として中小企業を支援し、個人の消費能力を高める等の分野に用いるべきである」。

「新型肺炎の疫病の経済への打撃がかなり大きく、投資・消費・輸出入に対しいずれもマイナス影響をもたらしており、同時に今年は、小康社会の全面実現の最後の1年であり、任務は非常に困難である。このような背景の下、より大規模な財政刺激を進め、上述の各分野の損失をヘッジすべきである。このため、今回の特別国債の規模は比較的大きく、これまでの2回の規模を超え、あるいは4兆元に達するだろう」。

明明は、次のように述べている。

「新型肺炎の疫病と世界経済の成長が圧力を受けている局面に対し、今回の特別国債の規模は歴史を超えるものと見込まれ、発行方式は数回に分けて発行し、同時にプロジェクトもより豊富となる可能性がある」。

馮琳は、次のように述べている。

「新型肺炎の疫病が今年のマクロ経済にもたらす影響、及び政策のヘッジ効果を総合的に考慮すると、今回の特別国債の発行規模は兆レベルに達すると見込まれ、初歩的な予想では2~4兆元に達する可能性があり、これは凡そGDPの2.0~4.0%に相当する」。

「特別国債は、以下の方面で積極的役割を発揮することができる。

①移転支出・利息補助・補助金支給等の手段を通じて、疫病の影響がかなり大きい地域・中小企業・低所得層のために、方向を定めた支援を提供する。

これは主として、消費を支援し、雇用を安定するためのものである。

②基本建設分野に支給し、中央建設プロジェクトの建設進度を速める。

これは、今年基本建設投資の資金源補充を加速するためのものである。

③もし商業銀行がこの特別国債を預金準備金に組み入れることが認められるならば、銀行が貸出可能な資金を増やし、銀行が実体経済、とりわけ中小企業への貸出支援を強化するよう誘導することができる」。

4月1日 財政部が「小型・零細企業と『三農』主体の信用力増強のため、政府債務保証の役割を十分発揮させることに関する通知」を公布(新華網2020年4月2日)

財政部の公布した通知は、政府債務保証の役割を十分発揮し、小型・零細企業と「三農」主体への融資の信用強化をより積極的に支援し、企業の業務・生産再開、困難克服を支援するものである。

通知は、「政府が株を支配する債務保証・再保証機関は、小型・零細企業と『三農』主体への融資の信用強化のために、積極的に業務拡大に努力し、サービスの効率を高め、遅滞なく代償責任を履行し、法に基づき損失を取消・代償し、金融機関と協調してできるだけ速やかに貸し出し、貸しはがし・貸出圧縮・貸出中止を行わず、小型・零細企業の資金調達難・資金調達コスト高の緩和に力を入れる」よう要求している。

通知は、「国家融資担保(債務保証)基金は株式投資を展開し、2020年に、小型・零細企業支援、『三農』支援の成果が顕著な、10社の地・市レベルの政府債務保証機関に投資するよう努力する。国家融資担保基金と銀行は、まとまった量の債務保証の協力を展開し、2020年に新たに増える再保証業務規模が、4000億元の目標を実現するよう努力する。国家融資担保基金は協力機関に対し、1件当り100万元以下の保証業務については、再保証料を免除し、2020年の年間で1件当り100万元以上の保証業務については、再保証料を半減するよう努力する」としている。

通知は、「地方各レベルの政府債務保証・再保証機関は、2020年の年間の小型・零細企業への債務保証・再保証料を半減し、小型・零細企業の総合債務保証料を1%以下に引き下げるよう努力する。小型・零細企業支援、『三農』支援業務のウエイトを一層高め、2020年に新たに増えた小型・零細企業と『三農』債務保証額と件数のウエイトが80%を下回らないことを確保し、うち新たに増える1件当り500万元以下の小型・零細企業と『三農』債務保証額のウエイトが50%を下回らないようにする」ことを明確にした。

通知に基づき、2020年度の中央財政は、引き続き小型・零細企業債務保証料報奨政策を実施し、小型・零細企業債務保証規模を拡大し、小型・零細企業債務保証料を引き下げる等の成果が顕著な地方に対し報奨を与える。各地方は、関連連政策とのリンクを強化し、代償保証制度を強化し、保証料引下げ効果を確実に保障しなければならない。条件に符合した保証・再保証機関は、規定に基づき保証賠償の準備と期限到来責任準備について、企業所得税の事前控除等の税制優遇政策を享受することを認める。

4月2日 新型肺炎対策領導小組会議

各地方は、現地の状況に応じて施策を実施し、重点場所・重点単位・重点層への疫病防御措置を調整・最適化しなければならない。ローリスク地域は、室内の換気をよくし、環境を清潔に消毒し、人員の健康をモニタリングする等の措置の前提の下、仕事場所での正常な生産・事務と、ショッピングモール・農産物市場・公園等の公共場所での正常な営業を推進し、生産生活秩序の全面回復を推進する。人が密集する大型イベントを厳格に抑制する。老人・学生・妊婦等の重点層の防護を強化する。

疫病防御と経済社会発展政策を統一的に企画・推進しなければならない。応急措置を常態化した防御と結びつけることを堅持し、業務・生産再開を力強く、秩序立てて、積極的に推進する。有効な措置を採用して、企業とりわけ中小・零細企業への支援・困難の緩和を強化し、全産業チェーンの協同による業務再開を推進し、できるだけ速やかに本格生産を開始し、サプライチェーンの安定保障に努力し、脆弱部分の補強、新興産業の壮大な発展、民生の保障・改善等と結びつけて、国内の有効需要を拡大し、改革を強化して市場主体の活力を有効に奮い立たせ、経済の回復・上昇の活力を増強する。

4月2日 財政部が1-3月期の新規増発地方債の金額を公表

3月、地方政府債券(地方債)の発行は3875億元であり、うち新規増発債券は3194億元、再資金調達債券は681億元であった。新増発債券のうち、一般債券は1863億元、特別債券は1331億元である。地方債の平均発行金利は3.19%であり、2019年に比べて28ベーシスポイント下落した。平均発行期限は17.6年であり、2019年に比べて7.3年延びた。

疫病の影響を受け、絶対多数の省は人員を手配して債券発行現場に出張させ、オペレーションを進めることができなくなった。債券の順調な発行を保障し、同時に人員の流動を減らし、交差感染を避けるため、財政部は北京において地方を代理して債券発行の現場オペレーションを進め、疫病期間地方が債券を発行できないという困難を解決し、地方債発行の進度を有力に保障した。

3月末までに、2020年度発行の地方債は1兆6105億元であり、うち新規増発債券は1兆5424億元で、中央が前倒しで下達した金額(1兆8480億元)の83.5%を達成した。うち、一般債券は4595億元で、中央が前倒しで下達した金額(5580億元)の82.3%を達成し、特別債券は1兆829億元で、中央が前倒しで下達した金額(1兆2900億元)の83.9%を達成した。

地域別では、北京、天津、遼寧、寧波、安徽、福建、江西、広東、四川、貴州、雲南、チベット、新疆生産建設兵団等13地域は、前倒しで下達した金額の債券発行任務を全部達成し、黒竜江、アモイ、山東、河南、湖南、広西等の6地域は達成進度が90%を超えている。

今後財政部は、3月27日の中央政治局会議における、地方政府特別債券の規模を増やし、地方政府特別債券の発行・使用を加速することに関する政策決定・手配を断固として貫徹実施し、地方債の平穏で順調な発行を全力で保障し、積極的財政政策がより積極的に結果を出すことを促進し、年間の経済社会発展の目標・任務の実現に努力する。