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サステナ台湾――環境・エネルギー政策の理想と現実――

第4回 台湾における太陽光発電の開発状況と生態・環境破壊への懸念

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051730

2020年5月

(5,646字)

前回の連載では、台湾の洋上風力発電所第一号「フォルモサI」に関する全体の開発状況と国内外から寄せられる事業拡大への期待、またその一方で急速に進む開発が引き起こす生態・環境破壊への懸念、対策などについて分析した。連載4回目となる今回は、台湾の再生エネルギー開発におけるもう一つの重要な柱である太陽光発電の開発状況を紹介する。なかでも台湾最大の工業都市であり、近年の人口増加を受け都市部の拡大に臨む桃園市に焦点を当て、太陽光発電の現状と今後の展望を紹介する。また、再生可能エネルギーの開発がかえって環境・生態破壊を引き起こす“Clean-Clean Conflict”が太陽光発電でも懸念されており、その現状や対応策についても本稿で扱っていく。

太陽光発電の世界的トレンド

国際エネルギー機関(IEA)の報告書『再生可能エネルギーにおける市場分析と予測』(IEA 2019)では、次のような予測がされている。それは、(1)世界の総発電容量に占める再生可能エネルギーの割合が2019年の24%から2024年には30%に拡大し、この30%のうち60%を太陽光発電が占める、(2)2019年~2024年の5年間で世界の再生可能エネルギー(水力、風力、太陽光、バイオ)の合計発電設備容量が50~60%以上の成長を遂げ、現在の米国の国内総発電規模に相当する1200 GWまで増加する、というものである。

この背景には、各国政府による奨励政策を受けて再生可能エネルギーの発電コストが下がり続けていることがある。また同報告書によれば、2024年には写真1のような住宅や工場、商業施設の屋上や敷地を利用した「分散型」の太陽光発電施設が太陽光発電市場全体の成長の半分を占め、中でも新規設置容量の75%が商業・産業施設への設置で、住宅用を上回る見込みである。

写真1 桃園市にあるプラスチック工場の屋上型太陽光発電施設

写真1 桃園市にあるプラスチック工場の屋上型太陽光発電施設
太陽光発電は既に取得している土地の敷地や建物の屋上、耕作放棄地などを利用することから土地の取得費用が必要なく、発電コストの大半は設置コストである。先のIEA報告書によると、2024年にはパネルの購入費用が低下することで分散型太陽光発電施設の建設コストが現在より15%から35%程度低くなり、また地域・国によっては太陽光発電コストが電力小売価格より低い水準に達するという。このように今後太陽光発電の爆発的な成長が予測されているが、環境、生態面では以下に述べるような様々な懸念も生じている。
太陽光発電の拡大にともなう懸念

まずは農業との競合である。設置コストの低減が追い風となり、収益向上を考える農家が耕作放棄して発電ビジネスに転じる可能性は十分にある。そうしたなか、既に農業と太陽光発電を共存させる取り組みが始まっている。日本では畑の上方にソーラーパネルを設置し売電事業へ参入できるようにする「ソーラーシェアリング」が制度としてあり、台湾の場合は「農電共生」「漁電共生」として政府が同様の事業を推進している。ただ各国でこうした政策を推進するにあたり、各種の規制緩和と同時に、発電事業への行政監督・管理、農作物生産の影響を把握するなど、耕作地保護のため新たな規制を導入する必要性についても議論されている。

次いで、森林破壊による生態系への打撃や土壌の変質である。生態環境の破壊に関しては、絶滅危惧種を含む野生生物種の自然生息地の消失や、生息地の強制的な変化による生態学的な悪影響、生物多様性の減少などが挙げられる。これについてもしばしば環境保護団体、地方自治体、開発業者、地元住民などの間でトラブルが起きている。また、山間部における森林伐採によって土壌の保水機能が失われ、災害リスクが増加することも大きな懸念事項である。台湾では、通常の太陽光発電事業については事前に環境アセスメントを受ける義務がないことも、大規模開発が環境破壊を引き起こしやすくしている原因の一つとなっている。

これらはまさに”Clean-Clean Conflict”の代表例であり、環境を守るための再生可能エネルギーの開発拡大が、かえって本来の自然環境や生態系に悪影響をもたらしてしまう状況となっている。

台湾の開発状況

台湾における太陽光発電の開発は、2009年の「再生可能エネルギー開発法案」をもって前・馬英九政権の下で始まった。FIT制度(第1回を参照)で本格的に推進されるようになったのは現・蔡英文政権からである。発電コストの低下で買取価格は徐々に下げられており、2020年最新の買取価格は、発電事業種別に差はあるが前年度に比べて0.34%~2.44%の下げ幅となった。

