馬英九政権下・台湾の経済社会学的分析

調査研究報告書

川上 桃子  編

2015年3月発行

表紙 / 目次 (199KB)
はじめに (124KB) / 川上 桃子
第1章
本稿では、中台関係のポリティカルエコノミー分析に向けた試みの一環として、中国が経済利益を手段として台湾に対して行う政治的な働きかけのメカニズム(「中国の」影響力メカニズム)を考察する。中国の台湾に対する影響力の行使を、手段(「利益供与」と「懲罰」)、行使の場(「中国」と「台湾」)の二つの分類軸によって四つのパターンに分類し、それぞれの具体例を挙げて検討を行う。考察を通じて、影響力行使手法としての「利益供与」と「懲罰」の区分は実際上は曖昧であること、ミクロなアクター間関係における影響力行使の場面においても中台間には非対称性が見て取れることを指摘する。

第2章
2012年1月に再選を果たした馬英九総統は、所得分配の改善を政権の最重要課題として掲げた。2月初めに陳冲内閣が発足すると、劉憶如が財政部長に就き、格差是正を主たる目的とした税制改革に取り組み始めた。3月末には政府代表、専門家、社会運動家からなる財政健全グループが設置され、証券所得税の導入が優先的に検討されることになった。しかしながら、企業界や立法委員から圧力を受けて、5月末には証券所得税はかなり変質した姿となり、劉財政部長は辞任に追い込まれた。本稿はこの過程を観察し、台湾社会の種々のアクターの考え方や能力、それぞれが置かれた条件、彼らの間の相互作用について考察する。