2019年経済・財政報告のポイント

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2019年5月24日


3月5日、国家発展・改革委員会から全人代に対し、「2019年度国民経済・社会発展計画」が、財政部から全人代に対し、「2019年度中央・地方予算」が、それぞれ書面で報告された。そのポイントは以下のとおりである。
1.経済目標
 主要な経済目標は、以下のとおりである。

経済目標(予期目標を含む)(失業率以外は前年比)

表:経済目標(予期目標を含む)(失業率以外は前年比)

2.2019年度予算の全体像

(単位:億元、%)

表:2019年度予算の全体像

(注)括弧書きは、予算執行見込額に対する伸び率。
3.2018年度の財政政策・財政改革
(1)減税・費用引下げ

①増値税制度を整備した

製造業、交通・運輸、建築、基礎電信サービス等の業種及び農産品等の貨物の増値税率を引き下げ、増値税小規模納税者基準を500万元に統一し、装置製造業等先進製造業、研究開発等現代サービス業の条件に合致した企業と電力網企業の期末の未控除仕入増値税額を、一括還付した。

②個人所得税改革を実施した

個人所得税法を改正し、2018年10月1日から、基本控除費用基準を引き上げ、税率構造を調整・最適化した。この基礎の上に個人所得税特別付加控除暫定弁法を検討・制定し、子女教育等6項目の特別付加控除を設立し、個人所得税法実施条例を改正し、2019年1月1日から正式に実施した。分類税制から、総合と分類を結合した税制への重大転換を実現した。これにより恩恵が及んだ納税者は約8000万人である。

③企業が研究開発投入を増やすことを奨励した

企業が国外に委託して研究開発した費用を割増控除できない、という制限を取り消した。企業研究開発費割増控除比率を75%に引き上げる政策を、科学技術型中小企業から全ての企業に拡大した。ハイテク企業と科学技術型中小企業の赤字繰延年限を5年から10年に延長した。企業の新規購入の1台当たり500万元以下の設備・器具について、当年度全額の一括控除を認めた。

④輸出入に係る租税政策を調整・整備した

2回に分けて4000項目余りの製品に対して、輸出に係る税還付率を引き上げ、かつ還付税率構造を簡素化した。抗がん剤を含む絶対多数の輸入薬品にゼロ関税を実施し、自動車の本体・部品、一部の日用消費財と工業品の輸入関税を引き下げた。わが国の関税総水準は、2017年の9.8%から7.5%に下がった。

⑤企業に係る費用徴収を一層整理・規範化した

社会保険料率と企業側の住宅公的積立金の納付比率の段階的引下げの期限を延長した等。  

上述の減税・費用引下げ措置の年間負担軽減は約1.3兆元であった。

(2)3大堅塁攻略戦

①地方政府債務リスクの防止・コントロールを強化した

地方政府債務の限度管理・予算管理を実施し、地方政府の債務ストックの借換えを基本的に完成した。地方政府が特別債券をうまく発行・使用することを支援し、2カ月前倒しで1.35兆元の発行目標を完成した。管理措置を整備し、特別債券リスクを法定限度内に厳格にコントロールした。

②脱貧困堅塁攻略支援に力を入れた

中央財政が補助した地方特別貧困支援資金は1060.95億元であり、200億元、23.2%増加した。増加した資金は、「三区三州」等貧困が深刻な地域に重点的に用いた。

③汚染対策を強化した

中央財政支援した汚染対策堅塁攻略関連資金は、約2555億元、13.9%増であり、うち、大気・水質・土壌汚染対策への投入程度は近年最大となった。

4.2018年度の財政政策の総体要求
(1)原則

①減税・費用引下げを強化し、実体経済の発展を促進する

より大規模な減税とより顕著な費用引下げを実施し、包摂的減税と構造的減税を併せて打ち出し、製造業と小型・零細企業の税負担を重点的に引き下げ、ビジネス環境を改善する。  社会保険料率を引き下げ、現行の徴収方式を安定させる。

②重点分野への投入を増やし、支出の精確度を高める

党中央・国務院の重大政策決定・手配を実施し、財政支出の公共性・恩恵の普遍性を際立たせ、支出構造を引き続き調整し、財政投入の精確度を増強する。  

脱貧困堅塁攻略、「三農」構造調整、科学技術イノベーション、生態環境保護、民生等の分野への投入を重点的に増やす。  

サプライサイド構造改革の強化、イノベーションと技術の難関攻略、農村振興戦略の実施、地域の協調発展と軍民の融合発展の促進の支援に力を入れる。

③節約の思想を樹立し、一般性支出を厳格に抑制する

企業の負担減を支援するため、各レベル政府は節約し、資金調達の方法を考えなければならない。一般性支出を大いに圧縮し、「公費による接待、公費による海外出張、公用車の購入・維持」経費予算を厳格に抑制し、効率が低く無効な支出を取り消し、長期遊休資金を整理・回収する。