ここで台湾政府の太陽光発電に関する目標設定の変化を時系列で見てみたい。2012年に行政院の下で「太陽光発電推進計画」が成立し、2014年には屋上型を中心とする当時の2030年設備容量目標であった3.1GWが倍の6. 2GWに引き上げられた。また2015年にはこの2030年目標が8. 7GWに再設定されている。さらに2016年に政権交代で蔡政権が発足、2019年には前述の「再生可能エネルギー開発法案」が改正され、2025年までに太陽光発電を20GWとする非常に野心的な目標が設定された。この20GWの内訳は屋上型が3GW、地上設置型(以下、地上型)が17GWである。

蔡政権下では、これまで打ち出されてきた太陽光発電設備容量の目標が徐々に達成されつつあり、2019年末の時点では合計4.3GWである。現在の目標では、ここから2020年に2.2GW程度増やし、合計6.5GWとすることになっており、2025年20GWの目標達成に向けた今後の展開を注視したい。

桃園市の開発事例から見る成長と課題

台湾最大の工業都市であり国際空港も有する桃園市は人口が年々増加しており、現在は230万人ほどである。それにともない、2014年に5.5MWほどしかなかった太陽光発電容量は、2018年までの5年間で123MW程度と約22倍に拡大した。さらに桃園市政府は、2018年に市政府直轄の組織「グリーン・エネルギー推進室」を設置し、再生可能エネルギーの事業推進と利害関係者間の調整にあたらせているほか、2021年までに太陽光発電を150MW程度増やし、風力、水力発電と併せて再生可能エネルギーの合計設備容量を850MWにする目標を立てた。この目標達成のため桃園市政府は、「再生エネルギー発電設備設置と管理に関する取決め」もしくは「電業法」などに基づき下記3タイプの太陽光発電の拡大に取り組んでいる。

一つ目は屋上型である。大型の工場や集合住宅が多く産業用など大手電力ユーザーが全国で最も多い桃園市は、産官民共同で屋上型発電設備を積極的に推進し、発電規模の拡大を目指している。二つ例を挙げると、(1)「再生可能エネルギー開発条例(再生能源發展條例)」に基づき、契約電力量が5MWを超える大口ユーザーは、一定の容量を持つ再生可能エネルギー発電設備の設置などが全国共通で義務付けられている。また、写真2のように、(2)桃園市は契約電力量に依らず小中高学校、公的機関、官舎、一般住宅などの屋上や敷地に太陽光パネルを設置するよう推奨している。これは具体的には、まず、桃園市政府が設置・運営業者を指定し屋上スペースの提供者に紹介する。スペース提供者と業者の間で契約が成立すると、所定の買取価格にて作られた電気をすべて国営の台湾電力会社が買い取り、スペース提供者は売電額の10.5%を毎月受け取ることができる、というものである。

写真2 桃園市にある小学校の屋上型太陽光発電施設

写真2 桃園市にある小学校の屋上型太陽光発電施設

二つ目は地上型である。桃園市では、工場や商業施設以外に埋立て地や墓地など市の所有地も利用しようとしている。地上型は屋上型とは異なり、太陽光発電施設の設置に関して、「非都市土地利用管理に関する規則」や「都市計画法」等の関連法規による規制を受けている。また、様々な土地の用途区分によって利用制限が設けられており、設置料金の支払いが必要となる場合もある。桃園市では、市の所有地の多用途化に向けて閉鎖中の埋立地に合計3MWの地上型太陽光発電の設置を進めており、墓地への設置も検討されている。

三つ目は水面型である。桃園市内には、灌漑、養殖目的のため池が数多く存在する。そこで市では環境面、生態面などに配慮しつつ、太陽光発電の拡大を目指すための施策として「埤塘光電」(写真3, 4, 5)を推進してきた。これは、民間に一定の条件のもとパネル設置を促すことを目的としており、その条件は(1)都市開発計画地、重要な湿地、私有地等にあるため池を除き、(2)灌漑、蓄水、環境保護等の目的を阻害せず、(3)満水水位時の50%以内の面積、である。これまでに桃園市内の8カ所で合計29.6MWの設置容量が許可されてきたが、この桃園市肝入りの水面型太陽光発電は生態環境へのインパクトなどに多くの懸念が残っており、メディアにも取り上げられるようになったことで市は慎重姿勢に転じている。

