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レポート・報告書

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.160 在日外国人コミュニティのCOVID-19感染拡大に備えるための情報ネットワーク調査(2)
「在住外国人の保健医療アクセスに関する課題 ――COVID-19ワクチン接種と感染者対応を中心に」

岩本あづさ、藤田雅美

2022年3月30日発行

PDF (666KB)

  • 「言葉の壁」の解決には、多言語通訳の拡充に加えて、文化や制度など日常生活上の様々な「壁」を
    乗り越えてきた全国各地の取り組みが参考になる。
  • 全国に設置されている「外国人相談」をさらに力づけ、様々なセクターとの連携を推進することで、
    当事者や相談窓口と保健医療とをつなぐことができる。
  • つないだ先に解決策がない場合、全国そして海外には解決・実現可能な好事例が複数存在すること
    を関係者が知ることで、ブレイクスルーが可能となる。

「持続可能な開発目標 Sustainable Development Goals(SDGs)」の10番目の目標「人や国の不平等をなくそう」の達成度を測る指標の一つは、「秩序のとれた、安全で規則的かつ責任ある移住や流動性を促進する移住政策を持つ国の数(10.7.2)」である。その構成要素の一つが「移民の権利」であり、「在留資格にかかわらずエッセンシャルな、あるいは緊急のヘルスケアにアクセスする権利が保証されているか」という項目に、日本国政府は「YES」と回答している。しかし、このシンプルな自己評価のみでは、移民の健康の実状は到底表現できていない。本稿では、保健医療アクセスの課題について、COVID-19ワクチン接種と感染者対応を中心に述べる。

在住外国人へのCOVID-19対応支援からみえてきた課題

日本に在住する外国人のうち、住民基本台帳に記載されている人たちには、健康保険への加入資格があり「新型コロナワクチンの接種券」が自治体から送付される。一方、住民基本台帳に記載されていない人たちには、健康保険への加入資格がなく、接種券を受け取るまでに様々な「壁」が存在するほか、新型コロナ検査を含む医療へのアクセスが難しくなる。筆者が参加する「みんなの外国人ネットワーク(MINNA)」は、セミナー開催等を通して収集してきた「検査・感染者対応」に関する事例を検討した。さらに、NPO法人「国際市民活動中心CINGA」が実施した「外国人新型コロナワクチン相談センター(COVIC)」の事例をもとに、接種券、予約、予診票記入などの各ステップにおける課題を在留資格別に整理した。その結果、以下に挙げる3つの課題が見えてきた。

1. 言葉の壁

外国人感染者の増加に伴って、「言葉の壁」解決のために、多言語音声翻訳機が、保健所、宿泊療養施設などで大きな役割を果たすようになった。さらにその後、保健所、医療機関、宿泊療養施設向けの電話通訳サービスの利用も拡大してきている。このような整備は進んできたものの、在留資格の有無を越えて「言葉」は今なお大きな壁となっている。

例えば、「接種券の入った封筒が届いても開封しない」「開けても読めない」という、日常生活の中での言葉の壁である。また、予約の際に生年月日を「和暦」で記入する、多言語予診票を日本語版に転記しなければならない、など、予診票の多言語訳だけでは解決できない壁があり、接種会場にたどり着いてもすべての手順において言葉の壁に阻まれる実態が分かってきた。

「言葉の壁」への対応には地域差がある。例えば、佐賀県国際交流協会では、実際に接種を受けたプロセスを詳細に書き取ったメモを元に、きめ細かい言語支援ツールが作成された。県内の接種会場において、すべての手順で使用可能な「指差しシート」や「例文集」は非常に実用的で、「佐賀弁でどのように説明するか」まで書かれている。COVIC開始前に実施した全国64か所の外国人相談ワンストップセンターへのヒアリングによれば、そのような活動をしているのは1割程度だったが、今後、佐賀の取り組みは全国で参考になる事例と言える。

