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世界を見る眼

2022年

  • (2022年中国共産党第20回党大会)第3回 権力の伝統に回帰する中国政治――中国共産党第20回党大会の成果と第3期習近平政権の展望 / 鈴木 隆 2022年10月16~22日の1週間にわたり、中国共産党第20回全国代表大会(以下、20回党大会と略記)が開催された。大会では、習近平総書記が、「中国の特色ある社会主義の偉大な旗印を高く掲げ、社会主義現代化強国の全面的建設のために団結奮闘しよう」と題する、向こう5年間の施政方針演説、いわゆる政治報告を発表した。また、新任の中央委員の選出と党規約の改正も行われた。 2022/12/19
  • 選挙の争点として顕在化したシリア難民問題――トルコ人の間で燻る不満 / 今井 宏平 トルコが隣国シリアの難民を多数受け入れているのは周知の事実である。2010年3月にシリア内戦が勃発した翌月からシリア人を受け入れ始め、2022年11月現在でも約363万人のシリア人がトルコに滞在している。彼らは命の危険を感じており、また同じムスリムという共通点もあることから、トルコ人はシリア難民を客人として受け入れてきた。当初、シリア難民は難民キャンプに滞在していたが、次第に難民キャンプを離れ、主に大都市もしくはシリアに近い南東部の都市に移り住むようになった。難民キャンプはシリア人だけの生活空間であったが、キャンプの外での生活は、トルコ人との共存を意味した。 2022/12/14
  • (2022年中国共産党第20回党大会)第2回 「習近平一強体制」と人民解放軍――個人支配の強化と党軍関係 / 林載桓 10月に行われた第20回党大会において総書記習近平の続投が確定し、習近平政権第三期目が始まった。大会の前から「ほぼ確実」とされたものが現実になっただけであるが、その意味は決して軽くない。今回の党大会の結果は、改革開放以降、中国のエリート政治を安定させてきた一つの制度が崩壊したことを公にした。その制度とは、リーダー間の権力分有、および権力継承のあり方を決めていた集団指導体制である。 2022/12/07
  • (混沌のウクライナと世界2022)第12回 アメリカの戦略転換と地域紛争――ロシア・ウクライナ戦争の影響とその展望―― / 玉置 敦彦 2022年2月24日、ロシアはウクライナに対する全面進攻を開始した。前年秋より国境に展開していたロシア軍が、「特別軍事作戦」と称して、ウクライナ東部のみならず、首都キーウを含めた全土への侵略を図ったのである。しかしながら、当初は圧倒的不利にあると予期されたウクライナ軍は善戦を続け、戦況は長期化の様相を呈している。本稿執筆時点(2022年11月初旬)でウクライナ軍は反攻に転じて久しく、他方でロシアは動員の強化に追い込まれ、前線では激しい戦闘が続いている。 2022/11/21
  • 否定的党派性と2022年ブラジル大統領選 / 菊池 啓一 2022年10月30日、ブラジルの今後を大きく左右する大統領選決選投票が実施された。電子投票を通じて集約された有権者の声は即日開票され、有効票の50.9%を獲得した労働者党(PT)のルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ元大統領(以下、ルーラ)の返り咲きが決まった。しかし、有効票の49.1%を得た現職のジャイール・ボルソナロ大統領(自由党、PL)との差はわずかであり、選挙結果に不満を持つボルソナロ支持者が道路封鎖や通行の一部妨害を行った。また、すでに政権移行チームが発足し、2023年1月1日の新政権発足に向けた動きが進んでいるが、首都ブラジリアの陸軍総司令部前や各地の地域軍司令部前などでは軍の介入に期待するデモも断続的に発生している。 2022/11/17
  • 30年来の権力闘争に最終決着か?――2022年マレーシア総選挙 / 中村 正志 マレーシアの連邦議会が10月10日に解散した。これにともない、独立後15回目となる総選挙が11月19日に行われる。ここ数年、マレーシアでは連立政権の内紛が繰り返し生じていることから、今回の選挙が政権の安定性を回復することにつながるか注目されている。 2022/11/07
