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開催報告

アジア経済研究所オンライン講座
連続オンラインセミナー「途上国の環境問題を多様な分野から理解する」
第2回「サーキュラー・エコノミー:国際リサイクル・国際リユース」(2022年11月10日(木曜))

アジア経済研究所では、地域研究、開発経済、法・制度、国際交渉・国際協力など様々な観点から、『環境』というテーマに取り組んできており、2022年10月から12月にかけて『途上国における環境問題』をテーマとした全3回のオンライン連続セミナーを開催しました。

このページでは、第2回「サーキュラー・エコノミー:国際リサイクル・国際リユース」における講演の要旨を公開しています。ぜひご覧ください。

趣旨説明および「国際資源循環ー輸出入規制強化とその影響」
(小島道一(ジェトロ・アジア経済研究所 新領域研究センター 上席主任調査研究員))

<趣旨説明>

  • 日本では「循環型社会」という言い方でリユース、リデュース、リサイクルの3Rを推進してきた。中国や欧州では「循環経済」「サーキュラー・エコノミー」という言い方をしている。本セミナーでは、国境を越えたリサイクルとリユースに焦点を当てる。
  • アジア経済研究所では国際リサイクルに関する研究を2000年頃に開始した。途上国のフィールドワークをする中で日本からの中古品に関心を持つ研究者もおり、国際リユースの研究会を立ち上げ、2014年に『国際リユースと発展途上国―越境する中古品取引』という本にまとめた。
  • 本セミナーでは国際リサイクルに関して小島研究員から発表し、国際リユースに関して坂田研究員と福西研究員から発表する。

