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世界を見る眼

2019年

  • 香港と台湾――二つの社会が手を取り合うまで / 川上 桃子 香港で「逃亡犯条例」改正反対デモに端を発する大規模な抗議活動が始まってから、半年が経つ。この間、香港政府による「逃亡犯条例」改正案の正式撤回(9月14日)、大学キャンパスを舞台とする警察と学生の激しい衝突(11月半ば)、区議会議員選挙における民主派の圧倒的勝利(11月24日)と、事態はめまぐるしく動いてきたが、香港の人びとの「反乱」(倉田2019)が収束するめどはいまだ立っていない。この半年の間に逮捕拘束された人は6022人に達し、警察が発射した催涙弾の数は1万6000発に達した(2019年12月9日現在)。 2019/12/24
  • (中国の空は青くなるか?――資源エネルギーから見た低炭素社会への道――)第4回 天然ガスは中国に根付くか? / 森永 正裕 気付いたら連載第3回から1年が経っている。もはや「連載」とは言えないとお叱りの声も聞こえる。お詫び申し上げたい。気を取り直して「中国の空は青くなるか?」考えていきたい。第4回目となる今回は「天然ガス需給」の話をすることになっているが、その前に前回までのおさらいと、この1年間の状況に触れておく。 2019/12/11
  • 香港区議会議員選挙――「想定外」の結果が示す中国の情報収集の弱点 / 倉田 徹 11月24日投開票の香港区議会議員選挙は、驚くべき結果となった。投票率は71.2%と、区議会議員選挙はもちろんのこと、香港のあらゆる大型の選挙で史上最高を記録した。 2019/12/05
  • 「予想よりも早かった」ノーベル経済学賞 / 會田 剛史 2019年のノーベル経済学賞(正式にはアルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞)は、「世界の貧困削減への実験的アプローチ」に関する功績をたたえ、アビジット・バナジー(マサチューセッツ工科大学)、エスター・デュフロ(同)、マイケル・クレマー(ハーバード大学)の3氏に贈られた。いずれも開発経済学研究のトップランナーであり、その受賞自体には驚きはない。ただ、研究者の間では「予想よりも早かった」という評も多く聞かれる(黒崎2019、広野2019)。そこで、本稿ではこの「意外性」を手掛かりに、今回のノーベル経済学賞の背景を概観してみたい 。 2019/12/02
  • インドのRCEP撤退がアジア経済秩序に及ぼす影響――地経学的観点から / 浜中 慎太郎 アジアにおける国際経済秩序の構築に対する関心が高まっている。国際金融分野では中国主導でアジアインフラ投資銀行(AIIB)が2016年に設立された(浜中2016a)。貿易分野では米国が環太平洋パートナーシップ(Trans-Pacific Partnership: TPP)からの離脱をした後、日本主導でTPP11が2018年に発効した。もう一つのメガFTAである東アジア地域包括的経済連携(Regional Comprehensive Economic Partnership: RCEP)は2013年に交渉が開始されたが、今月4日にインドが交渉から離脱すると表明した。 2019/11/19
  • (サステナ台湾――環境・エネルギー政策の理想と現実――)第2回 温暖化対策・エネルギー転換の政策立案と法整備 / 鄭 方婷 第2回は、台湾における温暖化対策とエネルギー転換に関する主要な政策立案と法整備について、直近10年間の動向を紹介する。これまで政権交代などの政治的要因は、政策・法案を大いに推進する原動力ともなってきたが、一方でそれまで地道に積み上げてきた実績をリセットしてしまいかねないような事態も、現実として起こっている。こうした台湾政治と政策の現状を、脱原発に関連する事例を中心に論じる。また、現在の蔡英文政権が進める再生可能エネルギー政策の柱である太陽光と風力発電の開発状況を紹介し、懸念されるリスクなどについても触れる。 2019/11/13
