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研究者のご紹介

新型肺炎とマクロ政策(10)

中国経済レポート

 

新領域研究センター 田中 修

2020年3月17日


はじめに

本稿では、金融関連の政策を中心に概要を紹介する。

3月12日 新型肺炎対策領導小組会議

疫病防御期間、困窮大衆の最低保障を確保するための各政策をしっかり実施し、自宅隔離されている特別困窮者・障害者に対して訪問調査を強化し、遅滞なく生活における実際の困難の解決を支援しなければならない。

各レベル民生部門は政策を強化し、困窮大衆の基本生活を確保し、孤児・孤独老人を適切に収容・ケアしなければならない。疫病がもたらした際立った民生問題と各種矛盾を解消する。

国務院防御連携メカニズムは、国内の疫病の情勢が引き続き好転する態勢であることに基づき、「企業・事業単位の業務・生産再開疫病防御措置ガイドライン」を早急に調整・整備し、疫病のぶり返しを有効に防止する前提の下、各地方とりわけロー・リスクの地方が正常な生産生活秩序を早急に全面回復するよう指導しなければならない。

3月13日 工業情報化部記者会見

業務・生産再開は、秩序立てて推進され、積極的に好転する態勢が現れている。全国の湖北以外の一定規模以上の工業企業の平均業務再開率は95%を超え、企業従業員の職場復帰率は約80%である。中小企業の業務再開率は既に60%前後に達しているが、なお人員・物流の停滞、中小企業のキャッシュフロー不足、防疫物資の不足、上流・下流企業の業務・生産再開の歩調の不統一、産業チェーン全体の運営効率が高くない、といった問題に直面している。同時に、国際的な疫病の蔓延もわが国の業務・生産再開政策に、大きな不確定性をもたらしている。

このため、工業情報化部は、「大が小を牽引し、上流・下流が連動し、内外が相互補完する」という考え方に基づき、全産業チェーンの早急な業務・生産再開を、精確に秩序立てて着実に推進し、ヒト・モノ・カネの秩序立った流動の実現に努力し、生産・供給・販売を有機的にリンクさせ、内外取引を有効に貫通させる。

①防疫物資、生活必需品、公益事業、春季耕作準備、外資・対外貿易、ハイテク産業等の分野を重点とし、大型リーダー企業とコア関連企業のリストを個別に整理して作成し、リーダー企業に関連企業の発展を牽引させる。

②産業サプライチェーンの円滑化に力を入れ、物流・輸送の隘路を打開し、人員流動・原材料・製品の輸送問題を緩和する。

③国務院中小企業発展促進政策領導小組弁公室の協調メカニズムの役割を十分発揮させ、財政・税制、金融、イノベーション、社会保障、雇用等の支援政策を推進し、中小企業の難関克服を支援する。

④「省が全体責任を負う」という要求に基づき、省レベル防御連携メカニズムを推進し、県を単位として、ロー・ミドル・ハイリスクの3等級に分けて、情況をつまびらかにし、精確に施策を行う。

⑤対外貿易企業のリスク抵抗能力の増強に力を入れ、自動車・医薬・電子等の重点産業チェーンを強固にし、グローバル産業サプライチェーンの安定性を高める。

3月13日 人民銀行預金準備率引下げを発表(実施は16日)
(1)発表内容

実体経済の発展を支援し、社会資金調達コストを引き下げるため、人民銀行は3月16日、インクルーシブファイナンスに方向を定めた預金準備率引下げを実施し、審査基準に達した銀行に対し、預金準備率を0.5~1ポイント引き下げることを決定した。このほか、条件に合致した株式制商業銀行に対し、さらに枠外で方向を定めた預金準備率を1ポイント引き下げ、インクルーシブファイナンス分野の貸出を支援する。以上の方向を定めた預金準備率引下げで、長期資金5500億元を解放する。

人民銀行は、穏健な金融政策を実施するに際し、より柔軟・適度にし、実体経済の回復・発展支援をより際立てて位置づけ、バラマキは行わず、内外のバランスを併せ考慮し、流動性の合理的充足を維持し、マネー・貸出と社会資金調達規模の伸びを経済発展に適応させ、質の高い発展とサプライサイド構造改革のために、適切なマネー・金融環境を作り上げる。

