新型肺炎とマクロ政策(1)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年2月17日


はじめに

1月下旬に武漢において、新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19、 以下「新型肺炎」)の本格流行が確認されて以降、政府・党中央は、当初防疫を中心に対策を発動していたが、2月に入ると、次第に景気の下支えを意識したマクロ政策を、防疫との2本柱にするようになってきている。本稿では、防疫関係を除いたマクロ政策・経済に関わる部分の諸会議・記者会見等の動向を時系列的に紹介する。

1月7日 党中央政治局常務委員会

2月15日に公開された、2月3日党中央政治局常務委員会における習近平総書記の講話によれば、「武漢で新型肺炎の疫病発生後、1月7日、私は党中央政治局常務委員会を主催した際、新型肺炎の疫病防御対策について要求を提起した」と述べている。

1月20日 国務院常務会議

ここでは、①法に基づき新型肺炎を伝染病完治に組み入れること、②疫病の拡散に断固として歯止めをかけること、③早期発見・早期報告・早期隔離・早期治療・集中治療措置の実施、④公開・透明の堅持、⑤科学研究による難関攻略強化、といった疫病対策が重点となっている。

1月25日 党中央政治局常務委員会

中央新型コロナウイルス感染肺炎疫病対策領導小組(以下「新型肺炎対策領導小組」)の設置を決定。

1月26日 新型肺炎対策領導小組会議

春節休暇後の疫病防御手配をできるだけ早くしっかり行い、春節休暇の適切な延長、学校授業開始時期の調整、在宅オンライン勤務等の措置を採用して、人員流動を減らす。防御物資の買いだめ・売り惜しみ等の行為を厳格に取り締まる。各レベルの財政は、十分疫病防御・患者救済・治療等の経費を十分保障しなければならない。

1月29日 新型肺炎対策領導小組会議

医療・防御物資を全力で保障し、重点物資の配分・使用範囲を科学的に最適化しなければならない。各地方は、迅速に防護服・マスク・ゴ-グル・負圧救護車・関連薬品等の生産企業の業務・生産を組織的に再開させ、税制・金融等の支援政策を検討・実施しなければならない。Eコマース・プラットホームを含む物流企業の物資放出を指導する。内外の義援金を統一的に受け取り分配する。

生活必需品の正常な供給を確実に保障し、重点地域の市場の野菜等の供給を協調して保障し、交通・運輸の円滑を維持し、緊急輸送任務の車両の優先通行・無料通行を執行し、石炭・電力・石油・ガスの重点供給を確保し、疫病の防御・春節後の再開等の方面のエネルギー供給を全力でしっかり保障する。多くの措置を併せ打ち出して、市場の物価を安定させ、法に基づき買いだめ・売り惜しみ、物価吊り上げ等の行為を厳格に取り締まる。

2月1日 人民銀行、財政部、銀行保険監督管理委員会、証券監督管理委員会、国家外貨管理局が、新型肺炎への金融支援の一層強化に関する通知を発出
2月2日 新型肺炎対策領導小組会議

春節後は、疫病防御、公共事業の運営、大衆の生活必需品その他重要な国家経済・民生に関わる企業、重大プロジェクトの労働者の遅滞ない職場復帰を保障すると同時に、その他の業種は柔軟な方式を採用して活動を手配してもよい。これは、春節後の人々の大規模流動を避け、疫病の拡散リスクを引き下げることに資する。条件の備わった企業・事業単位は、ピークの上下をずらした班別の交替制や在宅オンライン勤務を行うよう誘導する。出稼ぎ農民等の重点群衆はピークをずらして出発させ、再開後はグループを分け秩序立てて職場に復帰させる。

各地方は、疫病防御物資と生活必需品等の安定供給を確保しなければならない。当該地域の薬品・防護用品・消毒用品等の疫病防御物資の需給状況を遅滞なく精確に掌握し、有力な措置を採用して、関連企業のできるだけ速い業務再開・フル生産・生産能力拡大を支援する。