  • 予測と異なったブラジル大統領選挙の第一回投票 / 近田 亮平 ブラジルでは2022年10月の第一日曜日となる2日、大統領をはじめ、下院議員と一部の上院議員、州知事と州議会議員を選出する4年に一度の選挙が行われた。大統領選挙では、第一回投票で有効票の過半数を獲得する候補がいない場合、10月の最終日曜日に決選投票が行われることになっている。事前の多くの世論調査での支持率では、かつて政権与党だった左派の労働者党のルーラ元大統領が40%強で最有力候補であり、現職のボルソナロ大統領が約30%で2番目につけ推移していた。そして投票日の直前に、10%ほどの投票先が未定の人などを除く、選挙の「有効票」と想定される回答に絞った世論調査において、ルーラの予想得票率が50%を超えたため、第一回投票で決着がつくのでは、との見方が強まった。 2022/10/14
  • イスラーム主義武装勢力に直面するブルキナファソ / 佐藤 章 2021年8月にアフガニスタンで起こったタリバンの軍事的攻勢、合法政府(アフガニスタン・イスラーム共和国)の崩壊、タリバンによる国家権力の掌握というできごとは、イスラーム主義武装勢力が持ちうる政治的影響力の大きさをまざまざと映し出した。 2022/09/27
  • (2022年中国共産党第20回党大会)第1回 第20回党大会の注目点 / 内藤 寛子 2022年秋に中国共産党第20期全国代表大会(第20回党大会)が開催される。党大会は5年に一度開催され、そこでは重要な政策課題が議論されるとともに、党規約の修正や中央委員会および中央紀律検査委員会の選挙が実施される。くわえて、党大会直後には中央委員会第1回全体会議(1中全会)が開催され、中央委員のなかから25名前後の政治局委員と、さらにそのなかから7名の政治局常務委員が選出される 。第20回党大会およびその直後の1中全会は、中国共産党による政治運営を展望するうえで、とくに注目される政治イベントといえよう。なかでも今大会では、習近平の続投が確実視されており、1990年代から続いてきた「制度化された政権交代」が変化する可能性が高い。このような変化は、今後の中国政治の予測をより一層難しくさせるだろう。 2022/09/07
  • 動き出すタイ政治――次期下院選挙の対立軸を考える / 青木(岡部)まき タイ政治が動いている。2022年8月24日、憲法裁判所は、プラユット首相の任期満了時期をめぐる野党からの訴えを受けて、プラユットに対し公務停止命令を下した。首相や連立与党第1党パラン・プラチャーラット党(PPRP)の支持率は、新型コロナウイルス対策や景気回復の遅れにより低下している。連立政権内では閣僚ポストなどをめぐって不協和音が続き、PPRP党内でも議員の離党が続いた。首相はこれまで4度の不信任案審議を乗りきったものの、2023年半ばまでに行われる次期下院選挙を控え、足元は大きく揺らいでいる。 2022/08/30
  • 金正恩時代のミサイル発射と軍事パレード / 中川 雅彦 金正恩時代に入ってから多くの「弾道ミサイル」の発射が観測されている。この「弾道ミサイル」は朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)における発射が確認された飛翔体のことであり、実際には弾道ミサイルばかりではなく、多連装ロケットや巡航ミサイル、迎撃ミサイル、人工衛星なども含まれる。朝鮮の「弾道ミサイル」発射に関する韓国軍合同参謀本部の発表の件数と発射数を数えてみると、2013年に3件6発、2014年に16件195発、2015年に8件32発、2016年に7件12発、2017年に15件23発であり、南北関係、朝米関係が好転した2018年には0件0発になった。しかし、2019年には再開されて12件20発、2020年に4件9発、2021年に4件7発となり、2022年には6月末までに15件29発と発射回数が増加している。 2022/08/29
