新型コロナ前で予想を下回る2019年GDP

ブラジル経済動向レポート(2020年3月)

地域研究センター 近田 亮平

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2019年GDP:2019年の年間と第4四半期のGDPが発表され、年間の名目額がR$7兆2,569億(ドル換算でUS$1兆8,392億)、成長率は1.1%だった。また、一人当たりGDPは名目額がR$ 34,415(ドル換算でUS$9,040)、成長率は0.3%だった(グラフ1)。ブラジルはTemer前政権から経済の自由化や緊縮財政を進め、Bolsonaro政権下においてGuedes経済大臣のイニシアティブで経済をはじめとする抜本的な改革を試みている。しかし、Bolsonaro政権1年目の経済成長率は、Temer前政権の2年間(2017-18年)を若干下回るものとなった。しかも、第4四半期GDP(名目)はR$1兆8,924億(前期比0.5%、前年同期比1.7%)で、年明けに顕著化した新型コロナウィルスの影響がない時期であるにも関わらず、前期比の伸びが若干ながら第3四半期より低下した(グラフ2)。そのため2020年のGDP予測に関して、GDP発表直後に2%台前半から1%台後半へ下方修正する動きが見られたが、その後の新型コロナウィルスの感染拡大により、4%以上のマイナスになるとの見方もされるようになった。

グラフ1  過去10年間の年間GDPの推移

グラフ1  過去10年間の年間GDPの推移

(出所)IBGE (注)左軸がGDPの金額(「T」は「兆」、棒グラフの「B」は「10億」)、右軸が成長率。


グラフ2 四半期GDPの推移(2018年第4四半期以降)

グラフ2 四半期GDPの推移(2018年第4四半期以降)

(出所)IBGE  (注)左軸が成長率、右軸が金額(「B」は「10億」、棒グラフの数値は「百万」)。


2019年GDPの需給部門を見ると(グラフ3)、需要面で家計支出が1.8%と3年連続のプラスだったものの過去2年間(2018年2.1%、2017年2.0%)より小さな伸びとなり、政府支出(▲0.4%)は緊縮財政の影響もありマイナスに転じた。設備投資である総固定資本形成(2.2%)は2年連続のマイナスだったが、前年より数値が低下した。輸出(▲2.5%)では、2019年1月の鉱山ダム決壊により人命や環境に加え多くの産業に甚大な被害が出た影響で、鉄鉱石や自動車の輸出の落ち込みが大きかった。輸入(1.1%)はプラス成長を維持したが、為替相場でのドル高レアル安の進行により伸び率が大幅に低下した。一方の供給面では、農牧業(1.3%)、工業(0.5%)、サービス業(1.3%)とも前年を若干下回ったもののプラス成長を記録した。

グラフ3 2019年GDPの需給部門(前年との比較)

グラフ3 2019年GDPの需給部門(前年との比較)

(出所)IBGE


2019年の第4四半期の需給部門の概要(グラフ4)および前期比の推移(グラフ5)では、家計支出(前期比0.5%、前年同期比2.1%)は堅調に推移し、前期比で政府支出(同0.4%、0.3%)がプラスに転じたのに対し、総固定資本形成(同▲3.3%、▲0.4%)が大幅に落ち込んだことが懸念される。前期比がプラスとなった輸出(同2.6%、▲5.1%)は鉱山ダム決壊の損失から回復してきたと考えられるが、レアル安の影響もあり輸入(同▲3.2%、▲0.2%)は前期比と前年同期比ともマイナスだった。供給面に関しては、農牧業(同▲0.4%、0.4%)が前期比でマイナスに転じた。工業(同0.2%、1.5%)は、鉱業(同0.9%、3.4%)や製造業(同0.3%、同1.1%)が比較的堅調だったが、前期比での建設業(同▲2.5%、同1.0%)の落ち込みもあり伸びが低下した。サービス業(同0.6、1.6%)は今期も堅調だったが、年末商戦だった中で商業(同0.0%、2.2%)の前期比がゼロ成長だったのが若干懸念される。

グラフ4 2019年第4四半期GDPの需給部門

グラフ4 2019年第4四半期GDPの需給部門

(出所)IBGE


グラフ5 直近5四半期GDPの需給部門の推移(前期比)

