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開催報告

国際シンポジウム

世界経済危機と東アジア経済の再構築

開催日時
2009年12月1日(火曜)

会場
グランドプリンスホテル赤坂 五色2階 五色の間

主催
ジェトロ・アジア経済研究所、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)

内容
開会挨拶
鳩山由紀夫氏(内閣総理大臣)
基調講演「東アジアの核となるASEAN経済共同体の構築」
スリン・ピッスワン氏(ASEAN事務総長)
基調講演「東アジア経済統合に向けて」
松下忠洋氏(経済産業副大臣)
基調講演「世界経済秩序とアジア」
白石 隆(ジェトロ・アジア経済研究所 所長)
基調講演「アジア総合開発計画」
木村福成氏(ERIAチーフエコノミスト、慶應義塾大学教授)
パネルディスカッション1「世界経済危機と東アジア経済の展望」
  • モデレーター:平塚大祐(ジェトロ・アジア経済研究所 研究企画部長)
  • 黒岩郁雄(ジェトロ・アジア経済研究所 開発研究センター長)
  • 呉鐘南氏(ソウル大学教授・元IMF理事)
  • バイロン・ガングネス氏(ハワイ大学准教授)
  • 稲田義久氏(甲南大学教授)
パネルディスカッション2「東アジア経済の再構築」
  • モデレーター:浦田秀次郎氏(ERIA上席研究顧問、早稲田大学教授)
  • 殷醒民氏(復旦大学経済学院教授)
  • アミット・バドゥリ氏(ジャワハルラルネール大学名誉教授)
  • ヴェディ・ハディズ氏(シンガポール国立大学准教授)
  • ミロスラフ・ヨヴァノビッチ氏(ジュネーブ大学ヨーロッパ研究所講師)
  • クー・ブー・テック氏(ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター上席主任研究員)
総括
西村英俊氏(ERIA事務総長)
閉会挨拶
林 康夫(ジェトロ理事長)

開会挨拶
鳩山由紀夫氏(内閣総理大臣)

鳩山由紀夫氏(内閣総理大臣)

鳩山由紀夫氏(内閣総理大臣)

写真

発足から2年足らずにもかかわらず、スリン事務総長の活躍の下でERIAが発展し、今回日本でこのシンポジウムを開催することを嬉しく思い、またスリン事務総長に感謝する。

このシンポジウムを東京で開く意義は何かということについて、スリン事務総長から「ASEAN諸国はすでにERIAのことを十分に理解しているが、日本ではまだ知られていない。だから日本でシンポジウムを開くのだ」との説明を受けた。この会議が、ERIAの意義を理解し、かつ日本中に広めていく契機となることを願ってやまない。

世界は今、経済的に厳しい環境を共有しているが、世界的危機をアジアの成長する力で克服していかなければならない。この会合が、東アジア共同体の構想を、夢から現実に近づけるための意義深いものとなると期待している。

基調講演「東アジアの核となるASEAN経済共同体の構築」
スリン・ピッスワン氏(ASEAN事務総長)

スリン・ピッスワン氏(ASEAN事務総長)

スリン・ピッスワン氏(ASEAN事務総長)

配布資料1(和文)(43.9KB)

配布資料1(英文)(50.3KB)

配布資料2(56.2KB)

写真

ASEAN、ERIAを代表して、鳩山首相のご臨席に感謝申し上げる。ERIAの活動を日本の皆さんに紹介したい。

ERIAは、ASEAN諸国と日中韓、インド、豪州、NZで構成され、政策提言を行っている組織である。鳩山首相の東アジア共同体構想は、タイムリーなものであり歓迎する。パラダイムシフトを要求している世界経済に展望を示す上で、世界経済を牽引する東アジア共同体の創設が不可欠だからである。東アジア共同体は、共通通貨や金融協力、人々のアイデンティティ構築などさまざまな分野を含んでおり、最もダイナミックな地域である東アジアに属しているASEANは、2015年までに共同体構築を目指している。ASEAN共同体の構築は、東アジア共同体構築に不可欠で、このASEAN共同体構築のために、ERIAは政策提言を行っている。

