発展途上国研究奨励賞

第36回「発展途上国研究奨励賞」(2015年度)受賞作品

アジア経済研究所は、1963年以来、発展途上諸国の経済などの諸問題に関する優秀図書、論文の表彰を行ってきました。1980年度に創設された「発展途上国研究奨励賞」は、発展途上国に関する社会科学およびその周辺分野における調査研究の優れた業績を評価し、この領域における研究水準の向上に資することを目的としています。

今回、選考の対象となったのは、2014年1月~12月までの1年間に公刊された図書、論文など開発途上国の経済、社会などの諸問題を調査、分析したものです。各方面から推薦のあった44点のなかから、6月3日(水曜)の選考委員会で受賞作品が決まりました。

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林 載桓氏、右は長島ジェトロ理事
宮地 隆廣氏
講演中の林 載桓氏
宮地 隆廣氏


表彰式は7月1日(水曜)に、ジェトロ本部で行われました。

第36回(2015年度)受賞作品
人民解放軍と中国政治——文化大革命から鄧小平へ

人民解放軍と中国政治——文化大革命から鄧小平へ—— 』 (名古屋大学出版会)
著者 林 載桓  青山学院大学国際政治経済学部准教授
(著者の所属・肩書きは書籍刊行時のものを表示しています)

解釈する民族運動——構成主義によるボリビアとエクアドルの比較分析——

解釈する民族運動——構成主義によるボリビアとエクアドルの比較分析—— 』 (東京大学出版会)
著者 宮地 隆廣  東京外国語大学大学院総合国際学研究院准教授
(著者の所属・肩書きは書籍刊行時のものを表示しています)

受賞の言葉(林 載桓氏)

この度は、名誉ある発展途上国研究奨励賞を賜り、大変光栄に存じます。選考委員の各先生、大学院時代よりご指導を賜っている田中明彦先生(国際協力機構)と高原明生先生(東京大学)、そして編集の労を取ってくださった名古屋大学出版会の三木慎吾さんをはじめ、多くの方々に改めて心より御礼申し上げます。

本書は、文化大革命期の中国における政軍関係の展開とその帰結を、実証的、かつ理論的な視点から再検討しようとしたものです。具体的には、文革初期に行われた軍の政治介入がやがて軍主導の統治システムへと発展し、またそれが相当期間にわたり持続し、しかし結局は解消されていく過程を、毛沢東と人民解放軍の関係に焦点を合わせ、分析しました。その際本書は、比較政治学における合理的選択制度論の知見を援用し、権威主義政治における制度の問題、具体的には政治指導者と制度の間に生じるジレンマとその解消への試みにこそ、該当時期の中国政治の展開を理解する鍵があることを明らかにしました。

本書の執筆にあたり、比較政治学の一般的概念と知見を広く借用したのは、おもに次の2つの意図によるものでした。ひとつは、資料上の制約を補いつつ、対象となる時代の複雑さに圧倒されず、なるべく体系的な叙述を行うこと。もうひとつは、本書の分析が、過去の事象の詳細な説明にとどまらず、現代中国の政治と軍隊に内在するより構造的な問題を考える、ひとつの視点を提供することです。とりわけ後者に関連して本書が注目した、統治機構としての人民解放軍の政治的役割、およびそれを支えてきた制度配置は、市場経済化と対外環境の変化により大きな変革を余儀なくされている中国政治と軍の現状を理解し、その将来を展望するうえで有効な視座を与えてくれるものと考えております。

もっとも、こうした著者の意図が本書を通してどれほど忠実に伝わっているかの判断は読者に委ねるしかありません。しかし、今回の受賞が、本書の試みに対する先輩と同僚たちの一定の評価を示すものだとすれば、それは、私の今後の研究活動において非常に大きな励みになるに違いありません。その意味で、今後とも、入念な現地調査と資料収集を通じて、現代中国の政治と社会への内在的視線を保ちつつ、同時に、中国の経験を絶えず相対化し、それに的確な理論的文脈を与えようとする努力を続けていきたいと考えております。

<林 載桓氏 略歴>

1976年 韓国ソウル生まれ
ソウル大学社会科学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。
青山学院大学国際政治経済学部助教等を経て、2013年より青山学院大学国際政治経済学部准教授。