<講演>

  • サーキュラー・エコノミーに向けた取り組みは欧州でも1990年頃から広がってきた。日本では1999年に循環経済ビジョンが、2000年に循環型社会形成促進法が制定された。アジアでは循環経済に向けた取り組みを韓国や台湾が1990年代に始め、その他の国へと続いている。
  • 日本では法律順守が重視され、実施可能な法律を作るという考え方だが、途上国の中には実現可能性を意識せずに理想的な法律を作るケースもあり、実際の取り組みが遅れることも少なくない。
  • ASEANでは、2021年に循環経済に向けたフレームワークが発表されるなど、地域としての取り組みが始まっている。
  • 有害廃棄物の越境移動を規制するバーゼル条約が1992年に発効。規制対象となる廃棄物を列挙しており、規制対象になると輸出入する場合に事前通告・同意が必要となる。
  • 中国はここ数年、再生資源の輸入禁止を進めており、禁止品目を徐々に増やしている。他方で2020年の終わりくらいから、一部金属類など輸入規制の緩和をしている品目もある。
  • 再生資源の貿易量・貿易額については、2015年から2020年にかけて減少したものが多い。以前は中国の輸入量が多かったため、中国の規制の影響が大きい。
  • デジタル化の影響もあり、紙の消費は頭打ち。古紙の輸入量も2018年から少し減っている。
  • 中国での再生資源の輸入禁止を受けて、中国に輸入できるまで加工してから、中国に輸出する動きがある。例えば海外で古紙をパルプにしたり、プラスチックのリサイクル業者が東南アジアに進出し、廃プラを破砕・洗浄してペレットにしたりした後に、中国に輸出している。
  • 途上国にはリサイクル不可のゴミが送られる場合があり、環境汚染が引き起こされることがある。国境を越えたサプライチェーンにより、各国の中でリサイクルを完結することが難しくなっており、適正な資源循環に向けて国際的な協力が必要。
  • 日本は財・サービス輸出のGDPに対する割合はそれほど高くない。他のアジア地域、特に規模が小さい国の方が、原料や商品を海外から輸出入することが多く、国内で循環が出来るとは限らない。この点を理解しつつ、再生資源の国際貿易をどのようにコントロールしていくか考えることが大切。
「アジアの中古品貿易――ベトナムの中古農業機械輸入を中心に」
(坂田正三(ジェトロ・アジア経済研究所 地域研究センター 主任調査研究員))
  • 中古機械・中古車の途上国への輸入に関して、随分昔から経済学者達が論文を書いており、低コストで製品を得られる、雇用創出になる、フレキシブルな利用が可能、リバースエンジニアリングによる技術移転の可能性があるなど、ポジティブに捉えていた。その一方で、自国の製造業発展を阻害するとして、中古機械・中古車の輸入を制限する国もある。
  • 世の中の様々な変化が、国境を超える中古品市場に影響している。生産技術の向上に伴って製品寿命が延びて中古品市場が拡大したり、機械に電子部品が組み込まれるようになり、機械と電子部品の製品寿命がそれぞれ異なるため中古品市場が縮小したり、といった影響が見られる。また、安価なコピー製品による中古品市場の縮小、インターネットの普及による取引コストの軽減、自由貿易協定の拡大、シェアリングエコノミーの普及・発展なども中古品市場に影響している。
  • ベトナムでは10年前に中古機械の輸入規制を開始。多くの中古品が、製造から原則10年以内のもののみ輸入可だが、2016年から一部条件が緩和された。中古農業機械は原則輸入可となっている。
  • 日本のトラクター輸出を見ると、中古小型トラクターはベトナムへの輸出が23%と圧倒的に多く、中古のブルドーザーとパワーショベルもベトナムへの輸出が多い。
  • 日本の農業用トラクター輸出を見ると、アメリカが大きな市場だが殆どが新品輸出。ベトナムの市場シェアは2021年時点で10%程度だがその半数程度が中古輸出。2017年から中古品割合は殆ど変わっていない。
  • 1990年代から2000年代にかけて、日本のトラクター輸出のアジア最大の市場はタイだったが、2010年くらいからベトナムが逆転するようになった。タイで現地生産が始まり、現地生産の中古品が中古市場に出回るようになったため、タイへの輸出が減った。
  • 日本からベトナムへの中古農業機械輸出業者は、2000年代くらいまでは元難民で定住された方が主だった。圃場条件に合わせて整備や改造も行われている。
  • 輸入された機械から部品を取り、建設機械の部品を農業機械の修理用に使ったり、逆に農業機械の部品を建設機械の修理用に使ったりしている。また、別用途の機械に改造したりもしている。
  • 中古農業機械がベトナム農村にもたらすものとしては、リユースのサークルの中から、リパーパス(別用途利用)、リマニュファクチャリング(再製造)、リサイクルなどに広がっていることが確認できる。リユースが活発になると、そういった他の分野も活発になる。
  • 2000年代から日本の農業機械がベトナムに出回るようになった。当時ベトナムでは農業機械が普及しておらず、中古農業機械が流入するようになり農業生産性の向上に寄与した。また、農業機械の需要拡大、農村経済の発展・雇用創出、農業機械化の「エコシステム」形成などが観察された。
  • リサイクル、リユースできないものが余る状況も見られる。中古は新品よりも寿命が短く、買い替えサイクルが短くなり、最終的に使えなくなった機械の廃棄処理をどうするか、また、改造を前提とするリユースについては、知的所有権や製造物責任の問題などもある。
「古着の国際貿易:発展途上国と先進国の関係」
(福西隆弘(ジェトロ・アジア経済研究所 開発研究センター 主任調査研究員))
  • 去年の終わりから今年初めにかけて、日本のメディアが途上国での古着の大量廃棄の問題について相次いで報道した。大量消費に対する警鐘を伴う報道が多く、古着を提供するという、倫理的と認識されてきた行為も問題をはらんでいることが認識された。
  • 古着というリユースの問題がリデュースの問題へと変化しているが、大量消費が大量廃棄の主たる原因というのは本当か?リユースは消費量を減らす手段だったはずなのに、リユースが進むとゴミが増えるので消費量を減らそうというのは、論点がずれているのではないか。
  • 先進国から途上国に至るまでの古着流通ルートが確立している。途上国の卸売と小売はインフォーマルな形で行われており、その複雑な産業構造について多くの研究がされている。
  • 多くの国では、公衆衛生の問題、地場の縫製産業への影響等を理由に、古着の輸入を制限している。開発の観点からは、密輸や関税逃れなどの違法性の問題や、不要なものや他国の消費者のために作られて不要とされた衣服が入ってくるという従属性の問題が指摘されている。
