2018年中央経済工作会議のポイント

中国経済レポート


新領域研究センター 田中 修

2019年1月7日


はじめに

2018年12月19-21日に、党中央・国務院により、19年の経済政策の方針を決める中央経済工作会議が開催された。本稿では、その概要を紹介する1

1. 経済情勢の認識
(1)概括

「2018年は、19回党大会精神のスタートの年であった。習近平同志を核心とする党中央の堅固な指導の下、全党全国は19回党大会が行った戦略的手配を実施し、安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持し、質の高い発展の要求に基づき、外部環境の深刻な変化に有効に適応し、困難に立ち向かい、着実に政策を実施した。マクロ・コントロール目標はかなり好く達成され、3大堅塁攻略戦のスタートは良好であり、サプライサイド構造改革は深く推進され、改革・開放の程度は増大した。米中経済貿易摩擦に穏当に対応し、人民の生活は引き続き改善され、経済の持続的で健全な発展と社会の大局的安定を維持し、小康社会の全面的実現という目標に向かって新たな歩みを踏み出した。この成績は容易なものではなかった」。

非常に困難な外部環境の中で、成績を上げたことを強調している。これは、米中経済摩擦の激化を反映したものであろう2

(2)規律性の認識

「1年間、我々は実践の中で新情勢下の経済政策に対する規律性の認識を深めた。

  1. 党中央の集中・統一的思想を堅持し、航行の舵取りの役割を発揮しなければならない。
  2. 長期の大勢から当面の情勢を認識し、わが国が長期に好い方向へと発展する将来見通しをはっきり認識しなければならない。
  3. マクロ・コントロールの程度を精確に把握し、主動的に事前調整・微調整を行い、政策の協同を強化しなければならない。
  4. 社会の関心に遅滞なく対応し、市場の予想を的確・主動的に誘導しなければならない。
  5. 各方面の積極性を十分に動員し、全局の政策の強大な合成力を形成しなければならない」。

この「規律性の認識」は、新しい表現である。2018年の経済減速の中で、構造的脱レバレッジ政策と成長安定政策の協調・バランスの必要性などが、改めて認識されたのである。

(3)試練・困難への対応

「成績を十分肯定すると同時に、経済運営に安定の中で変化があり、変化の中に憂いがあり、外部環境は複雑・峻厳であり、経済下振れ圧力に直面していることを見て取らなければならない。  

これらの問題は、前進中の問題であり、短期もあれば長期もあり、周期性のものもあれば構造的なものもある。憂患意識を増強し、主要な矛盾をしっかり把握し、これを的確に解決しなければならない。  

わが国の発展はなお、長期に重要な戦略的チャンスの時期にある。世界は百年来の大きな局面の変化に直面しており、変局の中で危機とチャンスが共生・併存している。これは、中華民族の偉大な復興に重大なチャンスをもたらすものである。  

うまく危機をチャンスに変え、危機を安全に転じ、重要な戦略的チャンスの時期の新たな内容をしっかり把握し、経済構造の最適化・グレードアップを加速し、科学技術イノベーション能力を高め、改革・開放を深化させ、グリーン発展を加速し、世界経済のガバナンスシステムの変革に参加し、プレッシャーを経済の質の高い発展の推進を加速する動力に変えなければならない」。  

経済運営に変化・憂いがあり、下振れ圧力があることを認めながらも、世界は百年来の大きな局面の変化に直面しているとし、危機をチャンス・安全に変え、プレッシャーを経済の質の高い発展の推進動力に変えることができれば、なお重要な戦略的チャンスの時期にあるという認識を崩していない。ただそのためには、経済構造調整と改革・開放の深化が必要であることを明記している。これは改革・開放派の巻き返しの結果であろう。

2.2019年の経済政策の基本方針

「来年は、新中国成立70周年であり、小康社会の全面的実現のカギとなる年であり、経済政策をしっかり行うことは極めて重要である。  

習近平『新時代中国の特色ある社会主義』思想を導きとし、19回党大会と19期2中全会・3中全会精神を全面的に貫徹し、『五位一体』3の総体手配を統一的に企画・推進し、『四つの全面』4の戦略的手配を協調的に推進しなければならない。

1.安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持し、2.新発展理念を堅持し、3.質の高い発展の推進を堅持し、4.サプライサイド構造改革を主線とすることを堅持し、5.市場化改革の深化・ハイレベルの開放拡大を堅持しなければならない。