  • それでもやっぱりペロニスタ?――2019年アルゼンチン大統領選予備選挙の分析 / 菊池 啓一 2015年の大統領選で決選投票のすえ勝利を収め、正義党(ペロニスタ党)に所属しない現職としては1983年の民主化以降初めての再選に挑戦している与党連合カンビエモスのマクリ大統領であるが、その実現は現時点では難しい状況にある。2019年8月11日に実施された予備選挙以前は「当初は正義党のアルベルト・フェルナンデス元官房長官(以下、フェルナンデス)がリードするかもしれないが、本選の決選投票では市場にフレンドリーな経済政策を志向するマクリの逆転が可能である」という見方が少なくなく、その立場は各世論調査によっても支持されていた 。しかし、かつて国家介入型経済を志向していたクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル前大統領(2007~2015年在職、以下、クリスティーナ) を副大統領候補とするフェルナンデスに予備選挙で15.99%ポイント のリードを許すと、予想外の結果に市場は激しく反応し、アルゼンチン・ペソは米ドルに対して1日で一時は34%下落した 。 2019/10/25
  • トルコのシリア侵攻――誤算と打算 / 間 寧 トルコは2019年10月9日、北東シリアに越境攻撃を開始した。その標的は、トルコがテロ組織と見なすクルド民主統一党(PYD)である。トルコはPYDがシリア側からトルコを攻撃することを防ぐため、国境沿いに幅30km、長さ480km程度の安全地帯を設定することなどを目的としている。トルコの空爆の対象は事前の諜報活動で特定したPYDの地下壕・トンネルや兵器庫であるが、民間人犠牲者の発生は不可避である 。このような事態はなぜ発生し、どのような顛末を迎えるのか。本稿はその答えへの糸口を、トルコおよびPYD双方の過去の誤算と現在の打算に求める。なお、過去40年にわたるクルド人武装勢力とトルコ国軍の紛争の経緯については文末の「解説」を参照されたい。 2019/10/18
  • 文在寅外交のキーパーソン――金鉉宗とは誰か? / 安倍 誠 日韓関係が悪化しているなかで、韓国政府内においてその存在が注目されているのが金鉉宗(キムヒョンジョン)大統領府国家保安室第二次長(60歳)である。今年7月に日本の経済産業省が韓国向け輸出管理運用の見直しを発表すると、すぐさまアメリカの政府関係者に日本による措置の不当性を訴えるために渡米した。帰国の際には「われわれの民族は国債補償運動 など危機を克服する民族の優秀性がある」と述べて、事態克服のために国民が立ち上がることを求めるかのような発言をおこなった。また対抗措置となる日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄の決定において大きな役割を果たしたとされる。日本のマスコミでは「民族派」とも称される金鉉宗次長とは、いったいどのような人物なのであろうか。以下、金鉉宗の著作『金鉉宗、韓米FTAを語る』 などから、彼の経歴、そして人となりを探ってみたい。 2019/09/27
  • 米中貿易摩擦の混乱が中国にもたらすもの / 箱﨑 大 米国の貿易赤字をめぐる米中の対立が激しさを増している。米国は8月1日、第4弾の対中関税賦課を発表し、消費財を含むほぼすべての対中輸入品の関税引き上げを決めた。その後、スマートフォンやノートパソコン、玩具など555品目は発動が12月15日に先送りとなったが、3243品目については予定どおり9月1日に引き上げられた。 2019/09/12
  • 「消費税を廃止した国、マレーシア」は本当か / 熊谷 聡 2018年5月9日に投票が行われたマレーシアの第14回総選挙では、与党連合・国民戦線が政権を維持するとの大方の予想を覆し、マハティール元首相が率いる野党連合・希望連盟(PH)が議席の過半数を占め、マレーシア史上初の政権交代が現実となった。これに伴い、事前にPHが発表していた選挙公約のひとつであった「消費税の廃止」が2018年6月1日に実現した。 2019/09/11
