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論考
「新しいマレーシア」の誕生――政権交代の背景と展望
PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050486
2018年9月
編集部追記(2020年2月28日)
本記事の続編「マハティール首相辞任で流動化するマレーシアの政治情勢」が2020年2月に公開されました。こちらもあわせてご覧ください。
はじめに
2018年5月9日にマレーシアで行われた第14回総選挙において、マハティール・モハマド氏が率いる政党連合の希望連盟(Pakatan Harapan)が連邦議会下院の過半数議席を獲得し、同国史上初の政権交代が実現した。日本をはじめとする海外メディアでは92歳のマハティール氏(現在は93歳)に関心が集中し、政権交代が同氏のカムバックという文脈で語られがちだが、現地の受け止め方は異なる。投票という、国民の意思の発露によって権威主義的な政権が打破されたことで、メディアやSNSなどの言論空間は、これから政治が刷新され、新しい国に生まれ変わるのだという高揚感に満ちあふれた。それを端的に表す「新しいマレーシア」(Malaysia Baru / New Malaysia)ということばが、いま流行語になっている。
なぜ政権交代が実現したのか。新政権は旧政権とどう違うのか。新政権は安定するのか。データや資料に限りがあるなかでこれらの問いに答えるのはむずかしいが、本稿ではここまでの出来事の展開を整理したうえで、現時点での筆者なりの見解を示したい。
(2018年6月12日。首相官邸ウェブページより)
I. 政権交代の背景
3つの勢力の争い
まず、今回の選挙をめぐる与野党対立の構図を確認しておこう1。
1957年の独立から今年5月まで、マレーシアでは統一マレー人国民組織(UMNO)を中心とする政党連合による統治が続いていた。この政党連合は、当初はUMNOとマラヤ華人協会(MCA)、マラヤ・インド人会議(MIC)の3党が構成する連盟党(Alliance)として始まり、1973年に改組・改名して国民戦線(Barisan Nasional)になった。今回の総選挙の時点で、国民戦線は13の政党からなる巨大連合であった。
対して、国民戦線を破った希望連盟は、2015年9月に発足したばかりの政党連合である。加盟政党は、アンワル・イブラヒム元副首相を実質的指導者とする民族横断政党の人民公正党(PKR)、中国系・インド系市民が主力の民主行動党(DAP)、イスラーム政党の国民信託党(アマナ)、そしてマハティール氏が率いるマレーシア統一プリブミ党(PPBM)の4党である。アマナは希望連盟設立の直前に、PPBMはその1年後に発足したばかりであった。
PKRとDAPは、2008年総選挙の直後から、汎マレーシア・イスラーム党(PAS)と3党で人民連盟(Pakatan Rakyat)として活動していた。ところが2013年総選挙後、イスラーム主義政党のPASと他の2党が宗教政策をめぐって激しく対立し、2015年6月に人民連盟は瓦解する。その後、PASのなかで進歩派と呼ばれた指導者が離党してアマナを立ち上げ、PKR、DAPとともに希望連盟を結成した。PASは、今回の選挙に第3極の立場で臨んだ。
希望連盟は2017年3月にPPBMを迎え入れ、7月にはマハティール氏が会長に就任した。UMNO長老だったマハティール氏が野党指導者に転じた背景には、政府系投資会社のワン・マレーシア開発公社(1MDB)をめぐるナジブ・ラザク首相との確執があった。ナジブ首相がイニシアティブをとって設立した1MDBは、2014年には巨額の負債を抱えて経営難に陥ったことがあきらかになった。マハティール氏はその責任を追及してナジブ首相と対立し、同じくこの問題で首相に反発して副首相を解任されたムヒディン・ヤシン氏とともにPPBMを設立した。
下院の任期満了が半年後に迫った2018年1月、希望連盟は選挙に勝ったらマハティール氏を首相に担ぐと決めた。これにより今回の選挙は、現職のナジブ陣営(国民戦線)対マハティール陣営(希望連盟)対イスラーム政党PASの三つ巴の構図で争われることになった。このほか、サバ州ではムヒディン氏とともに閣僚の座を追われたシャフィ・アプダル氏が新党・サバ伝統党(ワリサン)を立ち上げて独自路線を歩んでいたが、選挙では希望連盟との候補者調整に応じて共闘態勢を組んだ。
希望連盟は「辛勝」、国民戦線は「完敗」
それでは下院選挙の結果から見ていこう。投票率は82.3%で、85%に達した前回選挙にはわずかに及ばなかったものの、70%台前半で推移していた2000年代までに比べると顕著に高い数値を記録した。一部の市民は、マハティール氏の野党指導者就任への不満を背景に棄権を呼びかける運動を展開していたが、結果的に大勢には影響がなかった。
