2019年中央経済工作会議のポイント

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2019年12月27日


はじめに

2019年12月10~12日に、党中央・国務院により、20年の経済政策の方針を決める中央経済工作会議が開催された。本稿では、その概要を紹介する。

1.経済情勢の認識
(1)概括

「今年に入り、内外リスク・試練が顕著に上昇する複雑な局面に対して、習近平同志を核心とする党中央の堅固な指導の下、全党・全国は党中央の政策決定・手配を貫徹し、安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持し、サプライサイド構造改革を主線とすることを堅持し、質の高い発展を推進し、『雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想』を安定させる政策をしっかり実施し、経済社会の持続的で健全な発展を維持した。3大堅塁攻略戦はカギとなる進展をみて、精確な脱貧困の成果は顕著であり、金融リスクは有効に防止・コントロールされ、生態環境の質は総体として改善された。改革開放は重要な歩みを踏み出し、サプライサイド構造改革は引き続き深化され、科学技術・イノベーションは新たなブレークスルーを得て、人民大衆の獲得感・幸福感・安全感は向上し、第13次5カ年計画の主要指標の進度は予期と合致しており、小康社会の全面実現は新たに重大な進展を得た」1

(留意点)

2018年会議(以下「18年会議」)では、「外部環境の深刻な変化」が強調されていたが、今回は、「内外のリスク・試練が顕著に上昇」と、国内にも問題があることが明らかにされた。また、18年会議では米中貿易摩擦に「穏当に対応」とあったが、摩擦の激化により、この表現は削除されている。

(2)重要な認識

「容易でない成績を得た根本原因は、我々が党中央の集中・統一的指導を堅持し、戦略的な不動心を維持し、安定の中で前進を求めることを堅持し、改革開放を深化させ、中央と地方の2つの積極性を十分発揮させたことにある。

政策を行う中で、我々はいくらかの重要な認識を形成した。

マクロ政策のカウンターシクリカルな調節の程度を科学的・穏健に把握し、ミクロ主体の活力を増強し、サプライサイド構造改革という主線をマクロ・コントロールの全プロセスに貫徹しなければならない。

システム論から出発して、経済ガバナンス方式を最適化し、全局的理念を強化し、多重の目標の中で動態的バランスを求めなければならない。

改革を通じて、発展が直面している体制メカニズムの障害を打破し、冬眠状態の発展の潜在能力を活性化させることにより、科学技術イノベーションと国内・国際市場競争の第一線において、各種市場主体が勇気を奮って戦い、勝利を勝ち取るようにしなければならない。

リスク意識を強化し、システミックリスクを発生させない最低ラインをしっかり守らせなければならない」。

(留意点)

18年会議では、マクロ・コントロールの「程度を精確に把握」であったが、経済下振れ圧力の増大に伴い、「カウンターシクリカルな調節」が強調されている。ただ、それは、あくまでも「科学的・穏健」とされており、サプライサイド構造改革による潜在成長率の向上が重視されており、需要サイドの大型景気対策は示唆されていない。

党19期4中全会を反映して、「経済ガバナンス方式の最適化」が盛り込まれた。人民日報評論員論文2019年12月18日によれば、システム論からの出発とは、「国家の経済ガバナンスシステムの中で、異なる部門・異なる政策の位置づけと機能を協調させ、全局理念を強化し、『あちらに気を取られ、こちらを見落とす』ことを防止し、多重の目標の中で動態的バランスを求め、質の高い発展の中でシステムの最適化を実現することである」としている。

また、改革による発展の障害打破が強調されている。

(3)試練・困難への対応

「十分成績を肯定すると同時に、わが国がまさに発展方式の転換、経済構造の最適化、成長動力の転換の難関攻略の時期にあり、構造的・体制的・周期的問題が相互に交錯し、前述の3つの時期が重なり合っていることの影響が引き続き深まり、経済の下振れ圧力が増大していることを、はっきりと認識しなければならない。

現在世界経済の成長は持続的に鈍化しており、なお国際金融危機後の深い調整期にあり、世界の大局の大きな変化が加速しているという特徴がより顕著になっており、グローバルな動揺の源とリスクポイントが顕著に増加している。我々は、政策をしっかり準備しなければならない」。

(留意点)

