国際価値連鎖:その展開と通商政策への影響

主催:ジェトロ・アジア経済研究所、世界貿易機関(WTO)

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報告1

ユベール・エスカット  世界貿易機関主席統計官

開発途上国はできる限り多くのGVCに加わることで成長の可能性を模索する一方で、なるべく高付加価値のチェーンに参加したいと考えている。しかし、国が小さければ小さいほど、輸出に含まれる国内源泉の中間財・サービスが少なく、貿易における付加価値創出の効果が限られてしまう。

このように低いバリューチェーンに位置する小国が、輸出を通して付加価値を増やす方法は、量(規模の経済)で補うこと、あるいは生産を多角化することである。開発途上国はこうした二つの方向性を追求することができる。この問題に対しては、「集積による産業化とグローバル化を同時に進めてゆくことで互いに補完してゆく」というアプローチが可能である。この中で、サービス産業への参入は成長への鍵であり、政策的な観点からは、市場への近接性(Access to Market)および貿易円滑化、教育・職業訓練が非常に重要である。

ユベール・エスカット 世界貿易機関主席統計官

ユベール・エスカット
世界貿易機関主席統計官

報告2

エリック・ディツェンバッハ  フローニンゲン大学教授/国際産業連関学会長

財やサービスというのは消費される場所で生産されているわけではない。また今日の生産活動では国境を越えた中間財取引が増加し、製品は単一の国で生産されるのではなくグローバルな規模で生産されている。つまり、従来の輸出入統計が、もはや国際貿易の姿を正しく語ってはいないということである。WTOやOECDでも言及されているとおり、現在、付加価値貿易の研究に対して高い関心がもたれるようになっている。

産業連関表というツールによってGVCを遡ると、例えばオランダは、輸出の付加価値はGDPの40%で小国だが開放された国であり、日本や米国のような大国は内需志向の国であることが明確に分かる。驚くべきことに、中国は大国ではありながら非常に開放的である。ブラジルはGVCへの関与が限られており、ブラジル全体の付加価値貿易を見ると、「輸出=輸入」となっている。これは、すべての州がサンパウロ地域に対して純輸入を行っているからである。

エリック・ディツェンバッハ フローニンゲン大学教授/国際産業連関学会長

エリック・ディツェンバッハ
フローニンゲン大学教授
国際産業連関学会長

報告3

猪俣哲史   ジェトロ・アジア経済研究所上席主任調査研究員

東アジアと米国を対象とした国際産業連関表を使用し、その域内サプライチェーンの変化をみる。1985年の主要なプレーヤーは日本、インドネシア、マレーシア、シンガポールの4カ国のみであったが、その後の20年間で、日本は米国や他の東アジア諸国とのサプライチェーンを拡大した。2000年になると中国が台頭し、ここで、アジア・米国経済圏における三極生産システムの基本構造が完成する。その後、域内生産ネットワークは劇的な変化を見せ、2005年までにネットワークの中心は完全に中国へシフトし、日本と米国は周辺に追いやられることになる。中国が米国及び欧州市場向けの最終製品輸出を拡大するなか、中国を取り巻くサプライチェーンは細分化の度合いを増していく。中国の輸出競争力は、その安価な労働力だけではなく、他の東アジア諸国が供給する洗練された中間財にも支えられているのである。

また、国際産業連関表によって域内垂直分業における各国の相対的位置を確認できる。先進経済国である米国と日本は比較的上流に位置しているが、米国は同期間で「上流度」を落とし、その位置を韓国に譲っている。中国は常に最下流の立ち位置にあり、その「最終製品の組立工場」という位置づけが明確に表れている。他の東アジア新興国は中流領域でクラスターを形成しているが、この20年間で中華台北は上流に、タイは下流に向けて大きく立ち位置を変えている

猪俣哲史 ジェトロ・アジア経済研究所上席主任調査研究員

猪俣哲史
ジェトロ・アジア経済研究所
上席主任調査研究員

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