中央財政は部門の支出を率先して厳格に管理し、一般性支出は原則として5%の圧縮を下回ってはならない。地方財政は、中央の方法を参照し、行政事業単位の支出を厳格に抑制しなければならない。

④財政・税制改革を深化させ、現代財政制度の確立を加速する

ミクロ主体の活力を奮い立たせ、地方の積極性を動員することに資するという要求に基づき、システム・インテグレーションを強化し、統一的な企画・協調を重視し、財政体制、予算管理制度、税制などの方面での重点改革任務を着実に推進する。

⑤地方の規範的起債という正門を大きく開き、法規に違反した借金の裏口を厳しく塞ぐ

地方政府の起債による健全で規範的な資金調達メカニズムを整備し、隠れ債務残高を適切に処理し、隠れ債務の増加に断固として歯止めをかけ、裏口を厳しく塞ぎ、正門を大きく開けなければならない。  

地方政府特別債券の規模をかなり大幅に増やし、建設中の重大プロジェクトの建設と脆弱部分の補強を支援し、サプライサイド構造改革の深化、建設中のプロジェクトの建設、隠れ債務リスクの解消等において、特別債券の一挙に多く得をする政策効果をさらに好く発揮させる。

5.2019年度の財政政策

2019年度の財政政策は力を加え、効率を高め、カウンターシクリカルな調節作用を好く発揮させ、コントロールの展望性(先見性)・的確性・有効性を増強し、経済の質の高い発展を推進しなければならない。

(1)「力を加える」とは、より大規模な減税・費用引下げの実施と支出の強化に体現される

①減税・費用引下げの実施方面  

増値税改革を深化させ、製造業等の業種の現行16%の税率を13%に引き下げ、交通・運輸業、建築業等の業種の現行10%の税率を9%に引き下げ、主要業種の税負担を顕著に低くすることを確保する。  

6%の対象の税率は不変を維持するが、生産・生活関連サービス業に対する税控除増等の関連措置の採用を通じて、全ての業種の税負担を減らすだけで増やさないことを確保し、税率3段階を2段階に統合し、税制の簡素化を推進する方向へ引き続き邁進する。  

年初に打ち出した小型・零細企業への包摂的減税政策の実施にしっかり取り組む。  

改正後の個人所得税法を全面的に実施し、6項目の特別付加控除政策をしっかり実施する。  

同時に、企業の社会保険料の負担を顕著に引き下げる。2019年5月1日から、都市従業員年金保険の企業負担の料率を、各地方は16%に引き下げてよい。失業・労災保険料率を段階的に引き下げる政策を引き続き執行し、企業とりわけ小型・零細企業の社会保険料負担を実質的に引き下げなければならない。行政事業性料金徴収を引き続き整理する。  

各種の減税・費用引下げ措置を総合すると、年間の企業税・社会保険料負担の軽減は、2兆元近くになる。大規模な減税・費用引下げを支援するため、中央財政は特定国有金融機関と中央企業の上納利潤を増やし、地方財政も主動的に財源を捻出し、多くのルートで各種資金・資産を活性化する。

②支出強化方面  

財政支出規模を引き続き増やし、全国財政赤字2兆7600億元を計上し、2018年度比で3800億元増やし、対GDP比財政赤字率を2.6%から2.8%に適度に引き上げる。同時に、地方政府特別債券2兆1500億元を計上し、2018年度比8000億元増やす。  

このような手配は、各方面の支出需要に適応しており、財政政策を積極・有力にするというシグナルを放っており、企業の予想を更に好く誘導し、市場の自信を増強することに資するものであり、今後出現する可能性があるリスクの隠れた弊害に対応するために、政策の余地を残しておくことを考慮したものである。

(2)「効率を高める」は、財政資金の配分効率と使用効率を高めることに体現される

①資源配分の効率を高める方面  

支出構造の調整・最適化に力を入れ、維持するものと抑制するものを区別することを堅持し、維持すべき支出はしっかり保障し、減らすべき支出は減らし、財政遊休資金を引き続き活性化する。資金の統一的企画を強化し、国家経済社会の発展の大局を支える能力の増強に精確に焦点を絞る。

②資金の使用効率を高める方面  

予算の業績効果管理の全面実施を掴みどころとして、予算業績効果管理で予算編成・執行の全プロセスを貫き、予算執行の進度を加速する。予算業績効果のモニタリングをしっかり行い、遅滞なく偏差を是正し、できるだけ早く財政資金の役割を発揮させ、政策の実施に目に見える効果を更に好く推進する。