18年会議の経済下振れ圧力に「直面」から「増大」へと表現が強まった。しかし、その原因として、18年会議は「世界の局面変化」が強調されていたが、今回は、発展方式の転換・経済構造の最適化・成長動力の転換の3つの時期が重なっているためだとし、単に経済周期的問題だけではなく、構造的・体制的問題があることを認めている。

(4)結論

「わが国の経済が安定の中で好い方向に進み、長期に好い方向に進む基本的な趨勢には変化がない。我々は、①党の堅固な指導と中国の特色ある社会主義制度という顕著な優位性を有しており、②改革開放以来累積した豊富な物質・技術の基礎を有しており、③超大規模な市場の優位性と内需の潜在力を有しており、④膨大な人的資本と人的資源を有している。全党・全国は自信を確固とし、心を一つにすれば、各種のリスク・試練に必ず戦勝することができる」。

(留意点)

党19期4中全会で述べられた、「中国の特色ある社会主義制度の優位性」がここでも強調されている。全体に党員・国民の士気を鼓舞するトーンであり、18年会議より危機感が強まっているように見える。

2.2020年の経済政策の基本方針

2020年は、小康社会の全面実現と第13次5カ年計画の手仕舞いの年である。我々が第1の百年奮闘目標を実現し、第14次5カ年計画期間の発展と第2の百年目標実現のために、基礎をしっかり打ち立て、経済政策をしっかり行うことは、十分重要である。

習近平『新時代の中国の特色ある社会主義』思想を導きとし、19回党大会・党19期2中全会・3中全会・4中全会精神を全面貫徹し、党の基本理論・基本路線・基本方略を断固貫徹し、『四つの意識』2を増強し、『四つの自信』3を確固として、『二つの擁護』4へと至らなければならない。小康社会の全面実現の目標・任務としっかり結びつけ、安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持し、新発展理念を堅持し、サプライサイド構造改革を主線とすることを堅持し、改革開放を動力とすることを堅持し、質の高い発展を推進し、3大堅塁攻略戦に断固として打ち勝ち、『雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想』を安定させる政策を全面的にしっかり実施しなければならない。安定成長・改革促進・構造調整・民生優遇・リスク防止・安定維持を統一的に企画・推進し、経済運営を合理的区間に維持し、小康社会の全面実現と第13次5カ年計画の円満な手仕舞いを確保し、人民の承認を得て、歴史の検証を経なければならない。

2020年の予期目標は、『穏』の字を頭に付けることを堅持し、『マクロ政策を安定させ、ミクロ政策を活性化し、社会政策で底固めをしなければならない』という政策の枠組みを堅持し、マクロ・コントロールの展望性・的確性・有効性を高めなければならない。

積極・進取の精神で、問題志向・目標志向・結果志向を堅持し、サプライサイド構造改革を深化させることに引き続き力を用い、経済の量の合理的な伸びと質の段階的向上の実現を確保しなければならない

引き続き重点に取り組み、不足部分を補充し、脆弱項目を補強して、小康社会の全面実現を確保しなければならない」。

(留意点)

2020年を、小康社会の全面実現という第1の百年目標達成と、第13次5カ年計画の手仕舞いの年と位置付けている。

今回の会議では、特に「穏」(安定)が強調されている。注目されるのは、18年会議では「五位一体」「四つの全面」が強調されたのに対し、今回は「四つの意識」「四つの自信」とりわけ「二つの擁護」が重視され、習近平総書記と党中央の権威を擁護することが最重要課題となっていることである。

経済については、成長率のみならず質の向上も目標とされている。これは、2020年のGDPを10年の倍にすることよりも、質の向上こそが重要と言っているようにも読める。なお、人民日報評論員論文2019年12月15日は、「2020年のGDP倍増は、全国的なものであり、各地方の倍増を要求するものでななく、異なる地方・異なる人々が皆全国平均水準に達することを意味するものでもない。各地の情況は千差万別であり、力を尽くし、自身の力量・自身の現実に応じて、既定の小康社会の全面実現の目標・任務を完成しなければならず、数字の水増し・虚偽報告をしてはならない」と警告している。

3.2020年の重点政策
(1)新発展理念を断固として貫徹する

理念は行動の先導である。新時代に発展をものにするには、発展理念をより際立たせ、『イノベーション・協調・グリーン・開放・共に享受』という新発展理念を断固として貫徹し、質の高い発展を推進しなければならない。