ASEANでは、ASEAN憲章が2008年に発効し、政治・安全保障、経済、社会・文化という三つの共同体構築のためのブループリントや、ASEAN内の経済格差に取り組むためにASEAN統合イニシアティブ(IAI)の作業計画が作られた。経済格差やインドや中国などの台頭といった競争環境のなかで、ASEANは経済共同体の構築に迅速に取り組まなければならない。ASEAN自由貿易地域(AFTA)は軌道に乗り、ASEAN6については2010年1月に関税が撤廃される。ASEAN包括的投資協定(ACIA)も締結された。ASEAN域内貿易が増加したのは、日本の投資に促される形で産業間・工程間のネットワーク構築が進んだからといえるだろう。また、ASEANは、EASに属する国々とFTAを締結しており、ASEAN+1としてASEANが中核になり、最も生産的な地域として世界とつながっている。ASEANは開かれた統合を希求しており、さらに統合を進めていくために、ERIAは今後のロードマップを提言してくれるだろう。ERIAは、知的な政策提言を継続的に行うことで、アジア版OECDになりうる国際機関である。

基調講演「東アジア経済統合に向けて」
松下忠洋氏(経済産業副大臣)

(代読) 松下忠洋氏(経済産業副大臣)

(代読) 松下忠洋氏(経済産業副大臣)

写真

スリン事務総長はじめ、各国専門家の方々、産業界を代表する参加者の方々に感謝。

私は、インドネシアに3年間駐在した経験があり、アジアには特別な思いがある。経済産業副大臣就任まもなく、スマトラ沖地震が発生した際には、総理の親書を携え、ただちにインドネシアに飛び、日本国民を代表してお見舞いと激励の言葉をお伝えした。その際に、ご列席のスリン・ASEAN事務総長ともお会いし、東アジアの将来のために協力することをお約束した。

昨年の世界経済危機を受けて、アジア経済の重要性はますます増加している。アジアでは約1万社の日本企業が活動しており、日本企業の収益の約4割がアジアから来ている。アジアとともに成長することは日本の成長戦略の柱であり、鳩山総理は東アジア共同体という大きな目標を掲げ、アジア重視を外交の柱としている。アジアが成長し、アジアの人々が豊かになっていくことは我が国にとってますます重要となっている。しかし、成長センターのアジアは多くの課題も抱えている。開発格差は依然として大きく、インフラも未整備、エネルギー、環境問題もある。これら地域共通の課題にばらばらに取り組むのではなく、地域全体の叡智を結集し、政策協調を進めていくことが必要。欧州では第二次世界大戦後、経済協力開発機構が戦後復興に大きな役割を果たした。アジアも政策協調を進めるための中核機関が必要な時期に来ている。ERIAは日本が提唱し、東アジア16カ国の総意により、昨年6月にインドネシア・ジャカルタに設立された。提案したのは日本だが、今やERIAは地域全体の共通財産。本日ご列席のスリン事務総長のリーダーシップの下で、アジア各国が協力し、ERIAを地域統合の中核として大きく育てていきたい。

本日はアジアの将来について活発な議論が行われることを期待している。

基調講演「世界経済秩序とアジア」
白石 隆(ジェトロ・アジア経済研究所 所長)

白石 隆(ジェトロ・アジア経済研究所 所長)

白石 隆(ジェトロ・アジア経済研究所 所長)

写真

1年前にもアジ研は国際シンポジウムを開催したが、その時はリーマン・ショックの影響により世界経済は急速に落ち込んでいた。そして「アメリカの経済回復に時間がかかるようであれば、アジアの内需が経済回復の鍵となる」と指摘された。同時に、保護主義やナスティ・ポリティックスの台頭が危惧され、東アジアにおける地域協力への意思が失われるのではないかと懸念された。その後1年が経過し、現在の政治・経済状況をみてみると、パニックは沈静化したといえる。中国やインド、ASEAN各国の経済パフォーマンスは決して悪くない。また、東アジアの中産階級は今後ますます拡大すると見込まれており、アジアは長期的な成長センターとして大きな期待を集めている。