<主要著作>


「都市、リスク、軍隊——リスク社会における中国人民解放軍の役割拡大——」天児慧・任哲編『中国の都市化——拡張、不安定と管理メカニズム——』アジア経済研究所 2015年。
「文化大革命と人民解放軍——軍部統治の形成と林彪、林彪事件——」『青山国際政経論集』88号、2012年。

受賞の言葉(宮地 隆廣氏)

このたびは、第36回「発展途上国研究奨励賞」をいただき、大変うれしく存じております。選考委員の先生方をはじめ関係者の皆様と、これまでご指導下さったすべての方に御礼申し上げます。

先住民運動は現代ラテンアメリカにおいて最も大きな成長を遂げた社会運動です。コロンブスがアメリカ大陸に到来し、ヨーロッパ諸国がアメリカ大陸に植民を始めて以来、社会的劣位に置かれてきた先住民が強力な運動を組織したことは、多くの研究者の注目を集めました。運動に関する数ある先行研究との差異化を図るべく、本書は2つのことを試みました。第1に、これまで同質的に扱われる傾向にあった運動の中に、政治に対する多様な解釈があることを示しました。第2に、解釈の違いに着目してこそ運動の複雑な行動を説明できるということを、なるべく厳密に議論することに努めました。

先住民運動が注目を集めて20年以上が経過した現在、先住民運動の新奇さを評価することはほとんどなくなりました。先住民はもはやラテンアメリカ政治におけるマージナルな勢力ではありません。本書が対象とする2つの国を例に挙げれば、エクアドルでは2003年に、先住民組織を基盤とする政党が短い期間ながら連立与党に参加しました。ボリビアでは、先住民組織のリーダーが2006年から現在まで大統領の地位にあります。多くの国で先住民が政治的に力を伸ばす余地はまだありますが、先住民の存在はラテンアメリカ政治の日常と化したといっても過言ではないでしょう。

しかし、それでもなお、ラテンアメリカ政治において先住民を考えることがありきたりなテーマになったとは、私は考えておりません。先住民が政治に直接的な影響力を発揮できるという、ラテンアメリカ史上前例のない現在の状況において、先住民が何を実現できた(できなかった)のか、それはなぜなのかを明らかにするという課題が残されています。今回の受賞を励みに、本書の内容を発展させた研究を進め、その成果を広く発信する努力をこれからも続けて参ります。

<宮地 隆廣氏 略歴>

1976年 愛知県生まれ
2001年 東京大学教養学部教養学科第二(中南米の文化と社会)卒業
2009年 東京大学大学院総合文化研究科博士課程満期退学(2011年博士[学術]取得)
同志社大学グローバル地域文化学部助教等を経て、
2014年 東京外国語大学大学院総合国際学研究院准教授

<主要著作>


「演出としての政治参加——現代ラテンアメリカ政治における政府による国民投票——」 上谷直克編『「ポスト新自由主義期」ラテンアメリカにおける政治参加』アジア経済研究所 2014年。
“Repensando la "crisis" del evismo: políticas de desarrollo y conflictos sociales en la presidencia de Evo Morales.” Yusuke Murakami ed, América Latina en la era posneoliberal: Democracia, conflictos y desigualdad. Lima: CIAS-IEP. 2013.
「『失敗』したプロジェクトのその後 —— ボリビア農村部の貯水池建設——」青山和佳・ 受田宏之・小林誉明編著『開発援助がつくる社会生活——現場からのプロジェクト診断——』大学教育出版 2010年。

最終選考対象作品

選考委員会で最終選考の対象となった作品は受賞作のほか、次の2作品でした。

  • 木村 公一朗著 “The Growth of Chinese Electronics Firms: Globalization and Organizations” (Palgrave Macmillan)
  • 箕曲 在弘著 『フェアトレードの人類学——ラオス南部ボーラヴェーン高原におけるコーヒー栽培農村の生活と協同組合——』 (株式会社めこん)
選考委員

委員長
長澤 栄治 (東京大学東洋文化研究所教授)

委 員
遠藤 貢 (東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授)
大橋 英夫 (専修大学経済学部教授)
恒川 惠市 (政策研究大学院大学特別教授)
中西 徹 (東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授)
白石 隆 (アジア経済研究所長)