中東地域の政治変動—政軍関係、民主化、国際関係—

2012年1月31日(水曜)
シェラトン都ホテル東京
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主催:ジェトロ・アジア経済研究所、世界銀行、朝日新聞社

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会場の様子 会場の様子

会場の様子

パネルディスカッション2

アリー・フェルドウスィー
(ノートルダム・ドゥ・ナムール大学歴史政治学部長・教授)

今回のアラブの革命は、イランで起きた1979年のイスラーム革命との近似性を様々な点で指摘することができ、イスラームはその原因であり結果であると言えるでしょう。その一方でアラブ諸国はイランのようにはならない、あるいは、なりたくないと言う声も聞かれます。欧米では今回の「アラブの春」によって成立した政権がイランのようになるとは見なしていません。今回の革命はイランとは歴史的にも文化的にも異なるという認識です。他方で米国の保守メディアなどでは、米国がイスラーム支配に対する影響力がなくなったという警告を与えるものもみられます。

2009年6月12日以降のイランでの抗議行動は、今回のアラブ諸国の抗議行動と同様の側面がありました。若者が主導し、ソーシャルメディアを積極的に利用したのです。2009年のイランの抗議行動は、新たな権利を求めるものではなく、革命によって得たはずの権利と自由を守るものでした。しかしその結果、この抗議運動によって1979年のイスラーム革命はひとつの終焉を迎えたと言えるでしょう。

アリー・フェルドウスィー(ノートルダム・ドゥ・ナムール大学歴史政治学部長・教授)

アリー・フェルドウスィー
(ノートルダム・ドゥ・ナムール大学
歴史政治学部長・教授)

リサ・アンダーソン(カイロ・アメリカン大学総長)

中東地域に対するアメリカの対応については、現時点では、国内事情や欧州通貨危機のため、十分な注意を払う余裕がないと言えるでしょう。他方で中東諸国の政府にとっては、アメリカ政府の反応がいまだに不透明なため、これに対応して外交政策を構築することが難しくなっています。

次にリビアでは過去100年間安定した政府が建設されなかったなかで、現在新たな国家建設が試みられています。今後はリビアでは国家統合の唯一の源泉であるイスラームに基づいた「イスラーム国家」に向かう以外に選択肢はないと考えます。アラブ諸国は国家建設の転換点にあると言えますが、そのなかでいくつかの国では多かれ少なかれイスラーム主義者が中心的な役割を果たすことになるでしょう。

もうひとつ軍について言及します。軍の位置づけや役割は、各国の歴史や文化を反映しているため、国によって大きく異なっています。そのため抗議行動に対する軍の行動も多様なものとなりました。したがって、軍の行動を理解するためには、軍内部の要因だけではなく、各国の成り立ち、政治体制、社会構造といったものを考慮する必要があるでしょう。

リサ・アンダーソン(カイロ・アメリカン大学総長)

リサ・アンダーソン
(カイロ・アメリカン大学総長)

シリル・ミュラー(世界銀行対外関係担当副総裁)

政治変動後の中東・北アフリカ地域の経済的側面について、私は「インドネシアモデル」を提唱します。イスラームの政治勢力と軍がうまく均衡を見出し民主主義国家に移行したのがインドネシアです。したがって、アラブ諸国の移行についても楽観的な見方を持っています。
次に「質のいい経済成長」ということについてどう考えたらよいでしょうか。教育水準の高い若年層の存在は経済成長を促すための重要な要素ですが、それを積極的に活用できるかどうかが問題となります。中東諸国の労働市場では、これまで教育水準の高い若年層に対する十分な雇用の機会がありませんでした。その要因として汚職、伝統、肥大化した公的部門などの問題が挙げられますが、若年層が生来もつ「起業家精神」を重視するべきでしょう。自国での働く場を積極的に創出しなければ、人材は国外に流れていってしまいます。

中東・北アフリカ地域では現在何よりも投資が必要とされています。アジア地域では活発な投資が発展にとって重要な役割を果たしてきました。その意味で中東諸国は今後アジアの経験を参考にするのがよいと考えます。また新たな政治体制の下では、社会の透明性が確保されることが重要なポイントとなるでしょう。

シリル・ミュラー(世界銀行対外関係担当副総裁)

シリル・ミュラー
(世界銀行対外関係担当副総裁)

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