各レベルの党委員会・政府は、わが国の発展が新たな段階に入り、社会の主要矛盾に変化が発生したことによる必然的要求に適応し、新発展理念にしっかりと向かって発展を推進し、注意力を各種のアンバランス・不十分の問題に集中して解決しなければならない。

全面・全体的な観念を樹立し、経済社会の発展ルールを遵守し、重大政策を打ち出し、調整する際には総合的な影響評価を進め、政策の実施に確実にしっかり取り組み、様々な形式主義・官僚主義を断固途絶しなければならない

新発展理念の堅持・貫徹を、各レベル指導幹部の考課の際の1つの重要尺度としなければならない」。

(留意点)

2017年19回党大会で展開された「習近平思想」のエッセンスが再強調されている。ということは、この思想が未だ党・政府の末端まで十分に浸透しておらず、依然として環境改善・経済発展のバランス・所得再分配よりも、経済成長を追い求め競争する傾向が強いということであろう。このため、新発展臨を人事考課の重要尺度としているものと思われる。

人民日報2019年12月16日評論員論文は、「各レベル党委員会・政府は、注意力を各種アンバランス・不十分な問題の解決に集中し、決して単純にGDP成長率で英雄を論じる旧い道を歩んではならず、決して環境破壊を代価に発展を高める方法に戻ってはならず、さらには粗放式発展のモデルに戻ってはならない」とクギを刺しているのである。

(2)3大堅塁攻略戦を断固としてしっかり戦う

脱貧困の堅塁攻略任務を期日どおり全面完成を確保し、兵力を集中して深刻な貧困の殲滅戦をしっかり戦い、政策・資金の重点を『三区三州』5等の貧困が深刻な地域に傾斜させ、産業による貧困支援、他の土地への移転による貧困支援等を実施し、貧困人口の退出口を厳格に把握し、脱貧困の成果を強固にしなければならない。メカニズムを確立して、遅滞なく貧困に戻る人口と新たに発生した貧困人口のモニタリングと支援をしっかり行わなければならない

汚染対策堅塁攻略戦をしっかり戦い、方向・程度を変えないことを堅持し、精確・科学的・法に基づく汚染対策を際立たせ、生態環境の質の持続的な好転を推進しなければならない。青い空・青い水・きれいな土の防衛戦を重点的にしっかり戦い、関連の対策メカニズムを整備し、根源からの防止・コントロールにしっかり取り組まなければならない。

わが国の金融システムは総体として健全であり、各種リスクを解消する能力を備えている。マクロレバレッジ率の基本的安定を維持し、各方面の責任実行を促さなければならない」。

(留意点)

以前は、3大堅塁攻略戦の順番は、金融リスク防止・脱貧困・環境対策であったが、今回は、脱貧困が最優先となった。5500万人の農村最貧困層の脱貧困は、毎年1000万人の削減の一方で、最貧困への再転落者・新たな最貧困者の増加という問題に直面していることが見て取れる。おそらく習近平総書記にとって「小康社会の全面実現」は、GDP倍増ではなく、最貧困層撲滅に主眼を置いているものと思われ、この達成が最重要課題となっているのである。これに対し、金融リスクの問題は、大きく後退した。ただ、人民日報社説2019年12月13日は、「重大金融リスクを発生しないことを確保しなければならない」としており、懸念が全くないわけではない、ということであろう。

(3)民生とりわけ困窮大衆の基本生活が有効な保障・改善を得ることを確保する

「政府の役割を発揮させて基本を維持し、包摂性・基礎性・最低ラインへの責任を重視し、カギとなる時点・困窮層の基本生活保障をしっかり行わなければならない。

雇用総量を安定させ、雇用構造を改善、雇用の質を高め、重点層の就業対策を際立ててしっかり取り組み、就業ゼロ家庭の動態的解消を確保しなければならない。民生の脆弱部分の補強を加速し、都市従業者の子女の就学難問題を有効に解決しなければならない。

基本生活の最低ラインにしっかり責任をもち、年金の期限どおり満額支給を確保し、年金保険の全国統一を早急に推進しなければならない。市場供給の柔軟性・優位性を発揮させ、医療・老人ケア等の民生サービス分野の市場化改革と対内・対外開放を深化させ、多層レベルで多様化した供給能力を増強し、社会効率と経済効率の統一をより好く実現しなければならない。

