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中国の空は青くなるか?――資源エネルギーから見た低炭素社会への道――

 
第3回 石炭大国・中国のいま

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050628

森永 正裕

2018年11月

はじめに

北京に数ある繁華街の中で、最も歴史があり、最も観光客に有名なのが王府井だろう。数年前、その王府井の小吃街(軽食を出す露店街)で見つけたのが「食べられる石炭」だ(写真1)。当り前だが、黒い。形状は練炭そのもの、原料は小麦粉だろうか、無味で硬めのパンに近い食感で蜂蜜をかけて食べる。「石炭チャーハン」なる料理を看板にしているレストランもある(写真2)。黒く色付けしたチャーハンを練炭の形に盛ったもので、運ばれてくるとアルコールをかけ点火する。これが威勢良く燃える。そして美味い。この店の看板メニューにして看板パフォーマンスだ。

写真1 王府井で見つけた「可以吃的煤球(食べられる石炭)」

写真1 王府井で見つけた「可以吃的煤球(食べられる石炭)」(筆者撮影)

写真2 北京市内レストランの「石炭チャーハン」

写真2 北京市内レストランの「石炭チャーハン」(筆者撮影)

練炭は、石炭を粉末にしたのち蓮根のように穴の開いた円筒状に固めたもので、中国語で「煤球」という。中国では家庭や職場での暖房用、厨房用の燃料として古くから庶民に親しまれているものだ。形状を模した食べものが存在するくらい、中国で石炭は身近な存在だが、いまやその石炭は大気汚染の元凶として使用禁止の対象にすらなっている。中国政府は、この黒い塊に代わって無色の気体、天然ガスをエネルギー源として普及させようと躍起になっている。

前回は、石炭依存度を徐々に低めつつある中国のエネルギー構造の現状を概観し、天然ガスなどのクリーンエネルギーへのシフトという、政府によるエネルギー構造改革の方向性について解説した。今回および次回は、エネルギー構造改革においてカギとなる石炭と天然ガスに焦点を当て、中国における需給状況についてそれぞれ詳しく解説する。

石炭の用途と種類
「石炭」と言っても品質や用途によって種類が分かれている。石炭の分類方法は一般的に、品質による分類と用途による分類とに分かれる。品質による分類では、炭素含有量(石炭化度)によって「無煙炭」「瀝青炭」「褐炭」などに分類される。漆黒で金属に近い光沢を放つのが最も石炭化度の高い無煙炭(炭素含有量90%以上)で、燃焼時の煤煙が少なく発熱量が高い。逆に水分や不純物の含有量が大きく石炭化度の低いものが褐炭(炭素含有量70~78%)で、色は褐色に近く見た目も石や土に近い。

写真3 無煙炭(左)と褐炭(右)

用途による分類では、大きく分けて主に火力発電に用いられる「一般炭(Thermal coal)」と、主に製鉄に使用されるコークス原料となる「原料炭(Coking coal)」とに区分される。石炭の用途は発電や製鉄の他にも、寒冷地での地域熱供給事業、液化やガス化、石炭化学分野での利用、セメント生産、工場・職場や一般家庭での直接消費などがある。これらを含め、直接燃焼させるのが一般炭、粘結性がありコークスやガス等への転換原料となるものが原料炭である。

世界で消費される全ての石炭のうち約86%が一般炭(無煙炭・褐炭を含む)、約14%が原料炭である。さらに細かく用途別で見ると、最も多いのが発電用で約65%、次にコークス製造が約12%となっている(2015年)1。日本では、石炭のほぼ全量を輸入しているが、このうち約6割が一般炭、4割が原料炭である(2017年)2。一般炭は、燃焼効率や不純物の含有量により品質はまちまちで価格の幅が広いが、主にコークス原料となる原料炭は一定以上の品質(純度、熱効率、粘結度など)が求められるため、価格は平均すると原料炭の方が割高となる。例えば、2018年4月時点の日本の輸入価格は、一般炭が114USドル/トン、原料炭が162USドル/トンとなっている。

このように「石炭」にも色々あるが、世界最大の石炭生産国かつ消費国である中国では、褐炭から無煙炭まで、また一般炭から原料炭まで、多種多様な石炭が産出され、消費されている。次に、中国における石炭需給全体のトレンドを見よう。