  • 独裁強化と世襲に動くカンボジア政治――2022年コミューン評議会選挙がもつ意味 / 山田 裕史 フン・セン首相率いるカンボジア人民党の長期支配が続くカンボジアでは、2022年6月5日に第5期行政区・地区評議会(以下、コミューン評議会)選挙の投開票が実施された。2017年の最大野党・救国党の解党と2018年の第6期国民議会議員選挙(以下、総選挙)における人民党の全議席独占後、初めての直接選挙であり、四分五裂の状態に陥った旧救国党勢力がどの程度まで反人民党票を取り込めるかが注目された。 2022/08/18
  • 激変する太平洋地域の安全保障環境と太平洋島嶼国――パシフィック・ウェイに基づく協調行動は可能か / 片岡 真輝 2022年7月9日、太平洋島嶼国のキリバスが太平洋諸島フォーラム(PIF)から脱退することを表明した。PIFは1971年に設立された南太平洋フォーラムを前身とする地域協力機構である。キリバスのPIF脱退宣言が明らかにしたのは、太平洋島嶼地域で築かれてきた協調の伝統の維持が困難になりつつある現実である。その背景には、複雑さが増した太平洋島嶼地域の安全保障環境がある。近年、米中双方が積極的に太平洋島嶼国に関与していることから、太平洋地域が米中対立の最前線のひとつとして認識されるようになっている。しかし、アメリカや中国の意図や大国間競争にばかり注目が集まりがちであり、太平洋島嶼国がどのように反応しているかについての分析は少ない。本稿はこれまであまり鑑みられることがなかった太平洋島嶼国の状況や視点も交えつつ、同地域の安全保障環境を概観する。 2022/08/08
  • スリランカの政治・経済危機――ラージャパクサ一族支配の崩壊か? / 荒井 悦代 スリランカでは、2022年初めより外貨不足に起因する燃料不足やガス不足によって長時間の停電、激しいインフレが発生して国民生活を圧迫した。4月には、政府が事実上の債務不履行(デフォルト)を宣言した。その後、反政府デモが多数の参加者を集め長期にわたって行われ、大統領と首相を辞任に追いこみ、7月20日、新たにラニル・ウィクレマシンハが大統領に就任した。この運動(シンハラ語で「闘争」を意味する「アラガラヤ」と称される)は非常に興味深いが、ここでは分析の対象にしない。本稿では、経済危機と政治危機のただなかで政治家がどのような判断を下したか、に注目する。今後のスリランカ政治を見るうえで、重要な意味をもってくると考えられるからだ。 2022/07/28
  • (混沌のウクライナと世界2022)第11回 ウクライナ戦争下の中央アジア――ロシアの「影響圏」での綱渡り / 齋藤 竜太 2022年2月24日に発生したロシアによるウクライナ侵攻は、7月現在、事態好転の見通しが立たない。悪化する現地の人道状況や、問い直される国際秩序のあり方など、さまざまな次元で大きな衝撃を国際社会に与え続けている。 2022/07/12
  • (混沌のウクライナと世界2022)第10回 ウクライナ・ロシア戦争とインドのバランシング外交 / 近藤 則夫 2月24日にロシアがウクライナに侵攻したのはインドにとっても驚きであった。欧米などはロシアを非難し、経済制裁、軍事支援を加速している。対照的なのがインドでロシアと欧米諸国の間で巧みにバランシングをとっているように見える。この小論ではインドが置かれた戦略的環境のなかで、インド人民党(BJP)のナレンドラ・モディ首相率いる国民民主連合(NDA)政権がこの戦争にどう対応しているか分析してみたい。まずインドとソビエト連邦(ソ連)/ロシアの歴史的関係を振り返った後で、インドがロシア、アメリカなど西側諸国、そして中国など大国がおりなす国際関係のなかでどのような位置を確保してきたか整理し、最後に展望を述べてみたい。 2022/07/08
  • 少数与党のくびきにあえぐ尹錫悦政権――保守・進歩間協治の模索 / 奥田 聡 2022年3月9日、韓国では大統領選挙が行われた。事実上の保守・進歩の一騎打ちとなったが、保守野党「国民の力」から出馬した尹錫悦(ユン・ソンニョル)候補が得票率47.83%で勝利を収めた。次点の進歩与党「共に民主党」(以下、民主党)の李在明(イ・ジェミョン)候補との得票率の差はわずか0.73ポイント、まさに薄氷を踏むような勝利であった。 2022/07/01
