越中国境経済調査ノート

政策提言研究

トラン・ヴァン・トゥ (早稲田大学教授)
2013年3月
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※以下に掲載する論稿は、平成24年度政策提言研究「 中国・インドの台頭と東アジアの変容 」研究会のトラン・ヴァン・トゥ委員が、研究会活動を通じて得た知見を自らの責任において取りまとめたものです。

はじめに:問題関心
中国の経済成長は、工業品の輸出拡大を中心に急速なスピードで実現され、隣接のベトナムに大きなインパクトを与えている。このインパクトの下、ベトナムの対中工業品輸入・対中貿易赤字の拡大が続いている。今後、ASEAN中国自由貿易協定の完全実施に伴ってベトナムの工業化が困難に直面する可能性が高い。この問題は国レベルの貿易動向などの分析で示された(トラン2012)。
ところで、中国のインパクトが国境地域のレベルでどのように表れているのかという点についても考察されるべきではないかと思われる。地理経済学や空間経済学が提起した中心(center)と周辺(periphery)との構造関係の視点からみても国境地域に焦点を合わせて分析することは意義があるであろう。特に、規模が大きい国境地域の中国側の急速な発展に対して、発展が遅れて規模も小さいベトナム側はどのようなインパクトを受けるだろうか。負のインパクトを避け、外部効果を受けるための戦略・政策は何か。

そのような問題意識から出発して昨年(2012年)に中国の雲南省および広西の北部湾(3月)とベトナムのクアンニン省(9月)を調査した。広い国境地域を短い期間(それぞれ1週間弱)で調査したため、限られた結果しか得られていないが、本稿は調査ノートとしてその結果をまとめておいて今後の本格的研究の出発点にしたい。

以下、1.では、越中国境地域の概要と越中両国の関連政策をまとめる。2.では、国境に接する中国側の地域の発展状況と発展政策・戦略をまとめる。3.では、ベトナム側の状況、特に発展が最も進んでいるクアンニン省を概観する。4.では結びに代えて、空間経済学が示唆している中心・周辺構造が提起する視点からベトナムの立場を吟味し今後のベトナムが対応すべき方向を考えてみる。


1. 越中国境経済の概要と制度的環境の変化
ベトナムと中国との貿易は、国家関係が正常化した1990年から急速に拡大してきた。国境地域の関係各省も2000年代から経済開発に関する協力を進めてきた。

越中国境の中国側2省は雲南と広西チワン族自治区(以下広西と略)である。 表1 に示されているように両省の合計人口は9700万人で、ベトナム全体の人口よりも多い。また、産業構造をみると、工業化がかなり進展し、一次産品のGDPシェアは小さい。特に広西の主要都市のなかでベトナムに近いのは南寧、北海、欽州、防城でそれぞれの今後の発展はベトナムに様々なインパクトを与えると考えられる。
表1 中越国境の中国側2省と関連都市の経済指標(2010)
表1 中越国境の中国側2省と関連都市の経済指標(2010)
出所)北部湾連携発展報告(2011) 雲南省、広西省経済発展報告(2010)より作成。

一方、中国に隣接するベトナム7省( 表2 )は人口規模が極めて小さく、7省合計でも470万人に過ぎない。また、クアンニン(Quang Ninh)省を除いて各省とも山岳地帯で一次産業の人口シェアが圧倒的である。このため、中国の両省との経済関係は国境地帯に留まらず、ベトナム北部の主要都市であるハノイとハイフォンを含めた地域に展開しつつある。なお、 表2 のリストの最初の4省は雲南省に、あとの3省は広西省にそれぞれ国境を持っている。
表2 越中国境のベトナム側7省の概要
表2 越中国境のベトナム側7省の概要
注)人口と都市人口シェアは2012年3月、その他は2009年3月。
出所)ベトナム統計総局の資料より。