なお、地方政府の新規債務増の限度額は3兆800億元、うち一般債務は9300億元、特別債務は2兆1500億元である。

6.2019年度の財政改革・発展政策

主要なものだけを紹介する。

(1)予算法を厳格に実施する

予算の法治意識を牢固に樹立し、予算法を全面実施し、財政収支管理を一層規範化する。  

国有資本経営予算の実施範囲を一層拡大することを検討する。社会保険基金予算の管理と収支管理を強化し、情報化を推進する。  

予算・決算の公開を強化し、公開の範囲・内容を開拓する。予算編成の科学性を増強し、部門予算改革を深化させ、科学的な予算支出の基準体系の構築を加速し、部門予算の全面性・規範性・透明度を高める。  

人代が批准した予算に厳格に基づいて執行し、予算執行の主体的責任を強化し、予算執行管理を強化し、予算制約をハードにする。

(2)財政・税制改革を深化させる

応急救援、自然資源等の分野で中央と地方の財政権限と支出責任の区分改革方案を早急に制定する。中央と地方の財政力が総体として安定している基礎の上に、中央と地方の収入区分改革を着実に推進する。移転支出制度を整備し、地方に対する中央の移転支出体系を最適化する。  

総合と分類を結合した個人所得税税制を実施し、個人所得と財産の情報システム建設を推進する。健全な地方税体系を段階的に整備し、一部品目の消費税徴収段階をさらに末端段階へシフトすることを検討する。租税法定主義の要求を実施し、税制の立法化推進を強化する。  

調達主体の職責が明確で、取引ルールが科学的で効率が高く、監督管理メカニズムが健全で、政策の機能が完備され、法制度が整備され、技術に支えられた先進的な現代政府調達制度の形成を加速する。  

政府会計準則制度をしっかり貫徹実施し、政府財務報告の編成テストの範囲を一層拡大する。国有資本改革・運営会社改革のテストを推進する。国有資産報告制度の健全な体系を確立し、2018年度国有資産総合報告・行政事業性国有資産特別報告をしっかり行う。

(3)減税・費用引下げの各措置を実施する

各地方・各部門は上下を連動させ、協調して進み、施策を強化して、共同で減税・費用引下げをしっかり実施する。簡明・実行が容易でオペレーションが可能な実施方案を早急に制定し、かつできるだけ早く公布・実施し、安定・積極な予想の形成を推進し、中央経済工作会議のより大規模な減税・費用引下げに関する手配を確実に実施に移す。  

組織的な指導を強化し、手配を入念に計画し、企業にできるだけ速やかに政策のボーナス効果を享受させる。サービス意識を一層増強し、多様な形式の政策宣伝・解説を展開し、企業家に対する宣伝・紹介と企業財務担当への訓練及び政策理解を促すための指導を強化し、企業が政策を理解し、政策を十分にうまく用いるよう手助けする。

減税・費用引下げ政策の執行情況を密接にフォローし、政策実施プロセスにおける問題を遅滞なく検討・解決し、政策措置を不断に整備する。費用徴収項目リストの「総合サイト」の整備を強化し、費用をみだりに徴収する行為の通報・異議申立て・調査・処分の健全なメカニズムを整備する。監査・監督を強化し、各措置の完全実施を確保して、企業・人民大衆に実際の獲得感を得させる。

(4)民生支出の健全な管理メカニズムを整備する

経済発展と民生改善を統一的に企画し、力を尽くして実行し、実力に応じて実行することを堅持し、基本を維持し、最低ラインに責任をもつことを際立たせ、民生の保障・改善水準を高めて、人民大衆により多い獲得感を得させる。  

中央民生政策の実施メカニズムを整備し、地方予算の手配は中央民生政策の需要を優先的に保障し、中央民生政策の完全実施を確保しなければならない。人民大衆の基本公共サービス需要を軸に、民生支出リスト管理制度の確立を模索し、関連政策の名称・保障範囲・支出基準・申請プロセス等を明確にし、地方が自ら打ち出す民生支出政策は、手続に則って申請しなければならない。  

民生政策の事前検証・評価を強化し、各レベル政府とりわけ末端政府と困窮地方の財政力を考慮し、関連政策の財政支出への今期・長期への影響を全面的に分析し、財政の持続可能性に影響を与える支出政策を打ち出すことを厳禁する。  

地方への移転支出資金の調整程度の管理を強化し、末端財政が民生支出の保障能力を高めるよう支援する。民生支出のモニタリング・事前警告システムを整備し、財政の総合保障能力の評価を強化し、実際からの乖離、財政力を超えた建設等の支出政策あるいはプロジェクトを遅滞なく是正する。


表1.2018年度中央一般公共予算収入

(単位:億元、%)

表1.2018年度中央一般公共予算収入

表2.2019年度の中央一般公共予算

(単位:億元、%)

表2.2019年度の中央一般公共予算

表3.中央から地方への移転支出

(億元)

表3.中央から地方への移転支出

(注)共同財政権限移転支出の内訳は500億元以上、その他の移転支出は100億元以上のものを記載。

表4.中央財政の国債残高情況

(億元)

表4.中央財政の国債残高情況

表5.地方政府の一般債務残高情況

(億元)

表5.地方政府の一般債務残高情況