  • (混沌のウクライナと世界2022)第9回 未承認国家 沿ドニエストル共和国――ソ連解体の落し子、ロシア介入の起源 / 松嵜 英也 ロシア・ウクライナ戦争の終わりが見えないなかで、ウクライナの隣国モルドバのなかに位置する沿ドニエストル共和国が注目されている。そのきっかけは、ロシア連邦中央軍管区副司令官ミンネカエフ少将の発言にある。彼によると、ウクライナにおける「特別軍事作戦」の第2段階は、同国東部のドンバス地方と南部の掌握であり、そこに沿ドニエストルを加えると、クリミアへと向かう陸の回廊が出来上がる 。それによって、ロシアはウクライナ軍や政府を弱体化させられるというものである(Шустрова 2022)。 2022/06/30
  • (混沌のウクライナと世界2022)第8回 ロシアのウクライナ侵攻が台湾問題にもたらす影響 / 松本 はる香 ロシアのウクライナ侵攻以来、中国の台湾への武力行使の可能性が注目を集めている。近い将来、中国による台湾への軍事侵攻は起きるのだろうか。本稿では、ロシアによるウクライナ侵攻に対する中国側の姿勢を明らかにするとともに、台湾問題に及ぼす影響について検討したい。その際、台湾海峡を挟んで対立してきた中国と台湾の歴史を振り返りつつ、「台湾有事」を阻止するために、いかなる方策を取るべきなのかについても探りたい。 2022/06/29
  • 選挙と野合――トルコにおける野党合意の力学 / 間 寧 トルコでは2023年6月までに大統領・議会の同時選挙が予定されている。この同時選挙はこれまでにも増して大きな重要性を持つ。もし野党が勝利すれば20年続いたエルドアン政権が終わるのみならず、野党合意に従って現在の集権的大統領制が議院内閣制に移行する見込みだからである。現時点で大統領選挙の候補者は与野党とも発表されていないが、2022年の世論調査では野党連合の支持率が与党連合の支持率を上回る状態が続いている。野党合意はこの世論支持を統一候補の得票に転化できるのか、それとも単なる野合に終わるのか。本稿では選挙の仕組みと争点、与野党の戦略、選挙後のシナリオについて論じる。 2022/06/28
  • 独裁者一族の復権 ――フィリピン・マルコス政権の成立をどう見るか / 川中 豪 ある世代の人々にとって、1986年2月にマニラ首都圏で起こった民主化は、強烈な印象とともに記憶されているだろう。1983年にマニラ国際空港で野党指導者ベニグノ・アキノJr.が暗殺されるという衝撃的な事件から、大規模な反政権運動にさらされていたフィリピンのフェルディナンド・マルコス権威主義体制は、1986年2月の大統領選挙をきっかけに崩壊した。大統領選挙での不正行為、それに抗議する選挙管理委員会職員の職場放棄、軍のクーデタ未遂と基地立てこもり、カトリック教会の呼びかけに応じた大規模な大衆行動、マルコスのハワイへの逃避、マラカニアン宮殿(大統領府)に残されたイメルダ夫人の大量の靴と、これ以上ない劇的な事件の連続で、世界中のメディアがこれを大きく取り上げた。これでフィリピンの人々は救われた、というのが、そのとき多くの人々が持った率直な感想だったのではないだろうか。 2022/06/27
  • (混沌のウクライナと世界2022)第7回 ウクライナ危機の長期化による習近平政権の誤算と調整 / 江藤 名保子 2022年2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始してから3カ月以上が経過し、さらなる長期化が懸念されている。この間、欧米諸国はロシアに対して国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除を含む強力な経済制裁を科し、ウクライナへの人的・軍事的支援を段階的に強化してきた。5月にはスウェーデンとフィンランドが北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請し、欧州政治の歴史的な地殻変動が進行中である。 2022/06/20