(2)責任者の説明

①趣旨

今回の方向を定めた預金準備率引下げは、長期資金5500億元を解放するが、そのうち、インクルーシブファイナンスの審査基準に達した銀行に対して、長期資金4000億元を解放し、条件に合致した株式制商業銀行に対し、さらに枠外で預金準備率を1ポイント引き下げ、長期資金1500億元を解放する。

今回の方向を定めた預金準備率引下げで解放された長期資金は、実体経済の安定的な資金源を有効に増やし、毎年関係銀行の利払いコストを約85億元直接引き下げることができ、これを通じて銀行が小型・零細、民営企業向けの実質貸出金利引下げを促進しやすくなり、実体経済を直接支援することになる。

今回の方向を定めた預金準備率引下げは、主動的な推進と事後的な激励を併せ考慮したものであり、市場化改革の方法を用いて金融政策の伝達を円滑にし、市場主体の活力を奮い立たせ、資源配分における市場の決定的役割を一層発揮させ、実体経済の発展支援に資するものである。

②具体的内容

人民銀行は、2018年からインクルーシブファイナンスに方向を定めた預金準備率引下げの審査制度を確立し、インクルーシブファイナンス分野への貸出のウエイトが一定の比率に達した大中型商業銀行に対し、0.5ポイントあるいは1.5ポイントの準備率の優遇を与えている。

インクルーシブファイナンス分野への貸出には、農民の生産経営向け貸出、貧困登録人口への消費者ローン、教育ローン、起業保証向け貸出、個人工商事業者への経営資金貸出、小型・零細企業への経営資金貸出、1社につき1000万元を下回る小型企業向け貸出、1社につき1000万元を下回る零細企業向け貸出が含まれる。審査対象には、大型銀行、株式制銀行、都市商業銀行、比較的大きい農村商業銀行が含まれる。

最近人民銀行は2019年度審査を終了し、基準に達した銀行について、そもそも準備率の優遇がなかったものを、0.5ポイントの準備率優遇を得られるようにし、そのほかの銀行について、そもそも0.5ポイントの準備率優遇を得ていたものを、1.5ポイントの優遇に切り換えた。総じて見ると、これらの基準達成銀行に対する方向を定めた預金準備率引下げは、0.5~1ポイントになる。

③株式制商業銀行への枠外の準備率引下げ

株式制商業銀行を代表とする中型銀行は、わが国の銀行システムの重要な構成部分である。昨年人民銀行が、既に条件に合致した農村商業銀行と都市商業銀行に方向を定めた預金準備率引下げを実施したことを考慮し、今回インクルーシブファイナンスに方向を定めた預金準備率引下げにおいて、すべての大型商業銀行が1.5ポイントの準備率優遇を得られるようにした。

方向を定めた預金準備率引下げのプラスのインセンティブ作用を発揮させ、株式制商業銀行のインクルーシブファイナンス分野への貸出を支援し、同時に「3ランク・2優遇」預金準備率の枠組みを最適化するため、今回0.5ポイントの準備率優遇を得ている株式制商業銀行に対し、さらに枠外で方向を定めた預金準備率を1ポイント引き下げ、同時に、準備率引下げで得た資金をインクルーシブファイナンス分野への貸出に用い、かつ貸出金利を顕著に引き下げるよう要求し、小型・零細、民営企業等向けのインクルーシブファイナンス分野への貸出を強化する。

3月15日 疫病防御と業務・生産再開への金融政策支援に関する金融当局共同記者会見
(1)疫病防御重点企業向け3000億元特別再貸出の実行状況

人民銀行は、今年1月31日、3000億元の特別再貸出を設け、疫病防御支援に積極的な役割を発揮した。3月13日までに、人民銀行は既に特別貸出1840億元を実施し、9の全国性銀行・10省市の地方法人銀行は、4708社の全国性・地方性重点企業向けに、累計1821億元の優遇貸出を実施し、企業は1社当り4000万元の優遇貸出を得た。優遇貸出の平均金利は2.56%であり、財政の50%利息補助の後は、企業の実際の資金調達コストはおおよそ1.28%となり、「1.60%を上回らない」という国務院要求より低くなっている。現在のところ、銀行の優遇貸出の進度は、毎日100億元以上を維持しており、貸出速度は比較的速い。