現代化した経済システムの建設を加速し、3大堅塁攻略戦を引き続きしっかり戦い、マクロ・コントロールを刷新・整備し、安定成長・改革促進・構造調整・民生優遇・リスク防止の政策を統一的に企画・推進し、経済運営を合理的な区間に維持しなければならない。

雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を一層安定させ、市場のコンフィデンスを奮い立たせ、人民大衆の獲得感・幸福感・安全感を増強し、経済の持続的で健全な発展と社会の大局的安定を維持し、小康社会の全面的実現のために決定的基礎を打ち立て、卓越した成績で中華人民共和国成立70周年を慶祝しなければならない」。

ここに記された「5つの堅持」「6つの安定」が、2019年のキーワードである。なお、「5つの堅持」は、2018年12月11日の党外人士座談会の時点では4つであったが、12月13日の党中央政治局会議で、「市場改革の深化・ハイレベルの開放拡大堅持」が追加された。これも改革・開放派の発言力が増している証左であろう。

なお、2017年決定では、「習近平経済思想」が強調されていたが、2018年に「習近平〇〇思想」が乱立したこともあり、今回は習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想に戻っている。

3.基本政策
(1)マクロ政策

「マクロ政策は、景気変動と逆方向への(カウンターシクリカルな)調節を強化し、適時事前調整と微調整を行い、総需要を安定させなければならない」。

  1. 積極的財政政策
    「力を加え、効率を高め、より大規模な減税と費用引下げを実施し、地方政府の特別債券の規模をかなり大幅に増やさなければならない」。
    減税と費用引下げを中心としつつ、収益性のある地方インフラ投資を増やすことにより、投資の下支えを図っている。
  2. 穏健な金融政策
    「緩和と引締めを適度にし、流動性の合理的充足を維持し、金融政策の伝達メカニズムを改善し、直接金融のウエイトを高め、民営企業、小型・零細企業の資金調達難と資金調達コスト高の問題をしっかり解決しなければならない」。
    2017年決定の金融政策から「中立性」が削除され、流動性については17年決定の「合理的な伸び」から「合理的な充足」と、より表現が緩和方向に修正されている。ただそれは、全面的緩和ではなく、流動性は主として民営企業、小型・零細企業に向けられている。
  3. 構造政策
    「体制メカニズムの建設を強化し、改革に向けた原動力を堅持し、国有企業、財政・金融、土地、市場参入、社会管理等の分野の改革を深化させ、競争政策の基礎的地位を強化し、公平な競争の制度環境を創造し、中小企業の急速な成長を奨励しなければならない」。
    2017年決定では消費と民間投資の伸びが重視されていたが、今回はその前提となる改革の深化が強調されている。
  4. 社会政策
    「最低ラインを保障する機能を強化し、雇用を優先する政策を実施し、大衆の基本生活の最低ラインを確保し、サービスの中に管理を根付かせなければならない」。
    会議では、2019年を「新中国成立70周年であり、小康社会の全面的実現のカギとなる年」と位置付けており、そのためには社会の大局的安定の維持が重視されているのである。
(2)サプライサイド構造改革

「わが国経済運営の主要な矛盾は、依然としてサプライサイドの構造によるものであり、サプライサイド構造改革を主線とすることを動揺させてはならず、より多く改革の方法を採用し、より多く市場化・法治化の手段を運用して、『強固・増強・向上・円滑』の面で努力しなければならない」。具体的には、

  1. 「過剰生産能力の削減、過剰住宅在庫の削減、脱レバレッジ、企業コストの引下げ、脆弱部分の補強」の成果を強固にしなければならない
    「より多くの生産能力過剰業種の清算処理を加速し、全社会の各種ビジネスコストを引き下げ、インフラ等の分野の脆弱部分補強を強化しなければならない」。5大任務の中で、住宅在庫は減少を続けているため、明記されていない。
  2. ミクロ主体の活力を増強しなければならない
    「企業・企業家の主観的能動性を発揮させ、公平・開放・透明な市場ルールと法治化されたビジネス環境を確立し、プラスの奨励と優勝劣敗を促進し、より多くの質の優れた企業を発展させなければならない」。
    ミクロ主体の主役は民営企業である。このため、従来は国有企業の強大化・優良化が強調されがちであったが、今回は「企業」とし、所有制の差を設けていない。
  3. 産業チェーンの水準を向上させなければならない
    「技術革新と規模の効果が形成する新たな競争優位性の利用を重視し、新たな産業集積群を育成・発展させなければならない」。
    サプライサイド構造改革の中に産業政策の概念が導入された。米中経済摩擦が激化する中で、産業チェーンの断裂を防ぐことが重要となってきたのであろう。
  4. 国民経済の循環を円滑にしなければならない
    「統一的に開放され、競争が秩序立った現代市場システムの建設を加速し、金融システムが実体経済にサービスする能力を高め、国内市場と生産主体、経済成長と雇用拡大、金融と実体経済の良性の循環を形成しなければならない」。
    新たに「国民経済の良性の循環」という概念が導入された。対外環境が厳しさを増す中で、内需主導による効率・質の高い成長が重視されている。
(3)3大堅塁攻略戦