下院の222議席のうち、希望連盟が獲得したのは113議席、すなわち半数プラス2議席である(表1)。過半数を制したとはいえ辛勝であり、得票率は45.7%にとどまった。加盟政党別に見ると、PKRは前回選挙から17増となる躍進を遂げ、47議席を獲得して連合内第1党となった。前回選挙で議席を伸ばしたDAPは4増の42議席で、PKRと肩を並べる勢力である。マレー人政党のPPBMとアマナはそれぞれ13議席、11議席を得ており、新党としては大いに健闘したといえる。
表1 2018年マレーシア連邦議会下院選挙 政党別獲得議席数・議席占有率・得票率
(2018年5月9日投票,定数222,登録有権者数14,940,624人,投票率82.3%)
(出所)マレーシア政府官報 P.U. (B) 306-312, 347および新聞報道をもとに筆者作成。
対して国民戦線の獲得議席は、前回選挙の133から79に激減した。とくにマレー半島部で活動する非マレー人政党(MCA、MIC、Gerakan)は3党で計3議席と完敗した。最盛期にあわせて50議席を得ていた3党にとって、今回の結果は壊滅的な惨敗である。UMNOの議席も前回の88から54に激減したが、それでも同党は依然として議会内第1党である。
第3極のPASは苦戦を強いられると予想されていたが、18議席を得た。前回選挙の21議席には及ばなかったものの、党分裂によって改選前には13議席まで減らしていたことを鑑みれば予想外の健闘といえる。サバ州ではワリサンが8議席を得て台頭した。
下院選挙と同時に行われた各州の州議会選挙でも希望連盟が躍進した(表2)。全13州のうち、すでに州政権を得ていたペナン州、スランゴール州に加え、クダ州、ペラ州、ヌグリスンビラン州、マラッカ州、ジョホール州でも州政権を獲得した2。サバ州では、一時的に国民戦線と小政党のサバ人民祖国連帯党(Sabah STAR)による連立政権が成立したが、同日中に国民戦線からパソモモグン・カダザンドゥスン・ムルット統一組織(UPKO)が離脱し、希望連盟とワリサン、UPKOの連立政権が成立した。州首相の座はワリサンのシャフィ総裁が得た。
表2 州議会選挙における各党の獲得議席数
国民戦線が州政権を維持できたのは、今回は選挙がなかったサラワク州のほかは、ナジブ首相の地元であるパハン州とタイ国境の小規模州プルリスのみであった。しかも、後に述べるように、サラワク州政権を担う4党は6月に国民戦線を離脱している。
PASは州議会選挙でも健闘し、クランタン州政権を維持したのに加え、トレンガヌでも州政権を獲得した。PASがトレンガヌ州議会選挙に勝利したのはほぼ20年ぶりである。
誰が希望連盟を支持したのか?
次に、どのような票の動きが史上初の政権交代を導いたのかを検討したい。総選挙前に希望連盟の指導者は、今回の選挙では「マレー人の津波」が起こると予言していた。「マレー人の津波」とは、大量のマレー人票が国民戦線を離れて希望連盟に流れ込むという意味である。前回、2013年選挙では中国系市民の与党離れが顕著に表れ、それをナジブ首相が「華人の津波」と呼んだ。この選挙では得票数で野党が与党を凌駕したが、与党は一票の格差に助けられてその座を維持できた。今回の選挙で希望連盟が政権を奪取するには、マレー人の票を得てUMNOの地盤を切り崩すことが不可欠であった。
では、実際に「マレー人の津波」は生じたのだろうか。図1は、マレー半島部の165選挙区を対象に、各選挙区におけるマレー人有権者の比率と国民戦線候補の得票率との関係を図式化したものである。2008年選挙、2013年選挙、2018年選挙のいずれについても、2つの変数のあいだには統計的に有意な相関が見られる3。2018年選挙と2013年選挙を比べると、2変数間の関係を表す直線の傾きに大きな差はない。すなわち今回も前回同様に、マレー人有権者の比率が高くなるほど国民戦線候補の得票率が高くなるという傾向が見られた。
図1 マレー半島部における国民戦線候補の得票率(縦軸)と 選挙区のマレー人比率(横軸)の関係
図2 国民戦線候補得票率の前回選挙との差分(縦軸)と 選挙区のマレー人比率(横軸)の関係
大きかったUMNO分裂の影響
マレー人だけでなく、華人やインド人の国民戦線離れもいっそう進んだのだが、前回選挙ですでに国民戦線が議席を失った選挙区で得票率がさらに低下しても議席数は変わらない。では、今回の選挙で国民戦線が新たに議席を失ったのはどのような選挙区なのか。
表3は、今回の選挙と前回の選挙の国民戦線の成績を、州ごとに集計して比較したものである。国民戦線がとくに多くの議席を失ったのは、クダ(-8)、ジョホール(-13)、サバ(-12)の3州であり、これはそれぞれ、マハティール氏、ムヒディン氏、シャフィ氏の地元である。つまり、2016年のUMNO分裂が同党の議席減に直結したということである。国民戦線においてUMNOに配分される選挙区は、半島部ではマレー人が多数を占める選挙区だから、議席数の変動については「マレー人の津波」の影響が大きかったといえる。
表3 各州における国民戦線の議席数と得票率の前回選挙(2013年)との比較
UMNOは、1988年と1999年にも分裂を経験しており、その後の総選挙で苦戦を強いられた。今回も同じ結果になったといえる。また国民戦線は、今回サラワク州でも多くの議席を失っているが(-6)、その背景にはやはり加盟政党の内部分裂があった。
