新型肺炎とマクロ政策(13)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年4月1日


はじめに

本稿では、人力資源社会保障部の雇用対策に関する記者会見の概要を紹介する。

3月25日 人力資源社会保障部記者会見
(1)リストラ対策

企業は雇用の源であり、企業があるから職場があり、雇用が安定するのである。新型肺炎疫病の影響を受け、一部企業の物流が制限を受け、原材料供給が不足し、資金圧力が比較的大きく、生産経営の困難が増加し、雇用安定圧力が増大しており、リストラの萌芽が出現している。

これを中央は高度に重視し、習近平総書記は「負担を減らし、雇用を安定させ、雇用を拡大する措置を併せ打ち出し、土地・企業・人員に応じて分類して支援しなければならない」と強調している。

今回打ち出した「新型肺炎疫病の影響に対応し、雇用安定措置を強化することに関する国務院弁公庁実施意見」(以下「意見」)は、これまでの政策の基礎の上に、企業を支援する少なからぬ新措置を明確にした。その目的は、企業とりわけ中小・零細企業のために「酸素吸入」「輸血」を行い、全力で雇用を安定させることである。具体的には、次の方面となる。

①負担を減らす政策を加速する。

「意見」は、段階的・的確な減税・費用引下げ政策を加速し、とりわけ社会保険料の段階的減免等の政策の実施にしっかり取り組まなければならないと要求している。このため、我々は日々、この政策の実施を督促している。現在、全国各地は既に具体的実施方法を打ち出した。

統計では、2月、企業の年金・失業・労災の3社会保険料の徴収を1239億元減免し、2-6月の減免額は5000億元を超えると予想され、実際に執行される政策は予想を超える可能性がある。

②雇用安定政策を提起する。

これまでの中小・零細企業が享受してきた失業保険雇用安定還付政策の受益面の基礎の上に、リストラを止め、あるいは減らした中小・零細企業に対し、還付基準を、これまでの企業及びその従業員が前年度に納付した失業保険料の50%から、最高100%にまで引き上げ、湖北についてはすべての企業への緩和を認める。

現在までに、今年既に146万社の企業が失業保険雇用安定還付を享受し、金額は222億元に達し、恩恵は4951万人の従業員に及んでおり、受益した企業数は既に昨年1年間の数を超えた。

③雇用拡大を強化する。

雇用を促進する各補助政策をうまく十分に用いなければならない。たとえば、企業に対しては、社会保険補助・税の定額減免・信用保証貸出・利息補助を通じて、企業の重点層の雇用吸収を奨励する。個人に対しては、限度額を決めた税減免・信用保証貸出・利息補助・作業場手配を通じて、労働者の自主創業を支援する。

今回の「意見」は実施にしっかり取り組むよう強調すると同時に、国有企業・事業単位、末端のサービス事業が募集規模を拡大し、中小・零細企業に対して大学卒業生募集のための資金援助を増やし、起業信用保証貸出政策のカバー範囲を拡大するよう明確に要求している。このため、政策の程度と範囲を一層増大・拡大する。今後我々は積極的に協調して、各地方・各部門ができるだけ速やかに実施に取り組むよう督促し、政策のオンライン処理を推進し、最大限度・最も速く政策の効力を発揮させ、企業の事務的負担を増やさないことにより、企業に確実に獲得感を得させる。

(2)企業の業務・生産再開加速

雇用は系統的プロセスであり、経済社会の各方面に及ぶ。現在、経済の下振れ圧力が増大し、雇用安定任務が重くなっている背景下、各方面が鮮明に雇用支援の方向性を樹立し、協同で力を発揮し、雇用の回復・安定に資する政策環境を不断に最適化する必要がある。

今回の「意見」は、この方面で一連の手配を行った。

①業務・生産再開を加速し、雇用を安定させる。

現在、わが国の絶対多数の区・県は、いずれも既にローリスク地域に属しているので、当面の急務は、有効・精確な防御の前提の下、労働者をできるだけ速やかに職場復帰させることである。このことは我々に、できるだけ速やかに業務・生産再開サービスの便利度を高め、不合理な審査・認可を取り消し、労働者の職場復帰を制限する不合理な規定を是正することを要求している。

製造業・建築業・物流業・公共サービス業と農業生産を突破口とし、重点産業とローリスク地域の雇用を全力で推進し、その他産業と地域の業務・生産再開を秩序立て漸進的に牽引し、できるだけ速やかに経済秩序を回復し、雇用情勢を安定させなければならない。