生活必需品の供給を強化し、食糧と食用油、食品加工、エネルギー等の重点企業の生産をできるだけ速く組織的に再開させ、重要物資供給のグリーンルートを確立し、発電用石炭・穀物・野菜等の重点物資の輸送を優先的に手配し、卸売市場・市街地物流配送の円滑とスーパー・コンビニ・コミュニティの供給スポットの物資補充を確保する。

2月3日 党中央政治局常務委員会

正常な経済社会秩序を確実に擁護しなければならない。疫病防御を強化すると同時に、生産生活の平穏・秩序を維持するよう努力する。野菜・肉・卵・牛乳・穀物等の庶民の生活必需品の供給を確保し、副食品供給の市長責任制を実施し、野菜等の副食品の生産を積極的に組織し、物資の調達・配分と市場供給を強化しなければならない。

各地方は統一的な企画・協調を強化し、人員・車両の正常な通行を確保しなければならない。石炭・電力・石油・ガス供給を保障しなければならない。疫病防御において出現した各種の矛盾・問題を適切に処理し、社会の治安対策を強化し、疫病を利用した物価吊り上げ、買いだめ・売り惜しみ、火事場泥棒的行為等の社会秩序を乱す違法犯罪行為を法に基づき厳格に取り締まり、違法犯罪を断固として法に基づき取り締まり、社会の安定と国家の安全を擁護しなければならない。

各レベル党委員会・政府は、今年の経済社会発展目標・任務の実現のために引き続き努力しなければならない。疫病が深刻な地域は、精力を集中して疫病防御対策にしっかり取り組み、その他の地域は防御対策をしっかり行うと同時に、改革・発展・安定の各政策に統一的にしっかり取り組み、とりわけ小康社会の全面実現の決勝、脱貧困堅塁攻略の決戦に関わる重点任務にしっかり取り組まなければならない。

経済の運営状況を密接にモニタリングし、疫病が経済運営にもたらす衝撃・影響に焦点を絞り、「雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想」を安定させる政策をしっかり実施することを軸に、各種の複雑・困難な局面への対応をしっかり準備しなければならない。

防御対策をしっかり行う前提の下に、各種生産企業の業務・生産再開を全力で支援し、組織的に推進し、金融支援を強化し、企業の業務・生産再開、労働者雇用への保障を強化し、企業の雇用安定政策をしっかり十分に用いて、新たな投資プロジェクトの着工を強化し、建設中のプロジェクトを積極的に推進しなければならない。

投資構造を調整・最適化し、中央予算内の投資を疫病が深刻な地域の応急医療・救急施設、隔離施設等の伝染病予防対策に急を要するプロジェクトに優先的に傾斜させなければならない。

脱貧困堅塁攻略戦の最後の堡塁に焦点を絞り、農村振興戦略の推進と結びつけ、疫病予防対策を切り込み点として、農村の居住環境対策と公共衛生体系建設を強化しなければならない。

個人消費の安定に力を入れ、新興の消費潜在力を早急に発揮させ、庶民の健康な生活への消費需要を更に好く満足させ、庶民の健康生活習慣を一層育成しなければならない。

今回の疫病は、わが国のガバナンス体系・能力に対する最初の大きな試練であり、我々は必ず経験を総括し、今回の疫病への対応で暴露された脆弱・不足部分について、国家の健全な応急管理体系を整備し、急難でリスクの重い任務を処理する能力を高めなければならない。

2月3・4日 人民銀行は公開市場操作により、2日で累計1.7兆元の流動性を放出
2月5日 国務院常務会議

疫病防御についてこれまで既に打ち出した各方面の措置の基礎の上に、さらに供給保障を支援する財政・税制・金融政策を打ち出す。1月1日から、暫定的に以下の措置を採用する。

  1. 防御重点物資を生産する企業の生産能力を拡大し、設備を購入した場合には、課税前に1回限りの控除を認め、この期間の増値税の控除留保税額を全額還付する。
  2. 防御重点物資の輸送、公共交通・生活サービス・郵便・宅配を提供する場合には、収入への増値税を免除する。
  3. 疫病防止に関する薬品・医療器械については登録料を免除し、薬品・ワクチン研究開発への支援を増やす。
  4. 民間航空企業の民間航空発展基金への納付を免除する。

