採用・募集情報

2022/2023年度採用 開発研究 

応募を考えている皆さんへ

牧野 百恵(開発研究センター ミクロ経済分析研究グループ 主任研究員)

開発研究センター
ミクロ経済分析研究グループ 主任研究員
牧野 百恵

はじめまして。開発研究センターの牧野百恵です。アジ研では、家計データを用いて、ミクロ開発経済学の実証研究を行っています。これまで扱ったトピックは、ダウリーなどの結婚慣習、児童婚(18歳未満の婚姻)、男児選好、男女教育格差、女性の労働参加などです。

もともと、南アジアでよくみられる、ジェンダー格差的な慣習に関心があり、これらの事象をきちんと実証することで、途上国女性のエンパワメントやジェンダー格差解消を目指したいということがモチベーションにあります。アジ研では、入所当初から、途上国でのフィールド調査の機会に恵まれ、面白い研究テーマに巡り合うことができました。また、研究テーマを設定してからのミクロデータ収集は、所内研究会や科研費等の研究費を当てることで実現してきました。

ミクロデータを使っての実証研究というと、大学での研究と何が違うのか、疑問をもたれる方も多いでしょう。面白い研究テーマの設定もそうですが、ミクロデータの分析にあたっても、現地のことを知っているのと知らないのとでは、その解釈の妥当性や深さが大きく異なります。私は、あまり現地のことをよく知らないサブサハラアフリカ諸国のミクロデータを使った実証研究も行っていますので、現地を知る南アジアとの違いについては、本当に痛感しています。現地に精通する研究者に囲まれて、少なくとも的外れでないといった感覚は、アジ研の研究者が味わえる醍醐味ではないかと思います。

私のこれまでの研究

主にパキスタンとバングラデシュでフィールド調査を行うなかで、本当にそうだろうか、といった疑問をもつことから始まり、その疑問に答える実証研究をするにはデータがないことが多いため、独自のデータ収集のために家計調査を実施してきました。また、きちんとした因果関係を証明するために、ランダム化比較試験(RCT)も実施してきました。

独自のデータ収集による成果としては、たとえばMakino (2019)が挙げられます。日本語訳も出版された『焼かれる花嫁』(ジャミラ・ヴァルギーズ著 鳥居千代香訳 三一書房 1984年)にあるように、ダウリー(結婚持参金:結婚時に花嫁側から花婿側に贈られる金銭・資産)のことを知っている人の多くは、女性を不利な立場に追いやる悪習というイメージをもっているでしょう。私は、パキスタンでのフィールド調査をするなかで、未婚の女性やその父親たちのダウリーに対する考え方をみるにつけ、本当に悪習なのかな、と疑問に思いました。パキスタンではダウリーそのものは違法ではありませんが、インドやバングラデシュでは違法なだけに、ダウリーに関してはデータが希少で、信頼できるデータはほとんど存在しません。そこで、独自に家計調査を実施することで、兄弟姉妹の品目ごとのダウリーや結婚慣習について、細かなデータを収集し、今まで誰もやったことのない実証研究に挑戦しました。女性の財産権や安全が十分に保障されないなかでは、ダウリーなど、一見したところジェンダー不平等な慣習が、女性にとってメリットとなる可能性を実証的に解明しました。

パキスタン農村フィールド調査の様子。

パキスタン農村フィールド調査の様子。
調査対象者の都合によっては夜間に実施せざるを得ず、また農村では停電が頻発するため、 ときには車のライトを利用して質問票調査を実施。筆者撮影。

また、RCTの実施もフィールド調査がきっかけになっています。たとえば、南アジアでは女性の労働参加率が低いことはデータをみれば分かりますが、実際に女性が外で働かないとはどういうことかは、現地で経験するまで分かりませんでした。パキスタンの工場で働いている女性たちは、リキシャ運転や建設労働などに従事している自身の父親などよりも稼いでいるにもかかわらず、周囲から軽蔑され、また「工場で働く女性と結婚したいと思ってくれる男性などいない」と自らも恥ずかしいと思っている現実を目にして、何とか彼女たちに誇りを持ってもらいたいと思いましたし、働いていない女性にももっと社会進出してほしいと思いました。