しかし、直近のデータに基づく分析によると、アジアの内需主導による成長戦略は期待したほどうまくいっていないのではないかという疑念をもつ。たとえば、中国のフルセット型工業化の結果、中国の内需拡大は中国の国内供給によって満たされており、中国向け最終消費財の輸出は伸びていない。これは、中長期的な観点から、東アジアの成長にマイナスの影響を与える。ASEANや日本における消費財市場の規模は経済危機の際でもそれなりに維持されてきたが、アメリカの需要減少を埋め合わせるにはほど遠い。アメリカを最終的なマーケットとする輸出主導型の経済発展モデルに基づいて進められてきた東アジアの統合は、グローバルなインバランスが是正される中でどのような方向に進んでいくのであろうか。

日本は従来から東アジア共同体の構築を外交政策の1つとして掲げてきた。しかし、鳩山政権は経済成長モデルとして輸出主導型から内需主導型への移行を提唱している点で、これまでとは大きく異なっている。本日の国際シンポジウムは、内需主導の経済発展が東アジアでは軌道に乗っていないという現実を踏まえ、それでは政策としてなにをすればよいのかについて議論する絶好の機会となろう。

基調講演「アジア総合開発計画」
木村福成氏(ERIAチーフエコノミスト、慶應義塾大学教授)

木村福成氏(ERIAチーフエコノミスト、慶應義塾大学教授)

木村福成氏(ERIAチーフエコノミスト、慶應義塾大学教授)

写真

ERIAにおける「アジア総合開発計画」プロジェクトの途中成果を報告する。2009年6月3日に行われた東アジアサミットにおいて、ERIAとアジア開発銀行、ASEAN事務局が協力して、東アジア経済の成長のためのマスター・プランを作成するよう声明が出された。「アジア総合開発計画」はこのマスター・プランに対応する一大プロジェクトである。

東アジアの競争力の源泉は、精緻な国際的生産ネットワークの形成にあり、その発展が東アジア経済の成長に資する。そのための方法として、生産ネットワークが形成されるメカニズムを知ることが有益である(フラグメンテーション理論とアグロメレーション理論を紹介)。

これらの理論からは、東アジアの発展途上国・地域を3つのグループに分け、それぞれについて次のような発展戦略を提示することができる。第一のグループは既に生産ネットワークに参加し、産業集積の形成を始めている国・地域から成り、それらの産業集積を高度化していくこと(地場系企業を集積に組み込んでいくことなど)が課題となる。第二のグループは生産ネットワークにまだ参加しきれていない国・地域であり、そこでは産業集積から分散してくる経済活動を引きつけていくことが重要である。第三のグループは足の速い生産ネットワークに参加することは短期的には難しい国・地域であり、こうした所ではロジスティック・インフラの整備を引き金として新たな産業振興策が練られるべきである。

(実際にインフラの改善(東西回廊、南部回廊など)が東アジア域内の各県のGRDPにどのような効果をもたらすかをシミュレーションした結果(ERIA/IDE-JETRO GSMチームによる)と、これらの研究を今年度さらに深化させていくための研究体制を紹介)

パネルディスカッション1「世界経済危機と東アジア経済の展望」

パネリスト:黒岩郁雄(ジェトロ・アジア経済研究所 開発研究センター長)

黒岩郁雄(ジェトロ・アジア経済研究所 開発研究センター長)

黒岩郁雄(ジェトロ・アジア経済研究所 開発研究センター長)

配布資料(和文)(389KB)

配布資料(英文)(390KB)

写真

東アジア諸国は生産ネットワークに参入することによって高い経済成長を遂げてきた。しかし今回の経済危機では、最終需要先である先進諸国の輸入需要が急落し、生産ネットワークを通じて大きな影響を受けた。特に近年中国を通じた三角貿易が急速に拡大し、中国の先進諸国に対する輸出動向が周辺諸国の産業に大きな影響を与えるようになっている。

アジア国際産業連関表を用いた分析によると、韓国や台湾の産業に対する経済危機の影響の内、20%前後は中国との三角貿易を通じて波及したものであった。また日本においても輸出依存度が急速に高まり、いくつかの産業にとって三角貿易は無視できない存在になっている。他方、中国は中間財貿易において大幅な輸入超過であるため、三角貿易を通じて他の東アジア諸国に大きな影響を与える一方で、中国自体は他国から影響を受けない構造になっている。