2. 「つなぎ」の不足:外国人相談のさらなる活用が必要

「言葉の壁」が解決されても、個々の事例や外国人が抱える様々な困難を適切に解決できる担当者までつなげられないと、感染者対応やワクチン接種も進まない。新型コロナ・パンデミックが起こって間もない2020年3月の段階で、東京都生活文化局はこの課題に取り組んだ。外国人支援団体や関係者にメール調査を行って、雇用、教育、在留資格、差別、情報伝達等に関する状況を把握した上で、同年4月に「東京都外国人新型コロナ生活相談センター(TOCOS)」を開設した。TOCOSは、①東京都と②都の国際交流委員会、③NPO法人CINGAの三者共催で、「外国人相談」が必要に応じて相談事例を関係機関・組織に「つなぐ」役割を支援した。TOCOSの「つなぎ」により外国人の検査・医療へのアクセスが可能となった1例を紹介する。

「同居している8名の内の数人がPCR陽性となったため、健康保険のない同居人が保健所に連絡したところ『かかりつけ医を受診するように』と言われた。当事者が困ってTOCOSに相談してきた。他県からの相談だったため、東京のTOCOSからNPO法人CINGAに紹介する形をとり、担当する保健所に連絡をして事情を説明、『他の地域での対応』を知らせたら、すぐ家庭訪問をして検査をしてくれて、必要な医療にアクセスができた。」

COVID-19ワクチン接種についても、「つなぎ」は大きな役割を果たしている。2021年10月1日に開設されたCOVICは、ワクチン接種に困難を抱える全国の事例を外国人相談や自治体ワクチン相談につなぎ、課題解決を支援してきた。平日の毎日、相談員2名が電話対応をするほかに、ベトナム人チームによる母国語での対応も継続的に実施されている。接種券が自動的に送られて来ない「仮放免」や「短期滞在」の在留資格を持つ外国人からの相談が数多く寄せられている。厚生労働省は感染拡大防止の観点から、このような場合のワクチン接種に関する複数の事務連絡を出しているが、その事実を把握していない自治体が相当数あることが分かってきた。COVICは各自治体に、事務連絡の内容を丁寧に説明し、多くの相談者を接種につなげることが可能となっている。

接種券の発行に関して、「中長期滞在」はほぼ問題がなく、「短期滞在」や「仮放免」でも、つないだ先の自治体とのやりとりで、ほぼ発行可能となった。しかし、「超過滞在」者に関しては、自治体により対応が様々であり、事務連絡のさらなる周知と理解が必要と考えられる。

3. 「つないだ先に解決策がない」問題

超過滞在の人達へのワクチン接種の際、「壁」となるのは、本人確認書類、居住を確認する書類、そして公務員の入管への通報義務である。通報義務については、「感染拡大防止等の目的達成のため、通報するかどうかを個別に判断した結果、通報しないことも可能」という厚労省事務連絡が発出されているが、市町村の対応は大きく割れているという現実がある。

これまでの相談事例からは、「接種券を発行します、通報しません」という市町村は未だ少数で、「通報します」という自治体も多く存在する。こうした自治体に在住する多くの「超過滞在」者の多くにとっては、接種券に関して未だ「解決策がない」のが現状である。

こうした状況は、日本に固有のものではない。例えば欧州各国の非正規移民へのワクチン接種政策は、通報義務の扱いを含めて国ごとに大きな違いがある。日本が直面している課題はまさに、世界中が解決策を模索しているグローバル課題でもあると言え、国内外の先進事例を知ることがブレイクスルーにつながる可能性はある。

まとめ

外国人が必要な保健医療アクセスから「誰一人とり残されない」ために、私達は、SDGs 10.7.2 の観点から「移民の権利」について十分に理解し、できることから始める必要がある。具体的には、ある「壁」に突き当たった時に、組織や立場を越えた「顔の見える関係」をもとに、国内外の好事例を共有しながら解決策を模索できる場をつくることが求められていると考える。

(いわもと あづさ、ふじた まさみ/国立国際医療研究センター国際医療協力局)

本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。