得票率で見ると、スランゴール州での下げ幅がクダ州のそれに次いで大きい。ところがスランゴール州においては、国民戦線は前回選挙ですでに多くの議席を失っていたため、前回との差はマイナス3議席にとどまった。
UMNO有利に繋らなかった野党の相打ち
ここまで見てきたような票の動きは、事前にある程度予想されていた。1MDB問題やUMNO分裂がナジブ政権にとって痛手であることは総選挙の前から明白であったし、マハティール氏が首相候補になったことは、希望連盟にとってマレー人有権者に対する絶好のアピール材料になると考えられた。にもかかわらず、国民戦線が今回も与党の座を守るだろうというのが大方の見方であった。筆者自身、希望連盟が前回と同様に得票数で国民戦線を上回っても、政権交代にまで至る可能性は低いと考えていた。極端な一票の格差が維持されているからだ。そのうえ、今回はPASが第3極の立場をとったため、政府与党への批判票が複数の野党に分散すると考えられた。マレーシアの選挙制度は最多得票候補が当選する単純小選挙区制だから、日本の衆議院選挙と同様に、野党の相打ちは与党を有利にすると見られていた。
前回選挙後の各党の動きを振り返ると、この野党相打ちの状況を実現するために与党が積極的に働きかけていたことがわかる4。選挙の翌年からUMNOは、野党連合の協調体制を切り崩すべく、露骨にPASへの接近を図ってきた。PASがめざすイスラーム刑法違反の厳罰化に協力する姿勢を見せ、同党がイスラーム主義路線に回帰するのを後押ししたのである。その結果PASはDAPやPKRとの対立を深めて人民連盟が瓦解し、今回の選挙で希望連盟とPASが競合することになった。PASはこれまでUMNOの主要なライバルであったが、希望連盟との三つ巴の状況はUMNOを有利にすると見られていた。実際、希望連盟を率いるマハティール氏自身がそのことをたびたび指摘してPASを非難した。
ところが実際には、希望連盟とPASの相打ちはUMNOの議席にはつながらなかった。それぞれの政党の集票力には地方差があり、三つ巴というより「2強1弱」ともいうべき状況になった州が多かったからである。
表4は、下院選挙でUMNOが候補を立てた選挙区(計120)におけるUMNO、PAS、希望連盟加盟政党(およびワリサン)の成績を州ごとにまとめたものである。第3位となった勢力の得票率が20%以上だったケースを「三つ巴」とし、20%を下回ったケースを「2強1弱」と定義すると、計13の州および連邦領のうち、9つは2強1弱であり、三つ巴になったのは4つであった。野党支持票は、マレー半島北東部のクランタン州とトレンガヌ州ではPASに集中し、その他の州と連邦領では希望連盟(およびワリサン)に集まる傾向が強く、三つ巴になったのはむしろ例外だったといえる。
表4 UMNOが候補を立てた選挙区(計120)における各党の議席数と得票率(州別)
汚職疑惑、マハティール効果、影響薄かった野党相打ち
ここまでの分析をまとめると次のようにいえそうだ。まず前回と今回の投票結果を比べると、民族にかかわらず一様に大規模な国民戦線からの離脱が生じていることから、今回は個別争点よりも政府や指導者の信頼性が問われた選挙だったと考えられる。選挙後に実施されたUMNO党員を対象とする調査によれば、国民戦線敗北の理由としてもっとも多くの党員が指摘したのは、「ナジブ氏に対する国民の拒否感」であった。この拒否感の背景にあるのは、1MDBにかかわる汚職疑惑であろう。
1MDB問題は、ナジブ氏の信用を損なっただけでなく、UMNOの分裂とマハティール氏の希望連盟会長就任につながった。マハティール氏が指導者になったことで、従来は国民戦線を支持してきたがナジブ政権には不満があるというマレー人有権者にとって、希望連盟が代替的な選択肢になった。この点において、「マハティール効果」が選挙結果に与えた影響は大きい。
ただし、この効果には地域差があり、以前からPASの組織が強い地域では与党批判票はPASに向かった。華人とインド人の票の大部分が希望連盟に向かったのに対し、マレー人票は希望連盟、国民戦線、PASの3方向に分かれている。ある調査によれば、華人の95%、インド人の70~75%が希望連盟に投票したのに対し、マレー人のうち希望連盟に投票したのは25~30%で、30~33%がPAS、35~40%は国民戦線を支持したという5。もし、マレー人が大多数を占める選挙区で、この数値どおりの三つ巴の争いになっていたとしたら、野党相打ちの結果UMNOが漁夫の利を得たはずだ。しかし実際には、各党の組織力の地域差により、2強1弱となった州が多かった。こうして、希望連盟が辛勝、国民戦線は完敗、PASは第3極としての勢力を維持という結果がもたらされた。
II. 新政権の政策
100日間で実施する10の公約
総選挙の翌日、希望連盟を率いたマハティール氏が14年半ぶりに首相に就任した。同じ日、ナジブ氏らUMNO幹部が記者会見を開いて敗北を認めており、一部で懸念された混乱は生じなかった。
では、新政権は旧政権とどう違い、何をめざすのか。閣僚の顔ぶれについては後で検討することとし、まずはここまで新政権がとってきた政策について確認しておきたい。