(2)金融監督管理部門のこれまでの政策

①監督管理・督促・指導を強化した。

疫病防御、企業の業務・生産再開、春季耕作準備を銀行が支援するよう要求し、実体経済を支援するための重要政策に取り組み、各方面のパワーを動員し、内部の資源を整合させ、これらの政策を確実にしっかり実施し、条件に合致した小型・零細企業、農家が、金融サービスが不十分なために業務・生産再開、春季耕作準備が遅延することのないようにした。

②元本償還・利払いの延期の按排が必要な企業について、銀行がリストによる管理を進めるよう誘導した。

元本償還・利払いの延期の按排が確実に必要な企業の台帳を確立し、企業の業務・生産再開資金の需要をフォロー・了解し、相応の支援を与え、金額・期限を明確にし、関係する責任者を明確にして、政策の実施を確保した。

③フォローアップ・モニタリングを強化した。

銀行支店が定期的に本店に元本償還・利払いの延期を行った企業の情況を報告し、同時に本店は銀行保険監督管理委員会に報告するよう要求した。我々は、これを通じて政策全体の実施情況を観察し、実施に力が入らない銀行には指導を行った。

④宣伝と普及の方法により、銀行が相互に経験を参考にして、企業の業務・生産再開と春季耕作準備をより好く支援するようにした。

現在の総合情況は好ましく、銀行が疫病迎撃のために提供した貸出支援は1.4兆元を超え、1-2月の貸出は前年同期より増え、前年同期より伸びが約1300億元増えた。

(3)人民銀行の3000億元と5000億元再貸出の用途

業務・生産再開支援のため、人民銀行は2月26日、再貸出を新たに5000億元増やし、「三農」と小型・零細企業支援貸出金利を0.25ポイント引き下げた。5000億元の再貸出・再割引政策とその前に打ち出した3000億元の特別再貸出政策は、政策目的と実施方法において異なっている。

①3000億元特別再貸出

直接防疫供給保障に用いるものであり、人民銀行が重要医療物資・生活必需品の生産・販売・輸送を行う重点企業を保障するための専門政策であり、緊急の救命ラインである。このため、これをリスト制を採用して管理し、国家発展・改革委員会、工業情報化部による企業リストの確定・届出により、9の全国性銀行と10の重点省市の一部地方法人銀行を通じて、リスト内の企業に支援を提供している。

②5000億元再貸出・再割引

主として企業の業務・生産再開に用いるものであり、人民銀行が企業のために提供する低コスト・包摂的な資金支援であり、カバーする面が広く、業務・生産を再開する中小・零細企業が含まれる。参加する金融機関も、より広範であり、2500前後の地方法人銀行が含まれる。実施方式は、人民銀行が現行の再貸出・再割引を管理する下でのオペレーションであり、金融機関の貸出金利と用途が要求に合致しさえすれば、人民銀行に同額の再貸出資金を申請することができる。

5000億元再貸出・再割引政策は、増量・金利引下げ・カバー面拡大を実現した。増量は、5000億元の金額増のことである。金利引下げは、「三農」、小型・零細企業支援の再貸出の金利を0.25ポイント引き下げた。カバー面拡大とは、業務・生産再開、脱貧困堅塁攻略、春季耕作準備、家畜・家禽養殖、対外貿易産業等の疫病の影響が比較的大きい分野の企業を重点的に支援している。

3月13日までに、5000億元の再貸出・再割引政策支援を受けた地方法人銀行は、既に累計優遇金利貸出1075億元を実施しており、うち「三農」支援貸出が205億元で加重平均金利は4.40%、小型・零細企業へのインクルーシブファイナンスが385億元で加重平均金利は4.36%、再割引処理は485億元で加重平均金利は2.98%となっており、これらの金利は、国務院が要求する貸出プライムレート+50ベーシスポイント(現在4.55%)より低い。