②産業の発展により雇用を促進する能力を高める。

産業は雇用の基礎であり、産業が雇用を牽引する能力を高めることは、雇用の基盤をしっかり安定させるカギである。このことは、各レベル政府が重要産業計画を制定し、重大プロジェクトを実施する際に、明確に雇用目標を牽引し、ポストを多く創造する産業とプロジェクトを優先的に選択し、優先的に投資することを要求する。

一部の雇用牽引能力が強く、環境への影響をコントロール可能なプロジェクトについては、環境評価・審査・認可のポジティブリストを制定し、差押え・封印、生産限定・停止等の雇用に影響を生み出す一律な規制措置をできる限り少なくする。

③起業・イノベーションを奮い立たせ、雇用を牽引する。

良好な起業・イノベーションの環境を創造し、市場の活力をより好く発揮できるようにし、より多くの就業ポストを創造する。今回打ち出した「意見」は、「行政の簡素化・権限委譲、開放と管理の結合、サービスの最適化」改革を引き続き深化させ、「証明書類分離」1改革を深化させ、登記手続を簡素化しなければならない。

起業信用保証貸出政策のカバー範囲を拡大し、これらの質の優れた起業プロジェクトに対し、保証書差入要求を免除しなければならない。同時に作業場の支援を強化し、政府投資により開発したインキュベーション基地等の起業の媒介役は、一定の比率の作業場を手配し、重点対象に無償で提供しなければならない。とりわけ、一部の地方が基準達成の評定を行い、都市の美化を進めるプロセスにおいて、小規模な商品市場をやみくもに整理してきたことについて、今回の「意見」は、各種都市が優先プロジェクトを評定する際に、雇用牽引能力が強い「小規模店舗経済」・商店街の発展状況を重要な比較評価の条件とし、逆を行ってはならないことを明確に要求している。

④柔軟な雇用のルート開拓を支援する。

疫病防御の下、多くの労働者がプラットホームへの就業という柔軟な方式を通じて、就業・増収を実現する傾向にあり、我々は柔軟な就業への支援を強化する必要がある。

このため「意見」は、固定した営業場所に店を構え販売していない者に対して、合理的な管理モデルを合理的に設定し、フリーマーケット、露店・屋台スポットといった営業ネットワークのスポットを予め確保して、これらの人々が業を営み生活するため便宜を図らなければならいと、明確に提起している。

プラットホームに依拠している就業者については、彼らの生産経営に必要な手段の購入に対して、起業信用保証貸出と利息補助支援を与える。企業年金保険に加入している非正規雇用者に対しては、省内の都市・農村戸籍制限を取り消さなければならない。柔軟な就業の困窮者が社会保険料を納付する場合には、社会保険補助を与えなければならない。

(3)大学卒業生の就業支援

大学卒業生の就業は、確かに多くの家庭の幸福に関係し、わが国経済の質の高い発展にも関係する。今年の大学卒業生は874万人と史上最高であり、これに加えて既に大学の籍を離れながら未就業の卒業生がおり、雇用への圧力はもともと比較的大きかったが、さらに疫病の突発に遭遇し、卒業生の実習・求職は影響を受けている。往年の春の募集は、「金の3月・銀の4月」と言われ、最も好い季節であったため、少なからぬ学生が募集の時期を逃すことを心配し、焦慮・緊張している。学生達のこれらの憂慮・困難に、我々は目を向け、心に留めている。

今回打ち出した「意見」は、就職市場の需要低下・卒業生の求職遅延等の情況について、5方面の的確な措置を提起し、就業ルートを開拓し、学生達のために十分な雇用機会を提供する。

①企業の吸収規模を拡大する。

中小・零細企業が卒業年度の大学卒業生を募集した場合には、1回限りの雇用吸収補助を与え、企業が大学卒業生を吸収することを奨励する。国有企業は、連続2年大学卒業生の募集規模を拡大し、勝手に内定を取り消してはならず、当該企業での実習期間を募集・採用の前提条件としてはならない。

②末端での雇用規模を拡大する。

都市・農村コミュニティ等の末端公共管理・社会サービスのポストを開発し、末端サービス事業の募集規模を拡大し、民営企業の専門技術職の称号の評価・審査ルートを円滑にする。

