世界経済危機と東アジア経済の再構築

2009年12月1日(火曜)
グランドプリンスホテル赤坂  五色2階 五色の間
>>開催案内・プログラム

主催:ジェトロ・アジア経済研究所、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)
後援:ASEAN事務局、経済産業省、読売新聞東京本社

開会挨拶 / 基調講演/ |  パネルディスカッション(1)  |  パネルディスカッション(2)  |  総括 / 閉会挨拶  |  関連資料

開会挨拶

鳩山 由紀夫(内閣総理大臣)

発足から2年足らずにもかかわらず、スリン事務総長の活躍の下でERIAが発展し、今回日本でこのシンポジウムを開催することを嬉しく思い、またスリン事務総長に感謝する。

このシンポジウムを東京で開く意義は何かということについて、スリン事務総長から「ASEAN諸国はすでにERIAのことを十分に理解しているが、日本ではまだ知られていない。だから日本でシンポジウムを開くのだ」との説明を受けた。この会議が、ERIAの意義を理解し、かつ日本中に広めていく契機となることを願ってやまない。

世界は今、経済的に厳しい環境を共有しているが、世界的危機をアジアの成長する力で克服していかなければならない。この会合が、東アジア共同体の構想を、夢から現実に近づけるための意義深いものとなると期待している。

配布資料 |  写真

鳩山 由紀夫(内閣総理大臣)

鳩山 由紀夫(内閣総理大臣)

基調講演 「東アジアの核となるASEAN経済共同体の構築」

スリン・ピッスワン(ASEAN事務総長)

ASEAN、ERIAを代表して、鳩山首相のご臨席に感謝申し上げる。ERIAの活動を日本の皆さんに紹介したい。

ERIAは、ASEAN諸国と日中韓、インド、豪州、NZで構成され、政策提言を行っている組織である。鳩山首相の東アジア共同体構想は、タイムリーなものであり歓迎する。パラダイムシフトを要求している世界経済に展望を示す上で、世界経済を牽引する東アジア共同体の創設が不可欠だからである。東アジア共同体は、共通通貨や金融協力、人々のアイデンティティ構築などさまざまな分野を含んでおり、最もダイナミックな地域である東アジアに属しているASEANは、2015年までに共同体構築を目指している。ASEAN共同体の構築は、東アジア共同体構築に不可欠で、このASEAN共同体構築のために、ERIAは政策提言を行っている。

ASEANでは、ASEAN憲章が2008年に発効し、政治・安全保障、経済、社会・文化という三つの共同体構築のためのブループリントや、ASEAN内の経済格差に取り組むためにASEAN統合イニシアティブ(IAI)の作業計画が作られた。経済格差やインドや中国などの台頭といった競争環境のなかで、ASEANは経済共同体の構築に迅速に取り組まなければならない。ASEAN自由貿易地域(AFTA)は軌道に乗り、ASEAN6については2010年1月に関税が撤廃される。ASEAN包括的投資協定(ACIA)も締結された。ASEAN域内貿易が増加したのは、日本の投資に促される形で産業間・工程間のネットワーク構築が進んだからといえるだろう。また、ASEANは、EASに属する国々とFTAを締結しており、ASEAN+1としてASEANが中核になり、最も生産的な地域として世界とつながっている。ASEANは開かれた統合を希求しており、さらに統合を進めていくために、ERIAは今後のロードマップを提言してくれるだろう。ERIAは、知的な政策提言を継続的に行うことで、アジア版OECDになりうる国際機関である。

配布資料1(和文) (43.9KB) |  配布資料1(英文) (50.3KB) |  配布資料2 (56.2KB) |  写真

スリン・ピッスワン(ASEAN事務総長)

スリン・ピッスワン(ASEAN事務総長)

基調講演 「東アジア経済統合に向けて」

松下忠洋(経済産業副大臣)

スリン事務総長はじめ、各国専門家の方々、産業界を代表する参加者の方々に感謝。

私は、インドネシアに3年間駐在した経験があり、アジアには特別な思いがある。経済産業副大臣就任まもなく、スマトラ沖地震が発生した際には、総理の親書を携え、ただちにインドネシアに飛び、日本国民を代表してお見舞いと激励の言葉をお伝えした。その際に、ご列席のスリン・ASEAN事務総長ともお会いし、東アジアの将来のために協力することをお約束した。

昨年の世界経済危機を受けて、アジア経済の重要性はますます増加している。アジアでは約1万社の日本企業が活動しており、日本企業の収益の約4割がアジアから来ている。アジアとともに成長することは日本の成長戦略の柱であり、鳩山総理は東アジア共同体という大きな目標を掲げ、アジア重視を外交の柱としている。アジアが成長し、アジアの人々が豊かになっていくことは我が国にとってますます重要となっている。しかし、成長センターのアジアは多くの課題も抱えている。開発格差は依然として大きく、インフラも未整備、エネルギー、環境問題もある。これら地域共通の課題にばらばらに取り組むのではなく、地域全体の叡智を結集し、政策協調を進めていくことが必要。欧州では第二次世界大戦後、経済協力開発機構が戦後復興に大きな役割を果たした。アジアも政策協調を進めるための中核機関が必要な時期に来ている。ERIAは日本が提唱し、東アジア16カ国の総意により、昨年6月にインドネシア・ジャカルタに設立された。提案したのは日本だが、今やERIAは地域全体の共通財産。本日ご列席のスリン事務総長のリーダーシップの下で、アジア各国が協力し、ERIAを地域統合の中核として大きく育てていきたい。