  • クルド・ナショナリズム揺籃の地としてのスウェーデン――二つの社会制度と民族性の承認 / 能勢 美紀 スウェーデンとフィンランドのNATO加盟について、トルコのエルドアン大統領が反対の意向を表明している。反対の理由は、両国が「(クルド人の)テロリストを匿っている」ことと、2019年のトルコ軍による北東シリアへの越境攻撃を機にトルコへの制裁(武器の禁輸措置等)を行っていることの主に2点である。トルコが越境攻撃を行ったのは、PYD(クルド民主統一党)へ打撃を与えるためで、トルコは、PYDを米国、EUがテロ組織と認定しているPKK(クルディスタン労働者党)の姉妹組織とみなしている。すなわち、この2つの理由は「クルド人勢力の拡大に対する懸念」という点でつながっている。なかでもスウェーデンに対して、エルドアン大統領は、2022年5月16日の会見でテロ組織の「揺籃の中心地」(kuluçka merkezi)であると呼び、スウェーデンに(PKKと結びつきがあるとエルドアン大統領が考える)クルド系国会議員がいることや、クルド系の活動家らがスウェーデンの国会に招致されたことなどを強い口調で非難した 。 2022/06/10
  • (混沌のウクライナと世界2022)第6回 ウクライナの「中立」は買えた――ロシア天然資源外交の興亡 / 藤森 信吉 2022年2月24日、プーチン・ロシア大統領は、北大西洋条約機構(NATO)が「ロシアの歴史的領土であるウクライナ」を踏み台にしてロシア攻撃のタイミングをうかがっているとして、「安全保障上の脅威」を第一の理由に挙げてウクライナ侵攻を開始した 。そもそもロシア、ウクライナはともに旧ソ連諸国であり、ソ連時代の人的・経済的関係やインフラ、言語・文化・歴史の共通性を有してきた。そのため、ロシアはウクライナに対し、通常の国家間以上に豊富かつ効果的な梃子を有していた。ソ連時代の両国にまたがる分業生産体制は、独立後も維持され、両国間の貿易関係を下支えした。日常生活でロシア語はウクライナ語と同程度に利用されており、両国エリート間のコミュニケーションやウクライナ世論へのモスクワ・メディアの浸透を容易にした。また、「大祖国戦争 」はロシア人とともに勝ち抜いた輝かしい歴史として記憶されており、対ロ感情は悪くなかった。 2022/06/09
  • ナショナルインターネットゲートウェイ導入で強化されるカンボジアの言論統制 / 新谷 春乃 カンボジアでは比較的自由と考えられてきた言論環境に対する統制が徐々に強まっている。2021年2月、政令第23号に基づきナショナルインターネットゲートウェイ(National Internet Gateway、以下NIG)の導入が決定された。これは、すべてのプロバイダがインターネット通信サービスを提供する際、国が管理する接続ポイントを介さなければならない仕組みであり、中国の「グレート・ファイアウォール」に類似する。政府による事実上のインターネット検閲として、国内外の人権団体やジャーナリストから懸念が示されている。 2022/06/02
  • (混沌のウクライナと世界2022)第5回 ロシアのウクライナ侵攻とイスラエル――「曖昧」路線の舞台裏 / 池田 明史 2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻に際して、イスラエルは一方で基本的に「中立」の立場を闡明(せんめい)しつつ、他方ではいち早くウクライナに対する人道的支援に着手するという曖昧な姿勢に終始することとなった。戦災を逃れた避難民への医療資材や生活必需品の搬入とともに、ウクライナ国内に野戦病院を設営し、交替制で医療チームを送り込むなどの迅速な行動は、必ずしも厳正中立を唱道する国家の施策ではない。実際、イスラエルは国連総会でのロシア非難決議(3月)や人権理事会でのロシアの理事国資格停止決議(4月)には賛成票を投じたが、拘束力を持つ安全保障理事会のロシアを非難し軍の即時撤退を求める決議案には署名せず、米国から批判されている(Daoud 2022; Abrams and Weiss 2022.)。 2022/05/24