特別再貸出政策をうまく用い、重点医療防御物資と生活必需品の生産・輸送・販売を行う、小型・零細企業を含む重点企業に対し、銀行が優遇金利で貸し付けることを支援し、さらに財政が半分の利息補填を行うことにより、企業への貸付金利が1.6%を下回ることを確保する。

マクロ政策支援は、精確に完全実施されなければならず、財政と会計検査部門は監督を強化して、資金が要の部分に用いられることを保証し、機会をみつけて財政・貸出資金を騙し取る違法行為に対しては、断固として厳格に懲罰を与え、容赦してはならない。

2月6日 新型肺炎対策領導小組会議

現在、湖北省を除き、全国のその他の地域で新たに増えた確定病例は総体として安定しており、致死率は低い。資源を合理的に配分し、不必要なパニックを避け、引き続き科学的に防御すると同時に、正常生産の回復を秩序立てて推進し、疫病防御のために更に好い保障を提供するだけでなく、正常な経済社会秩序を確実に擁護しなければならない。

企業が方式を刷新し、作業場の人流の密度を引き下げ、交替制を採用してフル生産することを奨励する。

重点企業に派遣駐在連絡員制度を確立し、企業が生産スピードを上げるよう督促し、機器・労働者雇用・資金不足等の問題を遅滞なく協調して解決し、原材料・重要部品等の供給安定をしっかり保障し、全産業チェーンの正常な運営を保障する。

石炭・電力・石油・ガスの供給保障の事前案を制定し、集中的な生産回復がもたらす地域的・一時的な不足あるいは価格の大幅上昇を防止する。

現地政府・企業の責任を強化し、正常生産回復後の疫病を確実に防御しなければならない。「合理的・適度・有効」の原則に基づき、防御対応措置を制定し、作業場の人員を防護する健全な制度を実施する。

人員流動確認カードを制定し、疫病が深刻な地域の人員の職場復帰の条件を分類して明確にする。人員の流入・流出地のリンクを強化し、秩序立ててルールに則り、協力して人員をしっかり職場復帰させる。鉄道・民間航空等の部門は輸送力を統一的に企画し、できるだけ席を空けた乗車・搭乗等の措置を採用し、人員のピークをずらした帰還プロセスを実現し、疫病の伝播リスクを引き下げる。関係地域が、私用車のナンバープレート制限政策を暫時停止し、あるいは特別な配慮を行うことを認める。

2月7日 財政部、人民銀行、国家外貨管理局、国家税務総局、銀行保険監督管理委員会が合同記者会見

財政部:2月6日午後5時時点で、各レベル財政は疫病防御資金667.4億元を計上。実際に284.8億元を支出。うち中央財政は170.9億元を計上。

人民銀行:1月1日に、預金準備率を0.5ポイント引き下げ、8000億元の長期資金を解放。2月3・4日、人民銀行は予想を超えた公開市場操作を展開し、2日で累計1.7兆元の流動性を放出。3000億元の特別再貸出を設立し、優遇貸出金利を実施し、重要な医療用・生活物資重点企業への金融支援を強化。小型・零細企業、民営企業、製造業等の重点分野への金融支援を引き続き増加。

