インドネシア経済危機—産業・インフレ・実物経済への影響の分析—

調査研究報告書

石田 正美  著

2007年3月発行

目次
まえがき (183KB)
第1章
はじめに
第1節 経済危機の時期区分
第2節 経済危機初期-急速に衰退したインドネシア経済-
第3節 経済危機深化期-衰退から混乱へ-
第4節 為替レート回復初期


本章は本研究のプロローグとして、インドネシア経済危機の状況を初期段階から回復段階まで紹介している。第1節では、インドネシア経済危機を、主として3つの期間に区分している。そのうえで、第2節は「経済危機初期」(1997年7~12月)、第3節は「経済危機深化期」(1998年1~5月)、第4節は「為替レート回復初期」(1998年6~12月)について、それぞれ金融部門の状況、社会的な影響などを、事実関係に基づき、描写してある。

第2章
はじめに
第1節 本研究における経済理論の枠組み
第2節 本研究で用いるデータ
第3節 本研究の内容
〔補論A〕為替レートが下がった場合に、輸出比が増加することの証明
〔補論B〕為替レートが下がった場合に、輸入比が低下することの証明
〔補論C〕為替レートの変化がもたらす生産の増減への影響


本章では、第1節で本研究の理論モデルの枠組みが提示されている。また、第2節では、本研究で用いるデータの解説が施されている。そして、第3節で本研究の概要が説明されている。特に、第3~4章をみていくなかで、第2節のデータの解説は参考資料となる。また、第1節の理論の数学的証明は補論A~Cに示されている。

第3章
はじめに
第1節 投入財輸入比率-ルピア下落による直接的影響の分析-
第2節 輸出比率の分析-経済危機下での輸出ドライブの可能性-
第3節 投入・産出係数からみた産業連関図- 経済危機の波及効果の分析 -
第4節 均衡価格モデルによるルピア下落の影響分析
第5節 前方連関・後方連関効果の検討 -最終需要低下の影響の検討-
第6節 今後の議論の橋渡しとして
〔補論〕均衡価格モデルと影響力係数と感応度係数


本章では、経済危機下での影響をルピア下落によるコスト上昇を通じた物価への影響と国内需要低迷による生産への影響といった2つの効果を念頭に、1995年と2000年の171部門の産業連関表の分析が進められている。第1節では、投入財に占める輸入の割合を示す投入財輸入比率が、第2節では、総生産に占める輸出の割合である輸出比率がそれぞれ検討されている。第3節では部門ごとの投入係数と産出係数に基づき、産業部門相互間の関係が図式化されている。こうした関係は第4章と第5章の分析結果をみていくなかで、参考になるものである。第4節では、ルピア下落によって物価が押し上げられる効果が、均衡価格モデルにより、分析されている。第5節では、国内需要の低下の影響を分析するために、影響力係数と感応度係数の分析がされている。そして、「おわりに」で、本章全体の分析結果を取りまとめるとともに、その後の章への橋渡しとして、1995年と2000年の産業連関表を短期分析に活用する際、それぞれどの期間で活用したら良いのかを示すための簡単な分析が施されている。

第4章
価格分析 (552KB)
はじめに
第1節 全般的な物価の推移
第2節 品目別にみた経済危機下の物価動向
第3節 コスト・プッシュ型インフレーションの検証
第4節 輸出インフレの可能性
おわりに


本章では、経済危機下におけるインフレーションが検討されている。第1節では、為替レート、ドル建て輸入物価、ルピア建て輸入物価指数、国内卸売物価指数、ルピア建て輸出物価指数、ドル建て輸出物価など、それぞれの物価指数の経済全体の趨勢が、グラフを用いて検討されている。分析を通じ、ラスパイレス型輸入物価とパーシェ型の輸入物価とでは乖離が大きく、前者のインフレが過大評価される傾向があることが明らかになった。また、通貨ルピアの下落が1998年半ば以降回復に向かうなかでも、多くの部門で卸売物価指数が上昇を続け、それらには下方硬直性が認められることが明らかにされている。第2節では、国内卸売物価指数の動きの品目別検討が行われるとともに、国内卸売物価指数と輸出物価並びに輸入物価との相対価格の推移が検討されている。これらの相対価格の検討は、第5章での輸出ドライブの誘引の分析並びに国内投入財と輸入投入財との代替関係の検討の際、改めてレビューされることとなる。第3節では、インフレーションの原因として、コスト・プッシュ型インフレが、どのような品目で顕著にみられ、逆にそうした影響がどのような品目で少なかったのかを、第1章で用いた均衡価格モデルを発展させることにより、分析されている。その結果、重工業部門を中心にコスト・プッシュ型インフレが観測され、かつコスト増の価格転嫁を抑制する行動が認められたが、一次産品や軽工業部門では認められなかった。第5節では部門ごとに輸出インフレが起きたかどうかが検討されている。

第5章
はじめに
第1節 経済危機下の生産・輸出動向 -輸出ドライブの検証-
第2節 経済危機下の投入財輸入動向
第3節 計量モデルによる実証分析
おわりに


本章では、第2章で示された理論的枠組みを踏まえて、生産と輸出入との関係の分析が行われている。第1節では、生産と輸出、生産に占める輸出の割合をみていくこととする。分析を通じ、1998年には多くの部門で輸出ドライブをかけられていたことが明らかになった。しかし、主として軽工業部門での輸出増が生産増を伴っていたのに対し、重工業部門では生産増を伴わない、国内需要の低下に伴う「苦し紛れの輸出ドライブ」がかけられていたことを示唆する結果が示された。ただ、トウモロコシなど農産物に関しては植え付けと収穫の時期との間にタイム・ラグが存在し、収穫時の為替に不確実性が伴うことや、1999年に国内の物価水準が上昇したことなどから、一時的なものに終わってしまったと分析されている。第2節では、総投入と投入財輸入、また投入財輸入比率との関係が検討されている。検討の結果、輸入投入財から国産投入財からのシフトは従来あまり行われなかったとの説が有力ななか、川上の原材料が国内で調達できる部門を中心に、国内シフトは起きていたことが明らかにされている。第3節では、第2章で示した理論的枠組みを、計量モデルを用いて検証している。計量モデルの結果は、輸出ドライブの誘引は内外相対価格の変化よりも国内需要の低迷が大きかったとの結果が示される一方、国内の川上部門から供給を受けることのできる部門を中心に、輸入品と国産品の投入財の代替関係が有意と認められた。

あとがき