「2019年は、際立った問題に対し、重点戦役をしっかり戦わなければならない」。具体的には、

  1. 重大リスクの防止・解消
    「構造的脱レバレッジの基本的考え方を堅持し、金融市場の異常な変動と共振を防止し、地方政府債務リスクを穏当に処理し、『断固として、コントロール可能に、秩序立てて、適度に』行う」。
    構造的脱レバレッジを維持しつつも、2018年の金融市場の動揺を踏まえ、「適度」なものにやや緩和されている。
  2. 脱貧困
    「一気呵成に、『2つに憂いなく、3つを保障する』5の実現で直面している際立った問題を重点的にしっかり解決し、『3区3州』6など貧困が深刻な地域と特殊貧困層の脱貧困を強化し、貧困人口の貧困への逆戻りを減少・防止し、所得水準がカード登録対象の貧困家庭よりやや高い場合に、政策支援が受けられない等の新たな問題を検討・解決しなければならない」。
    最貧困層のみにターゲットを絞っても、それに続く貧困層への対策が疎かになれば、いったん最貧困層を解消しても、再び最貧困層に転落してしまう者がいることを認めている。
  3. 環境対策
    「青空防衛戦をしっかり戦う等の政策に焦点を絞り、政策と投入を強化しなければならない。同時に、統一的に企画し各方面を併せ考慮して、処置・措置が単純・粗暴となることを回避しなければならない。サービス意識を増強し、企業が環境対策解決方案を制定することを援助しなければならない」。
    地方政府による環境対策が、国有企業に比べ、民営企業の方に厳しく、それが民営企業の発展を阻害しているとも指摘されており、その是正が意識されている。
4.2019年の重点政策任務

7つの任務が掲げられている。要点は以下のとおりである。

(1)製造業の質の高い発展の推進
  1. 先進製造業と現代サービス業の深い融合を推進し、断固として製造強国を建設しなければならない。
  2. 企業の優勝劣敗を着実に推進し、「ゾンビ企業」の処理を加速し、退出実施弁法を制定し、新技術・新組織形式・新産業集積群の形成・発展を促進しなければならない。
  3. 製造業の技術革新能力を増強し、開放され、協同し、効率の高い共生技術の研究開発プラットホームを構築し、需要に導かれ、企業を主体とした産・学・研究機関が一体化した健全なイノベーションメカニズムを整備し、国家実験室を早急に配置し、国家重点実験室体系を再編し、中小企業のイノベーションへの支援を強化し、知的財産権の保護・運用を強化し、有効なイノベーション奨励メカニズムを形成しなければならない。  

米中経済摩擦の中で「中国製造2025」が攻撃の対象となっているが、「製造強国」路線は放棄されていない。ただ、サプライサイド構造改革に続き、ここでも新産業集積群の形成が記載されており、その中身が再検討されている可能性もある。
「ゾンビ企業」の処理は、サプライサイド構造改革ではなく、製造強国建設の文脈で記載されている。
また、イノベーションについては、国家主導による上からのイノベーションのみならず、中小企業による下からのイノベーションも重視されている。さらに、米中経済摩擦を意識して、知的財産権保護も盛り込まれたが、これはイノベーション推進の文脈で語られている。

