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アジア経済

2016年9月 第57巻 第3号

開発途上国に関する和文機関誌—論文、研究ノート、資料、現地報告、書評等を掲載。

『アジア経済』季刊化のお知らせ
『アジア経済』は、1960年の創刊以来、発展途上地域を対象とした専門誌として50年以上にわたり月刊誌として刊行を続けてきましたが、より充実した学術誌を目指し、2012年度から年4回(6月、9月、12月、3月)発行の季刊誌に移行することとなりました。

季刊誌への移行による1号あたり掲載稿数の増加、査読の精確さを含め編集の質の一層の向上を通じて誌面の充実を図り、読者並びに投稿者の皆様のご要望に沿うよう努力していく所存です。


アジア経済 最新刊 ■ アジア経済 2016年9月 第57巻 第3号
投稿募集中
■ 2,160円(本体価格 2,000円)
■ B5判
■ 96pp.
■ 2016年9月発行
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CONTENTS

論 文
イラン不動産市場における「ラフン」諸契約の社会経済的機能——債務担保か賃貸借か—— / 岩﨑葉子
2-24pp.

研究ノート
中華人民共和国建国期における「レジオマリエ」を巡る動向について / 中津俊樹
25-49pp.

台湾半導体産業の発展における後発性と革新性 / 佐藤幸人
50-81pp.

書 評
李海訓著『中国東北における稲作農業の展開過程』 / 湯川真樹江
82-84pp.

中村正志著『パワーシェアリング——多民族国家マレーシアの経験——』 / 田中(坂部)有佳子
85-88pp.

紹介
佐藤郁哉著『社会調査の考え方』(上・下) / 浅羽祐樹
89p.

モルテン・イェルウェン著 渡辺景子訳『統計はウソをつく——アフリカ開発統計に隠された真実と現実——』 / 佐藤 創
90p.

第37回発展途上国研究奨励賞の表彰について
91-93pp.

要 旨

イラン不動産市場における「ラフン」諸契約の社会経済的機能——債務担保か賃貸借か—— / 岩﨑葉子
今日イラン不動産市場では,現行イラン民法において担保物権として本来規定されているラフン(rahn)という語で呼ばれながら,事実上は住宅の賃貸借契約であるという事例があまねく見られる。この契約では,住宅の賃借人が賃貸人に対して物件の所有権価格の最大25パーセント程度に相当する金額を無利子で貸付ける見返りに,無償で,もしくは大幅に減額された月額賃貸料を支払い,そこに居住する。契約期間満了時には貸付金は全額賃貸人から賃借人に返済される。
この契約と類似した経済的効果をもたらす法概念もしくは権利は,実はイラン以外の地域にも見出すことができる。ひとつは日本における「不動産質」,いまひとつは韓国における「傳貰(チョンセ)権」である。これまで不動産質や傳貰をめぐる議論では,それが字義通り「債務の担保である」ことを前提として「不動産所有者の資金需要を満足させる金融システムが発達することにより,これらの制度は衰退する」という見方が中心的であった。
しかしながら,今日イランにおける上記の契約が賃貸人の賃貸需要に基づく「賃貸借契約の一形態」であるという側面をより重視するならば,むしろ金融システムの発達によって,「ラフン」諸契約が一部の事業家だけのものではなく,一般の市民にとって,自身の所有する不動産を利用したひとつの資産運用法として広く普及したと考えることができる。

中華人民共和国建国期における「レジオマリエ」を巡る動向について / 中津俊樹
「レジオマリエ(Legio Mariae/The Legion of Mary)」は1920年代にアイルランドで設立され,全世界に拡大した,カトリック教会内のグループである。設立以来,カトリックの教義にもとづく信仰生活の深化と聖母マリアへの崇敬,日常的な相互扶助等を目的として活動を続けてきた。中国では,レジオマリエは東西冷戦にともなう共産主義思想の拡大を警戒したローマ教皇庁の方針を踏まえ,「国共内戦(1946~49年)」から中華人民共和国の建国(1949年)を経て,1950年代初期にいたるまでの間,中国国内のカトリック教会と関係組織への共産主義思想の浸透に対抗する事を目的として,「宗教的反共主義」的行動を展開した。その意図はカトリック信仰の堅持であり,「政治的反共主義」は彼らの関心の対象外であった。だが「宗教的反共主義」という方向性はそれ自体,無神論的価値観を理論的基盤とする新政権に許容されるものではなかった。レジオマリエは結果的に,「反動秘密組織“聖母軍”」として非難されるにいたった。

台湾半導体産業の発展における後発性と革新性 / 佐藤幸人
本稿はキャッチアップ型工業化論およびその中核概念である後発性の利益の批判と拡張を行い,それを使って台湾半導体産業の発展を後発性のなかから段階的に革新が生み出されていった過程として解釈している。まず後発性の利益を利用した国家プロジェクトにおける選択が分業構造の基礎をつくり,各部門が独自に発展することを可能にした。製造部門では,台湾は後発ゆえに他の選択肢を選べなかったため,躊躇する先進国に先駆けてファウンドリ専業モデルを構築することになった。さらに,台湾企業はモデルの潜在的な革新性を逐次発現し,ファウンドリ市場をリードし続けている。設計部門では,聯発科技が追随型の発展を水平的に拡張し,図らずも中国等の携帯電話のローエンド市場を切り開くという革新を達成している。このように後発性の作用を技術だけではなく,市場やビジネスモデルにまで広げることによって,後発国は多様な発展戦略を考案することが可能になる。