  • (フォーカス・オン・チャイナ)第6回 先鋭化する米中対立――「米中新冷戦」の争点 / 松本 はる香 「米中貿易戦争」や「米中新冷戦」といった言葉に象徴されるように、米中対立の長期化を懸念する声が国際社会にあがっている。とりわけ、2018年以来の米中間の関税の引き上げ合戦によって、米中関係の悪化が危ぶまれている。最近の米中対立は貿易問題にとどまらず、安全保障問題などの多岐にわたる分野にまで拡大しつつある。 2019/08/28
  • (2019年インドネシアの選挙)大統領選挙におけるイスラーム主義指導者の「闘争」 / 茅根 由佳 近年の東南アジア各国においては、選挙前に社会の顕著な「分極化」が生じている(川中 2019)。2019年4月17日に投票が行われたインドネシアの大統領選挙では、過去半世紀にわたって争われてきたイスラームの宗教観をめぐる亀裂が顕在化した。選挙に出馬したジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)とプラボウォ・スビアントは、それぞれ異なるイスラーム勢力を抱き込んだ 。ジョコウィは国内最大のイスラーム大衆組織ナフダトゥル・ウラマー(NU)に接近した。現NU執行部は他宗教との共存を前提とした宗教的多元主義を掲げ、イスラーム主義を「過激派」と呼んで攻撃した 。他方でプラボウォは、イスラーム主義勢力を取り込んだ 。インドネシアのイスラーム主義勢力は、多数派であるムスリムの共同体(ウンマ)の利益が優先されるべきであると唱え、宗教的多元主義は宗教間の平等を説く点で誤りであるとして否定してきた。かねてから現職のジョコウィに批判的だったイスラーム主義勢力は、ジョコウィ政権に「反イスラーム」のレッテルを貼った。つまり、両候補者の支持基盤であるイスラーム勢力が互いを攻撃しあったことにより、分極化が進行したということである。 2019/08/21
  • 香港「逃亡犯条例」改正反対デモ――香港の「遺伝子改造」への抵抗 / 倉田 徹 刑事事件容疑者を香港から中国大陸・台湾・マカオにも引き渡すことを可能とする「逃亡犯条例」の改正をめぐり発生した、香港の抗議活動が止まらない。6月9日の「103万人デモ」(主催者側発表)以来、毎週各地で大規模なデモ行進・集会が発生し、7月以降は警察との衝突による催涙弾の使用も半ば常態化した。8月5日にはゼネストが発動され、鉄道・バスの運休に加え、香港空港発着の200便以上が欠航となった。 2019/08/15
  • (サステナ台湾――環境・エネルギー政策の理想と現実――)第1回 過渡期にある温暖化・エネルギー転換対策 / 鄭 方婷 2019年5月17日、台湾の立法院(国会に相当)で同性カップルによる婚姻登記を認める「司法院釈字第748号解釈施行法」が可決され、アジア初となる同性婚合法化が実現した。この出来事に象徴されるように、近年台湾では、ラディカルなトランジション(転換)を求める現民進党政権が、強固な政治的支持を背景に両岸関係や年金など様々な問題に挑んできた。環境やエネルギー問題もその例外ではなく、大気汚染や気候変動・温暖化、脱原発、太陽光・風力発電などの再生可能エネルギーの推進政策に関する動向は注目に値する。そこで今回の連載企画では、台湾の政府・地方自治体レベルでの気候変動・温暖化対策と、これと密接に関わるエネルギー・トランジション(以下、エネルギー転換)政策をクローズアップし、関連する産業界、市民コミュニティやNGO等の活動にも目を向けていきたい。 2019/08/14
  • (2019年インドネシアの選挙)ポスト・トゥルース時代の政治の始まり――ビッグデータ、そしてAI / 岡本 正明 2019年4月17日に投票が行われたインドネシアの選挙は、1998年の民主化後のこれまでの選挙と大きく様相を異にしている。ひとつの特徴は、オンライン空間で真偽ないまぜになった候補者情報が大量かつ迅速に拡散したことである。2つ目の特徴は、2組の正副大統領候補のどちらも積極的にサイバースペースで選挙キャンペーンを繰り広げたことである。選挙戦ではインフルエンサー、ブザーが大活躍し始めた。3つ目の特徴は、サイバー空間での選挙戦の本格化にともない、とりわけ、現職のジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領陣営は、積極的にAIによる機械学習でオンライン・メディア、ソーシャル・メディアの大量の情報(ビッグデータ)の分析を行い、有権者の真の声の理解に努め始めたことである。そのうえで、4つ目の特徴として、民間企業並みのマイクロ・ターゲティングの手法で個々の地域の実情に合わせた選挙キャンペーンを展開し始めた。本稿では、こうした特徴のなかでも1つ目と3つ目の特徴について解説する。 2019/07/29