(2)強大な国内市場の形成促進
  1. 消費
    「最終需要を満足させるよう努力し、製品の質を向上させ、教育、保育、養老、医療、文化、観光等のサービス業の発展を加速し、消費環境を改善し、個人所得税の特別付加控除政策をしっかり実施し、消費能力を増強して、庶民が安心して食べ、気に入った衣服を着て、気持ちよく使用できるようにしなければならない」。
    個人所得税については、2018年10月に課税最低限の引上げと低税率の所得層の拡大が前倒し施行されたが、19年は特別控除の拡大により可処分所得を増やすとともに、製品の質の向上、多様化と安心・安全の確保により、消費の刺激を図っている。
  2. 投資
    「わが国発展の現段階の投資需要の潜在力は依然巨大であり、投資のカギとなる役割を発揮させ、製造業の技術改造と設備更新を増やし、5G(第5世代移動通信システム)の実用化を加速し、AI(人工知能)、工業インターネット、IoT(モノのインターネット)等の新しいタイプのインフラ建設を加速し、大都市間交通、物流及び地方公共インフラ等への投資を強化し、農村インフラと公共サービスインフラの脆弱部分を補強し、自然災害対策能力を強化しなければならない」。

投資は2018年よりも強化される可能性があるが、その対象は第4次産業革命を強く意識したものとなっている。

(3)農村振興戦略の着実な推進
  1. 農業・農村の優先発展を堅持し、農業とりわけ食糧生産に確実に取り組み、農地と技術の向上で食糧生産を増やす取組みを推進し、「食糧・経済作物・飼料」の構成を合理的に調整し、質の優れたグリーン農産物の供給増加に力を入れなければならない。
  2. 家庭農場、農民合作社等の新しいタイプの経営主体の育成を重視し、小農家の生産経営が直面する困難の解決を重視し、彼らを現代農業発展の大構造に引き入れなければならない。
  3. 農村の居住環境を改善し、ゴミ・汚水処理、トイレ革命、村の容貌向上に重点的に取り組まなければならない。
  4. 農村土地制度改革の3項目テスト7の経験をしっかり総括し、改革の成果を強固にして、農村土地制度改革を引き続き深化させなければならない。  

「トイレ革命」は、2018年に習近平総書記が強調していたものである。また、農村土地制度の改革は、かねてよりの懸案事項である。

(4)地域の協調発展を促進
  1. 西部大開発、東北全面振興、中部地域興隆、東部率先発展を統一的に企画推進しなければならない。
    現在、北京・天津・華北、広東・香港・マカオ大湾区(大ベイエリア)、長江デルタ等の地域発展には、多くの新たな特徴が現れており、規模の経済効果が現れ始め、インフラの密度とネットワーク化が全面的に向上し、イノベーション要素が急速に集結し、新しいリード産業が急速に発展しており、これらの地域を質の高い発展をリードする重要な動力源としなければならない。
  2. 中心都市の放射動力を増強し、質の高い発展の重要な推進助力を形成しなければならない。
  3. 長江経済ベルトの発展を推進し、長江の生態環境の系統的な保護・修復を実施し、質の高い発展の推進に努めなければならない。
  4. 都市化の進展を推進し、既に都市で就業している、農業からの移転人口の都市戸籍取得政策にしっかり取り組み、2020年の1億人都市戸籍取得目標の実施を督促し、大都市の精緻化した管理水準を高めなければならない。  

東北地方については、これまでの「旧工業基地の振興」から「全面振興」に改められた。2017年会議に記載された「雄安新区」「一帯一路」の記述は、今回は削除されている。