  • (混沌のウクライナと世界2022)第4回 ウクライナの港湾とロシア侵攻による海上輸送の影響 / 池上 寬 ロシア軍によるウクライナ侵攻が開始されたのは2022年2月24日であった。この侵攻の初期段階で、ロシア軍はウクライナの港湾や空港を攻撃した。港湾や空港を早い段階で攻撃した背景として、これらのインフラは人とモノの輸送拠点であることが挙げられる。とくに、物資輸送では船舶輸送は陸上輸送(自動車、鉄道)や航空輸送に比べても、大量かつ廉価に輸送することが可能である。そのため、基点になる港湾への攻撃はウクライナ側の物資の輸送を大幅に断つことを可能にする。また、港湾の周辺には原油の貯蔵施設や精製施設、製造業が集積して工業地帯を形成していることも多い。こうした施設への攻撃は国内の生活基盤や国内経済へ甚大な影響を与えることを可能にする。 2022/05/20
  • (混沌のウクライナと世界2022)第3回 ウクライナ戦争をめぐるトルコの対応――積極的中立と世論調査の変化から読み解く / 今井 宏平 2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻は、21世紀の国際政治のターニングポイントとなるのだろうか。ウクライナをめぐるロシアの対応は、20世紀の遺物として忘れ去られていた冷戦期の分断された世界や核の脅威を改めて我々に思い起こさせることとなった。ロシアと隣接し、北方領土問題を抱える日本にとってもウクライナ危機は対岸の火事ではない。 2022/05/17
  • 一党独裁体制下の性的少数者による運動――ラオスの当事者運動の戦略と困難 / 大村 優介 一党独裁体制下にある社会で、性的少数者はどのようにして当事者運動を立ち上げ、展開しているのだろうか。近年、東南アジアでも性的少数者 による運動が積極的に展開されており、その動向が日本でも取り上げられることが増えてきた。しかし、ラオス人民革命党による一党独裁体制が続き、NGO等の活動が厳しく制限されているラオスの状況はなかなかみえてこない。とはいえ近年、とりわけ2010年代以降、ラオスでも当事者による活動が運動として組織化される動きがみられる。現地の性的少数者の声を聞き 、自らさまざまなイベントに出席し、SNSに投稿されるかれらの言葉に目を向けると、当事者運動の成り立ちや展開には、ラオス固有の政治的状況を反映した独特な事情が浮かび上がってくる。 2022/04/22
  • (混沌のウクライナと世界2022)第2回 ウクライナ侵攻とロシア国内の反戦デモ / 油本 真理 2022年2月24日、ロシアはウクライナへの侵攻を開始した。この侵攻は世界に強い衝撃を与え、戦争をどのようにすれば止められるのかが一大関心事となった。戦況の行方と並んで多くの観察者が注目したのはロシアの国内情勢であった。観察者は政権中枢やオリガルヒ(新興財閥)の動向などから分裂の兆しやクーデターの可能性を読み取ろうと、またロシア国民が今回の侵攻をどのように受け止めているのかをつかもうと、さまざまな努力を重ねてきた。しかし、その核心に迫ることは容易ではない。なぜなら、ロシア国内では政府の公式見解からの逸脱に対しては厳しいペナルティが科されるようになっており(OVD-info 2022)、人々の「本音」を知ることがこれまで以上に困難になっているためである。 2022/04/21
  • ASEAN議長国によるミャンマー政治危機への対応 / 鈴木 早苗 2021年2月1日、ミャンマーで国軍によるクーデターが発生した。ミャンマーが加盟国となっている東南アジア諸国連合(ASEAN)は直ちに声明を発表し、事態の鎮静化を求めた。4月には、暴力の停止と自制、全勢力による対話の実現、議長国のASEAN特使による仲介、ASEANによる人道的支援、全勢力との対話に向けた特使のミャンマー訪問という「5項目コンセンサス」が発表された(ASEAN 2021a)。こうした取り組みは、ASEANがミャンマー内政に積極的に関与していこうという意思の現れでもあり、ASEANの内政不干渉原則を相対化する動きとして注目されている。 2022/04/21