  • The Nation終刊――タイ社会と新聞の寛容さをめぐる一考察 / 小林 磨理恵 タイの英字日刊紙『ザ・ネーション』(The Nation)が、48年の歴史に幕を閉じる。最初にそう報じたのは、同紙の記者たちだった。本年5月16日、かれらはFacebookに、「ついに、48年の歴史の最終章に入る」と別れの言葉を投じた。こうした動きを受けて、タイのオンライン・メディアは一斉に、The Nationの終刊を報じた 。「内部関係者の情報によれば、6月28日が最終号のようである」。当のThe Nationは、翌17日の朝刊で、ようやく自らの終わりを報じた。インターネットを通じた第一報から遅れること約一日。このギャップが、タイに限らず、世界中の新聞・雑誌を廃刊の瀬戸際に立たせる一因なのだろう。 2019/07/12
  • 試される一帯一路「債務の罠」の克服――中国-ミャンマー経済回廊の建設状況から考える / 石田 正美 2019年4月25~27日開催の第2回一帯一路首脳会議で、中国がインフラ支援相手国の財政面での持続可能性にも配慮する姿勢を示したことは、マレーシアのマハティール首相などからも好意的に受け止められた。この背景には、スリランカ政府が、ハンバントータ港の建設で中国から借りた13億ドルを返済できず、99年にわたる同港の運営権を中国国有企業に譲渡せざるを得なくなったことなどがある。欧米諸国は、こうした状況に対し「債務の罠」として中国を批判した。冒頭で述べた中国政府の支援相手国の財政規律に配慮するとの姿勢の変化は、こうした欧米諸国の批判を払拭するためのものであった。 2019/07/05
  • 2019年イスタンブル市長再選挙――業績と正義への投票 / 間 寧 6月23日にやり直されたイスタンブル(広域)市長選挙では、野党連合の共和人民党(CHP)候補エクレム・イマムオールが54.2%の得票率で与党連合の公正発展党(AKP)候補のビナリ・ユルドゥルム45.0%に9.2ポイント差をつけて当選した。取り消された3月31日の選挙では両候補の得票差は0.2ポイントでしかなかったことからすると、野党の大きな躍進といえる。投票率は84.5%で3月の83.9%から0.6%ながら上昇、夏休み開始時期にもかかわらず有権者の投票意欲は強かった 。 2019/07/02
  • 貿易だけではない貿易協定――労働法の執行を怠ると貿易協定違反になるのか? / 箭内 彰子 第二次大戦後の世界貿易体制の下で取り組まれてきた貿易自由化は、企業活動における国境の壁を低くし、サプライチェーンのグローバル化を推し進めてきた。そのサプライチェーンにおいて、近年、労働者の基本的人権の確立や労働条件の改善、あるいは環境保護を促進する動きが高まっている。2015年6月のG7エルマウ・サミットでも、「国際的に認識された労働、社会及び環境上の基準、原則及びコミットメント(特に国連、OECD、ILO及び適用可能な環境条約)が世界的なサプライチェーンにおいてより良く適用されるために努力する」ことが宣言された。こうした動きを反映して、二国間・地域間の貿易協定に、最低限の労働条件や労働者の権利を定める労働基準に関する規定、いわゆる労働条項を組み込むケースが急増している。 2019/06/25