(4)貸出プライムレート

金利の市場化改革が推進され、わが国の金利の市場化の程度が高まるに伴い、金利水準を観察する際、なお実質金利の変化に、より注意を払わなければならない。近年、人民銀行は、重点的に金利市場化改革の方法を通じて、実質貸出金利の低下を促進している。昨年8月、人民銀行は貸出市場の貸出プライムレートの改革を推進し、貸出市場の競争性を増強し、市場金利の貸出金利への伝達を円滑化し、実質貸出金利の顕著な低下を促した。今年2月、一般貸出金利は5.49%であり、貸出プライムレート改革前の2019年7月に比べ、0.61ポイント低下し、下げ幅は明らかに同時期1年物の貸出プライムレートの0.26ポイントの下げ幅を超えている。これは改革の潜在力が発揮されたことを示している。

今後、人民銀行は引き続き多様な措置を総合的に採用して、貸出金利の顕著な引下げを促進し、企業の業務・生産再開と経済の発展を支援する。

①多様な金融政策手段を運用して、流動性の合理的な充足を維持し、企業の資金調達コスト引下げのために、良好な流動性環境を提供する。

②引き続き貸出プライムレート改革を推進し、既存の変動金利による貸出金利決定基準の転換を秩序立てて推進し、商業銀行内部の金利決定システムの転換を誘導・整備し、貸出プライムレートを銀行内部の金利メカニズムに組み入れ、貸出プライムレートの伝達メカニズムを整備し、引き続き貸出金利引下げを促進する改革の潜在力を発揮させる。

③銀行システムが適切に実体経済にメリットをもたらすよう誘導し、企業の資金調達コストを引き下げ、ミクロ主体の活力を奮い立たせ、経済・金融の良性の循環を円滑にする。

④引き続き預金準備率を金利システム全体のバラストとしての役割を発揮させ、同時に銀行の不規範な預金革新商品を圧縮し、構造的な預金の最低保障収益率をマクロプルーデンス評価に組み入れ、預金の市場競争秩序を擁護し、銀行の負債サイドのコストを安定させる。

(5)銀行による実体経済の回復支援

銀行支援の重点は、次の方面である。

①小型・零細企業と民営企業は、ずっと資金調達の難点であり、これらの企業も疫病から受けた影響・衝撃は比較的大きい。

とりわけ、交通・輸送、卸売・小売、文化・娯楽、旅館・レストラン等の産業の小型・零細企業、民営企業の受けた衝撃は比較的大きい。このほか、春季耕作準備、養豚、産業チェーンの発展強化である。

②業務・生産再開をより好く支援する。

とりわけ、銀行が流動資金の貸出を増やすよう奨励する。業務・生産再開には多くの流動資金が必要である。

③産業チェーンへの協同支援を強化する。

グローバル産業チェーンの多くの重要な結節点とコア企業は、いずれも中国にあり、国内産業チェーンのコア企業を含む、これらの産業チェーンのコア企業への支援を増やさなければならない。同時に、上流・下流の中小企業をコア企業がより好く支援することを軸に、産業チェーンの生態全体への支援を形成する。

④重大プロジェクトへの支援を増やす。

重大プロジェクトは往々にして、多くの土木建築・据付・設備・機器の調達及び建設需要に関わるものであり、これをしっかり支援すれば大きな需要をもたらすことができ、産業全体に需要をもたらす。

⑤実際の情況に基づき、消費者ローンを通じて新しいタイプの書府と消費の回復をより好く支援する。

3月16日 新型肺炎対策領導小組会議

専門方案を制定し、湖北・武漢に滞留している外地人と、外地にいる湖北籍の人員を帰郷させる。疫病期間臨時に徴用した家屋・交通手段・関連施設設備などの返還と法に基づく補償をしっかり行う。法に基づき隔離された労働者の賃金等の権益を保障し、企業が従業員と協議して給与調整・労働時間短縮・交代勤務等の方式で労使関係を安定させることを奨励する。出稼ぎ農民とりわけ貧困労働力、湖北籍労働力の雇用促進政策を強化する。