レポート・報告書

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.164 在日外国人コミュニティのCOVID-19感染拡大に備えるための情報ネットワーク調査(6)
「外国出身者コミュニティにおけるレジリエンス ――「支援する・支援される」の二項対立を超えて――」

加藤 丈太郎

2022年3月30日発行

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  • 外国出身者が日本社会で暮らしていることを再度確認しよう。
  • 日本人側からも外国出身者コミュニティ・支援団体を積極的に把握しよう。
  • 「支援する・支援される」の二項対立を超えて「共に助け合う」社会を実現しよう。

外国出身者も日本で生活を営む一人の「人間」である。労働だけを目的とした「ロボット」ではない。しかし、日本社会においては外国出身者を人間ではなくロボットと誤解していると見受けられる事例もあった。たとえば、技能実習生の1日当たり15時間の低賃金労働、肋骨を骨折するような暴行被害が明らかになっている。

安倍元首相は国会の場で「移民政策をとることは考えていない」と述べていた。しかし、外国出身者の永住化は足元で既に進行している。2021年6月末時点の「在留外国人」282万3565人のうち29.0%を占める81万7805人が「永住者」である(法務省統計)。以上のように、移民受け入れに未だ消極的な日本においては、「外国出身者コミュニティ」における「レジリエンス」が果たす役割が大きい。

外国出身者コミュニティ・レジリエンスとは

筆者は「外国出身者コミュニティ」を「何らかの共通点が見出される出身国別の集まり」と定義する。また、「レジリエンス」(Resilience)とは主に心理学で使われてきた言葉である。逆境に対処する、逆境を乗り越える、逆境で強くなる能力と筆者は訳している。欧米の移民研究は、移民のなかにレジリエンスを見出してきた。以下、日本のベトナム人コミュニティにおけるレジリエンスを検討する。

ベトナム人コミュニティにおけるコロナ禍のなかでのレジリエンス

在日ベトナム人数は、2010年の4万1354人から、2020年には44万8053人と10倍以上に急増している。この急増に寄与しているのが、技能実習生と留学生である。それぞれ、技能の習得、勉学を本来の目的としている。しかし、現実には日本人があまり働きたがらない業種での労働力不足を補填してきた。技能実習、留学には期限が存在する。換言すれば、技能実習制度、留学生30万人計画は、若年労働力を循環させながら、継続して受け入れる仕組みであった。

しかし、コロナ禍はその循環を不可能とした。ベトナム政府が、ベトナムにおけるコロナウィルス感染拡大を抑止するため、自国民であっても入国を制限したからである。ゆえに、日本で技能実習、留学を終えたベトナム人がベトナムに帰国できない(以下、帰国困難者)という課題が2020年以降発生してきた。

法務省は帰国できないまま在留期限の到来を迎える元技能実習生・留学生に対し、在留資格「特定活動」在留資格を付与した。その後、やや対応は遅れたものの、一時的な就労を認めるなど、柔軟な対応を取ったと評価できる。一方で、在留資格の付与以外に、帰国困難者を支える公的な仕組みは十分ではなかった。代わりに、帰国困難者を支えていたのがベトナム人コミュニティである。

日本のカトリック教会にはベトナム出身の神父・シスターが存在する。彼/彼女らのもとには生活に困窮した帰国困難者から支援を求める声が届いていた。カトリック川口教会(埼玉県・川口市)のシスターマリア・レーティラン氏と2人のベトナム人神父は、2020年3月から「一杯の愛のお米プロジェクト」を始動した。「米5kg、油1L、ナンプラー1L、砂糖1kg、ラーメン5個、カップラーメン2個、お菓子、ふりかけ、マスク2枚」を箱詰めして、帰国困難者の元に届けた。

写真 カトリック川口教会で食糧を箱詰するベトナム人

写真 カトリック川口教会で食糧を箱詰するベトナム人

(出所)レーティラン氏提供

帰国困難者のなかには路上生活を強いられた者も存在する。在日ベトナム仏教信者会代表理事のティック・タム・チー氏は食糧支援に加え、住む場所を失った帰国困難者への住居支援・帰国支援を展開した。自らが住職を務める大恩寺(埼玉県本庄市)に加え、千葉県に所在する日本語学校の学生寮を借り上げ、一時的に帰国困難者を住まわせた。何十名もの同胞の世話を続けるのは容易ではなく、大恩寺の尼僧は「毎日3時間睡眠」で支援を続けていると筆者に語った。

いずれも外国出身者コミュニティにおいてレジリエンスが構築された例であるといえる。

日本人側から外国出身者コミュニティを把握しようとしているか

外国出身者コミュニティが上記のように献身的な活動を展開した一方で、日本社会は外国出身者コミュニティをどこまで把握できているのであろうか。筆者は特定非営利活動法人CINGAが2021年10月に開設した「外国人新型コロナワクチン相談センター」の立ち上げに関わった。全国の都道府県・政令指定都市の「外国人相談ワンストップセンター」を対象に、どの程度外国出身者へのワクチン接種支援を行っているかを把握するため、電話でのヒアリング調査を行った。外国人相談ワンストップセンターにおける、外国人コミュニティ・支援団体との連携状況を探るべく、「ワクチン接種にとどまらず、県内に同行支援などをしてくれるNPO、支援団体、日本語教室などはありますか」という質問項目も設けた。この質問への回答(n=68)は「はい」が39件(50%)、「いいえ」が39件(50%)であった。「はい」と回答したセンターからは、外国人コミュニティの名前も具体的に挙げられた。一方、「いいえ」と回答したセンターからは、「ボランティア団体はあると思うが、詳細は把握していません」「市内に市民団体などあると思うが情報は把握していない」といった消極的な回答も見られた。もちろん、県内の外国人数が少ないという場合も考えられるが、日本人側から外国出身者コミュニティを知る努力をする余地はまだ十分に残されているのではないか。

外国出身者コミュニティの進化――国のちがいを超えて――

筆者は「外国出身者コミュニティ」を「何らかの共通点が見出される出身国別の集まり」と定義してきた。しかし、その定義を変える必要があるくらいに、外国出身者コミュニティはコロナ禍のなかで進化している。つまり、国を超えてきたのである。

カトリックのベトナム人修道者たちが始めた食糧送付プロジェクトでは、ベトナム人に限らず、申し出があれば、他の国籍の者にも送付をしてきたという。ベトナム人帰国困難者を日本語学校の学生寮で保護した際の家賃は、「ウニードス」というブラジルにゆかりがある送金会社がその費用の一部を寄付した。

出身国にかかわらず、外国出身者が日本社会において共に助け合う、そのような光景がコロナ禍のなか確かに存在したのである。

まとめ

コロナ禍は危機である。しかし、外国出身者コミュニティはコロナ禍のなかでレジリエンスをも構築していた。そして、そのレジリエンスは日本社会にも影響を与えている。

大恩寺は2021年4月に本庄市農業委員会委員長の協力のもと、「浄農園」を立ち上げ、自給自足を目指している。さらに、収穫した野菜で漬物を作り、近隣の困窮している家庭に配っている。もはや、外国出身者は「支援される」だけの存在ではない。コロナ禍は「支援する・支援される」の二項対立を超えて、日本人と外国出身者が「共に助け合う」社会を実現する必要性を知る機会にもなったのである。

(かとう じょうたろう/早稲田大学国際学術院)

本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。