  • (2019年インドネシアの選挙)社会運動が牽引したインドネシア大統領選の「分断」 / 見市 建 2019年インドネシア選挙は、1998年の政変を経て民主化時代に突入してから5回目の総選挙、4回目の大統領直接選挙であった。制度としての民主主義は定着したが、その民主主義の中身については多くの問題点が指摘されている。典型的なのは、民主化後も政財界には少数のエリートが居座り、寡頭制支配(オリガーキー)が行われているとの見方である。地方分権によって、地方でも相似形の支配体制が形成されているともいわれる。政治家と有権者の関係においては経済的な互酬関係(クライエンタリズム)が支配的だとされてきた。汚職の蔓延も公然の事実である。さらに法律の恣意的な運用によって、少数派の権利が抑圧される事例も後を絶たない。 2019/06/24
  • 米中貿易戦争とトランプ支持の現状――貿易戦争は投資・金融に飛び火するか? / 浜中 慎太郎 米中の貿易戦争が激しさを増しているが、本稿ではその影響や今後の見通しにつき、ワシントンにおける「雰囲気」を織り交ぜてお伝えしたい。 2019/06/20
  • 2019年のトルコ統一地方選挙(2)――もう一度イスタンブル / 間 寧 トルコの高等選挙委員会は、3月31日統一地方選挙のイスタンブル広域市長選挙結果を取り消すべきとの与党公正発展党(AKP)の異議申し立てを5月6日に認め、6月23日に同選挙をやり直す決定を、7対4の票決により下した。イスタンブル広域市長選挙で野党共和人民党(CHP)候補エクレム・イマムオールが他の野党の支持も得て僅差で勝利したことは、4年後に予定されている大統領・国会選挙で野党勢力の躍進に道を開いたとして注目を集めた。本稿ではその選挙結果が無効となった経緯と今後の展開を概観する(選挙結果については2019年4月の拙稿「トルコの2019年統一地方選挙――常勝与党の敗北感」参照)。

    2019/05/24
  • (2019年インドネシアの選挙)2019年インドネシア大統領選挙で何がおきたか――分断と凝集の政治ベクトル / 本名 純 2019年4月17日、インドネシアで大統領選挙が実施された。世界最大で最も「ややこしい」直接民主選挙と称され、国際的な注目も浴びた。1億9000万を超える有権者が直接選挙で大統領を決めるのは、間違いなく世界最大規模の民主選挙だ。それがなぜややこしいのか。理由は各種の議会選挙の投票が同時に実施されたからである。有権者は大統領選挙に加えて、国会議員、地方代表議会議員、州議会議員、県議会・市議会議員を選出するため、同じ投票所で5種類(ジャカルタ首都特別州は県・市がないので4種類)の投票を同時に行う。 2019/05/21
  • スリランカ連続爆破テロの背景 / 荒井 悦代 スリランカで痛ましい事件が起こってしまった。4月21日の日曜日、3つのキリスト教教会と3軒の高級ホテルを含む8か所で爆弾テロが発生した。うち6件は首都コロンボで起こっている。 2019/04/26
  • ストライキの季節?――総選挙を前にしたインドの労働戦線 / 太田 仁志 インドでは間もなく、5年ぶりの連邦下院選挙が実施される。選挙年である今年の労働運動のシーンは、4つの大きなストライキで幕を開けた。一般にストライキは労働条件の改善(=経済事項への関心)が主要目的であるが、インドの全国レベルの労働運動、とりわけ労働戦線は長らく政治の動向に影響を受けている。ナレンドラ・モディ首相を首班とするインド人民党(BJP)/国民民主連合(NDA)政権が5年の任期を迎えるなか、インドの労働はどのような状況にあるのだろうか。小稿では年初の4つのストライキを概観したのち、労働の領域における民主主義=産業民主主義に関する現政権のスタンスの評価を試みる。その結論は、現政権下ではインドの民主主義が後退しているという評価が多いなかで、労働面でも民主主義が後退していることを示すものであるといえる。 2019/04/15
  • トルコの2019年統一地方選挙——常勝与党の敗北感 / 間 寧 トルコにおいて統一地方選挙が2019年3月31日に実施された。高等選挙管理委員会が公表した非公式結果(開票率100%)によると、与党連合(公正発展党[AKP]と民族主義者行動党[MHP])の全国得票率(県議会選挙得票率を基準)は51.6%(AKPが44.3%、MHPが7.3%)で、2018年6月の国会選挙での与党連合の得票率53.7%(42.6%と11.1%)を2ポイント下回った 。 2019/04/15