今回の総選挙にあたり、希望連盟は『希望の本』と題した200ページ近くにおよぶ大部のマニフェストを用意した。このマニフェストでは、60項目の公約がすみやかに実現すべきものと中長期的課題に区別されており、前者は「100日間で実施する10の公約」(以下、「100日公約」)として特記された(表5)。新政権の政策は、おおむねこの公約に沿って進められていることから、以下では政権交代の100日後にあたる8月半ばまでの進展状況を簡潔に整理する。
表5 希望連盟の「100日間で実現する10の公約」
1MDB関連の捜査と政府系企業経営陣の刷新
政権交代後、マハティール首相がまず取り組んだのが1MDBにかかわる汚職疑惑の捜査である。100日公約には、不透明な取引の疑いがある政府系企業を調査する王立調査委員会の設置が盛り込まれていた。しかしマハティール首相は、このような時間のかかる手法はとらず、当局の責任者をすげ替えることで捜査を促した。
2015年に当時のナジブ首相は、1MDBの関連会社や取引先などを通じて自身が多額の現金を得た疑惑が報じられると、司法長官や捜査責任者だった汚職取締委員会(MACC)の副長官を退任に追い込んで捜査の幕引きを図った。選挙に勝って首相になったマハティール氏がやったことは、ちょうどこの裏返しである。ナジブ氏の不起訴を決めた司法長官を退任に追い込み、ナジブ氏の圧力で退任させられたMACC元副長官を長官に抜擢した。
7月3日にナジブ氏は逮捕され、翌4日、1MDB関連会社との現金授受にかかわる職権濫用と背任の容疑で起訴された。ナジブ氏はこの日、100万リンギの保釈金支払いを条件に保釈されたが、8月8日には資金洗浄容疑で追起訴されている。ナジブ氏捜査の過程では、同氏が保有するマンションなどから多額の現金や宝飾品などが押収されたほか、UMNOの銀行口座が凍結され、6月の役員改選で党総裁に就任したアフマド・ザヒド・ハミディ前副首相が事情聴取を受けるなど、捜査対象が広がる兆しもある。
また経済官庁や政府系企業などでは、前政権期に就任したトップの退任が相次いでいる。財務事務次官と中銀総裁が替わったのに加え、国家投資公社(PNB)、国家石油公社(Petronas)、連邦土地開発公社(FELDA)、巡礼基金(LTH)など主要政府系企業で会長の交替が進んだ。政府系ファンドのカザナ・ナショナルに至っては、7月に社長ほか役員全員が辞任し、首相が自ら会長に就任するなど、経営陣が刷新された。
物価対策
希望連盟支持者の多い都市部では、物価の高騰が長年にわたり有権者の不満の種であった。前政権は財政再建を目的に、2015年に税率6%の一般消費税である物品・サービス税(GST)を導入したうえ、石油燃料補助金を廃止した。どちらも一般の有権者には評価されない不人気政策である。希望連盟はとくにGSTを問題視してその廃止を選挙公約の目玉に掲げていた。
新政権は、暫定的な措置として6月1日付でGSTの税率を0%に設定するとともに、GST導入前に施行していた売上・サービス税(SST)を9月に再導入する方針を示した。SSTの課税対象はGSTに比べ少ないうえ、単段階の税であることから、GSTからSSTへの切換は物価抑制につながると期待されている。ただし、消費税がゼロになった6月から8月までの猶予期間においてすら物価の低下を実感できていないとの声が出ており、この税制改革が有権者の期待に応える効果をもたらすかどうかは不確かである。税制改革関連法案は8月に上下両院を通過し、9月1日のSST導入が決まった。
石油燃料補助金については、排気量1,300cc未満の自動車と同125cc未満の二輪車に対する補助金の支給が100日公約に盛り込まれたが、5月末には実施の先送りが発表された6。これとは別に、暫定措置としてガソリンと軽油の価格が5月16日の価格で固定されたものの、ハイオク・ガソリン(RON97)については6月7日から変動制に戻されている。
所得改善
最低賃金は物価対策とならんで長らく野党にとっての重要争点であり、その引き上げは希望連盟の主要公約のひとつであった。現行制度ではマレー半島部の最低賃金は月額1,000リンギ、東マレーシア(サバ州・サラワク州)では同920リンギと定められているが、今回の総選挙にあたり希望連盟は、これを全国一律1,500リンギに引き上げると公約した。
だが実際には、最低賃金の大幅引上げには財界からの強い反発が見込まれるため、実現は容易でない。早くも6月2日には、最低賃金をすぐさま1,500リンギに引き上げることはできないと人的資源相が述べている。
最低賃金制度は、下位40%の所得引上げを目標に掲げたナジブ政権のもとで導入が実現した。前政権はまた、一定未満の所得の世帯を対象とする現金給付政策「ワン・マレーシア国民支援」(BR1M)を導入しており、段階的に給付対象を広げてきた。当時の野党はBR1Mに批判的であり、とりわけマハティール氏は、これは「国民に対する贈賄」だと強く非難していた。ところが、政権交代後もこの政策は続いている。新政権は、5月30日に開催した第2回閣議で、現金給付政策を「生活費支援」(Bantuan Saraan Hidup)と改称して継続することを決めた。