中国の石炭需給全体トレンドと消費

中国における石炭の年間需要は1980年代後半に凡そ10億トンであったが、1990年代に徐々に増加し、2002年に15億トンに達した。当時は、国内需要のほぼ全量を国産でまかなっていた。1980年代後半から2000年前後にかけ、約15年間で1.5倍という速度で増加した石炭需要は、2000年以降に急激に増加速度を上げる。2002年から2012年までの10年間で石炭需要は3倍近くに増加、ピークとなった2013年には42億トンを超えた(図1)。全世界の石炭需要に占める中国の割合は、1990年に48億トンのうち中国が約10億トンで2割強であったが、2013年には世界79億トンのうち中国が43億トンで5割を超えた。この間の世界の石炭消費量の増加は、ほぼ全て中国によるものであった。

前回も触れた通り、中国の一次エネルギー消費に占める石炭の比率が減少に転じたのは2010年だが、石炭の消費量はやや遅れて2013年をピークに減少に転じた。ただし、2017年には景気回復など好調な経済情勢を背景に石炭需要は再び微増となった。

図1 中国の石炭需給の推移

図1 中国の石炭需給の推移

(出所)『中国統計年鑑』『中国能源統計年鑑』より筆者作成。

図2は中国における石炭消費の用途別内訳の推移を示したものである。図中の「転換部門」とは、石炭を燃焼させて火力発電や熱供給、コークス生産など他のエネルギーへ転換する部門を指し、「最終消費」とはその熱を直接消費する部門を指す。2015年の統計では、石炭消費のうち最も比率が高い用途が火力発電で45.2%、次いで工業が22.9%、コークス生産が15.3%、熱供給が6.1%となっている。

「最終消費」は「転換部門」と比較してCO2や汚染物質の排出など環境負荷が高いとされるが、その比率は2010年の32.9%から2015年には28.3%まで低下、中でも工業用途の割合が27.4%から22.9%まで大きく減少している。中国における石炭消費が、より排出量の少ない分野に徐々にシフトしていることが分かる。

図2 中国の石炭消費内訳の推移

図2 中国の石炭消費内訳の推移

(出所)『中国能源統計年鑑』より筆者作成。
石炭需要に対する供給と輸出入

図1で示した通り、中国では2000年以降、需要の拡大に伴って石炭の国内生産量も増加した。2000年に14億トン弱であった生産量は、ピークとなった2013年には約40億トンまで増加、その後は減少に転じ2017年の年間生産量は約35億トンであった。2017年の生産量を炭種別にみると、一般炭(無煙炭・褐炭を含む)が24.2億トン、原料炭が11.0億トンとなっている3。世界の石炭生産量における原料炭の比率は7分の1程度だが、中国では3分の1程度である。粗鋼生産に欠かせない原料炭がより高い品質を求められることは前述したとおりだが、高品位原料炭の産地としての優位性は、中国の工業化の基礎となった製鉄業の発展を支えるものであった。

中国は、1990年代まで世界有数の石炭輸出国であった。特に1999年からの2001年の2年間で輸出量を4000万トンから9000万トンに倍増させ、南アフリカ、インドネシアを抜いて豪州に次ぐ世界第二位の石炭輸出国となった。ところが、2000年代半ば以降は急増する需要に供給が追いつかず、これを補う形で輸入が増加した。2008年に約4000万トンだった輸入量は翌年倍増して1億トンを超え、中国は石炭の純輸入国に転じた。以降、数年間にわたって輸入量は増加を続け、ピークとなった2013年には3億トンを超えたが、2014年には需要減退を受けて輸入量も減少に転じている。なお、輸入量および輸入比率がともに最高であった2013年でも、国内消費における国産比率(自給率)は90%以上を保っている。

中国国内のみを見れば、約38億トンの需要に対して国内生産35億トン強、輸入が3億トン弱(2017年)と輸入比率は低いが、世界全体での石炭の貿易量が年間14億トン程度4であることを考えると、世界市場に与えるインパクトは大きい。その中国が2016年に生産量を強制的に減少させたことで、市場が混乱した。強制的な石炭減産は、同年より強力に推進された過剰生産能力削減に向けた一連の政策に関連するものであった。次節では、石炭市場の混乱を招いた2016年の状況について触れる。

2016年石炭減産による供給逼迫と価格高騰

2016年の石炭国内生産量は、前年比マイナス9%と過去最大の減少幅であった。この主な要因は、政府による減産政策である。2016年1月、山西省視察中の李克強首相は同地での講話で石炭生産能力削減を大々的に打ち出し、翌2月には国務院より政策文書5が、3月には発展改革委員会(以下「発改委」)より具体的な措置を定めた文書6が発せられ、4500カ所の炭鉱閉鎖、新規炭鉱の認可停止により生産能力を計10億トン分削減することに加え、実際の生産規制として規定生産日数を330日/年から276日/年へ縮小することが定められた。

