下半期の経済政策(6)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2019年9月10日


本稿では、9月4日の国務院常務会議、9月5日の「全国金融情勢報告・政策経験交流テレビ電話会議」、8月26日の中央財経委員会のポイントを紹介する。

1.国務院常務会議(9月4日)

李克強総理は9月4日、国務院常務会議を開催し、精確に施策を手配し、①「6つの安定」政策をしっかり力を入れて行うこと、②特別地方債の発行・使用を加速する措置を確定し、有効な投資により脆弱部分を補強し、内需の拡大を牽引することを決定した(新華社北京電、2019年9月4日)。

1.1「6つの安定」政策

上半期のわが国経済は総体として平穏で、安定の中で前進をみる態勢を持続した。

現在、外部環境はより複雑・峻厳化傾向にあり、国内経済の下振れ圧力が増大しており、各地方・各部門は、党中央・国務院の手配に基づき、緊迫感を強め、主動的に結果を出し、「雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想」を安定させる政策をしっかり実施することを際立てて位置づけ、自身の事柄にしっかり取り組むことを軸に、カウンターシクリカルな調節政策手段をうまく用い、既に打ち出した政策をしっかり行う基礎の上に、重点分野・カギとなる問題を整理し、精確に施策を行わなければならない。

(1)雇用

多くの措置を併せて打ち出し雇用を安定させ、高等職業訓練校の募集を100万人拡大し、1000億元の失業保険基金剰余金を運用して大規模な職業技能訓練を展開する等の政策を早急に推進し、高等職業・技能訓練校の募集規模と技能訓練の資金規模を一層増やすことを検討1しなければならない。

(2)物価

物価の総体的安定を維持し、豚肉の供給保障・価格安定措置を実施し、困窮大衆への社会救済と保障基準を物価上昇にリンク・連動させるメカニズムを適時発動する。

(3)ビジネス環境

行政の簡素化・減税・費用引下げ措置を確実に実施し、ビジネス環境を最適化し、市場主体の活力を奮い立たせなければならない。

(4)投資

「脆弱部分の補強・民生の優遇・持続力の増強」に着眼し、有効な投資を一層拡大し、今年の限度額内の特別地方債は9月末前に全部発行を終え、10月末前に全部プロジェクトに資金交付することを確保し、各地方ができるだけ速く実物を伴った成果量を形成するよう督促しなければならない。

(5)金融

穏健な金融政策を実施し、かつ適時に事前調整・微調整を行うことを堅持し、実質金利水準を引き下げる措置を早急に実施し、全般的な預金準備率引下げと方向を定めた預金準備率引下げ等の政策手段を遅滞なく運用し、金融機関の考課・奨励メカニズムを整備し、資金をより多くインクルーシブ・ファイナンスに用いさせ、実体経済とりわけ小型・零細企業への金融支援を強化するよう誘導する。

(6)政策の合成力

「雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想」を安定させる政策の合成力を増強し、経済運営を合理的区間に確保しなければならない。

1.2.特別地方債の発行・使用の加速
(1)地方の重大プロジェクトの建設需要に応じ、規定に基づき来年の特別地方債の新たな 増額の一部を前倒しで下達し、来年年初にすぐ使用可能となり効果が現れることを確保する

かつ使用範囲を拡大し、①鉄道、軌道交通、都市駐車場等の交通インフラ、②都市・農村電力網、天然ガスパイプライン、ガス備蓄施設等のエネルギープロジェクト、③農林業水利、都市汚水・ゴミ処理等の生態環境保護プロジェクト、④職業教育、幼児保育、医療、年金等の民生サービス、⑤コールドチェーン物流施設、水道・電気・ガス・暖房供給等の地方公益事業、⑥産業パークのインフラ、に重点的に用いる。

特別地方債の資金は、土地備蓄・不動産関連分野、債務借換、及び完全にビジネス化した運用が可能な産業プロジェクトに用いてはならない。

(2)特別地方債は、プロジェクト資本金の範囲が、上述の投入方向に合致することが明確な重大インフラ分野に用いることができる

省を単位として、特別地方債資金をプロジェクト資本金に用いる規模は、当該省の特別地方債規模の20%前後まで可とする。

(3)プロジェクト管理を強化し、プロジェクトの中途放棄の出現を防止する

資金によるプロジェクトのフォローの要求に基づき、特別地方債の金額は、手続が完了し、これまでの実施準備が十分なプロジェクトに傾斜させ、発行・使用が良好な地域と今年の冬・来年春の施工条件が整った地域を優先的に考慮する