  • なぜ、スリランカで抗議行動は起きたのか?――経済危機から政治危機へ―― / 荒井 悦代 2022年3月31日、スリランカの最大都市コロンボ郊外のミリハーナにあるゴタバヤ・ラージャパクサ大統領私邸付近で、デモ参加者と警察が衝突し(ミリハーナ事件)、翌日非常事態宣言・夜間外出禁止令が発令された。政府は抗議行動の拡大を阻止しようとソーシャルメディアをブロックしたが、その後も全国で反政府デモが多発し、4月4日には首相以外の全閣僚が辞任するに至った。それを受けて大統領は「全政党による暫定政府を作り、問題解決にあたるので全政党は協力すべき」と主張したが、事態は収まっていない。 2022/04/12
  • 2022年カザフスタン騒擾――国際関係の視点から見えてくる「プーチンが引いた境界線」―― / 齋藤 竜太 2022年1月にカザフスタンで発生した騒擾は、逮捕者約8000人、死者227人1を出す結果となった。液化石油ガス(LPG)の価格を2倍にするという大幅な値上げをきっかけとして西部の街ジャナオゼンから始まった市民による抗議行動は、カザフスタン最大の都市アルマトイにも飛び火した。デモ隊による政府庁舎への攻撃や治安部隊との激しい衝突が発生し、トカエフ大統領はロシア軍を主力とする集団安全保障条約機構(CSTO)軍の導入や、治安部隊に対して無警告での発砲を許可するなど、強硬な姿勢で抑え込んだ。 2022/04/05
  • (混沌のウクライナと世界2022)第1回 なぜゼレンスキーはウクライナの大統領になったのか?――人気タレントから大統領就任への社会的背景 / 松嵜 英也 ロシア・ウクライナ戦争が勃発しているなかで、こんにちヴォロディミル・ゼレンスキー大統領(2019年―)ほど、知名度の上がった人物はいないだろう 。ゼレンスキーは、軍事介入に及び腰な西欧諸国の指導者達とは対照的に、ロシアのウクライナ侵攻に徹底抗戦する姿勢を示しながら、自国民の前だけでなく、米国や英国、そして日本の議会でも、Tシャツ姿でウクライナの窮状や支援の必要性を訴える。その姿は「西欧の道徳的リーダー」と言われるほど、大きく注目されている。 2022/03/30
  • 2022年韓国大統領選挙と「分極化」の行方 / 浅羽 祐樹 2022年3月9日に実施された韓国大統領選挙において、保守系野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソンニョル)が進歩系与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)に対してわずか24万票余りの差(得票率だと0.74ポイント差)で辛勝した。文在寅(ムン・ジェイン)政権の任期後半、「政権交代」を求める声が一貫して強高かったが、尹は中道層や無党派層を十分取り込むことができなかった。有権者のイデオロギー分布は「保守(31.4%)」「中道(39.5%)」「進歩(21.6%)」(数値は後述の「出口調査」に依拠している)と保守系野党に有利な構図だったにもかかわらず、尹はウイングを広げることができず、選挙戦を通じて保守/進歩の分断がむしろ進んだ可能性がある。 2022/03/25
  • 2021年インドネシアの十大ニュース / アジ研・インドネシアグループ アジア経済研究所では、インドネシアを研究対象とする研究者が毎週集まって「先週何が起きたか」を現地新聞・雑誌などの報道に基づいて議論する「インドネシア最新情報交換会」を1994年から続けています。毎年末には、その年のニュースを振り返って、私たち独自の「十大ニュース」を考えています。今年も、アジ研・インドネシアグループの考える「2021年インドネシアの十大ニュース」を発表します。 2022/03/01
  • ジョコ・ウィドド政権下で進むインドネシアの言論統制 / 水野 祐地 インドネシアのジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)政権は2期目の折返し点を迎えようとしているが、大統領に対する支持率は依然として高い水準で推移している。図にあるように各種世論調査の数字を見ても、2021年12月の段階で大統領の支持率は約70%を維持している。新型コロナウイルスのデルタ株による感染が急拡大して多大な犠牲者を出したことや、それに伴う社会活動制限が経済を圧迫したことで2021年中ごろに支持率の数値は一時的に低下したが、それでも政権運営を揺るがすほどまでに落ち込むことはなかった。 2022/01/28