この年から政府の重要課題として進められることになった過剰生産能力の削減は、「三去一降一補(生産能力・在庫・債務の圧縮、コスト削減、弱点補強)」と呼ばれた「供給側改革」、すなわち産業構造改革の一環で進められた政策である。石炭以外で重点分野とされた鉄鋼、セメント、ガラス、アルミ等においては、その政策主眼はあくまで「生産能力」の削減であって「生産量」の削減ではない。実際、統計上いずれの品目も生産量は減少していない。一方、石炭に限っては、大気汚染対策を主眼としたエネルギー構造改革による要請から生産能力のみならず生産量も削減させる政策がとられた。その最たるものが276日/年とされた生産日数の制限である。

日数制限による減産と在庫減少に加え、夏場の悪天候による水力発電への打撃やトラック等による石炭輸送時の過積載の規制強化などの要因も加わり、2016年7月頃より秋冬へ向けた供給に対する懸念が広がり、投機筋の介入もあって価格が急上昇した。6月1日に380元/トンであった一般炭国内価格は、約5カ月後の11月10日には741元/トンという高値を付けた7(図3)。

図3 中国の国産一般炭価格の推移

図3 中国の国産一般炭価格の推移

(出所)「中国石炭資源網」より筆者作成。 (注)価格は5500カロリー混炭の秦皇島港積出し価格。

おそらく、この石炭価格の高騰に最も驚いたのは政府である。政府は9月下旬より徐々に生産日数の制限を解除、10月下旬には大手石炭企業数十社に増産を指示した。既に価格が730元を超えていた11月8日には、「発改委」が石炭最大手2社に対して電力会社との間で535元/トンの長期契約を締結するよう指示を出した。年末には、石炭・鉄鋼・電力の各業界団体と「発改委」の4者による備忘録8が締結され、石炭価格の乱高下時に共同で調整を図ることが決められた。石炭価格の高騰は民生に大きく影響する。政府は慌てふためいて価格抑制に躍起となったのである。

大気汚染対策やエネルギー構造改革を目的とした石炭減産は、それを強制的に実施しようとすると市場の混乱を招くという事を、政府はこの年の一連の騒動で痛感したに違いない。この時の反省により、石炭価格については一定程度の安定化策を身につけた政府だが、2017年の暮れから今度は天然ガス市場の混乱に直面することになる。その点については、次回、天然ガスの需給について解説する際に触れたい。

まとめ
中国の石炭需要はここ数年すでに減少トレンドに移行している一方で、2016年の騒動のように強制的な生産・消費の削減は国内市場に混乱を及ぼしかねない。無理なく着実に他のクリーンエネルギーにシフトさせていく必要があるが、その筆頭候補である天然ガスの普及にも課題が多い。今回の石炭に続いて、連載第4回目となる次回では中国における天然ガスの需給について詳しく解説する。(つづく)
著者プロフィール

森永正裕(もりながまさひろ)。アジア経済研究所研究企画部研究企画課長。1996年、北京大学へ短期留学。2006~2010年、ジェトロ上海事務所にて知的財産権事業担当。2014~2017年、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)北京事務所長。合計で8年近く中国の空の下で暮らす。

写真の出典
  • 写真1、2:筆者撮影
  • 写真3:無煙炭(左)By Amcyrus2012(CC-BY-4.0, via Wikimedia Commons.)、褐炭(右) By Emilian Robert Vicol(CC-BY-2.0, via Wikimedia Commons.)
  1. International Energy Agency, "Coal Information 2016"より。
  2. 財務省貿易統計より。
  3. 中国石炭資源網データより。
  4. International Energy Agency, "Coal Information 2017"より。
  5. 国务院关于煤炭行业化解过剩产能实现脱困发展的意见」(国发〔2016〕7号)
  6. 关于进一步规范和改善煤炭生产经营秩序的通知」(发改运行〔2016〕593号)
  7. 石炭価格は5500カロリー混炭の秦皇島港積出し価格。本文中の石炭価格は、特筆なければ同基準。
  8. 平抑煤炭市场价格异常波动的备忘录」(发改运行〔2016〕2808号)(PDF)
【連載目次】

(世界を見る眼)中国の空は青くなるか?――資源エネルギーから見た低炭素社会への道――