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資料紹介: フランスの西アフリカ出身移住女性の日常的実践 ——「社会・文化的仲介」による「自立」と「連帯」の位相——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:園部 裕子 著 『フランスの西アフリカ出身移住女性の日常的実践 ——「社会・文化的仲介」による「自立」と「連帯」の位相——』
佐藤 千鶴子
■ 『アフリカレポート』2015年 No.53、p.31
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本書には、フランスのパリで暮らす西アフリカ出身移住女性の日常世界が、著者による長期の参与観察と聞き取り調査をもとに描かれている。女性たちの多くは、1970年代後半~1990年代に家族統合(呼び寄せ)ビザで渡仏し、貧困や失業といった社会問題が顕著で移民の多い市内北東部に住む。女性たちが仕事に就いている場合、多くはビルやホテルの清掃係である。

フランスの移民労働者や移民社会に関する書籍は数多くある。だが本書には、従来の研究とは異なる特色がある。まず、移民がフランスで円滑に日常生活を送るために、「橋渡し」の役割を担う「社会的・文化的仲介者」と呼ばれる人びとの活動に焦点を当てた点。次に、仲介者のもとに集まる西アフリカ出身女性たちと著者がボランティア兼調査者としての関係性を築きながら、著者自身の立場性を意識的に顧みつつ、男性とは明確に異なる女性たちの日常を描いた点である。

本書に登場する仲介者は就学歴のある西アフリカ出身移住女性で、出身社会ではエリートに属する。その主な活動は、識字能力を持たない、あるいはそれが限られている西アフリカ出身移住女性の代わりに、滞在資格の申請や更新、国籍取得、低家賃住宅への入居申請などの行政手続きに必要な書類を作成したり、書類の提出に付き添うことである。自らも生活上の困難を抱えながら、同郷の人びとのために奔走する仲介者の姿には胸を打たれる。

家族統合で渡仏した西アフリカ出身女性たちが、言葉の壁、度重なる制度変更、習慣や文化の違いに起因する困難に直面しつつも、支援を求め、制度の裏をかいて、フランス社会のなかで根を張り生きる姿を描いた本書であるが、同時に印象的なのは移民の社会編入や仲介者の活動を助ける多くの市民団体の存在である。そこには移民自身が結成した市民団体も多数含まれる。主として単身男性労働者を受け入れた時代から家族統合を経て、移民の定住が進んだフランス(ないしパリ)には成熟した移民社会や移民支援の仕組みがあるようだ。そのようななかで、今日、アフリカから命がけの航海を経て到来する新たな移民や庇護申請者は、既存のアフリカ出身移住者社会にどのように組み込まれていくのだろうか——今後の著者の研究にも注目していきたい。

佐藤 千鶴子(さとう・ちづこ/アジア経済研究所)