都市困窮大衆の住宅保障政策を強化し、都市の住宅更新と中古住宅の改造・グレードアップを強化し、都市の老朽化した住宅団地の改造をしっかり行い、賃貸住宅の発展に力を入れなければならない。『住宅は住むためのもので、投機のためのものではない』という位置づけを堅持し、都市の事情に応じた施策、地価・住宅価格・予想を安定させる長期に有効な管理・コントロールメカニズムを全面実施し、不動産市場の平穏で健全な発展を促進しなければならない」。

(留意点)

「民生保障」のランキングが上昇した。2020年も経済成長率が減速するなかで、社会の安定を維持することが最重要課題となっている。「小康社会の全面的実現」を2020年に達成する必要があるため、困窮層の基本生活保障が重視されており、雇用政策では「就業ゼロ家庭」が特記されている。人民日報社説は、「小康社会の全面実現は、人民生活の改善の上に体現されなければならず、とりわけ困窮層に対して政策を実施し、投入を増やし、有効に保障しなければならない」としている。

また、2020年までに1億人の都市常住出稼ぎ農民とその家族に都市戸籍を与えることとされているが、「都市従業者の子女の就学難問題の解決」が課題とされているところを見ると、戸籍を転換してもそれに伴う都市基本公共サービスの提供が追いついていない現状がうかがえる。

不動産政策については、すでに住宅市場の過熱がピークアウトしつつある現状を踏まえて、「地価・住宅価格・予想の安定」に重点が移った。住宅価格の急落は、金融リスクを増大させるおそれがあり、不動産市場のソフトランディングが求められるのである。

(4)積極的財政政策と穏健な金融政策を引き続き実施する

積極的財政政策は、質・効率の向上に力を入れ、構造調整をより重視し、一般性支出を断固として圧縮し、重点分野の保障をしっかり行い、末端の賃金・運営・基本民生の保障を支援しなければならない。

穏健な金融政策は、柔軟・適度にし、流動性の合理的充足を維持し、マネー・貸出・社会資金調達規模の伸びを経済発展と適応させ、社会資金調達コストを引き下げなければならない。金融サプライサイド構造改革を深化させ、金融政策の伝達メカニズムを円滑にし、製造業への中長期融資を増やし、民営、中小・零細企業の資金調達難・資金調達コスト高の問題をより好く緩和しなければならない。

財政政策・金融政策は、消費・投資・雇用・産業・地域等の政策と合成力を形成し、資金を誘導して需給双方が共同受益し、乗数効果を備えた先進製造・民生建設・インフラの脆弱部分等の分野に振り向け、産業と消費の『ダブルのグレードアップ』を促進しなければならない。超大規模な市場の優位性を十分掘り起こして、消費の基礎的役割を投資のカギとなる役割を発揮させなければならない」。

(留意点)

積極的財政政策は、18年会議の「力を加え」という表現が削除され、むしろ「質・効率の向上」にウエイトがかかった。2019年度は財政赤字の対GDP比を2.6%から2.8%に引き上げたが、さらに3%に引き上げることには異論があるのだろう。

金融政策は、「緩和・引締め」という表現が削除された。ここでも金融政策の安定が重視されている。

また財政・金融政策は、乗数効果のある分野への投入が重視されており、ここでも「バラマキはしない」という李克強総理の持論が貫徹されている。

(5)質の高い発展の推進に力を入れる

『強固・増強・向上・円滑』6の方針を堅持し、イノベーション駆動・改革開放を両輪とし、経済全体の競争力を全面的に高め、現代化した経済システムの建設を加速しなければならない。

農業生産の供給保障にしっかり取り組み、農業サプライサイド構造改革を加速し、農民の増収と農村振興を牽引しなければならない。養豚の回復を加速し、供給を保障し価格を安定させなければならない。

科学技術体制改革を深化させ、科学技術成果の実用化を加速し、企業の技術イノベーション能力の向上を加速し、技術イノベーションにおける国有企業の積極的役割を発揮させ、基礎研究・オリジナルなイノベーションを奨励・支援する健全な体制メカニズムを整備し、科学技術人材の発見・育成・奨励メカニズムを整備しなければならない。