2004年10月に中国の温家宝首相がベトナムを訪問した際、ファン・ヴァン・カイ首相が提唱した「両廊一圏」合作戦略に同意し、両首脳が共同声明も発表した。翌年、それに関する専門家会議も開催した。「両廊一圏」とは雲南省の昆明からベトナムのラオカイ(Lao Cai)、首都ハノイと港町ハイフォンまでの一帯、広西の南寧からベトナムのランソン、ハノイとハイフォンまでのもうひとつの一帯という両廊と広西の防城・東興からベトナムのハロン・ハイフォンまでの一圏である。両廊一圏を実現するために高速道路の整備や通関の簡素化などにより物流促進、分業促進を図らなければならない。

実際にその後、この地域の発展に関して中国側がもっと壮大な構想を発表し、その構想を着々と具体化してきている。それは、2006年に中国国務院発展改革委員会北部湾事務局が公表した「一軸両翼戦略」である。「一軸」とは南寧からシンガポールまでの経済回廊であり、「両翼」とは大メコン河経済連携地域と泛(汎)北部湾(拡大北部湾)経済連携地域である。南寧—シンガポール経済回廊は、南寧から、ベトナム(ハノイ)、ラオス(ビエンチャン)、カンボジア(プノンペン)、タイ(バンコク)、マレーシア(クアラルンプール)を通過してシンガポールまで全長3800キロの経済通路(鉄道、高速道路)である。泛北部湾経済連携地域は、広西、広東、海南島と香港の一帯をベトナム、シンガポール、マレーシア、インドネシア、カンボジア、フィリピンとブルネイとの関係を視野に入れて開発を進める構想である。この「一軸両翼戦略」は、明らかに、中国がASEANとの関係を強化するために広西と華南の位置を活用しようとするものである。このことを背景として、後述のように越中国境の中国側の開発が急速に進められてきている。

泛(拡大)北部湾フォーラムは2006年に成立して以来、2012年まで7回会議を開いた。ベトナム側は工商次官が出席している。2012年の拡大北部湾フォーラムは南寧で開かれ、広西省が7つの開発プログラムをASEAN各国に提示した(ベトナム語版はUy ban Quan ly Khu Hop tac Kinh te Vinh Bac bo Quang Tay, 2012)。これはASEAN との関係を展開している中国の案で、ベトナムが参加する予定であるが、国防上の関連問題などもあるので慎重に対応していくとの方針を持っているようである。

2. 中国側の開発状況と開発戦略
(1)雲南省
現在、雲南省は 一人当たりGDPで中国31省のなかで第20位であるが、地域環境の変化のなかで地政学的位置を生かして今後急速に発展する可能性が高い。南にはメコン河流域関係国の開発が進み、西にはインドなどが発展しているので、雲南省も交通ネットワークの整備で東南と西南諸国との分業を進めようとしている。特に胡錦濤総書記が訪問した2009年に雲南省が中国と東南・西南アジアとのハブとして指定されてから、インフラ整備と開発計画の推進に力を入れてきている。

気候・風土的特性から雲南省の経済構造は花栽培、薬品製造、観光産業が中心であるが、昆明(貴金属、電子製品、繊維)と南部各市(製鉄の開遠市、スズ加工の個旧市、タバコ産業の蒙自市など)では製造業も発展している。

雲南省の貿易相手国として近年の1位はミャンマー、2位は香港、3位はベトナムである。ベトナムとの貿易では雲南省が大幅な輸出超過を記録し、しかも年々拡大している(表3)。ベトナムからの輸入品は主として鉱物、海産物、米などの農産物である。一方、雲南省の対ベトナム輸出品は電子製品、糸・織物などの工業品である。中越国境貿易口の中国側の河口には家電製品、繊維などの店が多く、ベトナム商人が買い付けに来たのである。
表3 ベトナムと雲南省の貿易 (100万ドル)
表3 ベトナムと雲南省の貿易
注)シェアは雲南省貿易総額に占めるベトナムとの貿易の割合。
出所)雲南省商業庁の資料より作成。

