世界経済危機と東アジア経済の再構築

2009年12月1日(火曜)
グランドプリンスホテル赤坂  五色2階 五色の間
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主催:ジェトロ・アジア経済研究所、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)
後援:ASEAN事務局、経済産業省、読売新聞東京本社

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パネルディスカッション1  「世界経済危機と東アジア経済の展望」

黒岩郁雄 (ジェトロ・アジア経済研究所 開発研究センター長)

東アジア諸国は生産ネットワークに参入することによって高い経済成長を遂げてきた。しかし今回の経済危機では、最終需要先である先進諸国の輸入需要が急落し、生産ネットワークを通じて大きな影響を受けた。特に近年中国を通じた三角貿易が急速に拡大し、中国の先進諸国に対する輸出動向が周辺諸国の産業に大きな影響を与えるようになっている。

アジア国際産業連関表を用いた分析によると、韓国や台湾の産業に対する経済危機の影響の内、20%前後は中国との三角貿易を通じて波及したものであった。また日本においても輸出依存度が急速に高まり、いくつかの産業にとって三角貿易は無視できない存在になっている。他方、中国は中間財貿易において大幅な輸入超過であるため、三角貿易を通じて他の東アジア諸国に大きな影響を与える一方で、中国自体は他国から影響を受けない構造になっている。

三角貿易によって受ける影響は産業によって大きく異なる。生産ネットワークを発達させた電気・電子産業の他に、素材(金属・化学)やサービス産業も三角貿易を通じて大きな影響を受けるようになった。他方、自動車をはじめする輸送機械産業では三角貿易の影響は非常に小さい。

今回の経済危機によって生産ネットワークの脆弱性が明らかになった。今後は、生産ネットワークを拡大させるだけでなく、アジア域内で最終需要を喚起する必要があろう。

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黒岩郁雄(ジェトロ・アジア経済研究所 開発研究センター長)

黒岩郁雄(ジェトロ・アジア経済研究所 開発研究センター長)

呉鐘南(ソウル大学教授・元IMF理事)

現下の世界経済危機の背景には、米国の経常赤字とアジア・新興国の経常黒字が慢性的に続いた、国際不均衡の問題がある。国際不均衡は、世界の準備通貨としての米ドルへの根強い需要、人民元為替レートの過小評価による中国の経常黒字、新興国の貯蓄・経常黒字などに起因している。そして米ドル建資産への需要が米国の低金利と様々な金融商品の開発を後押しし、世界経済危機の遠因となったとみられる。

国際不均衡について、IMFは危機以前の2006年6月に国際協調の必要性を打ち出し、特に米国の貯蓄促進やアジアの内需拡大とより伸縮的な為替レートの導入を含む包括的な戦略を提示していた。一方、米国のサブプライムローン危機に端を発した市場の混乱により、世界中の信用市場で信頼が揺いだ。そして、米国の低成長と信用市場の収縮が世界経済の後退に波及する懸念が広がるという環境の変化が生じた。この世界経済危機への対処として、国際不均衡の是正にむけた協調が、G20でも議論され、共通認識になるに至った。

こうした文脈での東アジアの課題には、国際不均衡の是正のための、内需の刺激とアジア域内貿易の拡大がある。これらの課題が解消されれば、アジア地域の米国への依存の緩和にもつながる。中国については、民間消費の拡大が必要であり、そうした消費を可能にする金融市場の発展に向けて政府の関与が求められる。また、経済ファンダメンタルズに則した為替レートの調整も、国際不均衡の是正を促すだろう。

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呉鐘南(ソウル大学教授・元IMF理事)

呉鐘南(ソウル大学教授・元IMF理事)

バイロン・ガングネス(ハワイ大学准教授)

今回の金融ショックにより、日米ともに2009年の経済回復の足取りは重い。一方で、他のアジアの国々には回復基調にある国も少なくない。回復の足取りは、過去のものと比較しても早いものとなっている。