これをきっかけに、貧困層の未婚女性を対象に、彼女たちの労働参加促進を目指したRCTをパキスタン農村で実施しました。若い女性に新しい就業機会の情報を与えることで労働参加促進を目指したJensen (2012)による有名な研究では、少なくとも中等教育修了が必要なホワイトカラー職に従事するような若い女性を対象にした介入でした。私が実施したRCTでは、パキスタン農村という保守的な地域では、親が未婚女性の労働参加に決定権をもっていることにかんがみ、介入対象を親としました。また、貧困層を対象としたことから、就業機会の情報は、ホワイトカラー職ではなく、女性の縫製工を中心に雇っている輸出向け縫製工場に関するものです。これが新しい就業機会といえたのは、パキスタンでは、縫製工もバングラデシュのように女性が中心ではなく、男性を中心とした縫製工場がほとんどだったことが背景にありました。成果はMakino (2021)ですが、現在海外学術ジャーナルにおいて再投稿(R&R)の最中です。

パキスタン輸出向け縫製工場の様子。

パキスタン輸出向け縫製工場の様子。筆者撮影。

海外研究員として

アジ研でとても魅力的な制度の一つに、海外研究員制度があります。大学ではサバティカルといっても1年が普通だと思いますが、アジ研では、通常2年間が派遣期間です。

2回目の海外派遣では、アメリカ・ニューヨークにあるポピュレーション・カウンシルに、2年間滞在しました。私は、研究トピックが人口学や社会学とも重なることもあり、アメリカ人口学会でたびたび論文を発表してきたのですが、そのなかで、ポピュレーション・カウンシルの研究者と知り合い、頼み込んで受け入れ先となってもらいました。ポピュレーション・カウンシルは、人口分野ではトップジャーナルに数えられる学術雑誌Population and Development Reviewを発行する研究・援助機関で、世界中の途上国にオフィスを構えてデータ収集、RCTの実施を行っています。

ポピュレーション・カウンシルの研究者たちは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などから大型の研究資金を恒常的に獲得しており、とても刺激になりました。また、この派遣期間を最大限に利用して、カウンシルの研究者たちと共同研究を実施しました。成果はMakino et al. (2021)として発表されたほか、ほかにも3本の共同研究が進行中です。

ポピュレーション・カウンシルのRCTプロジェクト。

ポピュレーション・カウンシルのRCTプロジェクト。
バングラデシュの児童婚撲滅を目的としたプログラム。筆者撮影。

応募を考えている皆さんへ

博士号を取得(もしくは見込み)し、途上国に関する研究に関心をもつ皆さんにとって、アジ研の研究環境はとても魅力的だと思います。私はオリジナルメンバーではないですが、週に1度有志で実施している経済学トップジャーナル掲載論文の勉強会は、なんと2006年から続いています。地域に精通した研究者に囲まれ、かつ最先端の途上国研究を学びあうようなアカデミックな職場はなかなかないと思いませんか。

【参考文献】

Jensen, Robert. 2012. “Do Labor Market Opportunities Affect Young Women’s Work and Family Decisions? Experimental Evidence from India.” Quarterly Journal of Economics 127 (2): 753–92. https://doi.org/10.1093/qje/qjs002.

Makino, Momoe. 2019. “Marriage, Dowry, and Women’s Status in Rural Punjab, Pakistan.” Journal of Population Economics 32 (3): 769–97. https://doi.org/10.1007/s00148-018-0713-0.

———. 2021. “Labor Market Information and Parental Attitudes toward Women Working Outside the Home: Experimental Evidence from Rural Pakistan.” 826. IDE Discussion Paper.

Makino, Momoe, Thoai Ngo, Stephanie Psaki, Sajeda Amin, and Karen Austrian. 2021. “Heterogeneous Impacts of Interventions Aiming to Delay Girls’ Marriage and Pregnancy across Girls’ Bacgrounds and Social Contexts.” Journal of Adolescent Health 69 (6): S39–45.

研究者の1カ月

研究者インタビュー

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