ベトナムと雲南省との国境貿易( 表4 )は正規貿易( 表3 )よりもかなり少ない。また、表3と表4を比較してみると、ベトナムの対雲南輸出はほとんど国境貿易で、正規輸出は非常に少ない(輸出全体と国境輸出はほぼ同じ金額)。ベトナム側のラオカイ省は山岳地で貿易品の供給力が弱いうえ、交通整備が遅れているので、国内の他の地方からの物流も限られることを反映しているだろう。
表4 ベトナムと雲南省との国境貿易 (100万ドル)
表4 ベトナムと雲南省との国境貿易 (100万ドル)
注)シェアは雲南省とベトナムとの貿易総額に占める国境貿易の割合。
出所)雲南省商業庁の資料より作成。

総じて雲南省とベトナムとの貿易構造と貿易バランス(中国の大幅な輸出超過)は中国全体とベトナムとのパターンと似通っている。

雲南省は今後、環境保全を重視し、鉱物加工などの重化学工業の比重を減らし、バイオ、花栽培、薬品製造、観光の発展を促進するとともに、中国とメコン流域各国・西南アジア各国との経済交流ハブとしての役割を生かすため、交通ネットワークの整備に力を入れている。建設中の新しい昆明国際空港は北京、上海と広州に次ぐ規模で近日完成を目指している。また、トランスアジア鉄道は昆明—蒙自間が2012年9月に、蒙自—河口間が2013年3月にそれぞれ完成する予定であった。トランスアジア高速道路も2012年12月に昆明—河口間約500キロメートルが完成し、車で4時間で行けるようになる。雲南省の製品自体はベトナムへの輸出圧力が強くないと考えられるが、交通ネットワークを通じて中国の内陸部各地の製品が雲南経由でベトナムへの輸出を増加させる可能性が高くなるであろう。

(2)北部湾の開発
広西省の立地条件と壮大な開発計画がベトナムに与えるインパクトは雲南省より遥かに大きいであろう。同省の経済発展の特徴は北部湾の開発とその関連の交通ネットワークの整備である。筆者は南寧で広西民族大学、広西社会科学院、在南寧ベトナム領事館を訪問し、専門家を取材したほか、高速道路で北部湾主要各都市・海港を視察した。北部湾は省都南寧と海に近い主要都市である北海、防城と欽州(前出の表1を参照)に跨る地域であるが、中国政府が重点的開発地域として指定した2006年以来、急速に発展してきた。また、北部湾は2015年までの壮大な計画の下で今まで以上に工業生産、輸出が拡大しつつある。筆者はこれらの都市を結ぶ高速道路で時速100キロ前後で移動したが、この交通ネットワークは2015年まで、さらに改善され、移動時間を短縮させる予定である。第12次5カ年計画(2011-2015年)の目標として、南寧から北部湾各都市まで1時間以内、南寧から広西の他の主要都市(桂林、柳州など)まで2時間以内、南寧から近隣各省の省都(昆明、広州など)まで3時間以内で移動できるように良質な高速道路の整備に力を入れている。

防城港は中国のなかでも有数な港で、20万トン級の海港である。北海には空港があり、欽州には保税港区などがある。防城、欽州、北海を中心とする北部湾は中国とASEANとの分業を展開する地域として位置づけられているが、北部湾の壮大な発展計画は中国の一大工業地帯を形成しているのでベトナムなどのASEAN後発国に大きなインパクトを与える可能性が高い。既に欽州石化産業園、防城港大西南臨港工業園、北海工業園が建設されているが、2015年までの12次5カ年計画では、全国規模の工業団地として石油加工基地、有色金属基地、情報技術基地、機械設備生産輸出基地、農産物加工基地を建設する計画が展開されている。

