特別地方債の発行・使用の加速

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2019年9月18日


9月4日の国務院常務会議において、特別地方債の発行・使用を加速する措置が確定されたことを受け、9月6日、財政部は記者会見を行い、許宏才副部長、王克冰予算司巡視員が具体的政策を説明した。この内容について、『中国財経報』(2019年9月10日)が要領よくまとめて報道しており、本稿では、この概要を紹介する。

1.今年度の地方債発行・使用の4大特徴

全人代の批准を受け、2019年度は新たに増やす地方政府債務限度額3兆800億元を計上した。そのうち、新たに増やす一般債務限度額9300億元、特別債務限度額2兆1500億元である。

党中央・国務院の政策決定・手配、及び昨年12月全人代常務委員会の「新たに増やす地方政府債務限度額の一部を前倒しで下達することに関する授権」に基づき、財政部は発展・改革委員会、人民銀行、銀行・保険監督管理委員会、証券監督管理委員会等の部門と協調手配し、今年に入り、地方債の発行・使用の進展は順調であり、従来の年に比べある程度前倒しされている。

(1)発行の進度が速い

1-8月、全国累計地方債新規発行増は2兆8951億元であり、2019年度に新たに増やす地方政府債務限度額の94%であり、発行進度は前年同期より34ポイント高かった。

(2)金利コストが低下した

財政・金融政策の協調の下、1-8月新規増加債券の平均発行金利は3.41%であり、前年同期より0.44ポイント低下した。

(3)債券の期限を延長した

1-8月、新規増加債券の平均期限は8.69年であり、前年同期より2.39年延び、徐々にプロジェクトの期間と釣り合うようになり、主として債券により支援するプロジェクトの実施サイクルと釣り合っている。

(4)投資の安定・脆弱分野の補強に重点的に用いた

8月末までに、各地方は新規増加債券2兆2011億元を既に交付・使用した。そのうち、既に交付・使用した新規増加特別債券は1兆5902億元であり、同時期に既に発行した新規増加特別債券の80%である。

既に交付・使用した新規増加特別債券資金のうち、

①鉄道・道路等の交通インフラに1579億元用い、ウエイトは9.9%である。

②都市公共事業に1186億元用い、ウエイトは7.5%である。

③バラック地区改造等社会保障的性格をもつ住宅建設に6238億元用い、ウエイトは39.2%である。

④科学・教育・文化・衛生等の民生分野に526億元用い、ウエイトは3.3%である。

⑤農林・水利に263億元用い、ウエイトは1.7%である。

上述の投資安定・脆弱分野補強資金の投入の約62%は、有効な投資の拡大を積極的に牽引し、民間投資へのテコ入れ作用を発揮した。

2.脆弱分野を補強、民生を優遇、持続力を増強し、有効な投資を一層拡大した

今年1-6月、わが国の経済は総体として平穏であり、安定の中で前進をみる態勢を持続した。現在、外部環境はより複雑・峻厳化傾向にあり、国内経済の下振れ圧力が増大している。

このため、国務院は各地方・各部門に、党中央・国務院の手配に基づき、緊迫感を増強し、主動的に結果を出し、「雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想」を安定させる政策をしっかり実施することを際立てて位置づけ、自身の事柄にしっかり取り組むことを軸に、カウンターシクリカルな調節政策手段をうまく用い、既に打ち出した政策をしっかり行う基礎の上に、重点分野・カギとなる問題を整理して精確に施策を行わなければならない、と要求した。さらに、脆弱部分の補強、民生の優遇、持続力の増強、有効な投資の一層の拡大に着眼し、今年度の限度額内の特別地方債は9月末までに全部発行を終え、10月末までに全部プロジェクトに交付することを確保し、各地方ができるだけ速く実物の成果量を形成するよう要求した。

13期全人代常務委員会第7回会議での通過を経て、国務院は2019年度、当年度新たに増やす地方政府債務限度額(以下「新規増加限度額」)の60%以内で、次年度の新規増加限度額(一般債務限度額・特別債務限度額を含む)を前倒しで下達することを授権された。授権期間は、2019年1月1日から2022年12月31日までである。

全人代常務委員会の授権に基づき、財政部は規定に基づき、来年度の特別債券の新規増加限度額の一部を前倒しで下達するための準備活動をしっかり行い、来年初めにすぐ使用可能となり効果が現れることを確保し、有効な投資を牽引し、脆弱部分の補強・内需拡大を支援する。

3.当面、地方政府債務はコントロール可能である

全国財政の決算データによると、2018年末、わが国地方政府債務残高は18.46兆元であり、債務率(債務残高/地方総合財政力)で地方政府の債務水準を量ると、2018年の地方政府債務率は77%であり、国際一般警戒水準より低い。

これに予算管理に組み入れられる中央政府債務14.96兆元を加えると、国家統計局が公表したGDPデータで計算すれば、全国政府の債務の負債率(債務残高/GDP)は37.1%であり、EU60%の警戒ラインより低く、主要市場経済国家・新興市場国家の債務リスク水準よりも低い。