2月7日 人民銀行がテレビ電話会議を開催し、特別再貸出による疫病防御支援を手配  劉国強副行長の講話
  1. 特別再貸出は、9の主要全国性銀行と10の重点省市地方法人銀行が対象となる。
    全国性銀行は、国家開発銀行、輸出入銀行、農業発展銀行、工商銀行、農業銀行、中国銀行、建設銀行、交通銀行、郵政貯蓄銀行が含まれる。
    地方は、湖北、浙江、広東、河南、湖南、安徽、重慶、江西、北京、上海が対象となる。対象となる地方法人銀行は、1省につき3行を超えてはならない。
  2. 特別再貸出は、重点企業リスト管理を実行する。
    全国性重点企業は、発展・改革委員会と工業情報化部がリストアップ、地方重点企業は、省レベル政府がリストアップする。
  3. 資金用途を厳格化し、資金を重点企業の災害救助・救急のための生産経営活動に用いる。
  4. 特別再貸出は、優遇金利を実行する。
    現在優遇金利は1年物3.15%であるが、財政による半分の利息補助により、実際の資金調達コストが1.6%を下回ることを確保する。
  5. 銀行がまず重点企業に貸し出した後、人民銀行に再貸出を要請するものとする。
  6. 人民銀行の分支行による監督管理を強化する。
2月9日 財政部、国家発展・改革委員会、工業情報化部、人民銀行、審計署が全国テレビ電話会議を開催し、重点企業への資金支援強化の緊急通知を発出
  1. 疫病防御重点保障企業のリスト管理を規範化。
    対象は、疫病治療に使用する重要医療用物資(防護服・隔離服・マスク・ゴーグル・消毒機・関連薬品等)を生産する企業、上述の物資に必要な重要原材料を生産する企業、重要設備製造企業、関連企業、重要な生活必需品を生産する骨幹企業、重要医療物資の備蓄企業。
  2. 特別再貸出を通じて金融機関の貸出強化を支援する。
  3. 中央財政は、利息補助資金を計上し、企業の資金調達コストを引き下げる。
    利息補助期間は、1年を超えてはならない。
  4. 応急保障資金の監督管理を確実に強化する。
    疫病防御重点保障企業は、金融機関から提供された優遇貸出支援を、すべて疫病防御に関連した生産経営活動、生産能力の積極的拡大、生産・供給の早急な増加に用い、疫病防御に関連した医療用物資・生活必需品の平穏で秩序立った供給を保障する。
    劉昆財政部長:2月8日午後6時時点で、各レベル財政の疫病防御資金を718.5億元計上。実際に315.5億元を支出。うち中央財政は172.9億元を計上。
2月11日 財政部が2020年の地方政府債務の新規増限度額8480億元を下達

うち、一般債務限度額5380億元、特別債務限度額2900億元。これに以前下達した特別債務1兆元を加えると、2020年の地方政府債務新規増限度額は、1兆8480億元となる。

2月11日 国家発展・改革委員会が記者会見

現在、全国の情況を見ると、湖北省以外の各省は徐々に生産を回復しており、とりわけ医療物資、食糧、交通物流等の重点分野企業はいずれも続々と再開している。2月10日、全国22の重点省の最新データでは、マスク企業の業務再開率は既に76%を超え、防護服企業の業務再開率は77%、全国重点モニタリングの食糧生産・加工企業の業務再開率は94.6%、石炭の生産再開率は57.8%である。電力・天然ガス・石油製品供給は充足しており、民間航空、鉄道、水運ネットワークは正常に運営されている。

しかし、全面的な業務・生産再開を推進するには、職場復帰労働者が不足し、一部の地方は再開を制限し、マスク等の防疫物資が深刻に不足し、産業チェーンの上流・下流が結びつかず、交通物流が円滑を欠き、資金の圧力が大きい等の問題に直面していることも承知している。

今後国家発展・改革委員会は関係部門と共に、地方の異なる疫病状況を区分して、疫病防御と業務・生産再開の関係を確実にうまく処置し、引き続き疫病を科学的に防御すると同時に、遅滞なく企業の困難・問題を協調して解決し、企業の業務・生産再開を秩序立てて推進し、できるだけ早く正常生産を回復する。

重要な国家経済と民生に関わる分野は即座に生産を再開し、重大プロジェクトについてはすぐに労働者を職場復帰させ、できるだけ早く着工しなければならない。その他条件が備わっていない企業は、暫時再開を見合わせてもよいし、疫病が高い発生率の地域と労働者不足が緊迫していない場合は、労働者のUターンを適切に延期してもよい。