戦略的産業の発展を支援し、設備更新・技術改造投入の増大を支援し、伝統的製造業の最適化・グレードアップを推進しなければならない。減税・費用引下げ政策を実施し、企業の電力使用・ガス使用・物流等のコストを引き下げ、『ゾンビ企業』の処理を秩序立てて推進しなければならない。健全な体制メカニズムを整備し、いくらかの国際競争力がある先進製造業集積群を作り上げ、産業の基礎能力・産業チェーンの現代化水準を引き上げなければならない。デジタル経済の発展に力を入れなければならない。

市場メカニズム・現代科学技術イノベーションにより多く依拠して、サービス業の発展を推進し、生産関連サービス業の専業化とバリューチェーンのハイエンドへの延伸を推進し、生活関連サービス業の品質向上・多様化・グレードアップを推進しなければならない。『一老一小』(老人・幼児)問題をしっかり解決することを重視し、老人ケアサービス体系の建設を加速し、社会のパワーが包摂的保育サービスを発展させることを支援し、観光業の質の高い発展を推進し、スポーツ・ヘルスケア産業の市場化された発展を推進しなければならない。

国家の長期発展に着眼し、戦略的・ネットワーク型インフラ建設を強化し、四川・チベット鉄道等の重大プロジェクト建設を推進し、通信ネットワークの建設を着実に推進し、自然災害対策の重大プロジェクトの実施を加速し、都市部パイプライン・都市駐車場・コールドチェーン物流等の建設を強化し、農村の道路・情報・水利等の施設の建設を加速しなければならない。

地域発展戦略の実施を加速し、地域政策と空間配置を整備し、各地方の比較優位性を発揮させ、全国の質の高い発展の新たな動力源を構築し、北京・天津・河北の協同発展、長江デルタ一体化発展、広東・香港・マカオ大ベイエリア建設を推進し、世界レベルのイノベーションプラットホームと成長の極を作り上げなければならない。雄安新区の建設を着実に推進し、長江経済ベルトを実施すると共に大がかりな保護措置に取り組み、黄河流域の生態保護と質の高い発展を推進しなければならない。中心都市とメガロポリス(都市群)の総合受容能力を高めなければならない」。

(留意点)

産業政策・農業政策・地域政策が「質の高い発展」に包摂された。

アフリカ豚コレラの影響で、豚肉価格が高騰しているため、今回は養豚業の回復が特記された。18年会議では、イノベーションへの中小企業の役割が強調されていたが、今回は国有企業の役割が強調された。国有企業擁護派の巻き返しが始まっている可能性があり、注意を要する。また、米中経済摩擦により国際的な産業チェーンの断裂が懸念されるため、「産業の基礎能力・産業チェーンの現代化」「バリューチェーンのハイエンドへの延伸」が強調されている。地域プロジェクトとしては、雄安新区が復活し、四川・チベット鉄道が特記されている。都市部パイプライン・都市駐車場・コールドチェーン物流は、今後の特別地方債の重点対象プロジェクトとされている。

(6)経済体制改革を深化させる

ハイレベルの市場システムの建設を加速しなければならない。

国有資本・国有企業改革を加速し、国有資本配置の最適化・調整を推進しなければならない。財産権制度と要素の市場化された配分を整備し、民営経済発展を支援する健全な法治環境を整備し、中小企業発展のための政策体系を整備しなければならない。

土地計画管理方式を改革し、財政・税制改革を深化させなければならない。金融体制改革を加速し、資本市場の基礎制度を整備し、上場会社の質を高め、健全な退出メカニズムを整備し、創業ボードと新三板(店頭取引市場)の改革を着実に推進し、大銀行のサービスの重心を末端へと下ろし、中小銀行が主業に主たる責任を集中させることを推進し、農村信用社改革を深化させ、保険会社の保障機能への回帰を誘導しなければならない。

対外開放は、引き続きより大きな範囲、より広い分野、より深層レベルの方向に進め、外資の対内直接投資を促進・保護し、引き続き外資のネガティブリストを縮減しなければならない。対外貿易の安定の中で質向上を推進し、企業が輸出市場を開拓・多元化するよう誘導しなければならない。関税総水準を引き下げ、自由貿易試験区の改革開放の実験場としての役割を好く発揮させ、海南自由貿易港を推進し、『一帯一路』投資政策・サービス体系を健全化しなければならない。グローバル経済のガバナンス変革に主動的に参加し、WTO改革に積極的に参加し、マルチの自由貿易協議・交渉を加速しなければならない」。