三角貿易によって受ける影響は産業によって大きく異なる。生産ネットワークを発達させた電気・電子産業の他に、素材(金属・化学)やサービス産業も三角貿易を通じて大きな影響を受けるようになった。他方、自動車をはじめする輸送機械産業では三角貿易の影響は非常に小さい。

今回の経済危機によって生産ネットワークの脆弱性が明らかになった。今後は、生産ネットワークを拡大させるだけでなく、アジア域内で最終需要を喚起する必要があろう。


パネリスト:呉鐘南氏(ソウル大学教授・元IMF理事)

呉鐘南氏(ソウル大学教授・元IMF理事)

呉鐘南氏(ソウル大学教授・元IMF理事)

配布資料(64KB)

写真

現下の世界経済危機の背景には、米国の経常赤字とアジア・新興国の経常黒字が慢性的に続いた、国際不均衡の問題がある。国際不均衡は、世界の準備通貨としての米ドルへの根強い需要、人民元為替レートの過小評価による中国の経常黒字、新興国の貯蓄・経常黒字などに起因している。そして米ドル建資産への需要が米国の低金利と様々な金融商品の開発を後押しし、世界経済危機の遠因となったとみられる。

国際不均衡について、IMFは危機以前の2006年6月に国際協調の必要性を打ち出し、特に米国の貯蓄促進やアジアの内需拡大とより伸縮的な為替レートの導入を含む包括的な戦略を提示していた。一方、米国のサブプライムローン危機に端を発した市場の混乱により、世界中の信用市場で信頼が揺いだ。そして、米国の低成長と信用市場の収縮が世界経済の後退に波及する懸念が広がるという環境の変化が生じた。この世界経済危機への対処として、国際不均衡の是正にむけた協調が、G20でも議論され、共通認識になるに至った。

こうした文脈での東アジアの課題には、国際不均衡の是正のための、内需の刺激とアジア域内貿易の拡大がある。これらの課題が解消されれば、アジア地域の米国への依存の緩和にもつながる。中国については、民間消費の拡大が必要であり、そうした消費を可能にする金融市場の発展に向けて政府の関与が求められる。また、経済ファンダメンタルズに則した為替レートの調整も、国際不均衡の是正を促すだろう。


パネリスト:バイロン・ガングネス氏(ハワイ大学准教授)

バイロン・ガングネス氏(ハワイ大学准教授)

バイロン・ガングネス氏(ハワイ大学准教授)

配布資料(144KB)

写真

今回の金融ショックにより、日米ともに2009年の経済回復の足取りは重い。一方で、他のアジアの国々には回復基調にある国も少なくない。回復の足取りは、過去のものと比較しても早いものとなっている。

まず、米国経済についての細部を見てみたい。米国は景気の底は打ったようである。生産高、受注高共に回復が続いている。全体に関しての予想としては、2009年の経済成長率は-2.5%、2010年は2.4%と見ている。このように米国経済全体としては回復基調にあるが、懸念される点もいくつかある。まず雇用についてであるが、人員削減が継続中であり、これはしばらく続くものと予想される。また消費については力強さにかける回復となっている。金融ショックにより家計の保有する資産の価値も大幅に目減りしてしまい、それが消費の回復に対してブレーキになっていると考えられる。回復の筋道も予想が立てにくい。金融危機前の好景気を支えていた一つの要因んとしては住宅購入のブームがあった。これは住宅ローンを誰でも組めるようにしたことがブームの発端の一つである。これについては、現在では貸し過ぎであったとの反省がある。政府部門についても、財政均衡が問題になってきている。このような状況にあって、回復の筋道は必ずしも明確に見えてこない。