(5)経済体制改革の加速

「骨組み部分の改革を深化させ、ミクロ主体の活力増強を重点とし、関連改革を深く実際に進めなければならない」。各項目については、

  1. 国有資本と国有企業改革を加速しなければならない
    「政府と企業の分離、政府と資本の分離、及び公平競争の原則を堅持し、国有資本を強大で優れたものとし、企業管理から資本管理への転換を加速し、混合所有制改革を積極的に推進し、鉄道総公司の株式制改造を早急に推進しなければならない」。
    海外から批判の強い、政府と企業の癒着については、分離の方針を維持することとされた。また、強大化の対象は「国有企業」ではなく「国有資本」であり、国有企業管理から国有資本管理へ転換するという19回党大会の方針は、2019年も推進されることになった。
    鉄道総公司改革について新たに言及されたが、鉄道網の急速な拡張については、新たな債務リスクの増大も懸念されている。
  2. 民営企業の発展を支援しなければならない
    「法治化した制度環境を作り上げ、民営企業家の人身の安全と財産の安全を保護しなければならない」。
    2018年11月1日の「民営企業座談会」の内容が盛り込まれた。
  3. 金融システム構造の調整・最適化を重点として金融体制改革を深化させなければならない
    「1)民営銀行とコミュニティ銀行を発展させ、都市商業銀行、農村商業銀行、農村信用社の業務を徐々に原点回帰させなければならない。
    2)金融インフラを整備し、監督管理とサービス能力を強化しなければならない。
    3)改革深化を通じて、規範化され、透明で、開放され、活力があり、強靭性を有する資本市場を作り上げ、上場会社の質を高め、取引制度を整備し、より多くの中長期資金の参入を誘導し、上海証券取引所において科学技術ベンチャーボード開設と登録制試行の早急な実施を推進しなければならない」。
    民営企業、小型・零細企業と「三農」への融資業務強化の方向を明確にしている。また、2018年は株式市場が動揺したことから、資本市場の強化を図っている。
  4. 財政・税制改革を推進しなければならない
    「健全な地方税体系を整備し、政府の起債による資金調達メカニズムを規範化しなければならない」。
    依然地方政府の債務管理が重要な課題であることを示している。
  5. 政府機能を確実に転換しなければならない
    「資源に対する政府の直接配分を大幅に減らし、実施中と事後の監督管理を強化し、およそ市場が自主的に調節できるものは市場により調節させ、およそ企業ができる事は企業にやらせなければならない」。
    「資源配分における市場の決定的役割発揮」という表現は用いられていないものの、市場化改革の方向を改めて強調している。ここでいう「企業」には、当然民営企業も含まれる。
(6)全方位対外開放の推進
  1. 新情勢に適応し、新たな特徴を把握して、製品と生産要素の流動型開放から、ルール等の制度型開放への転換を推進しなければならない。
  2. 市場参入を緩和し、参入前の国民待遇にネガティブリスト管理制度を加えた制度を全面的に実施し、中国における外資の合法的権益とりわけ知的財産権を保護し、より多くの分野での独資経営実行を認めなければならない。
  3. 輸出入貿易を拡大し、輸出市場の多元化を推進し、輸入段階での制度的コストを削減しなければならない。
  4. 「一帯一路」共同建設推進に際しては、企業の主体的役割を発揮させ、各種リスクを有効に管理・コントロールしなければならない。第2回「一帯一路」国際協力サミットを入念に準備・開催しなければならない。
  5. 人類運命共同体の構築を推進し、WTO改革に積極的に参加し、貿易・投資の自由化・円滑化を促進しなければならない。
  6. アルゼンチン米中首脳会談におけるコンセンサスを実施し、米中経済貿易交渉を推進しなければならない  

対外開放については、これまでの製品と生産要素の流動型開放から、ルール等の制度型開放に転換する方針を明らかにした。具体的な開放内容は、これまで様々な場で公表されてきたものが掲げられている。さらなる追加内容は、米中経済貿易交渉の結果次第ということであろう。

また、米国に配慮し、改めて知的財産権保護を盛り込んだ。米国の「『一帯一路』は国家主導による借金づけ政策」という批判に対しては、企業を主体とし、各種リスクへの有効な管理・コントロールを強調し、相手国の債務事情にも配慮する姿勢を示している。米中経済摩擦については、2018年は「米中経済貿易摩擦に穏当に対応した」とし、19年は米中首脳合意を履行するとともに米中経済貿易交渉を推進すると、抑えたトーンとなっている。

このように、今回の決定には米国にかなり配慮した記述がみられる。

(7)民生の保障・改善の強化
  1. 制度を整備し、最低ラインをしっかり守り、各種民生政策を心をこめてしっかり実施しなければならない。
  2. 雇用の安定を際立てて位置づけ、大学等卒業生、出稼ぎ農民、退役軍人等の集団の雇用を重点的にしっかり解決しなければならない。
  3. 就学前教育、農村貧困地域の児童の早期発展、職業教育等への投入を増やさなければならない。
  4. 老人介護システムを整備し、大都市の介護難問題の解決に努力しなければならない。
  5. 食品・薬品の安全、安全生産・交通安全に、より力を入れてしっかり取り組まなければならない。
  6. 社会保障制度改革を深化させ、省レベルでの統一的企画を加速する基礎の上に、年金保険の全国統一を推進し、より多くの救命・救急の良い薬品を医療保険に組み入れなければならない。
  7. 一部の国有資本を引き続き切り分けて、社会保障基金の充実に振り向けなければならない。
  8. 不動産市場の健全な発展の長期メカニズムを構築し、「住宅は住むためのもので、投機のためのものではない」という位置づけを堅持し、都市の事情に応じて施策を行い、分類して指導し、都市政府の主体的責任を打ち固め、住宅市場システムと住宅保障システムを整備しなければならない。  