各地方・関係部門は、プロジェクトの準備を強化しなければならず、プロジェクトは収益を伴わなければならない。経済社会への効果が比較的明らかで、大衆が希望し、遅かれ早かれ実施すべきプロジェクトを優先しなければならず、同時に、一斉に立ち上げることを防止し、プロジェクト建設の実効が現れることを確保しなければならない。

2.全国金融情勢報告・政策経験交流テレビ電話会議(9月5日)

国務院金融安定発展委員会が主催し、劉鶴副総理が講話を行った2。講話の概要は以下のとおりである(中国政府網、2019年9月5日)。

19回党大会以降、党中央・国務院の指導下、金融安定発展委員会の構成委員と協力単位は、主動的に成果を出し、各地方は協力を強化し、各政策は積極的成果を得て、マクロ政策は有効に実施され、実体経済への金融のサービスは強化され、金融秩序はある程度好転し、金融の改革・開放は新たな進展を得た。

現在、内外経済・金融は新情勢に直面し、経済の下振れ圧力が増大しており、憂患意識を増強し、危機をチャンスにうまく変え、自身の事柄に真剣にしっかり取り組み、経済・金融の健全な運営を促進しなければならない。

わが国経済のファンダメンタルズは、長期に好い方向に向かっており、個人貯蓄率は高く、ミクロの基礎は活力が充満しており、重要な金融機関は健全に運営され、マクロ政策手段は充足し、監督管理の体制メカニズムは健全であり、リスクの防止・解消の経験は豊富になっており、各種の困難・試練と戦い勝利する能力・自信・条件を完全に備えている。

党中央・国務院の政策決定・手配に基づき、金融安定発展委員会の統一的な指導・協調の下、金融機関・地方政府・金融管理部門の責任を徹底し、各金融政策・金融行政をしっかり行わなければならない。

(1)金融機関

金融機関は主体的責任を強化し、一方で実体経済へのサービスに取り組むとともに、もう一方でリスク解消に取り組まなければならない。

景気サイクルへの順応思考を克服し、実体経済とりわけ中小企業・民営企業への貸出を強化し、製品に市場があり、収益があり、管理がしっかりしているものの、資金が逼迫している企業に対し、積極的に貸出支援を与え、実体経済と力を合わせて難関を切り抜けなければならない。

金融機関は、リスク防止意識を高めなければならない。

コーポレートガバナンスを整備し、内部管理を強化し、奨励・規制メカニズムを強化し、責務を引き受け、イノベーションに取り組み、リスクをコントロールするよう金融機関を奨励し、実体経済を真に支援する金融機関には奨励を強化しなければならない。

(2)地方政府

地方政府は、管轄地のリスク処理と安定維持の第一義的責任を強化し、政治的地位を高め、管轄地を守ることに責任を担い、責任を尽くす意識を牢固に樹立し、地域的金融リスクを発生させない最低ラインをしっかり守らなければならない。

各種の違法な金融活動を有効に取り締まり、事件の群発的な発生を防止しなければならない。

地方の金融監督管理体制を整備し、リスク管理・コントロールの長期に有効なメカニズムを確立しなければならない。

(3)金融管理部門

金融管理部門は監督責任を強化し、カウンターシクリカルな調節を強化し、金融政策の伝達メカニズムの円滑化に努力し、金融と財政政策の組合せを強化し、事業・起業に意欲的で、かなり良好な発展の潜在力を備えた地域と分野を急速に発展させるよう支援しなければならない。

銀行が資本手段をより多く利用・刷新して資本金を補充することを支援し、製造業・民営企業への中長期融資を金融機関が増やすよう誘導しなければならない。局部的・構造的なリスクを適切に解消しなければならない。

監督管理制度の脆弱部分の補強を加速し、法規に違反することに伴うコストを大幅に引き上げなければならない。

金融の改革・開放を深化させ、実体経済の発展のために動力支援を提供し、各開放措置をしっかり実施し、開放によって改革・イノベーションを促進し、質の高い発展を促進しなければならない。

3.党中央財経委員会(8月26日)

習近平総書記が8月26日午後、党中央財経委員会を主催し、①優位性を相互に補完して発展の質が高い地域経済配置の形成を推進する問題、②産業の基礎的能力・産業チェーン水準を高める問題を検討した。

会議には、李克強総理、王滬寧中央書記処書記、韓正副総理が出席した。会議は、国家発展・改革委員会、国家統計局、上海市、広東省、遼寧省から①についての報告を聴取し、国家発展・改革委員会、工業・情報化部、国務院国有資産監督管理委員会、中国工程院から②についての報告を聴取した。