所得水準について都市住民のあいだでは、賃金が上がらないのは外国人労働者が多すぎるからだという見方が広く共有されている。7月1日には、警察が不法外国人就労者に対する大規模な摘発作戦を始めた。また、この日から外国人調理師の雇用が禁止された。年内は猶予期間とされたものの、突如導入されたこの政策には飲食店経営者から反対の声があがっている。
財政再建
市民・企業の間接税負担を軽減する一方、現金給付策は継続、石油燃料補助金の再導入も視野に入れるとなると、財政の健全性が懸念される。政権交代後まもなく新政権は、前政権のもとで政府の負債が1兆リンギを超す危険水準に達したと発表し、物議を醸した。2017年の会計検査報告によれば、2016年末時点の連邦政府債務は6,485億リンギとなっていた。これに対して新たに就任したリム・ガンエン財務相は、5月24日の声明で、2017年末時点では連邦政府債務6,868億リンギのほか、政府系企業等の借入に対する政府保証が1,991億リンギ、官民パートナーシップ事業にかかわる支払義務が2,014億リンギに達しており、政府の負債は計1兆873億リンギ、GDPの80.3%に相当すると発表した。
同時に新政権は、財政再建のために大型インフラ開発事業を中止すると発表した。中止ないし見直しとされたのは、クアラルンプールとシンガポールを結ぶ高速鉄道および関連する都市開発、金融センター事業(TRX)、サバ・サラワクを結ぶパン・ボルネオ高速道路、首都圏鉄道事業(MRT3)、クアラルンプール郊外から半島を横断してコタバルに至る東海岸鉄道(ECRL)、2つのパイプライン敷設事業などである。5月31日の財務相発表によれば、事業中止によって1,000億リンギを節約でき、うち207億リンギを国民に還元するという。その内訳は、GSTからSSTへの切換による税の軽減に170億リンギ、石油燃料補助に30億リンギ、公務員と年金生活者向けに対する断食明け大祭の給付金に7億リンギとなっている7。
ただし、見直しの対象とされた事業のなかには継続に決まったものもあり、1,000億リンギが浮くという皮算用はあまり当てにならない。TRXとパン・ボルネオ高速道路の建設は続けられることがすでに決まっている8。シンガポールとの間の高速鉄道事業も、いったんはマハティール首相が中止を宣言したが、7月に入りリム財務相は、費用が下がるなら再考もあり得ると公言した9。MRT3についても、延期であって中止ではないと運輸相が述べている10。
一方、東海岸鉄道と2つのパイプラインについては、8月中旬の首相訪中の際に事業中止が決まった11。すでに着工した分が無駄になるのに加え、請け負った中国企業に対して補償金を支払わねばならない。金額は今後の交渉しだいだが、「かなりの額」(首相発言)になるのは避けられない見込みである。
中国企業が受注した大型事業の見直し
100日公約には、「外国が受注した大型事業に関する詳細な調査の実施」という項目がある。これが中国企業を標的にしたものであることは、政権交代後の展開を見ればあきらかだ。6月のインタビューでマハティール首相は次のように述べている。「中国と契約するとなると、中国から多額の金を借りることになる。中国企業は自国の労働者を使い、何でも中国から輸入し、支払いすらここではせずに中国でする。そんな契約は歓迎しかねる12」。
対照的に、日本に対しては6月の首相訪日時に財政再建のためのソフトローン供与を求め、日本側がこれに前向きな姿勢を示すなど、関係強化に向けた動きが見られる。
しかしこうした動きを、中国を離れて日本に接近するものと解釈するのは適切ではなかろう。総選挙の直後にマハティール氏は、一帯一路構想については問題視していないと述べたうえに、かつて中国の習近平国家主席に書簡を送り、欧州と陸路の繋がりをもつことの重要性を訴えたことをあきらかにしている13。新政権が問題視しているのは、前政権が1MDB救済資金の獲得などを動機として中国企業と結んだ、国益に適わない内容の契約である。前述のとおり、8月の首相訪中で中国交通建設(CCCC)が請け負った東海岸鉄道と中国石油パイプライン局(CPPB)が受注したパイプラインの建設中止が決まったが、そこに至るまでの間、政府は事業継続を念頭に契約の再交渉を試みていた14。
成長戦略はこれから
100日公約は一見してわかるとおり、得票につなげることを意識した「ばらまき」の性質が強い。そこには中長期的な視野に立った成長戦略は含まれておらず、その策定が目下の課題になっている。
そこで注目されるのが、ブミプトラ(先住民族)優遇政策の行方である。国民戦線政権のもとでは、ブミプトラ政策が開発政策の不可分な要素と位置づけられており、5カ年計画で具体的な目標が設定されてきた。一方、希望連盟の中心勢力であるPKRとDAPは、民族別割当制(エスニック・クォータ)に長らく反対してきた。
その希望連盟を率いるマハティール氏は、マレー民族主義を信条とする政治家である。6月末にはシンガポールのテレビ局のインタビューで、マレー人と華人の格差を縮めるためにマレー人に対するアファーマティブ・アクションはまだ必要だと述べている15。希望連盟がブミプトラ政策をめぐって深い亀裂を抱えているのは間違いない。
