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発展途上国研究奨励賞

発展途上国研究奨励賞

第31回「発展途上国研究奨励賞」(2010年度)受賞作品

ジェトロ・アジア経済研究所は、1963年以来、発展途上諸国の経済などの諸問題に関する優秀図書、論文の表彰を行ってきました。1980年度に創設された「発展途上国研究奨励賞」は、発展途上国に関する社会科学およびその周辺分野における調査研究の優れた業績を評価し、この領域における研究水準の向上に資することを目的としています。

今回、選考の対象となったのは、2009年1月~12月までの1年間に公刊された図書、論文など開発途上国の経済、社会などの諸問題を調査、分析したものです。各方面から推薦のあった42点のなかから、6月1日(火曜)の選考委員会で受賞作品が決まりました。

   

表彰式は7月1日(木曜)に、当研究所で行われました。

第31回(2010年度)受賞作品
タイの医療福祉制度改革

タイの医療福祉制度改革
河森正人(大阪大学大学院人間科学研究科教授)著
出版:御茶の水書房2009年10月発行/ISBN978-4-275-00847-3/5,040円

受賞の言葉(河森正人氏)

アジア経済研究所から、第31回発展途上国研究奨励賞を受賞するとの連絡をいただいた時、嬉しさのなかにも名誉を感じたのは当然のことなのですが、現在の心境としてはむしろ、もっとしっかりやるように、と発破をかけていただいたという感じのほうが強いように思います。これまで、地域研究にこだわりつつも、タイの事例の背後に他の東南アジアの国々のことや日本のことが透けてみえるような研究を目指したいと思ってきました。すなわち、タイの歴史性・固有性に根ざしつつも、ディシプリン(社会福祉学や社会保障論)と実践(課題解決)の双方の面で、比較の視点と普遍性を追及しようと心がけてきました。

本書は、タイの「30バーツ医療制度」という「制度」の形成過程を跡付けたものであり、こうした歴史分析は地域研究の得意とするところですが、他方、これを単なる一国研究に終わらせたくないという思いもありました。手探りのなかで既存研究を参照したのですが、近代雇用部門の被雇用者向けを前提とした、韓国や台湾など(狭義の)東アジアを対象とする既存の社会保障研究は、農民の近代雇用部門への吸収が依然として低位な東南アジア諸国のそれを考える上で、必ずしも適当な準拠枠ではありませんでした。そこで出会ったのが、「排除された多数者」のための社会保障という考え方でした。

この点に関連して、今後、東南アジアの場合は農村人口が相当程度残った段階で高齢化が進行すると考えられ、よって(狭義の)東アジア型とは異なるケアのシステムを考えていく必要があるのではないかと考えています。さて、「あとがき」の部分で書きましたように、本書は「30バーツ医療制度」研究の前段部分、すなわち国家が作った「制度」や「外形標準」について述べたものであり、後段部分、すなわち「主体」ないし住民の側での受容やアレンジや抵抗については、今後の研究課題として残されていることになります。この後段部分についての考察を進めるにあたっては、コミュニティ内の高齢者ケアの現場が主たるフィールドとなります。

こうした今後の研究課題を追及していくなかで、21世紀におけるコミュニティというもののあり方の一端を探ってみたいと考えています。さらに、「私の老い」と「あなたの老い」を繫げて考えるとともに、「あなたの老い」のなかに私が学ぶ、という姿勢にこだわっていきたいと思っています。

河森正人氏 略歴
現在:大阪大学大学院人間科学研究科教授(グローバル人間学専攻)

1959年 富山県生まれ
アジア経済研究所研究員、タマサート大学タイ研究所客員研究員、在タイ日本国大使館専門調査員、
大阪外国語大学外国語学部助教授、同教授を経て現職。

大阪市立大学大学院創造都市研究科博士後期課程修了。博士(創造都市)。

主要著作
『タイ — 変容する民主主義のかたち 』アジア経済研究所、等
最終選考対象作品

選考委員会で最終選考の対象となった作品は受賞作のほか、次の3作品でした。

  • 岡部恭宜著『通貨金融危機の歴史的起源 —韓国、タイ、メキシコにおける金融システムの経路依存性』(木鐸社)
  • 柿崎一郎著『鉄道と道路の政治経済学 —タイの交通政策と商品流通1935~1975年』(京都大学学術出版会)
  • 倉田 徹著『中国返還後の香港 —「小さな冷戦」と一国二制度の展開』(名古屋大学出版会)
選考委員

委員長
絵所秀紀(法政大学経済学部教授)

委 員
小島麗逸(大東文化大学名誉教授)
末廣 昭 (東京大学社会科学研究所教授)
豊田利久(広島修道大学経済科学部教授)
脇阪紀行(朝日新聞社論説委員)   
白石 隆(ジェトロ・アジア経済研究所所長)