本日はアジアの将来について活発な議論が行われることを期待している。

配布資料 |  写真

(代読) 松下忠洋(経済産業副大臣)

(代読) 松下忠洋(経済産業副大臣)

基調講演 「世界経済秩序とアジア」

白石 隆 (ジェトロ・アジア経済研究所 所長)

1年前にもアジ研は国際シンポジウムを開催したが、その時はリーマン・ショックの影響により世界経済は急速に落ち込んでいた。そして「アメリカの経済回復に時間がかかるようであれば、アジアの内需が経済回復の鍵となる」と指摘された。同時に、保護主義やナスティ・ポリティックスの台頭が危惧され、東アジアにおける地域協力への意思が失われるのではないかと懸念された。その後1年が経過し、現在の政治・経済状況をみてみると、パニックは沈静化したといえる。中国やインド、ASEAN各国の経済パフォーマンスは決して悪くない。また、東アジアの中産階級は今後ますます拡大すると見込まれており、アジアは長期的な成長センターとして大きな期待を集めている。

しかし、直近のデータに基づく分析によると、アジアの内需主導による成長戦略は期待したほどうまくいっていないのではないかという疑念をもつ。たとえば、中国のフルセット型工業化の結果、中国の内需拡大は中国の国内供給によって満たされており、中国向け最終消費財の輸出は伸びていない。これは、中長期的な観点から、東アジアの成長にマイナスの影響を与える。ASEANや日本における消費財市場の規模は経済危機の際でもそれなりに維持されてきたが、アメリカの需要減少を埋め合わせるにはほど遠い。アメリカを最終的なマーケットとする輸出主導型の経済発展モデルに基づいて進められてきた東アジアの統合は、グローバルなインバランスが是正される中でどのような方向に進んでいくのであろうか。

日本は従来から東アジア共同体の構築を外交政策の1つとして掲げてきた。しかし、鳩山政権は経済成長モデルとして輸出主導型から内需主導型への移行を提唱している点で、これまでとは大きく異なっている。本日の国際シンポジウムは、内需主導の経済発展が東アジアでは軌道に乗っていないという現実を踏まえ、それでは政策としてなにをすればよいのかについて議論する絶好の機会となろう。

配布資料 |  写真

白石 隆(ジェトロ・アジア経済研究所 所長)

白石 隆(ジェトロ・アジア経済研究所 所長)

基調講演 「アジア総合開発計画」

木村福成(ERIAチーフエコノミスト、慶應義塾大学教授)

ERIAにおける「アジア総合開発計画」プロジェクトの途中成果を報告する。2009年6月3日に行われた東アジアサミットにおいて、ERIAとアジア開発銀行、ASEAN事務局が協力して、東アジア経済の成長のためのマスター・プランを作成するよう声明が出された。「アジア総合開発計画」はこのマスター・プランに対応する一大プロジェクトである。

東アジアの競争力の源泉は、精緻な国際的生産ネットワークの形成にあり、その発展が東アジア経済の成長に資する。そのための方法として、生産ネットワークが形成されるメカニズムを知ることが有益である(フラグメンテーション理論とアグロメレーション理論を紹介)。

これらの理論からは、東アジアの発展途上国・地域を3つのグループに分け、それぞれについて次のような発展戦略を提示することができる。第一のグループは既に生産ネットワークに参加し、産業集積の形成を始めている国・地域から成り、それらの産業集積を高度化していくこと(地場系企業を集積に組み込んでいくことなど)が課題となる。第二のグループは生産ネットワークにまだ参加しきれていない国・地域であり、そこでは産業集積から分散してくる経済活動を引きつけていくことが重要である。第三のグループは足の速い生産ネットワークに参加することは短期的には難しい国・地域であり、こうした所ではロジスティック・インフラの整備を引き金として新たな産業振興策が練られるべきである。

(実際にインフラの改善(東西回廊、南部回廊など)が東アジア域内の各県のGRDPにどのような効果をもたらすかをシミュレーションした結果(ERIA/IDE-JETRO GSMチームによる)と、これらの研究を今年度さらに深化させていくための研究体制を紹介)

配布資料 |  写真

木村福成(ERIAチーフエコノミスト、慶應義塾大学教授)

木村福成(ERIAチーフエコノミスト、慶應義塾大学教授)

開会挨拶 / 基調講演  |  パネルディスカッション(1)  |  パネルディスカッション(2)  |  総括 / 閉会挨拶  |  関連資料