2018年は11次5カ年計画の3年目にあたり、通例なら中間報告書が発表される年である。新政権は、今次5カ年計画の新たな方向性を示す文書を10月に発表する見込みである16。ここでいかなる指針が示されるかが注目される。
III. 新政権の特徴とリスク
連立与党の拡大と国民戦線の縮小
このように、新政権は選挙公約の実現に向けた取り組みを始めたが、政策を策定し実施するのに必要な安定性を確保できるだろうか。
総選挙で希望連盟が得た議席は、前述のとおり、定数の半数をわずか2議席上回っただけの113議席に過ぎなかった。しかし、選挙後に生じた各党の連携関係の組み替えなどにより、短期的には政権が瓦解するリスクは大幅に低下したといえる。
総選挙後まもなく、無所属で当選した3議員がPKRに入党した。また、7月2日にはサバのワリサン所属議員3名が大臣に、2名が副大臣に登用された。つまり、中央レベルでも希望連盟とワリサンの連立が成立したのである。UPKO議員の入閣はなかったが、同党はサバの連立政権の一角を占めていることから、中央でも希望連盟の友党と見なされている。これらを合算すると、連立与党の議員は125人になる。
他方、野党連合となった国民戦線からは離脱する政党が相次いだ。選挙後まもなく、サバの加盟政党(UPKOとPBS,PBRS,LDP)とマレー半島部の小政党・人民進歩党(myPPP)が離脱し、6月にはかつてペナン州首相を輩出していたマレーシア人民運動党(Gerakan)と、現在も州政権を担うサラワクの4党が国民戦線と袂を分かった。サラワク州政権を担う統一ブミプトラ伝統党(PBB)とサラワク統一人民党(SUPP)、サラワク人民党(PRS)、進歩民主党(PDP)の4党は、「サラワク政党連合」(GPS)を新たに旗揚げし、連邦政府と協調する姿勢を見せている17。
いまも国民戦線に残っているのは、UMNOのほかはMCAとMICのみ、すなわち、かつての連盟党の3党である。UMNOからは7月初めまでに3議員が離党して無所属議員になったため、国民戦線所属下院議員は54人(UMNO51, MCA1,MIC2)にまで減っている。上院では現時点でも国民戦線が過半数勢力18だが、政府法案の成立を阻止できるほどの党規律はない。GST廃止にあたり、ザヒドUMNO総裁らはこれに異を唱えたが、税制改革関連法案は上院を難なく通過した19。
現在、MCAとMICの内部でも国民戦線からの離脱を求める声がある一方、UMNOからは国民戦線の存在意義への疑念が呈されており、野党連合は機能不全に陥っている。国民戦線は、これまで選挙では共通のロゴマークを用いてきたが、9月のスランゴール州議会補欠選挙でMCAは自党のマークを用いる方針である。もはや次の選挙で政権奪回をめざせるような態勢ではない。
バランスのよい多民族権力分有政権に回帰
次に、マハティール首相が率いる内閣の顔ぶれを見てみよう。希望連盟は、総選挙に勝ったらマハティール氏を首相、アンワル氏の妻でPKR総裁のワン・アジザ氏を副首相にすると決めていたが、その他の人選について事前の公約はなかった。はじめての政権交代とあって、内閣は未経験者で占められることになる。連立与党間のポスト配分に関する取決めもない。マハティール首相は、与党各党からの推薦を考慮しながら、段階的に組閣を進めていった。
選挙翌週の5月12日、マハティール首相はまず、DAPを率いるリム・ガンエン書記長を財務相、PPBM総裁のムヒディン元副首相を内相、アマナのモハマド・サブ総裁を国防相に指名した。同時に、かつての腹心ダイム・ザイヌディン元財務相ら5人からなる賢人評議会を組織し、このチームに100日公約の履行に向けた作業のイニシアティブを委ねた。迅速な対応が求められる課題への取組みはこの諮問機関に任せて、各党との調整が必要な組閣は慎重に、時間をかけて行ったのである。5月21日に正副首相を含めて14人の内閣を発足させた後、7月2日に大臣13人と副大臣23人を追加任命、さらに同月18日には、大臣1人、副大臣4人を上院議員から追加で登用した。
表6は、7月18日付の閣僚(正大臣)のリストである。初めての政権交代ではあるものの、重要ポストには執政経験のある人物がついている。首相には22年の経験をもつマハティール氏、警察を司る内相にはムヒディン元副首相がついており、統治機構の根幹は経験豊富なベテランがおさえた。44年ぶりに華人として財務相に登用されたリム氏は、ペナン州首相を2期10年務めた経験をもつ。新設の経済相は、5カ年計画など総合的な開発政策の立案・実施を所管するものとみられるが、このポストにはスランゴール州首相を務めていたPKRのアズミン・アリ副総裁が抜擢された。
表6 閣僚名簿(2018年7月18日付)
その他のポストは、所属政党やエスニシティのバランスに配慮して配分されている。政党別のポスト配分(表7)を見ると、希望連盟加盟政党のあいだでは正大臣ポストがほぼ均等に配分されている。連立与党内最大勢力のPKR(議席シェア40.0%20)と2番手のDAP(同33.6%)が、議席シェアより少ないポストしか受け取らず、他党に配慮したかたちである。