  • 古着貿易のデータの問題点として、イリーガルな古着貿易が多く通関データが正確でないこと、また、援助としての古着には市場価格がないため、輸入額が実態を表さないことが指摘される。ここでは、誤りが少ないと思われる輸出国が報告する貿易重量データを中心に紹介する。
  • 2019年の世界の貿易量を見ると、古着の総輸入額は44.9憶ドルであり、新品衣料と合わせた中での古着の割合は2.4%。総輸入重量で見ると、古着は522万トンで64.4%を占める。古着の輸入量は2009年から2019年の間に約70%の増加がみられた。
  • 主な輸出国は、アメリカ、ドイツ、イギリス、中国、韓国、アラブ首長国連邦、日本などの順で、ほとんどが先進国。輸入国は、パキスタン、インド、アラブ首長国連邦、マレーシア、ポーランドなどの順。アラブ首長国連邦は大量に輸入し再輸出している中継国。ここ10年ほど地域間の貿易量は変わっていないが、中東などの中継地が出来てきたことや中国の輸出量が増えていることが変化のポイント。
  • 貿易による古着の純増量(=輸入量―輸出量)は、最も多いサブサハラアフリカでも一人あたり1.2kgで、日本の新品輸入量(一人あたり4.0kg)と比較してそれほど多くはない。つまり、需要量を越えているのでゴミになっているというより、現地の需要にあわない古着が多く含まれているという、仕分けの問題がある。低賃金の輸入国側で仕分けされており、さらに輸入国では不法投棄をすることで廃棄コストを抑えやすいこともあり、不要な古着が送られていると考えられる。
  • 廃棄の負担を輸入国側に押し付けない国際リユースの仕組みの構築が必要。しかし利潤の出るビジネスモデルが出来上がっているため、ここにどう切り込んでいくかは今後の課題。
  • 今般の報道は理解を深めるものとして評価したい。自分達の大量消費をなくそうというのは必要だが、最終的な消費者の立場まで想像してほしい。古着が行った先でどういう問題が生じていて、どのように喜ばれているのかを理解してほしい。服は肌に触れるものであり、自己表現にも繋がる。他の人のために作られ不要とされた中古品が、途上国の人々が着る服として一般的に流通するということについて、今後議論の焦点になるかもしれない。
パネルディスカッション
  • リユースの研究を始めたきっかけは?
    • (坂田)農村の研究をしていて、農業機械からリユースの研究に入っていった。2010年代前半、ベトナムの農業が大きく変わった。労働者が足りなくなり機械が入ってきて農業生産性が上がった。当時使われていた機械の殆どが、日本の中古品で、それもかなり古い製品が現役で使われていたことから関心を持ち、輸入の仕組みやサプライチェーンを調べるようになった。
    • (福西)元々は新品をつくる工場を訪問してインタビューをしていた。その中で古着輸入についての苦情を聞くことが多く、古着輸入の仕組みを知りたいと思った。古着を出す人と古着を着る人と間の情報の非対称性が大きい。全体像を知りたくて研究を始めた。
    • (小島)自分も、日本からのリサイクル品の輸出が増えていて、行先でどうなっているのか、という関心を持ったことがはじまり。
  • 例えばASEANで考えた場合、海外におけるセカンドハンド製品に係る「保証」について、製品本来の目的で使用する上での「品質」に対する意識変容など、市場の動向に変化はあるか?また、リマンというかたちでメーカーがセカンドハンドに積極関与する最新事例はあるか?
    • (坂田)メーカー保証は無い。改造して売っている会社が保証を1カ月出すことはある。農業機械については田んぼの真ん中で壊れることはある。修理サービスはしても保証は無い、という理解。リマンをしている会社はベトナムにあり、日本から中古農業機械を輸入して新品部品と取り換え整備して、ヨーロッパに輸出している。建設機械では米キャタピラーが中古品販売もしている。日本のコマツも、子会社が、メーカー提供の中古品として中古品販売をしている。
    • (小島)コマツはインドネシアで鉱山用重機のリマニファクチャリングをしている。
  • ベトナムの中古農業機械の市場がそれなりに大きいのであれば、日本の農業機械メーカーが直接輸出してもよい気がするがどうか。
    • (坂田)メーカーにとって現地でのライバルは自社の中古機械だと思う。東南アジアでは現地生産を増やす動きがある。インドネシアやタイでは2000年代から現地生産が始まり、ベトナムでも2010年代から始まっている。それより前に中国での生産が増えており、中国から部品を輸入して東南アジアで組み立てる形で、生産を増やしていった。
  • 新品と中古品を合わせた需要が拡大する時にはリデュースの問題が生じ、新品が減った分だけ中古品が増える時にはリデュースの問題が生じないという解釈か?
    • (福西)スマホのリユースの場合、一つの製品の寿命が延びて新品の消費量が減る。リユースしたら結果的にリデュースになり、環境に良い。もしリユースをしてもリデュースになっていないならば環境には良くない。
  • 廃プラの輸入規制について、ベトナムやインドネシアでは分別したシュレッダー後のシューズやウェアなどに由来する廃プラは一律禁輸なのか。例えば原料別ペレットや原反であれば良いのか。
    • (小島)バーゼル条約では、一部のものを除いてプラスチックが混ざっている場合は輸入規制の対象になる。素材が分けられているがどうかが重要。中国もペットのフレーク(破砕して洗って分別されたもの)であれば輸入できる。どこまで処理して単一のものにできるかがポイント。
  • 東南アジア諸国の廃プラスチックのリサイクル実績やリサイクル手法、再資源化率は開示されているか。
    • (小島)国際機関や各国の研究機関、業界団体がまとめたデータがある。タイは比較的データがあるが、他の多くの国ではあまりきちんとデータがとられていない。最近では世銀が一部のプラスチックに関して、ベトナムやタイなどのマテリアルフローをまとめたりしている。
  • 先進国側では中古機械をリユース市場で輸出しているが、途上国側ではリサイクル市場で輸入しているという取引当事者同士の意識のズレがあるのか?
    • (坂田)あまり聞いたことは無い。10年くらい前は、先進国側で処理が面倒なものをそのまま輸出してしまうことが問題になっていた。例えば工場のラインごと機械を輸入したら有害な潤滑油を含んでいた、中古船舶の塗装に有害物を含んでいた、という報道があった。

※肩書および解説はすべて講演時点のものです。

お問い合わせ先
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