一方、アジアの国々にも経済回復が見られる。2008年には、欧米、アジアの国々の需要が大幅に減少したため、輸出が激減した。その後、アジアの輸出国は生産を調整し、財の供給については在庫のとりくずしで対処してきていた。それが、現在、在庫は一巡する状況にあり、生産を増加させつつある。これが経済の回復につながってきている。ただし、金融危機の影響はアジア各国に対して一律なものではない。欧米の経済回復の足取りは重いため、これがアジア各国からこれらの国々に対する輸出の減少を引き起こしている。そうした中で、金融危機に伴う輸出減少は経済規模の小さい東南アジアに対しては大きな影響力を持つことになった。他方で、南アジアや中国などの経済規模の大きい国は、金融ショックの影響はこれらの国々よりは小さなものとなったようである。

今後、世界経済の回復の方向を決めていくのは、財政、金融政策であろう。適切な政策を行わない限り、回復には脆弱性がつきまとうことになる。


パネリスト:稲田義久氏(甲南大学教授)

呉鐘南氏(ソウル大学教授・元IMF理事)

稲田義久氏(甲南大学教授)

配布資料(1.69MB)

写真

2009年7-9月期の日本の実質GDP成長率(1次速報値)は前期比年率+4.8%となり、2四半期連続のプラスを記録した。07年1-3月期(同+5.7%)以来の高い成長率となった。7-9月期GDP1次速報値と新政策を織り込み、09年度実質GDP成長率を-2.3%、10年度+1.4%、11年度+2.0%と予測する。民間需要の成長率寄与度は09年度-2.3%ポイントから、10年度+0.5%ポイント、11年度+1.6%へと改善する。10年度に民間企業設備が底打ちするため、民間需要は景気押し上げ要因に転じる。公的需要の寄与度は10年度に政策効果が剥落し+0.1%ポイント、11年度は-0.1%ポイントと引き下げ要因に転じる。純輸出の寄与度は10年度+0.9%ポイントとプラスに転じるが、11年度は+0.5%ポイントと大きな拡大は望めない。これは欧米諸国に大きな改善が期待できないためである。

実質GDPは、08年1-3月期のピーク(100)から1年後に8.4%低下した。これは戦後の不況期のなかで最大の落ち込み幅である。12年1-3月期には97.8にまで回復するが、成長の回復は緩やかで3年たっても過去のピークに戻らない。このため、日本経済は大幅な需給ギャップに悩まされる。大幅な需給ギャップの解消には時間がかかるためデフレからの脱却は遅れる。

鳩山新政権の09年度補正予算一部執行停止は同年度の実質GDPを0.24%引き下げる。マニフェストをベースとする新政策は、10年度にほとんど影響はないが、11年度には民間消費を中心に0.2%程度の拡大効果をもつ。「コンクリートから人」への政策効果は色濃く出るが景気拡大の効果は小さく、新たな内需拡大戦略が必要となろう。その一つの有力な候補は環境分野である。この分野は内需拡大としてのみならずアジアを中心とする外需としても期待できる領域である。


パネリスト:呉鐘南氏(ソウル大学教授・元IMF理事)

平塚大祐(ジェトロ・アジア経済研究所 研究企画部長)

平塚大祐(ジェトロ・アジア経済研究所 研究企画部長)

パネルディスカッション2「東アジア経済の再構築」

パネリスト:殷醒民氏(復旦大学経済学院教授)

殷醒民氏(復旦大学経済学院教授)

殷醒民氏(復旦大学経済学院教授)

配布資料(49KB)

写真

2009年の中国経済は、順調な工業化に支えられて回復基調にある。工業化は依然として経済成長における最大の原動力である。

しかし、工業化の中身には変化も見られる。まず、経済成長の原動力が重工業に移ってきている。2009年1~10月期における軽工業生産額の成長率が9.0%だったのに対して、重工業のそれは9.6%であった。鉄鋼やアルミニウムの生産量は、インフラ投資などの強い内需に支えられて、堅調な回復をしめした。

また、企業の所有制によって、経済成長への貢献にばらつきが見られるようになっている。民営企業や株式会社が2009年1~10月期に高い成長率を維持したのに対して、外資企業や国有企業はその成長を減速させた。とくに外資企業は、輸出の回復が予想されていたものよりも十分ではなかったことの影響が大きい。