表7 閣僚の所属政党別内訳
表8 閣僚の民族構成
エスニシティ別に見ると(表8)、ブミプトラへの配分率は正大臣については69.0%、副大臣込みでは67.9%となっており、人口比21(68.8%)とほぼ等しい。華人の正大臣は人口比より少なく、インド人の大臣が多くなっているが、副大臣を含めた数値は人口比(華人23.2%,インド人7.0%)とほぼ等しい。副大臣を含めた閣僚の民族構成が人口上の民族構成と一致するようポスト配分がなされるのは、国民戦線が各民族から幅広い支持を得ていた1990年代半ばから2000年代半ばまでのパターンと同じである。華人の国民戦線離れが顕著になった2008年選挙以降、国民戦線政権はブミプトラ内閣の性格が強くなっていたが、政権交代によってかつてのパワーシェアリングの様式が復活することになった。民族的包括性の点では、ナジブ政権より現政権の方が全盛期の国民戦線政権に近いのである。
3種の政権不安定化リスク
このように、総選挙後に連立与党が拡大したうえ、内閣の構成も与党間の勢力均衡や民族構成に配慮したバランスのよいものになったことから、すぐにも政権の瓦解につながるような深刻な問題は見当たらない。しかし、長年続いた政党間関係が大きく変わった後だけに、やはり政権不安定化のリスクはある。潜在的なリスクとして、(1)後継問題を含む、首相にまつわるリスク、(2)連立与党内に潜むリスク、(3)与野党間関係がはらむリスク、という3種のリスクを指摘できる。
誰の目にもあきらかなのは、高齢なマハティール首相の健康リスクである。93歳で首相の激務をこなすという超人的な能力を発揮しているが、年齢が年齢だけに、不測の事態が生じるおそれがあることは否定できない。2年以内にアンワル氏へ首相の座を禅譲するのが規定方針だが、そこに至る具体的な手順と日程はまだ定まっていない。アンワル氏は、選挙後まもなく恩赦を得たが、政界への本格復帰は急がないという態度を取っている。アンワル氏が首相になるにはまず下院議員になる必要があり、そのためには誰かが辞職して補欠選挙を行わねばならない。ところが妻のワン・アジザ氏は副首相を務めており、娘のヌルル・イザ議員も辞職は望んでいない。
さらには、マハティール首相はアズミン経済相への後継を望んでいるのではないかという噂が公然と語られはじめた22。マハティール首相は、1998年にアンワル副首相を投獄して2003年にアブドラ・アフマド・バダウィ氏を首相に据え、2008年にはアブドラ氏を追い込んで翌年のナジブ氏首相就任を後押しした。そして今年、自ら総選挙で野党連合を率いてナジブ降ろしを実現し、ナジブ氏を汚職や背任の容疑で起訴した。次こそ規定方針どおりに後継が進むのか、注意深く見守る必要がある。
リーダーシップに関するより根本的な問題は、首相の選び方や首相がもつ裁量の幅について与党間の合意がないことである。現状では、マハティール氏が従来どおりの強い首相として、選挙公約の実現に向けてイニシアティブを発揮している。与党各党がそれに従っているのは、(1)マハティール氏の選挙での貢献と首相執務経験を認めざるを得ず、(2)首相は早期退任が見込まれており、(3)選挙公約には広範な合意がある、という条件が揃っているからだ。誰が後継者になっても、いまマハティール首相が得ているほどの与党内支持は期待できない。将来、連立与党内部での調整が必要な政策課題に直面した際に、無理にイニシアティブを発揮しようとすれば政権の動揺を招くかもしれない。
そのような懸念があるのは、与党各党のあいだに政策志向の隔たりがあるからだ。選挙前はナジブ政権打倒で利害が一致し、選挙後は公約の履行が優先事項になっていることから、いまのところ与党の一体性は保たれている。だが今後、新たな5カ年計画や長期開発政策を策定する局面を迎えたときには、連立与党内部の調整が必要になる。前述したとおり、与党内にはブミプトラ政策をめぐる見解の相違がある。落としどころを探るのはむずかしい作業になろう。
総選挙を経て様変わりした与野党間関係は、連立与党内の調整をより困難にするおそれがある。希望連盟を中心とする連立政権にとって、最大の敵はUMNOである。国民戦線が機能不全に陥ったいま、UMNOがより急進的なマレー民族主義政党に変貌してもおかしくない。加えて、野党第2党は同じくマレー人政党のPASである。UMNOとPASは長らくライバル関係にあったが、いまはともに野党であり、協調のインセンティブが生じることもあろう。実際、8月4日に実施されたスランゴール州議会の補欠選挙では、UMNOとの相打ちを避けるためにPASが候補擁立を見送っている。今後は議会内で両党が共闘する場面もあるかもしれない。マレー人の特権やイスラームをめぐる争点で、マレー人2野党が急進的な要求を掲げて政府与党を攻撃するという展開も、あり得ないことではない。野党になったUMNOにどう対応するかが、新政権の安定性を左右する大きな要因になるだろう。
おわりに