広西とベトナムとの貿易は凴祥—ランソンや東興—モンカイ(クアンニン省)の国境貿易口があるが、防城港や欽州港からハイフォン、ダナン港などのベトナムの沿海までの航海距離が近い。また、上述のような広西の交通ネットワークの整備計画により広西省内の各地だけでなく、広東などの工業品も北部湾経由でベトナムへの輸出が急増する可能性が高い。

ベトナムは北部湾の開発計画とそのインパクトを研究し、効果的対応をしなければならない。中国の北部湾の発展がもたらす市場の機会をどう利用するか、その負のインパクトをどう回避するかを考えなければならないであろう。

3. ベトナム側の開発状況
表2 が示しているように、越中国境のベトナム側7省は大部分山岳地帯で人口規模も小さい。このため、雲南・広西との協力は両廊一圏の枠組みでハノイとハイフォンまで含めて展開している。そのために交通インフラの整備が不可欠であるが、現在は南寧—ランソン—ハノイ—ハイフォンの回廊しか高速道路ができていない。他の回廊は今後の課題で、そのなかで有望なのは北部湾に関するものである。以下、昨年調査した北部湾のベトナム側のクアンニン省の開発状況をまとめたい。

クアンニンは国境7省のなかで人口が最も多く、都市比率も工業化率も高い( 表2 )。また、海岸線が長く、ハロン湾の観光地があり、ベトナムの第3都市で重要な港湾のあるハイフォン市にも近い。ベトナム政府はこの地理的条件を生かしてハノイ—ハイフォン—クアンニンというトライアングルの開発地域の一角として位置づける。

2012年9月8日にクアンニン省の指導者がハノイで共産党政治局に開発計画を報告し、支援を要請した。政治局が省単位の地方政府の開発戦略についての会議を開催したのは初めてであった。これまではハノイ、ホーチミン市とカントといった中央直属主要都市のみであり、ベトナム共産党がクアンニン省の戦略的価値を認めたといえる。 

今後の開発方向は次のようである。

第1に、経済構造として現在は石炭、造船、建設資材が中心であるが、今後観光、商業・金融、ハイテク、農林水産業へと転換をはかる。いわゆるグレー(gray)からグリーン(green)への構造転換である。

第2に、高速道路整備を進め、首都ハノイから省庁所在地ハロンまでは今の3時間から1時間半へ、ハイフォン—ハロン間の今の1時間半から30分へ、ハロン—モンカイ(中国との国境にある都市)間の3時間から1時間半への短縮を目標にしている。

第3に港町のバンドン(Van Don)に国際空港を建設する予定である。韓国の関係者が関心を示し、予備調査をしようとしている。

第4に、建設を決定した2つの経済特区であるモンカイとバンドンを一本化する新しい工業開発区の整備を進めていく。工業開発区について1997年に第1号としてハロンに近いカイラン(Cai Lan)を建設した。シンガポール、マレーシア、韓国、中国などが投資し、食品加工、機械関連部品、蝋燭などを生産している。その後、Viet Hung工業開発区(2007年に建設、中国とベトナム資本が林業製品加工、レアアース製品の生産)、Hai Yen工業開発区(2008年活動開始、香港やベトナム資本がアパレルを生産している)、Dong Mai工業開発区(建設中、自動車部品や電子設備の分野を誘致予定)が成立している。今後、そのほかにHoanh Bo(建設資材)、Quan Trieu(食品加工)、Dam Nha Mac(ハイテク IT, 電子設備)などの工業開発区を建設する予定である。

第5に、国境都市モンカイ(Mong Cai)を中心に国境経済区を建設し、中国側の東興市との協力を進めていく。2012年4月にその方針を決定し、準備を着手している。