13期全人代第2回会議の審議・批准を経て、2019年度の全国地方政府債務限度額は24兆774.3億元である。2019年8月末までの全国地方政府債務残高は21兆4139億元であり、全人代の批准限度額内に抑制されている。

法定債務を除き、地方政府はさらに隠れ債務が存在しており、財政部は増大に断固として歯止めをかけ、残高を適切に解消することを通じて、債務リスクをしっかり防止する。

4.特別債券の使用範囲を拡大する

予算法の関連要求に基づき、地方政府の借入は地方債発行の方式のみ採用できる。

党中央・国務院の関連文件は、一般地方債を収益のない公益的なプロジェクト建設に用い、特別地方債を一定の収益のある公益的なプロジェクト建設に用いることを明確にした。

国務院常務会議の要求に基づき。今回前倒しで下達する特別債券限度額は、手続を完了し、前期の準備活動が十分なプロジェクトに傾斜し、発行・使用が良好な地域と今年の冬・来年春の施工条件が整った地域を優先的に考慮する。

①鉄道、軌道交通、都市駐車場等の交通インフラ、

②都市・農村電力網、天然ガスパイプライン、ガス備蓄施設等のエネルギープロジェクト、

③農林業・水利、都市汚水・ゴミ処理等の生態環境保護プロジェクト、

④職業教育、幼児保育、医療、年金等の民生サービス、

⑤コールドチェーン物流施設、水道・電気・ガス・暖房供給等の地方公益事業、

⑥産業パークのインフラ、

に重点的に用いる。

このほか、特別地方債の資金は、土地備蓄・不動産関連分野、債務借換、及び完全にビジネス化した運営が可能な産業プロジェクトに用いてはならない。

今回の特別債券の使用範囲を従来よりある程度拡大した部分は、主として財政部が地方のプロジェクトの申請・実際情況に基づき、民生分野への投資使用を拡大したものである。

最近公布した「特別地方債発行及びプロジェクトの資金調達手配に関する党中央弁公庁・国務院弁公庁通知」は、特別債券を条件に合致した重大プロジェクトの資本金とすることを認めた。

具体的には、元々の4分野のプロジェクトを10分野のプロジェクトに一層拡大した。①鉄道、②有料道路、③幹線飛行場、④内陸水運・電力中枢・港湾、⑤都市駐車場、⑥天然ガスパイプライン・ガス備蓄施設、⑦都市・農村電力網、⑧水利、⑨都市汚水・ゴミ処理、⑩水供給である。

地方が政策規定に合致し、リスクを防止・コントロールする基礎の上で、特別債券をできるだけ多くプロジェクト資本金に交付し用いる。省を単位として、特別債券資金をプロジェクト資本金に用いる規模は、一般に当該省の特別地方債規模の20%前後に抑制する。

5.特別債券資金の使用効率を高める

党中央・国務院の政策決定・手配に基づき、特別債券の投資促進作用を発揮させると同時に、特別債務リスクを防止・コントロールし、特別債券資金の使用効率を高めるため、今回前倒しで下達する次年度特別債券の新規増加限度額の一部分は、以下の要求・手配を重点的に遵守する。

(1)資金の業績効果を導きとし、有効な投資の形成を堅持し、実物成果量の形成を確保する

プロジェクトの準備が十分で、プロジェクト立上げ、審査・認可、立退き・取り壊し、環境評価等の各種手続・事前対策、今年の冬・来年春の施行条件を既に達成した地域に向けて、重点的に傾斜させる。

(2)適格・ルールに則ることを重点とし、プロジェクトの適格・ルール順守を堅持する

プロジェクトの蓄積を強化し、プロジェクトの前期準備をしっかり行い、各審査・認可プロセスを履行し、経済社会への効果が比較的明らかで、大衆が希望し、遅かれ早かれ実施すべきプロジェクトを優先的に選び、プロジェクト建設が実効を上げることを確保しなければならない。

(3)リスクの防止・コントロールを最低ラインとし、プロジェクトの投資方向を明確にする

特別債券は収益がある政府投資プロジェクトに用いなければならず、資金調達規模とプロジェクトの収益を釣り合わせ、地方政府が遅かれ早かれ投資しなければならないプロジェクトと脆弱部分の補強、脆弱なインフラ強化のプロジェクトに焦点を絞らなければならない。

特別債券の発行・使用が良好な地域を優先的に考慮し、財政力が良好で起債の余地が大きい地域を重点的に支援し、地方債務リスクがかなり高い地域に対しては、交付を少なくするか交付しない。

(4)合成力の発揮を要求とし、プロジェクト手配の健全な協調メカニズムを整備する

地方政府の起債は、中央が救済しないことを堅持し、起債した者が責任を負うことを堅持する。このため、地方政府はプロジェクトを合理的に確定し、省・自治区・直轄市が総責任を負わなければならない。

地方党委員会・政府の指導の下、財政、発展・改革、金融管理等の部門が共同手配するメカニズムを確立する。各地方の財政部門は、特別債券需要を申請する際に、同レベルの発展・改革部門から必要なプロジェクトのリストを提供してもらい、特別債券の発行条件に符合する財政部門はこれを全部吸収・採択し、最終的に省レベル政府の批准・確認を必要とする。