政権交代を果たしたマレーシアは、国民の期待どおり「新しいマレーシア」へとアップグレードできるのだろうか。この国では独立以来、定期的に選挙が実施されてきたが、その政治体制は民主主義の要件を満たしていなかった。言論の自由に制限が課されていたうえ、野党指導者に対するハラスメントが頻発し、さらには世界最悪水準の一票の格差によって与党の優位が保たれるなど、この国の選挙は「自由で公正」とはいえないものであった。
にもかかわらず、今回の総選挙では逆境をものともせずに希望連盟が勝利した。かれらが有権者の真の支持を得たことは疑う余地がない。したがって、現政権は民主的な政権であり、今回の政権交代によって民主化が実現したと評価できる。かつて開発独裁の支配者と呼ばれたマハティール氏が首相を務めているからといって、それだけを理由に現体制は民主主義ではないと評価するのは誤りである。
しかし、これから民主主義を定着させるには、多くの制度を改革せねばならない。メディア統制の道具になりかねない反フェイク・ニュース法が廃止され、首相府の諮問機関として選挙改革委員会が設置されるなど、制度改革への取り組みはすでに始まっている。しかしいまの政府は、前政権の汚職疑惑の解明に注力するとともに、ばらまきの色彩の濃い選挙公約の履行と財政再建の両立を図るという難題に挑戦しており、全面的な政治制度改革に乗り出すには至っていない。政権交代後、マスメディアの報道にはこれまでにはなかった多様性が生まれているが、その分、ナジブ氏らUMNO側の異議申し立てや、急進的なマレー民族主義者の主張、与党内部の派閥対立など、政権にとって厄介な問題がクローズアップされる機会が増えている。こうした環境のなかで、連立与党はこれから相互の利害対立を調整しつつ、改革を進めていかなければならない。
現政権のもとで十分な民主化改革を実行できるかどうかは、現時点ではまだ定かでない。筆者は今後も観察を続け、定期的にこの『IDEスクエア』で報告していく予定である。
著者プロフィール
中村正志(なかむらまさし)。アジア経済研究所地域研究センター東南アジアI研究グループ長。博士(法学)。専門は比較政治学、マレーシア現代政治。おもな著作に、『パワーシェアリング――多民族国家マレーシアの経験』東京大学出版会(2015年)、『ポスト・マハティール時代のマレーシア――政治と経済はどう変わったか』(共編著)アジア経済研究所(2018年)など。
注
- 詳しくは、総選挙前に掲載された拙稿「92歳のマハティール氏がなぜ次期首相候補なのか(前編)(後編)」を参照されたい。
- ペラ州議会選挙(定数59)での希望連盟の獲得議席は定数の半数に満たない29議席であったが、UMNOから2議員が離党して希望連盟支持を表明したため希望連盟政権が成立した。また、クダ州議会(定数36)における希望連盟の議席は定数のちょうど半分の18議席である。どちらの州でも、UMNOとPASの議席を合算すれば過半数に達したが、両党の連立は実現しなかった。
- サンプルサイズ、相関係数、有意水準は以下のとおり。2008年選挙はn=164, r=0.459, p<0.01,2013年選挙はn=165, r=0.699, p<0.01,2018年選挙はn=165, r=0.672, p<0.01。
- 詳しくは、拙稿「幻の二大政党制――変わる政党システム、変わらないUMNOのヘゲモニー」(中村正志・熊谷聡編『ポスト・マハティール時代のマレーシア――政治と経済はどう変わったか』アジア経済研究所,2018年,37-87ページ)を参照されたい。
- Straits Times, June 14, 2018.
- Star, June 1, 2018.
- Star, June 1, 2018.
- Star, June 21, 2018; Malaysiakini, July 5, 2018.
- Star, May 29, 2018; Straits Times, July 11, 2018.
- Malay Mali Online, July 31, 2018.
- The Edge Markets, August 21, 2018.
- South China Morning Post, June 19, 2018.
- Star, May 11, 2018.
- New Straits Times, June 24, 2018; The Edge Markets, July 19, 2018.
- Channel NewsAsia, June 24, 2018.
- Malaysiakini, July 24, 2018.
- Malay Mail, July 18, 2018.
- 上院は州議会が選出する議員と国王が任命する議員で構成される。任期は3年で議会解散の影響を受けない。定数は70だが、欠員があり、現在の議員数は55人。そのうちの33人が国民戦線所属議員である。
- Star, August 20, 2018.
- UPKO(1議席)も連立与党と見なして計算した。
- エスニシティ別の人口比は2017年の値。出所はマレーシア統計局ウェブサイト。
- New Straits Times, August 12, 2018.