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コラム

途上国研究の最先端

 
第9回 科学の世界の「えこひいき」――社会的紐帯とエリート研究者の選出

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050620

2018年11月

今回紹介する研究

Raymond Fisman, Jing Shi, Yongxiang Wang, and Rong Xu, "Social Ties and Favoritism in Chinese Science," Journal of Political Economy, vol. 126, no. 3 (June 2018): 1134-1171.

同郷者に親近感を抱く人は多い。税金で賄われる科学研究費が同郷という理由だけで研究者に配分されていたら、どう感じるだろうか。本論文によれば、科学・技術の発展、ひいては生活の質の向上のために使われるべき研究資金の配分額が同郷出身者への「えこひいき」の影響を受けている可能性がある。
投票行動を操作し同郷者を優遇する

本論文は、中国科学院(CAS)及び中国工程員(CAE)という自然科学及び技術分野の最高研究機関において定期的に行われる新規会員の選出過程を分析する。本論文によれば、CAS、CAEの会員を多く擁する大学ほど多額の競争研究資金及び国からの交付研究資金を獲得している。その結果、CAS、CAE会員である研究者を獲得するため、待遇面における大学間の競争も激しい。

CAS、CAE内には少数の分野別部会が設置されており、その部会ごとに20名前後の現会員からなる常任委員会が存在する。新規会員は現会員や各大学が推薦した候補者の中から全ての現会員の投票により選出されるが、常任委員がその地位を利用し現会員の投票行動に影響を及ぼすことが可能である。そのため、投票結果はしばしば常任委員の意向を反映する傾向がある。これを踏まえ著者らは、自分の専門分野に相当する部会(以下、専門部会)に同じ町・村出身の常任委員がいる候補者ほど、その他の候補者よりも新規会員に選出される確率が高いという「えこひいき」仮説を立て検証する。

著者らはCAS及びCAEのホームページ・会員名簿を使い、2001年~2013年に推薦された新規会員候補者及び各年度の現会員の個人情報を収集・分析し、「えこひいき」効果が存在することを示した。一方、自分の専門部会に同郷の平会員がいる場合、自分の専門部会以外に同郷の常任委員がいる場合(一種の偽薬検査)、自分の専門部会に出身大学が同じ常任委員や平会員がいる場合、及び自分の専門部会に勤務先を同じくする常任委員や平会員がいる場合には、候補者が新規会員に選出される確率は高まらない。

「えこひいき」の存在は必ずしも悪ではない。同郷の場合、常任委員は候補者の研究能力についてより正確な情報をもっており、結果的に優秀な研究者が新規会員に選ばれている可能性があるからだ。本論文は、新規会員の研究能力を、選出時点でのh指数(論文数とその被引用数に基づく能力評価指標)、及びWeb of Science(学術データベース)上で100回以上の引用数をもつ「ホームラン論文」の著者であるかで測定する。すると、自分の専門部会に同郷の常任委員も平会員もいない新規選出会員に比べ、同郷の常任委員がいる新規選出会員ほどこれらの研究能力が低いことがわかった。仮に「えこひいき」効果が存在しない場合、新規選出会員がホームラン論文の著者である確率は平均的に2.7%上昇する。

制度設計と注目が「えこひいき」を弱める
推薦された新規会員候補者の絶対的研究能力は必ずしも低くない。とはいえ、中でも相対的に能力の低い一部研究者が同郷という理由で選出され、多額の研究資金を得ている可能性がある。幸いにも2007年から選出方法が変更され、常任委員が現会員の投票行動に影響を及ぼすことが困難になるとともに、候補者名簿が全国紙で公開され国民の注目を集めるようになった。するとどうだろう。2007年以降、上記「えこひいき」効果が存在しないことも本論文は指摘する。適切な制度設計により、研究資金の有効活用は可能かもしれない。
著者プロフィール

工藤友哉(くどうゆうや)。アジア経済研究所開発研究センター研究員。博士(経済学)。専門分野は開発経済学、応用ミクロ計量経済学。著作に"Can Solar Lanterns Improve Youth Academic Performance? Experimental Evidence from Bangladesh"(The World Bank Economic Review, 2017)、"Female Migration for Marriage: Implications from the Land Reform in Rural Tanzania"(World Development, 2015)等。

書籍:The World Bank Economic Review

書籍:World Development