グラフ5 直近5四半期GDPの需給部門の推移(前期比)

(出所)IBGE


貿易収支:3月の貿易収支は、輸出額がUS$192.39億(前月比+17.6%、前年同月比+8.7%)、輸入額がUS$145.25億(同+9.5%、同+10.6%)で、貿易収支はUS$47.13億(同+52.2%、同+3.3%)の黒字額だった。年初からの累計は輸出額がUS$500.95億(前年同期比▲3.1%)、輸入額がUS$439.60億(同+4.3%)で、貿易黒字額はUS$61.35億(同▲35.7%)だった。

輸出に関しては、一次産品がUS$108.72億(1日平均額の前年同月比▲0.6%)、半製品がUS$25.23億(同+6.1%)、完成品がUS$58.43億(同▲14.9%)であった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$60.82億、同▲3.2%)、2位が米国(US$19.66億、同▲20.2%)、3位がオランダ(US$7.97億)、4位がアルゼンチン(US$7.71億、同▲16.4%)、5位がシンガポール(US$7.14億)であった。輸出品目に関して、増加率では燃料油(同+254.3%、US$7.19億)と木屑(同+191.2%、US$0.20億)が100%以上の伸びとなり、減少率では土工用部品(同▲52.5%、US$1.37億)が50%以上減少した。輸出額(「その他」を除く)では、大豆(US$39.78億、同+13.7%)がUS$30億、原油(US$22.85億、同+7.6%)がUS$20億、鉄鉱石(US$13.90億、同▲14.3%)がUS$10億以上の取引額を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$19.02億(1日平均額の前年同月比+2.8%)、中間財がUS$95.04億(同+3.5%)、耐久消費財がUS$3.10億(同▲41.3%)、非・半耐久消費財がUS$15.41億(同▲12.7%)、基礎燃料がUS$5.86億(同▲45.2%)、精製燃料がUS$6.80億(同▲15.7%)であった。主要輸入元は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$24.64億、同▲17.1%)、2位が米国(US$ 21.84億、同▲13.4%)、3位がドイツ(US$8.48億)、4位がアルゼンチン(US$8.18億、同▲28.2%)、5位が日本(US$5.79億、+50.5%)だった。

物価:発表された2月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.25%(前月比+0.04%p、前年同月比▲0.18%p)であった。また、年初累計は0.46%(前年同期比▲0.29%p)、直近12カ月(年率)は4.01%(前月同期比▲0.18%p)だった。

分野別では、飲食料品分野が0.11%(前月比▲0.28%p、前年同月比▲0.67%p)で、ニンジン(19.83%)やトマト(1月13.72%→2月18.86%)は大きく値上がりしたが、年末年始に高騰した牛肉(同4.03%→▲3.53%)がマイナスに転じるなど、全体としては落ち着いた数値となった。カーニバル明けに新学期が始まった影響で教育分野(同0.16%→3.70%)が大幅に上昇し、前月マイナスだった健康・個人ケア分野(同▲0.32%→0.73%)も相対的に高い伸びとなった。一方、衣料分野(同▲0.48%→▲0.73%)、住宅分野(同0.55%→▲0.39%)、運輸交通分野(同0.32%→▲0.23%)、家財分野(同▲0.07%→▲0.08%)の4分野でデフレを記録した。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は18日、4.25%だったSelicを3.75%に引き下げることを全会一致で決定した。Copomは前回の会合で引き下げサイクルの中止を示唆していたが、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大で景気が大きく後退するとの懸念が高まり、米国をはじめ世界各国の金融当局が金融緩和政策に踏み切った。そのため、市場関係者の予想および期待どおり、Selicは今回で6回連続して引き下げられ、創設(1996年)以来の最低値を再び更新した。また、引き下げ幅は前回の0.25%pを上回る0.50%pだった。Copomは次回の会合(5月6日金利決定)でのSelic据え置きの可能性を示したが、新型コロナウィルスをめぐる国内外の状況が今後どのようになるか不透明なため、現時点での予測は困難だといえる。

為替市場:3月のドル・レアル為替相場は、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大の影響から、大幅なドル高レアル安となった。