写真3 桃園市に位置するため池の水面型太陽光発電施設

写真3 桃園市に位置するため池の水面型太陽光発電施設

写真4 「桃園農業博覧会」の会場内に位置するため池の水面型太陽光発電施設

写真4 「桃園農業博覧会」の会場内に位置するため池の水面型太陽光発電施設

写真5 「千塘之都 光電埤塘」――台湾初となるため池水面型太陽光発電施設。

写真5 「千塘之都 光電埤塘」――台湾初となるため池水面型太陽光発電施設。
上掲の写真4付近に設置された説明パネル。日本語訳は「千のため池の都 ソーラーため池」。
水面型太陽光発電の諸問題と主な対策と課題、可能な解決方法

屋上型は生態、環境へのインパクトなどの懸念が少ないことや土地の用途地域区分などに関する規制の対象外になっているというメリットがあるが、違法建築物への設置という課題がある。一方で地上型は市の所有地への設置が検討されていることから、法令違反や環境被害などの懸念は少ないが、土地の使用に関する規制が特に一般の参入者にとっては障壁となる。

これに対し水面型は、ため池に関する生態環境、景観、水質保全、養殖業に対する懸念が払拭されず、開発が進んでいない。桃園市は現在進行中の対策の一つとして、周辺住民の理解を得るために開発・施工業者に太陽光発電設備の管理対策と設備の安全性を強化するよう要請している。また、利害関係者によるワークショップを定期的に開催し、野鳥の会や各分野の専門家を巻き込んで今後の推進方法と審査手続きなどを議論している。

ただ、大規模太陽光発電の開発に関する環境アセスメントの義務が生じるのは、(1)国が定める重要な湿地に、(2)設置容量が2MW以上の設備を設置する場合に限られるため、現在台湾にあるほとんどの太陽光発電施設は、環境アセスメントを受けずに作られてきた。実際に桃園市以外にも太陽光発電の開発案件をめぐってデモや衝突事案が発生しており、統一された基準の適用など、早急な対応が求められている。

「Clean-Clean-Conflict」を乗り越えるために

屋上型太陽光発電に利用しようとする建物や工場が違法建築物であった場合の発電パネル設置認定基準は各自治体によって異なることから、規制緩和のための全国統一基準の策定が必要とされている。また、地上型と水面型においては、近年「生態検核(エコロジカル・チェック・メカニズム)」の実施が推奨されるようになっている。これは、ある開発プロジェクトに対して、専門の担当者が生態・環境保護のために事前に設計されたチェックリストを用いてプロジェクトの適切性を評価、審査する手続きである。生態検核は環境アセスメントほど厳格ではないにせよ、少なくとも環境に対しある一定の配慮ができるとされている。台湾政府内ではまだ包括的なアプローチがまとまっていないため、今後も国外の経験を参考にしながら継続して生態検核チェックリストの開発に取り組んでいくという。

前回の連載から見てきたように、台湾政府は洋上風力と太陽光発電を推進しようとしているが、生態系や環境などへの懸念から様々な壁を乗り越えなくてはならない。そのためには、生態や環境への影響を長期間にわたって検証する必要があり、関係者と長期的なデータと経験を共有することが欠かせない。政策決定過程で透明性を確保し、すべての利害関係者と継続的にコミュニケーションをとることが、問題解決への重要な第一歩となるだろう。

次回の連載に向けて
今回は桃園市の事例を中心に、台湾における太陽光発電の開発状況と課題について解説した。この連載では、ここまで主に政策や法案の策定など政府や地方自治体による取組みに注目してきた。次回以降は、企業、地元住民、市民団体など民間の気候変動対策の取組みと再生可能エネルギー(洋上風力・太陽光)開発との関わりについて紹介していきたい。
参考文献
写真の出典
  • 写真1、2 桃園市政府。
  • 写真3 大同公司。
  • 写真4、5 著者撮影。
著者プロフィール

鄭方婷(チェンファンティン) アジア経済研究所海外研究員(台湾・台北市)。2014年4月~2019年4月アジア経済研究所新領域研究センター法・制度研究グループ研究員。博士(法学)。専門は国際関係論、国際政治学、国際環境問題(気候変動)、グローバル・ガバナンス論。主な著作に、『「京都議定書」後の環境外交』三重大学出版会(2013年)、『重複レジームと気候変動交渉:米中対立から協調、そして「パリ協定」へ』現代図書(2017年)など。2019年4月より国立台湾大学にて客員研究員として勤務。

書籍:京都議定書後の環境外交

書籍:重複レジームと気候変動交渉

この著者の記事

(2021年3月3日文字修正)