③学生募集・軍への入隊規模を拡大する。

教育部は、2020年の修士課程学生と高等専門学校からの大学本科編入生の規模を拡大しなければならないと公布している。大学生の軍への応募入隊の規模を拡大し、当該年度卒業生の招集比率を高める。

④就業実習の規模を拡大する。

企業・政府投資プロジェクト・科学研究プロジェクトが実習ポストを設け、疫病の影響で実習が中断した場合でも補助期間の相応の延長を認め、実習期間満了前に大学卒業生と労働契約を締結した場合には、我々はインセンティブとして、実習先の残余期間の実習補助金を与えなければならない。

⑤採用時期を適切に延長する。

大学の籍から離れるのが遅れた卒業生に対して、採用・人事公文書の受渡し・移籍処理の期間を相応に延長する。これと同時に、我々は過去年度に大学の籍を離れ、まだ就業していない卒業生に対して就職指導を統一的にしっかり企画し、実名制によるサービスをしっかり実施し、卒業生間に就業の世代・時期的な断絶が起こらないことを確保しなければならない。

最近、大学卒業生の就業サービスへの需要をより好く満足させるため、我々はここ数日「百日千万インターネット募集特別アクション」の実施を始動し、百日間サービスを展開して難関を攻略し、千万のポストを推薦・紹介し、大学卒業生の募集特別コーナーを専門に設置し、卒業生が興味を示すインターネット・金融等の専門コーナーを開設し、職業指導の「クラウド講座」・オンライン訓練課程・オンライン政策特別コーナー等のサービスを提供し、卒業生のために1プラットホーム・全方位型のサービスを提供している。これは、公共就業サービス機関と市場サービス機関が初めて連携し、共同でインターネットの募集情報を公開したものであり、今までに95万の企業・570万のポストの情報を公開し、この活動全体で提供するポストは千万を超えると予想されており、近年で規模が最大で、カバー範囲が最も広いインターネット募集活動となっている。

(4)出稼ぎ農民の職場復帰

出稼ぎ農民は、我々の現代化強国建設の重要なパワーであり、現在総数は2.9億、うち郷鎮を出て就業している者は1.7億である。相対的に言えば、出稼ぎ農民の雇用競争力は比較的弱く、職業転換の難度は比較的大きく、過半の人々は第3次産業に従事しており、今回の疫病の衝撃は最大であり、最も直接に打撃を受けている。彼らが直面している困難に、我々は十分関心を払っている。今回打ち出した「意見」では、出稼ぎ農民という重点層を際立たせ、多くの措置を併せて打ち出し、出稼ぎ農民の雇用を促進しなければならない、と明確に提起した。

①積極・組織的に職場復帰・業務再開させる。

重点企業の雇用調整への保障を強化し、出稼ぎ農民の直通チャーター方式での職場復帰サービスを推進し、健康情報の相互認証等のメカニズムを普及させ、業務・生産再開サービスの便利度を高め、専用車・専用列車・借上げ車等の方式を通じて、規模と回数で組織的に出稼ぎ農民をできるだけ速やかに職場復帰・業務再開させ、各種メディアを通じて、それが皆に分かるようにする。

国家レベルでは、我々は既に1万社近い重点企業が40万人を雇用し、専用車・専用列車・借上げ車等の方式を通じて、累計で輸送した出稼ぎ農民は469万人を超えている。

②出稼ぎ農民の秩序立った求職・就業を誘導する。

雇用情報を遅滞なく公表し、出稼ぎ農民の輸出地と輸入地の情報リンクを強化し、オンライン募集活動を引き続き展開し、オンライン面接試験・テレビ募集を大いに推進し、地域を越えた組織的な労務輸出を支援し、方向を定めた組織的な労務協力を行う。

国家レベルでは、企業の雇用にリンクしたサービスプラットホームと、労働者の職場復帰・業務再開に向けたサービスの小プロセスが開通している。このプラットホームとプロセスは、企業と労働者が各自必要とする情報を自ら届けることができる。最近展開している「百日千万インターネット募集特別アクション」でも、我々は出稼ぎ農民専門コーナーを開設し、職場情報の公開を強化している。