習近平総書記は重要講話において、「各地域の条件に基づき、合理的な分業・発展最適化の路線を歩み、主体的機能区の戦略を実施し、空間のガバナンスを整備し、位性を相互に補完して発展の質が高い地域経済配置を形成しなければならない。パワーを集中して大事に取り組む制度的優位性と超大規模な市場の優位性を十分発揮し、産業基礎の高度化・産業チェーンの現代化という堅塁攻略戦をしっかり戦わなければならない」と強調した。

会議の概要は、以下のとおりである(新華社北京電、2019年8月28日)3

(1)発展の質が高い地域経済配置の形成

現在、わが国の地域発展情勢は良好であり、同時に経済発展の空間構造は深刻な変化が発生しており、中心都市とメガロポリス(都市群)は発展要素を受容する主要な空間形式となってきている。

新情勢下で地域の協調発展を促進するには、客観的な経済ルールに基づいて地域政策体系を調整・整備し、各地方の比較優位性を発揮させなければならない。各種要素の合理的な流動と効率の高い凝集を促進し、イノベーション・発展動力を増強し、質の高い発展のための動力システムの構築を加速しなければならない。中心都市・メガロポリス等の経済発展の優位性、地域の経済と人口の受容能力を増強し、その他地域の食糧安全・生態安全・辺境安全等の方面を保障する機能を増強しなければならない。

民生の最低ラインを保障し、基本公共サービスの均等化を推進し、発展の中でバランスを作り上げなければならない。

全国統一の、開放され、競争が秩序立った、製品・要素市場を形成し、資源配分における市場の決定的役割を発揮させ4、市場の一体化した健全な発展メカニズムを整備し、地域協力のメカニズムを深化させなければならない。

省レベルで統一的に企画する基礎の上に、年金保険の全国統一企画の進度を加速し、全国範囲において制度統一と地域間の相互扶助を実現しなければならない。

土地管理制度を改革し、土地管理の柔軟性を高めることにより、優位性のある地域に、より大きな発展の空間を与えなければならない。

エネルギー消費の総量と強度の2つのコントロール制度を整備し、生態補償制度を全面的に建設し、健全な地域間の利益補償メカニズムと縦方向の生態補償メカニズムを整備しなければならない。

財政移転支出制度を整備し、重点生態機能区・農産品主産区・困窮地区に対して、有効な移転支出を提供しなければならない。

東北地方は、主動的に経済構造を調整し、産業の多元化した発展を推進し、国有企業改革を加速し、対外開放の新たなフロンティアを作り上げ、政府機能の転換を加速し、企業家精神を高揚させ、幹部のプラスの奨励を強化し、人材登用の鮮明な方向性を樹立して、全面振興を実現しなければならない。

(2)産業の基礎的能力・産業チェーン水準の向上

わが国製造の規模は世界首位であり、世界で唯一全ての工業部門を有する国家である。

パワーを集中し大事を成し遂げる制度の優位性と、超大規模の市場の優位性を十分発揮して、産業の基礎的能力を打ち固めることを根本とし、「自主的にコントロール可能、安全で効率が高い」ことを目標とし、企業と企業家を主体とし、政策の協同を保障としなければならない。「応用による牽引、問題志向」を堅持し、政府による誘導と市場メカニズムを結びつけることを堅持し、独立・自主と開放・協力を共に促進し、「産業の基礎の高度化、産業チェーンの現代化」の堅塁攻略戦をしっかり戦わなければならない。

産業の基礎の再建プログラムを実施し、トップダウン設計をしっかり行い、プログラムの重点を明確にして、分類して組織的に実施し、自主能力を増強しなければならない。

戦略性・全局性を備えた産業チェーンを作り上げ、「強固・増強・向上・円滑」の方針を軸に、川上・川下企業が産業協力と技術協力を強化するという難関攻略を支援し、産業チェーンの強靭性を増強し、産業チェーンの水準を高め、開放・協力の中でイノベーション力がより強く、付加価値がより高い産業チェーンを形成しなければならない。

共通技術のプラットホームを確立し、業種・分野をまたがるカギとなる共通技術の問題を解決しなければならない。

企業家精神と匠の精神を発揮させ、「専門的で・精緻な・特色ある・新しいタイプの」中小企業を育成しなければならない。

  1. 太字は筆者。
  2. 会議では、人民銀行・内モンゴル自治区・山東省・広東省政府及び工商銀行の責任者が発言し、中央・国家関係部門責任者、在京主要金融機関責任者、各省・自治区・新疆生産建設兵団の責任者、及び関係部門の責任者が参加した。
  3. この全てが下半期の経済政策に該当するわけではないが、7月30日の党中央政治局会議では「産業の基礎的能力と産業チェーンの水準を向上させなければならない」との記述があり、この部分は下半期の経済政策の具体化と考えられる。
  4. しばらく使われていなかった表現であるが、復活した。