一方、内需の回復は著しかったため、輸出志向ではない産業の生産額が堅調な伸びを見せた。小売業売上高の成長率はこの9ヶ月で15.1%だった。また、電気供給量も3.2%増加した。自動車販売台数ははじめて1000万台の大台に乗り、10月までに1090万台を記録した。これまでの成長を牽引してきた労働集約型の繊維やアパレル製品、IT機器などは輸出の回復が緩慢でありその成長を鈍化させたものの、重工業は、政府の支援を背景にした投資の伸びによってその成長率を高めた。

最後に、今後の東アジア経済を考えてみる。中国の経済成長が今後も持続した場合、中国は輸入の増加を通じて大きな需要を生み出すことになる。中国も含めた東アジア全体の市場をつなぐため、各国は貿易障壁をより一層引き下げる必要がある。また、東アジア経済の成長のため、各国の強みをいかしたAsian Production Chainを形成しなければならない。そのため東アジア全体でインフラを充実させる必要がある。そして、東アジアが世界経済を牽引するようになれば、多極的な世界が生まれることになる。実現には多くの困難もあるが、各国が協力すれば実現させることができる。


パネリスト:アミット・バドゥリ氏(ジャワハルラルネール大学名誉教授)

アミット・バドゥリ氏(ジャワハルラルネール大学名誉教授

アミット・バドゥリ氏(ジャワハルラルネール大学名誉教授

配布資料(207KB)

写真

グローバリゼーションは現在も進みつつあるプロセスである。これに対してどのように戦略的な対応をするかが重要である。とりわけ、アメリカ市場の復活が不透明ななか、外需(輸出)主導の成長はもはや可能ではないかもしれず、国内市場を重視する必要性が高まっている。ここでは貿易と投資に焦点をあてて考えてみたい。

貿易:高い労働生産性と低い実質賃金が国際的な競争力を高めるという「危険な強迫観念」がある。これは望ましくない。労働生産性の成長を、国際的なコスト競争力と結びつけて考えるよりもむしろ、国内における生産と雇用の成長の源と捉え、より平等を伴った経済成長を志すことが重要である。

投資:税金の免除や賃金の抑制によりFDIを誘致しようとする「race to the bottom」は避け、よりよいインフラや熟練した労働力、腐敗の削減などを整備することによりFDIを誘致する「rise to the top」を目指すべきである。さらに、(労働者の)賃金主導および(企業の)利潤主導の政策を通じて国内市場の拡大に努めるべきである。

国内市場への注目は、雇用増加の結果としてのGDPの成長を意味する。インドや中国でおこっていることはこの逆である。たとえばインドでは高い経済成長率にもかかわらず、国内の雇用が増えていないという問題がある。雇用の増加により、国内市場における需要を増やし、外国市場に過度に依存することなくバランスを達成することが重要である。


パネリスト:ヴェディ・ハディズ氏(シンガポール国立大学准教授)

ヴェディ・ハディズ氏(シンガポール国立大学准教授)

ヴェディ・ハディズ氏(シンガポール国立大学准教授)

配布資料(35KB)

写真

世界経済危機のインドネシアに対する影響は、1997/1998年のアジア通貨危機時に比べれば非常に軽微である。経済的には、プラスの経済成長を維持しているし、政治的にも、ユドヨノ大統領の再選に見られるように安定している。インドネシアの立場からは、世界経済危機が襲ってきたという感覚はない。しかし、インドネシアが直面する基本的な問題には変化はない。ここで問われるべきは、地域統合がインドネシアの抱える基本的な問題をどう解決するのかという点である。

インドネシアの基本的問題とは、貧困である。その背景として、失業と不完全雇用の問題もある。また、社会保障制度が未整備であるため、人々は非常に不安定な状況におかれている。世界経済危機は、フォーマル部門の失業者のインフォーマル部門への流入や、海外労働者の契約解除といった形で影響を与えている。不平等や貧困の問題は、社会的緊張や紛争の根本的な原因ともなっており、地域の安定に影響を与えている。

もうひとつの基本的問題は、汚職である。以前は国家予算の20%が汚職で消えたと言われたが、それが改善される見込みは現在のところない。対外債務のGDP比は減少してきたが、それでも800億ドルに上る。この2つの存在が、社会保障の整備にとって重荷になっている。

