転換期の中国—経済成長と政策決定のダイナミクス

調査研究報告書

佐々木 智弘 編

2009年3月発行

佐々木 智弘 編『 中国「調和社会」構築の現段階 』アジ研選書No.24、2011年2月1日発行
です。
まえがき (73KB)
目次 (21KB)
序章
第1章
第2章
本稿では中国におけるマクロ経済政策の決定と制定のプロセスの解明を試みた。分析の結果、次のようなことが言えるだろう。まず、マクロ経済に関する最も重要な政策決定は中央経済工作会議であり、その政策決定はすでに制度化されている。その決定過程において、中共中央が中国経済の政策決定に大きな影響力を及ぼしていることも浮き彫りになった。また、マクロ経済政策の決定において、中央財経指導小組は重要な役割を果たしている。その主な政策決定者は二重の身分(党と政府)を持っているため、国務院は実際の政策決断、決定において重要な権限を持っていることも明らかである。

さらに、マクロ政策の決定過程は、(1)状況の認知、(2)草案の作成、(3)政策の決定、という3 つの段階を経ている。この過程において、指導部による地方視察や有識者との座談会を通して、政策決定の透明化や集団決定制度が実現されている。また、草案作成の過程においては、地方や研究機関、大学などからの有識者も参与していることが大きな特徴と言える。

本論ではまた2008 年9 月の利下げを焦点に、危機対応の政策変更がどのようなプロセスで決定されているかについて分析を試みた。その結果、今回の政策変更は人民銀行が主導的な立場にあり、国務院からの指示または国家発展改革委員会は人民銀行の政策制定の過程に関与していないことが示唆された。その意味では、人民銀行は一般的に認識されているより独立性が高いと言えるだろう。

第3章
中国・党国家の熔変とメディア改革のメカニズム / 唐 亮
第4章
本稿では、まず前段で、現在の中国社会における大きな問題である「三農問題」( 農業・農村・農民問題)に注目し、その実態を分析した。ここでは大きな都市・農村間の経済格差の存在と、農村経済、社会の立ち後れが指摘できる。中国政府はこうした事態にたいして今世紀に入って三農問題対策を打ち出しているが、この対策はいまだ緒に就いたばかりであり、十分ということはできない。こうして三農問題の深化は農民の不満を惹起し、各地で群衆事件と呼ばれる社会争議を引き起こしており、政府な喫緊な対応が望まれる。しかも2008 年後半以降世界不況の中で、矛盾は拡大していることが懸念される。

後段では、三農問題が深化する中で、2006 年以降新たな農業政策が提起されていることを論じた。ここで論じたのは農地流動化の促進政策と、農村専業合作社( 一種の農業協同組合) の育成政策である。前者は、農業の生産性向上をめざして、農地貸借等による流動化を推進し、これを大規模経営に集積することによって効率化を図る政策であり、17 回3 中全会で提起された。この政策は農業生産の効率化を促進できるが、農地を失った農民の生活保障・就業保障をどう確保するのかという点で問題を残している。また後者の農民専業合作社の組織化は民間企業による合作社の包摂等という問題も生まれ始めており、なお、今後の動向に予断を許さない。

第5章
中国・郷鎮企業の所有構造改革後の特性の変化 ——江蘇省X 鎮における全企業の経営・財務分析より / 堀口 正
第6章
2007 年11 月の第17 回党大会において、「大部門制」を軸とする国務院機構改革が提起された。大部門制には、機能の近い官庁を統合するものだが、肥大化した組織を縮減するだけではなく、縦割り行政の弊害をかいかつするために調整メカニズムを構築する目的もあった。約半年かけて作成された改革案は、官庁数が1 削減されただけで、大部門制にはほど遠いものであった。

本稿では、大部門制の構築に失敗した理由として、改革案の策定過程での議論と最終改革案を機能の「共通性」と「相反性」という観点で分析した。機能の「相反性」を調整するためのメカニズム構築を含意した改革を目指したが、機能の「相反性」を超えることはできず、また改革の対象官庁が既得権益を死守したことで、最終的な改革案には大部門制の理念は十分反映されなかった。