企業の異質性を考慮した多国籍企業の生産形態分析:理論と実証

調査研究報告書

内田 陽子・小山田 和彦 編

2018年3月発行

表紙(158KB)

第1章

本章は、過去の研究会で開発し、利用してきた拡張型知識資本モデルについて簡単に紹介し、つづいてMelitz[2003]の異質性を考慮した貿易モデルとその拡張モデルを紹介した。Melitz[2003]を利用し拡張したモデルを我々が過去の研究会で開発してきた拡張型知識資本モデルに当てはめると、水平型FDI、水平型輸出基地、複合型に相当するモデルが存在することが明らかになった。また実証面の先行研究を紹介する中で、本研究会が今後の研究でベースとすべき実証研究はYeaple[2009]が適当であることが判明した。企業の生産拠点選択と生産性の関係を分析する実証研究は、基本的に企業レベルのデータを用いて分析しており、Yeaple[2009]も同様である。本研究会でも企業レベルのデータによる分析を目指しているが、企業レベルのデータはすべての研究者が利用できるわけではない。今後は必要なデータの入手可能性について探りつつ、集計データでどこまで理論に沿った分析ができるのかについても考えていきたい。

第2章

本稿は、生産性水準の異なる企業群による輸出、水平型FDI、および輸出基地型FDIの間の選択に関して考察することを目的として新しく開発中の分析モデルの基本設計について解説し、それを数値シミュレーション・プログラムとして記述する際に必要となるパラメータ値の設定手順について紹介する。部分均衡モデルではあるが小国であることを仮定した場合の一般均衡モデルと同等の枠組みのもと、特定経路における貿易費用や現地法人を設置する際に必要となる固定費用の変化、第三国における低価格生産要素の利用可能性の変化といった環境面でのショックが、海外市場にアプローチする際に企業が行う生産拠点選択にどのような影響を及ぼし得るのか、一連のシミュレーション実験を行うことによって明らかにすることが可能となる。また、生産性の面で異質な企業群を考慮することにより、企業規模の違いが操業戦略の選択の面で大きな役割を果たす可能性について考察することができるようになる。これまでに続けてきた研究では確認することのできなかった部分であるので、何らかの新しい知見が得られるのではないかと期待している。本モデルをベースに実証分析を試みる予定もあるため、そのために必要なデータの入手可能性の確認と実際の収集作業、推計用モデルの導出作業など、順に手を付けていくこととしたい。