インドネシアにとって地域統合はどういう意味があるのか。国民の生活の質を高め、社会福祉を改善し、海外の労働市場を増やすのか。NGO活動家などは、米国ワシントン主導のグローバル化と東京・北京枢軸の支配する地域統合とはどう違うのかという問題を提起している。

インドネシアでは、地域統合の進行と並行して、開発政策の見直しも進められている。輸出主導成長戦略の見直しと、国内消費重視、貧困撲滅重視の戦略への転換が提起されている。しかし、これは、輸出主導戦略の放棄を意味するわけではなく、優先順位の見直しである。問われるべきは、地域統合がどう我々の生活の向上に資するかという点なのである。


パネリスト:ミロスラフ・ヨヴァノビッチ氏(ジュネーブ大学ヨーロッパ研究所講師)

ミロスラフ・ヨヴァノビッチ氏(ジュネーブ大学ヨーロッパ研究所講師)

ミロスラフ・ヨヴァノビッチ氏(ジュネーブ大学ヨーロッパ研究所講師)

配布資料(124KB)

写真

2007年から2008年にかけての信用危機の以後に、国内産品購入条項や自動車産業への巨額の補助金により、米国の新しい保護主義が復活した。望ましい対応は、第三者に差別的でない、地域統合の深化と生産性やイノベーションを改善する規制の調整だろう。米国の保護主義の側面を懸念している。

ASEANと日中韓は地域統合により太平洋に経済的な境界を引く気だろうか?費用削減や生産の特化、イノベーションにより企業の競争力を増すような自由化を求めて、地域統合協定の締結への圧力は生じる。地域統合協定は主な貿易相手国と結ばれるほど、排他的な負の統合の効果を心配しなくなり、原産地規則の重複の解消によるメリットは大きくなる。

アジアの現状では、様々な自由貿易協定が結ばれ、域内で原産地規則が複雑に入り組んでいる。重複した原産地規則やその手続きに要する費用を削減することができれば、貿易の利益は増すだろう。そこで、多国間協定は解決策になる。もしドーハラウンドが成功すれば、域内貿易協定は不適合になるが、ドーハラウンドが不調であれば、域内貿易協定は次善の策となる。後者の場合には、アジアの域内貿易協定で原産地規則をできるだけ単純に、原産資格割合をできるだけ低く、規則や手続きを最小化したほうがいい。好ましいドーハラウンドの一例として、食糧や製品の安全、気候変動にやさしい製品の関税撤廃やグリーンテクノロジーの促進といった環境関連を含めるとよいだろう。

米国はFTAをグループ内のみへの特恵措置のように用いているが、EUはASEAN10と1つのグループとしてのFTAを模索したい。ASEANの今後の課題は、イノベーションだろう。将来の議論すべき課題として、サービスとエネルギーがある。


パネリスト:クー・ブー・テック氏(ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター上席主任研究員)

クー・ブー・テック氏(ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター上席主任研究員)

クー・ブー・テック氏(ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター上席主任研究員)

配布資料(1.56MB)

写真

我々は危機を契機にいろいろなことを学ぶことができる。たとえば1997年には金融危機を契機として、チェンマイ・イニシアティブなど金融面での地域統合が進んだ。さて、2008~2009年の危機は社会政策における地域統合を促進しうるのか。社会政策の実施は需要を喚起し域内の諸問題を解決することを可能にするだろうか。過去20年にわたり、東アジアの「1日2ドル以下の貧困」(果たしてこの数字にどれだけの意味があろうか)は改善されてきたという。域内各国の国内の経済格差は多くの国で拡大しているし、さらに、域内の国家間の経済格差も深刻であり、カンボジアやミャンマーなど常に同じような国が貧困国として名を連ね続けている。このようななかで、果たして「東アジア」は安定的な市場となりうるのだろうか。現在、域内各国の都市化は急激に進んでおり、今後さらに社会政策の必要性は増していくことが予想される。マレーシアは、これまで常に開発計画のなかで社会サービスを中心的な課題としてとらえ、経済成長と分配の両立を達成してきた。経済成長と分配は、二者択一の問題ではない。東アジアには、多様なアイデンティティや宗教があり、産業構造の違い、国家や安全保障の問題など、地域統合を考えた場合の多くの困難が指摘され議論が重ねられているが、さらに、格差や福祉の問題など、人々が本当に必要としているものについても考えていかなければならない。ヨーロッパの統合が達成されたのは原加盟国のあいだに社会民主主義や福祉が根付いていたからである。人々を置き去りにした統合はありえない。