③出稼ぎ農民の現地・近場での就業を支援する。

農業生産に身を投げ出し、春季耕作準備に参加することへの誘導、都市・農村インフラ、公共サービスインフラ建設と農村居住環境改善への出稼ぎ農民の組織的参加、特色ある養殖・精密加工・エコ観光等の産業と新しいタイプの農業主体、仕事提供によって救済に代えるプロジェクトの実施強化を通じて、多くのルート・多くの方式で出稼ぎ農民の近場・現地での就業を支援する。

④貧困労働力の就業を優先的に支援する。

昨年は、2729万の貧困登録労働力を出稼ぎさせ、出稼ぎ収入は家庭収入の3分の2以上を占めている。このため、貧困労働力の就業を優先的に支援することは、彼らの増収・脱貧困に関わる。今回の「意見」は、企業の業務・生産再開、重大プロジェクトの着工、物流システム建設等では、貧困労働力を優先して組織的に使用し、かつ企業が貧困労働力をより多く募集することを奨励する旨を明確にした。

貧困支援のリーダー企業・貧困支援作業場のできるだけ速やかな業務・生産再開を支援する。公益的ポストにも貧困労働力を優先的に手配し、最低ラインの保障を確保しなければならない。これらの貧困労働力の雇用吸収規模を大きくするには、財政特別貧困支援資金を通じてインセンティブを与えなければならない。

(5)失業者対策

失業者は、政府とりわけ公共就業サービス機関のサービスの重点対象である。現在、疫病の影響を受け、一部労働者の雇用圧力が増大し、一部失業者の生活が困窮している。失業者への支援を強化するため、今回打ち出した「意見」は、新政策・新措置を専門に提起した。

①ルートを円滑にする。

失業登録のルートを円滑にする。失業登録は、失業者が政府に支援を申請する入口である。労働年齢内の労働能力があり、仕事がなく、働きたいと思う都市・農村労働者は、その戸籍地域あるいは常住地で失業登録を受けることができる。しかし、過去の失業登録は、主として各レベル公共就業サービス機関に現場処理をさせるものであった。この問題を解決するため、今年3月31日、人力資源社会保障部は、人力資源社会保障政務サービスプラットホームにおいて、失業登録の全国統一サービスの入口を開設した。これにより、携帯で失業登録を受けることができ、失業者は出向いて失業登録を受けなくてもよくなった。

②生活を維持する。

既に登録した失業者のうち保険加入者で、失業保険を受け取る条件に合致している者は、失業保険金の受領期間を緩和し、同時に受領ルートを円滑にして、できるだけ速やかにオンラインで失業保険金を受け取ることができるようにし、失業保険金が遅滞なく全額支払われることを確保する。

失業保険金受領満期となって、まだ就業していない者、及び現行の保険金受領条件に合致していない者に対しては、6カ月の失業補助金を支払うことができる。

この政策は特殊情況下の特殊な政策であり、目的は特殊情況下で困窮者への支援を強化し、彼らの基本生活を保障するものである。同時に、生活が困窮している家庭を、遅滞なく生活保障・臨時救済等の社会救済の範囲に組み入れ、最低ラインを保障する。

③サービスを最適化する。

登録した失業者は、政府の政策コンサルティング・職業紹介・職業指導等の就業サービスを無料で受けることができ、就業・起業支援の条件に合致した者は、支援政策を申請することができる。

就業訓練の意欲がある者に対しては、公共サービス機関が主動的に職業訓練項目を紹介・推薦する。起業意欲がある者に対しては、積極的に起業訓練・開業指導サービスを提供する。

④援助を強化する。

疫病の影響を受けた失業者を遅滞なく就業援助の範囲に組み入れ、重点支援を進め、これらの市場を通じては就業し難い者については、公益的ポストを通じて最低限の仕事を与える。政府は、消毒による防疫、清掃・環境衛生維持等の臨時の公益ポストを開発し、就業困難者をこれに就かせ、かつ一定の仕事への補助と社会保険補助を与える。

現在、疫病の情勢は引き続き好転しており、生産生活秩序が急速に回復し、業務・生産再開が秩序立って推進され、企業の生産経営状況も徐々に改善し、労働者の職場復帰・業務再開はますます順調となっている。このため、暫時失業しても失望する必要はない。各地の人力資源社会保障部門と公共就業サービス機関は、政策支援を増やし、心に寄り添ったサービスを提供し、皆の求職・技能向上を支援する。

  1. 工商部門から営業許可証の取得及び行政部門から関連経営承認の取得という承認手続を分離させ、不要な審査や認可手続を削減する改革。