月の前半のレアル安要素として、米国の予想外の利下げにも関わらず株価が下落したこと、引き上げサイクルの終了と見られていたブラジルの政策金利が18日のCopomで更に引き下げられるとの思惑、ブラジルの2019年GDPが1.1%と予想を下回ったこと、Bolsonaro大統領が15日に反議会のデモを呼び掛けるなど軍関係者の多いBolsonaro政権と議会の関係が悪化し、予定されている税制や行政の改革法案の議会審議が難航するとの懸念が高まったこと、などが挙げられる。一方、新型コロナウィルスがイタリアをはじめ欧州や米国でも感染が拡大し世界経済が大きく落ち込むとの不安に加え、石油需要の減少が懸念される中で産油国間での減産の合意ができず原油の国際価格が大幅に下落したため、安全通貨のドルを買う動きが強まった。また、新型コロナウィルスに関してWHOがパンデミック宣言を行ったことで、世界経済の打撃が更に大きくなるとの懸念も材料視された。

月の半ば、為替市場の取引開始直後にUS$1=R$5を初めて突破すると中央銀行が為替介入を行い、レアルは一時値を戻した。しかし、ブラジルをはじめ南米地域でも新型コロナウィルスの感染が拡大し、政府が経済対策を発表したもののヒトの移動や経済活動が大きく制限されるなど影響は避けられない状況となった。そして、政策金利のSelicが3.75%へ引き下げられ米国などとの金利差が縮小したこともあり、再びレアル安が進行した。その後、東京五輪が延期されたことに加え、米国が新型コロナウィルスや景気への大規模な対策を打ち出したことを好感し、買われていたドルが売られる場面も見られた。しかし、新型コロナウィルスの影響を深刻に捉えず対策に消極的なBolsonaro大統領の言動が批判および嫌気され、月末は前月末比でドルが15.56%も上昇し、レアルの史上最安値となるUS$1=R$ 5.1987(売値)で3月の取引を終えた。

株式市場:3月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は月の初め、感染が拡大する新型コロナウィルスの世界経済への影響を抑えるべく、主要国の中央銀行が協調で対策を講じるとの期待から上昇して始まった。

しかし月の半ば過ぎまで、新型コロナウィルスの感染拡大と世界経済への影響に対する懸念から、米国をはじめ世界各国の株価と同様、ブラジルの株価も乱高下する展開となった。株価が急落する中、石油減産で中東とロシアの間で合意が得られず原油の国際価格が大きく値を下げたことに加え、鉄鉱石の価格も下落したため、ブラジルの株式市場で取引高が最も多い石油公社Petrobrasと鉄鋼大手Valeの2社の株も大きく売られた。新型コロナウィルスをめぐる大規模な経済対策を講じるとTrump大統領が発言し、株価は一時上昇する場面も見られた。しかし、新型コロナウィルスがパンデミック状態だとWHOが宣言し、米国が欧州から米国への入国を一時停止するなど、世界中での経済活動の停滞が避けられない情勢となり、再び大幅に下落。ブラジルでは株価急落でサーキットブレーカー(30分間の取引停止措置)が1日のうち2回も発動される事態となった。サーキットブレーカーが同日に2回発動されたのは2008年のリーマンショック時以来で、今回は初めて1週間のうちに4回も発動された。また、Bolsonaro大統領は3月前半に米国を訪問したが、その際に同行した側近が新型コロナウィルスに感染。そのため大統領への感染も疑われたが、Bolsonaro大統領は医師の助言を聞かず自身の支持者が集まる集会に参加したため、大統領をはじめ政府の危機管理能力の欠如が問題視された。

その後、東京五輪の延期が決定したことや、米国が新型コロナウィルスの大規模な経済対策に踏み切ったことで株価は上昇した。しかし、Bolsonaro政権が新型コロナウィルスに関して、経済活動を優先し外出自粛などの措置を行わないよう訴える 「ブラジルは止まってはいけない(O Brazil não pode parar)」 キャンペーンを開始すると、それへの批判や失望から23日には2017年7月以来のレベルとなる63,570pまで値を下げた。そして、月末は前月末比で▲29.90%もの下落となる73,020pで3月の取引を終了した。