  • 中国からの輸入増は米国の雇用喪失につながるか――米中貿易摩擦に関する有識者との意見交換を通じて / 孟 渤・箱﨑 大 米中貿易摩擦が世界の注目を集めており、その激しい攻防は米中貿易「戦争」とも言われる。これを機に、21世紀の国際ガバナンス及び国際ルール形成の構図は大きく変わるだろう。米中貿易摩擦の問題は、経済学、政治学、社会学など多方面から議論が可能だが、本稿では国際経済学の視点から解説する。本稿の内容は、コロンビア大学のShang-Jin Wei教授らとの意見交換、そしてアジア経済研究所と世界貿易機構(WTO)、世界銀行、経済協力開発機構(OECD)、グローバル・バリューチェーン研究院、中国発展研究基金会との連携研究「グローバル・バリューチェーンにおける技術革新の役割(I、II)」の成果等に基づいている。 2019/04/12
  • 「世界最大の民主主義」はどこへ向かうのか――2019年インド総選挙(後編) / 湊 一樹 2014年4~5月に行われた前回総選挙は、インド人民党(BJP)の圧勝と国民会議派の歴史的惨敗という結果に終わり、10年ぶりに政権交代が実現した(詳しくは、本論考の前編を参照)。 2019/04/11
  • (2019年インドネシアの選挙)熱狂的な支持のなかで――ジョグジャカルタからの大統領選キャンペーン報告 / 土佐 美菜実 2019年4月17日の大統領選挙を前に、インドネシアでは著名人や特定の団体による候補者への支持表明が注目を集めている。特に、インドネシアは国民の多くがイスラーム教を信仰しているため、著名なイスラーム指導者たちの支持宣言は彼らを敬う一般のイスラーム教徒たちに影響を与え、票の行方を左右するとされている。 2019/04/09
  • (2019年インドネシアの選挙)インドネシア大統領選をどう見るか / 川村 晃一 インドネシアの大統領選挙は2019年4月17日に投票日を迎える。選挙戦が始まった2018年9月から2019年3月までの半年間は、組織固めなどの選挙運動が中心だったこともあり静かな展開だったが、3月24日から屋外での大衆動員をともなった選挙運動が解禁され、いよいよ選挙戦も熱を帯びてきた。投票日が迫ってきた2019年の大統領選を見る際のポイントはどこか。3つの観点から考えてみる。 2019/04/09
  • ベネズエラ危機の真相――破綻する国家と2人の大統領 / 坂口 安紀 169万パーセントのインフレ、5年連続マイナス経済成長、3年間で総人口の1割(300万人)以上の国民が国を脱出、5日におよぶ全国停電。これらが起きているのは戦下の国ではない、南米ベネズエラだ。さらに今年1月以降は2人の大統領が並び立つという異常な事態にある(写真1)。 2019/04/05
  • キューバ研究者が見たハイチ(3)・終――美味なハイチの料理 / 山岡 加奈子 これまで2回にわたって現地調査報告を綴ってきたが、最後にハイチの食事について触れておきたい。 2019/03/28
  • キューバ研究者が見たハイチ(2)――革命の国の博物館と市場 / 山岡 加奈子 前回の記事で紹介した講演の翌日、キスケヤ大学のC教授が国立パンテオン博物館に連れて行ってくださった。博物館では中央部に1804年のハイチ独立前後の英雄4名の墓を作り、その周囲にハイチのコロンブス到達以前の時代(先コロンブス時代)からデュバリエ独裁時代までを表すさまざまな歴史的遺物を展示している。昨年、テニス選手の大坂なおみさんが、ハイチ政府の招待で2度目となるハイチ訪問を果たしたが、短い滞在の中で、彼女がハイチのモイーズ大統領と共に訪れたのがこのパンテオン博物館である。 2019/03/22
  • 「世界最大の民主主義」はどこへ向かうのか――2019年インド総選挙(前編) / 湊 一樹 連邦議会下院の任期満了まで2カ月あまりとなった2019年3月10日、第17次連邦下院選挙の日程が選挙委員会より発表され、本格的な選挙戦がインドで始まった。今回の総選挙では、4月11日から5月19日にかけて7段階に分けて投票が実施され、5月23日に543のすべての選挙区について一斉に開票が行われる。選挙委員会によると、登録されている有権者の数は、5年前の前回総選挙よりも8,400万人ほど多い約9億人にのぼる 。世界で最も有権者の多い選挙であることはいうまでもない。 2019/03/20