モデレーター:浦田秀次郎氏(ERIA上席研究顧問、早稲田大学教授)

浦田秀次郎氏(ERIA上席研究顧問、早稲田大学教授)

浦田秀次郎氏(ERIA上席研究顧問、早稲田大学教授)

総括

西村英俊氏(ERIA事務総長)

西村英俊氏(ERIA事務総長)

西村英俊氏(ERIA事務総長)

写真

本日は鳩山総理大臣から東アジア共同体構想に向けた力強い決意を伺い、深く感銘を受けた。ERIAの取り組みは、まさに東アジア共同体構想の中に位置づけられるものである。ASEANのスリン事務総長からも、東アジア共同体へのご賛同が示され、その中でERIAが果たすべき役割の大きさをお話しいただいた。

シンポジウムの議論では、米国に依存してきたアジア経済の構造について、「グローバル・インバランスは容易に解消されず、思い切った政策が必要」という認識のもと、「域内市場を拡大するとともに各国が国内市場をオープンにし、輸出と輸入のバランスがとれた成長を図るべき」「その際、国内企業が一層大きな役割を果たすべき」との見方が示された。また、国際間の経済格差問題も取り上げられた。これらは、東アジア共同体に向けた議論のキックオフとして有意義だった。

ERIAは、東アジア16ヵ国の研究機関の協力を得るとともに、本日のように研究者、経済界、政策担当者と対話しながら、東アジア経済統合に向けた政策提言を行っている。皆様のおかげでERIAの位置づけは着実に高まり、2009年10月のASEANサミットと東アジアサミットでは、議長声明でERIAへの期待が表明されるとともに、鳩山総理大臣、タイのアピシット首相、中国の温家宝首相、カンボジアのフン・セン首相からERIAについてのご発言を、インドのシン首相からは、ERIAに対して10年間で100万米ドルを拠出するとの声明をいただいた。また11月のAPEC閣僚会議では、オーストラリアのクリーン貿易大臣より100万豪ドルの拠出を表明いただいた。

10月のERIA理事会声明では「長期的なゴールとしての東アジア共同体の実現という共通の決意を改めて表明する」「ERIAが域内の知的センターとして、ASEANを支援する形で、東アジア共同体の形成に貢献することを期待する」とされた。今後とも、具体的な政策提言を通じて東アジア共同体の実現に向けて貢献していくので、一層のご指導、お力添えをいただきたい。

閉会挨拶

林康夫(ジェトロ理事長)

林康夫(ジェトロ理事長)

林康夫(ジェトロ理事長)

写真

鳩山首相から、シンポジウムの冒頭、ERIAとこのシンポジウムの意義に関するご挨拶を賜り、心から御礼申し上げたい。そして、本日、ご参加くださった皆様、示唆に富むご意見をいただいたスピーカーとパネリストの皆様にも心から御礼申し上げる。

日本経済はアジアとともにあると言っても過言ではない。本日のディスカッションでは、この地域の発展に世界が注目していることがうかがえた。

アジアが持続的に発展するには、依然として課題が多いことも共通の認識である。人・モノ・資本・技術の流れを自由に円滑にするための制度やインフラの整備、貧困の克服、域内の経済格差の是正やイノベーションの強化などの課題を、地域全体で解決していく必要があるというご指摘もいただいた。日本はこれらの課題に取り組み、開かれた地域統合をリードし、そして日本企業の活動を通じ、東アジアの経済発展に貢献することが期待されている。

ジェトロは、東アジアの経済統合を推進するERIAの活動に対し、アジア経済研究所を中心に今後とも協力していく所存である。

最後に皆様の更なるご発展、ご健勝をお祈りし、御礼の挨拶とさせていただく。