(留意点)

財政・税制改革は、18年会議では地方税体系・地方債制度の整備の記述があったが、今回は具体的項目が挙げられていない。また、政府機能の転換の記述も削除された。

対外開放は、米中経済交渉を踏まえ、より積極的な姿勢が盛り込まれた。米国の批判が強い「一帯一路」については、18年会議は企業の主体的役割の発揮、各種リスクの管理・コントロールが記述されていたが、今回は投資政策・サービス政策の健全化がうたわれており、プロジェクトの見直しが行われる可能性がある。また、18年会議では言及されていた米中経済貿易交渉の記述は、第1段階合意を目前に控えていたせいか、削除された。

4.総括

「①『雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想』を安定させる措置を整備・強化し、財政・金融・雇用等の政策協同と健全な伝達・実施メカニズムを整備し、経済運営を合理的区間に確保しなければならない。

②減税・費用引下げの成果を強固にして展開し、財政支出構造の最適化に力を入れ、企業の資金調達難・資金調達コスト高の問題を一層緩和し、多くの措置を併せて打ち出し雇用情勢の安定を維持しなければならない。

③改革に依拠してビジネス環境を最適化し、行政の簡素化・権限の委譲、開放と管理の結合、サービスの最適化を深化しなければならない。

④国有企業改革3年アクション方案を制定・実施し、国有資本・国有企業改革の総合成果を高め、民営経済の発展環境を最適化しなければならない。

⑤実体経済の発展を推進し、製造業の水準を高め、新興産業を発展させ、大衆による起業・万人によるイノベーションを促進しなければならない。

⑥民生志向を強化し、消費の安定的な伸びを推進し、有効な投資を確実に増やし、国内市場の需要潜在力を発揮させなければならない。

⑦脱貧困堅塁攻略目標の実現、脱貧困の成果の定着を確保し、いささかも緩めることなく農業生産にしっかり取り組み、農村振興を着実に推進しなければならない。

⑧よりハイレベルの対外開放を推進し、対外貿易の安定的な伸びを維持し、外資利用を安定・拡大し、『一帯一路』共同建設を着実に推進しなければならない。

⑨汚染対策と生態建設を強化し、グリーン発展方式の形成を早急に推進しなければならない。

⑩民生保障政策を着実にしっかり行い、人民生活を引き続き改善しなければならない」。

(留意点)

これは、李克強総理の総括講話の概要であり、2020年「政府活動報告」の柱になるものと思われる。

5.結び

小康社会の全面実現と第13次5カ年計画の目標・任務の実現は、2020年の全党活動の重点中の重点である。各地方・各部門は、党19期4中全会精神を全面的に貫徹し、国家ガバナンスシステムとガバナンス能力の現代化推進に努力し、経済政策への党の指導という制度的優位性をガバナンス機能に転化しなければならない

全党・全国は、習近平同志を核心とする党中央の周囲により緊密に団結し、力を合わせ心を一つにし、鋭意進取の精神により、小康社会の全面実現の偉大な勝利を断固奪取しなければならない」。

(留意点)

人民日報評論員論文2019年12月18日によれば、「経済政策への党の指導という制度的優位性をガバナンス機能に転化しなければならない」とは、実施面で力を用いよということだとし、「経済政策に対する党の指導強化は、何もかも包含するものではなく、大事を管理・議論し、方向を把握し、大局を管理し、実施を保障する役割を発揮しなければならないということである」としている。

  1. 本文のうち「」部分は、本文の引用、その他はコメントである。下線部は2019年の特徴的部分である。
  2. 政治意識・大局意識・核心意識・一致意識。
  3. 中国の特色ある社会主義の道・理論・制度・文化への自信。
  4. 習近平の全党・党中央の核心としての地位の擁護と、党中央の権威と集中・統一的な指導の擁護。
  5. 「3区」は、①チベット自治区、②新疆南部の4地区・州、③青海・甘粛・四川・雲南省のチベット族集住地域。「3州」は、甘粛の臨夏回族自治州、四川の涼山イ族自治州、雲南の怒江リースー族自治州。
  6. 「過剰生産能力の削減、過剰住宅在庫の削減、リレバレッジ、企業コストの引下げ、脆弱部分の補強」の成果を強固、ミクロ主体の活力を増強、産業チェーンの水準を向上、国民経済の循環を円滑にすること。