2019年は建国70周年であるため、雇用の安定・社会の大局的安定が重視されている。雇用の中で、これまでの大学卒業生・出稼ぎ農民に加え、退役軍人が明記された。最近退役軍人の抗議活動が活発化し、社会の不安定要因となっているからであろう。

住宅市場については、投機を防ぐと同時に、価格の急落を懸念し、都市政府によるきめ細かい実情に応じた対策を要求している。

5.総括

「わが国の発展は十分な強靭性・巨大な潜在力を有しており、経済が長期に好い方向に向かうという態勢に変化はない。

  1. マクロ政策・構造政策・社会政策の方向を全面的に正確に把握し、経済運営を合理的区間に確保しなければならない。
  2. 積極的財政政策と穏健な金融政策をしっかり実施し、雇用を優先する政策を実施し、より大規模な減税を推進し、より明白に費用を引き下げ、企業の資金調達難・資金調達コスト高の問題を有効に緩和しなければならない。
  3. ビジネス環境の最適化に力を入れ、『行政の簡素化・権限の委譲、開放と管理の結合、サービスの最適化』改革を深く推進し、新たな動力エネルギーの急速・壮大な発展を促進しなければならない。
  4. イノベーション駆動による発展戦略を実施し、イノベーションの能力・効率を全面的に高め、大衆による起業・万人によるイノベーションの水準を高めなければならない。
  5. 小康社会の全面的実現の絶対任務に焦点を絞り、脱貧困堅塁攻略と農村振興を推進しなければならない。
  6. 内需の潜在力を引き続き発揮させ、地域の協調発展を推進しなければならない。
  7. 財政・税制・金融、国有資本・国有企業等の重点分野の改革を深化させ、民営企業の発展の障碍を断固として打破し、内生的動力を増強・発展させなければならない。
  8. よりハイレベルの対外開放を推進し、対外貿易の安定・外資の安定に力を入れなければならない。
  9. 経済発展と環境保護を協同推進し、汚染対策と生態建設を強化しなければならない。
  10. 基本を維持し、最低ラインに責任をもつことを際立たせ、民生をさらに好く保障・改善しなければならない」。

この部分は、李克強総理の総括講話の概要であり、2019年政府活動報告の骨子を構成するものと考えられる。

6.むすび

「経済政策をしっかり行うには、党中央の集中・統一的な指導を強化し、

1.経済政策への党の指導能力・水準を高め、党の基本理論・基本路線・基本方略を動揺させないことを堅持し、2.発展を党の執政・興国の第一重要任務とすることを堅持し、3.経済建設を中心とすることを堅持しなければならない。幹部が責任を担い実行することを奨励し、創造的に貫徹実施することを奨励しなければならない。学習と調査研究を強化し、学習と実践の中で考えを探り、方法を考え、良好な輿論の環境を作り上げなければならない。  

全党・全国は、習近平同志を核心とする党中央の周囲に緊密に団結し、上下心を一つにし、困難に立ち向かい、経済社会発展の卓越した成績をもって、中華人民共和国成立70周年を迎えなければならない」。  

ここでも、「党中央の集中・統一的な指導強化」が強調されている。ただし、そのために経済政策への党の指導能力・水準が向上しなければならないのである。

  1. なお、特殊専門用語は、「中国通信」訳を適宜参考にしている。
  2. 本部のうち「」部分は、本文の引用、その他はコメントである。下線部は2018年の特徴的部分である。
  3. 経済建設、政治建設、文化建設、社会建設、生態文明建設を一体的に進める。
  4. 小康社会の全面的に実現、改革の全面深化、法に基づく国家統治の全面推進、全面的な厳しい党内統治。
  5. 衣食の心配をせず、義務教育・基礎医療・住宅の安全を保障する。
  6. 「3区」は、1.チベット自治区、2.新疆南部の4地区・州、3.青海・甘粛・四川・雲南省のチベット族集住地域。「3州」は、甘粛の臨夏回族自治州、支援の涼山イ族自治州、雲南の怒江リースー族自治州。
  7. 農村土地収用、農村集団経営建設用地の市場取引、農村宅地制度の改善。