  • キューバ研究者が見たハイチ(1)――キスケヤ大学での講演 / 山岡 加奈子 筆者は2018年11月、カリブ海に浮かぶ島国であるハイチを訪問した。研究地域としてキューバを30年近く担当しているが、キューバのすぐ隣にあるハイチには、ずっと近寄れずにいた。「中南米の最貧国(人心が荒れていそう)」「公用語がフランス語かクレオール語(言葉が通じない)」「スペイン語圏と異なり、アフリカ文化が主流の国。公用語のフランス語はスペイン語と同じラテン語から派生した言語だが、文化的にはラテンアメリカではなく、アフロアメリカ。全然違うよ(不安)」「ブードゥー教が支配的(ゾンビは怖い)」……等々、無知と偏見に固まって、近寄れないままに長い時間が経過していた。 2019/03/14
  • (2019年タイ総選挙)2017年憲法の議会・選挙制度からの検討 / 今泉 慎也 近年のタイの政治的混乱は、2006年のクーデタで追放されたタクシン元首相を支持する勢力と反タクシン派との対立を一つの軸に展開してきた。 2019/02/27
  • 文在寅政権の経済学――「所得主導成長」とは何か / 安倍 誠 韓国の文在寅(ムンジェイン)政権は発足当初から、「所得主導成長」、「公正経済」、「革新成長」を経済政策の3つの柱として、最近ではこれらを合わせて「人間中心の経済」あるいは「(革新的)包容国家」と称している。3つのうち、公正経済とは従来、「経済民主化」と呼ばれてきた、財閥・大企業への経済力集中の抑制、濫用の防止、さらにそのオーナー家族による専横の防止を指す。また革新成長は技術革新の促進を通じて成長を実現しようとするもので、前政権が掲げた「創造経済」に近い概念といってよいだろう。これらふたつとは異なり、所得主導成長は文在寅政権が新たに打ち出した経済政策である。本稿は、政策主導者が政権発足前に所得主導成長をどのようなものとして構想していたのかを紹介するとともに、それが発足後に具体的な政策として導入された際にどのような展開をみせたのかを明らかにする。 2019/02/26
  • ベトナム・コーヒー産業の課題――原材料供給国からコーヒー加工国へ―― / 荒神 衣美 コーヒーはベトナムにとって、コメ、水産養殖品とならぶ主要な輸出農産品である。1986年のドイモイ開始以降、ベトナムのコーヒー輸出量は飛躍的に増加した。ベトナムは2000年から現在に至るまで、世界第2位のコーヒー輸出国の地位を維持している(図1)。 2019/02/20
  • (2019年タイ総選挙)3月24日選挙の重要性――The Significance of March 24 Election in Thailand / トンチャイ・ウィニッチャクン 2019年3月24日、タイでは選挙が行われようとしている。
    今回の選挙もまた、クーデタ、軍政、新憲法制定から新たな選挙へ、そして民主主義の失敗から次のクーデタへと繰り返してきた歴史の一部なのだろうか。タイでは、選挙はしょせん茶番なのか。
    2019/02/13
  • (2019年タイ総選挙)特集にあたって――タイは民主主義とクーデタのサイクルから抜け出せるのか / 青木 まき 2019年、タイでクーデタ後はじめての選挙が行われようとしている。スケジュール通りに進めば、3月24日に投票が行われ、5月には約5年ぶりに議会政治が復活する。2014年から軍事政権下にあったタイが、民主主義国としての体裁を再び整える、その決定的なステップが3月の選挙である。 2019/02/13
  • 2018年インドネシアの十大ニュース / アジ研・インドネシアグループ アジア経済研究所では、インドネシアを研究対象とする研究者が毎週集まって、最新の出来事を現地新聞・雑誌などの報道に基づいて報告・議論する「インドネシア最新情報交換会」を1994年から続けています。毎年末には、その年のニュースを振り返って、私たち独自の「十大ニュース」を考えています(参考:「2017年インドネシアの十大ニュース」)。 2019/01/25