まず、米国経済についての細部を見てみたい。米国は景気の底は打ったようである。生産高、受注高共に回復が続いている。全体に関しての予想としては、2009年の経済成長率は-2.5%、2010年は2.4%と見ている。このように米国経済全体としては回復基調にあるが、懸念される点もいくつかある。まず雇用についてであるが、人員削減が継続中であり、これはしばらく続くものと予想される。また消費については力強さにかける回復となっている。金融ショックにより家計の保有する資産の価値も大幅に目減りしてしまい、それが消費の回復に対してブレーキになっていると考えられる。回復の筋道も予想が立てにくい。金融危機前の好景気を支えていた一つの要因んとしては住宅購入のブームがあった。これは住宅ローンを誰でも組めるようにしたことがブームの発端の一つである。これについては、現在では貸し過ぎであったとの反省がある。政府部門についても、財政均衡が問題になってきている。このような状況にあって、回復の筋道は必ずしも明確に見えてこない。

一方、アジアの国々にも経済回復が見られる。2008年には、欧米、アジアの国々の需要が大幅に減少したため、輸出が激減した。その後、アジアの輸出国は生産を調整し、財の供給については在庫のとりくずしで対処してきていた。それが、現在、在庫は一巡する状況にあり、生産を増加させつつある。これが経済の回復につながってきている。ただし、金融危機の影響はアジア各国に対して一律なものではない。欧米の経済回復の足取りは重いため、これがアジア各国からこれらの国々に対する輸出の減少を引き起こしている。そうした中で、金融危機に伴う輸出減少は経済規模の小さい東南アジアに対しては大きな影響力を持つことになった。他方で、南アジアや中国などの経済規模の大きい国は、金融ショックの影響はこれらの国々よりは小さなものとなったようである。

今後、世界経済の回復の方向を決めていくのは、財政、金融政策であろう。適切な政策を行わない限り、回復には脆弱性がつきまとうことになる。

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バイロン・ガングネス(ハワイ大学准教授)

バイロン・ガングネス(ハワイ大学准教授)

稲田義久(甲南大学教授)

2009年7-9月期の日本の実質GDP成長率(1次速報値)は前期比年率+4.8%となり、2四半期連続のプラスを記録した。07年1-3月期(同+5.7%)以来の高い成長率となった。7-9月期GDP1次速報値と新政策を織り込み、09年度実質GDP成長率を-2.3%、10年度+1.4%、11年度+2.0%と予測する。民間需要の成長率寄与度は09年度-2.3%ポイントから、10年度+0.5%ポイント、11年度+1.6%へと改善する。10年度に民間企業設備が底打ちするため、民間需要は景気押し上げ要因に転じる。公的需要の寄与度は10年度に政策効果が剥落し+0.1%ポイント、11年度は-0.1%ポイントと引き下げ要因に転じる。純輸出の寄与度は10年度+0.9%ポイントとプラスに転じるが、11年度は+0.5%ポイントと大きな拡大は望めない。これは欧米諸国に大きな改善が期待できないためである。

実質GDPは、08年1-3月期のピーク(100)から1年後に8.4%低下した。これは戦後の不況期のなかで最大の落ち込み幅である。12年1-3月期には97.8にまで回復するが、成長の回復は緩やかで3年たっても過去のピークに戻らない。このため、日本経済は大幅な需給ギャップに悩まされる。大幅な需給ギャップの解消には時間がかかるためデフレからの脱却は遅れる。

鳩山新政権の09年度補正予算一部執行停止は同年度の実質GDPを0.24%引き下げる。マニフェストをベースとする新政策は、10年度にほとんど影響はないが、11年度には民間消費を中心に0.2%程度の拡大効果をもつ。「コンクリートから人」への政策効果は色濃く出るが景気拡大の効果は小さく、新たな内需拡大戦略が必要となろう。その一つの有力な候補は環境分野である。この分野は内需拡大としてのみならずアジアを中心とする外需としても期待できる領域である。

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稲田義久(甲南大学教授)

稲田義久(甲南大学教授)


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モデレーター:平塚大祐(ジェトロ・アジア経済研究所 研究企画部長)

平塚大祐(ジェトロ・アジア経済研究所 研究企画部長)

平塚大祐(ジェトロ・アジア経済研究所 研究企画部長)

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