モンカイは人口が約10万(東興も同様な規模で約12万)、労働の大部分が商業、観光、農林漁業に従事している。GDPの構成は農林漁業10%、工業・建設20%、商業・観光70%である。他の越中国境貿易と比べ、海岸のあるモンカイが有利性を持つ。中継貿易が盛んであるし、対中貿易は黒字を記録している。ただ、主要な対中輸出品はゴム、農林水産、石炭などの一次産品で、主要な輸入品はアパレル、繊維, 農業機械・設備などの工業品であり、その構造は他の国境地域と同様である。輸出の農産物は全国各地が供給している。

モンカイへの外国直接投資(FDI)は1993年(ホテル建設)に始まり、現在までに20件が実行された。そのうち中国が商業・観光を中心に16、17件を占めている。残りはカナダ(エビ養殖)とアメリカ(建設資材)からの投資である。今後の発展方向は商業・観光に加えて港湾サービス、輸出用の各種加工工業に力を入れる。

ところで、クアンニン省の国境貿易と対外貿易の最近の6年間の実績をまとめた表5はいくつかの特徴を示している。第1に、貿易が急速に増加した(6年間で3倍)。第2に国境貿易 1 はそれ以上に拡大した。第3に、中継貿易も拡大し、フィリピンやマレーシアからクアンニン経由で中国との貿易を拡大しているといわれている。第4に、中継貿易を別としてクアンニン省の対中国境貿易ではベトナム側が大幅な黒字を記録している。石炭や水産物の豊富な資源があるからである。
表5 クァンニン省の貿易
表5 クァンニン省の貿易
出所)クァンニン省の貿易データより作成。

ちなみに、クアンニン省関係者によると、中国との国境貿易は不安定で、中国側の都合で突然の変更がよく生じている。中国は大手企業を通じて商品の需給を調整したり、価格調整で市場を支配したりする。中国が時々一部の輸出品と輸入品を禁止したり、増減したりしてきた。最近の例としてゴムの価格について中国の各企業が一斉に同じ輸入価格を提示した。談合か政策当局の指示がなければそのようなことは不可能だったはずである、という。

これに対してベトナム側の企業の対応はばらばらである。ベトナムは企業団体を強化する必要があるという指摘があった。また、ルールを無視しがちな国境貿易よりも国際慣行に従わなくてはならない正規な貿易に転換すべきという意見も聞かれた。

4. むすびに代えて:中心—周辺関係論からの示唆
以上、調査結果をもとにベトナムと中国の国境経済の現状を概観した。ベトナム側の7省を見る限り、中国の雲南・広西との比較ではベトナムの規模が極めて小さいだけでなく、インフラの整備をはじめとする開発推進においてもベトナムが遅れている。ベトナム側で資源的・地理的に最も有利なクアンニン省でさえ必ずしも開発が順調に展開していない。在ベトナムの日本企業の関係者は投資先として同省をあまり評価していないようである。土地リース料が高いし、賃金も高い(月給300万ドン、クアンニン省の平均所得は全国でトップ10に入っている)ので、日本やアメリカへの輸出目的の生産拠点としてクアンニン省を選ばないという説明だった。現在、クアンニンでの日系企業は真珠養殖、木製品など5社のみである。

ハロン湾は名勝として世界的に知られているが、ハード、ソフトともにインフラは脆弱で世界的観光都市として育つのは今後の課題である。

中国の雲南および北部湾とベトナムの国境7省について、地理経済学や空間経済学が論じている中心と周辺との関係の視点から考えてみると、どのような示唆が得られるだろうか。前者は本稿で明らかになったように規模が大きい市場で、しかも開発が先に進んでおり、「歴史」的出来事が形成されつつある。規模の経済性がはたらき、生産がますます中心に集中する可能性が高い。交通費と関税を合わせた貿易コストが高い場合、工業生産は周辺のベトナム側でも行われるが、高速道路の整備に伴う交通費の低下、自由貿易による関税率の撤廃という条件変化が生じれば(実際にはそのようになりつつある)、中心の中国側に生産が集中する傾向が強まっていくのであろう。

ただ、生産コストが今後どのように変化していくのかという問題が残っている。要素賦存状況からみてベトナムの賃金コストは中国より相対的に低い(この理由に加え、チャイナ+1の効果で華南地域からベトナム北部へ生産拠点の一部が移転している)。しかし、そのコストの差が規模の生産性によるコストの差を下回るのならば周辺のベトナムは必ずしも生産コスト面で有利といえない。賃金以外のコスト(インフラコスト、行政コストなど)も改善しなければベトナムが中国から受けるインパクトが大きくなる。

以上の結論は暫定的考察の結果であり、今後さらに追求したい課題である。
参考文献及び主な現地調査収集資料:
  • クルーグマン, P. 著、北村行伸・高橋亘・妹尾美起訳(1994)『脱「国境」の経済学:産業立地と貿易の新理論』東洋経済新報社。
  • 坂本博(2008)「中越国境付近の経済と発展可能性」(『東アジアへの視点』6月)pp. 35-44.
  • 佐藤泰裕(2010)「空間経済学への招待」(連載 やさしい経済学)(『日本経済新聞』11月30日から12月8日まで)。
  • トラン・ヴァン・トウ(2012)「 ベトナム工業と中国のインパクト 」(「中国・インドの台頭と東アジアの変容」研究会での報告稿) http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Seisaku/120118.html
  • Institute of Chinese Studies, Vietnam Academy of Social Sciences (2009), Cooperation for the Development of Vietnam-China Two Corridors and One Economic Belt: Current Situation and Prospects , Hanoi: Encyclopaedia Publishing House.
  • Krugman, P. (1995), Development, Geography, and Economic Theory , Cambridge: The MIT Press.
  • Krugman, Paul R. and Anthony J. Venables (1990), “Integration and the Competitiveness of Peripheral Industry,” in C. Bliss and Braga de Macedo, eds., Unity and Diversity in the European Community , Cambridge: Cambridge University Press, Ch.3, pp. 56-77.
  • 防城港市人民政府新聞『防城港市概況』(刊行年月なし)
  • 高剣平(2010)『中越「両廊一圏」戦略的経済哲学研究』経済管理出版会社。
  • 呂余生編『泛北部湾合作発展報告(2011)』社会科学文献出版社、北京。
  • Do Tien Sam va Kurihara Hirohide eds. (2012), Hop tac phat trien “Hai hanh lang mot vanh dai kinh te” Viet Nam-Trung Quoc trong boi canh moi (「両廊一圏」の新しい環境のなかの越中発展協力), Nha xuat ban Khoa hoc xa hoi.
  • Nguyen Dinh Liem ed. (2012), Quan he Bien mau giua Tay Bac-Viet Nam voi Van-Nam Trung Quoc (ベトナム西北地方と中国の雲南省との国境貿易), Nha xuat ban Tu dien bach khoa, Ha Noi.
  • Uy ban Nhan dan tinh Lang Son (2009), Khu Kinh te cua khau Dong Dang-Lang Son (ドンダンーランソン国境経済区)、Lang Son.
  • Uy ban Nhan dan tinh Quang Ninh (2011), Bao cao ve tinh hinh KTXH va cong tac chi dao, dieu hanh cua UBND tinh nam 2011; ke hoach phat trien KTXH nam 2012 (クアンニン省2011年社会経済状況と2012年計画についての報告)、Quang Ninh. 
  • Uy ban Quan ly Khu Hop tac Kinh te Vinh Bac bo Quang Tay (2012), 7 Chuong trinh hop tac trong khuon kho Hop tac kinh te Vinh Bac bo mo rong (広西北部湾経済協力区管理委員会『汎北部湾経済協力の枠組みにおける7つのプログラム 』未公刊資料).
脚 注
  1. 国境貿易では2010年から中国人の場合1人1日1回は8000人民元、ベトナム人の場合200万ドンまで免税である。