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論考:「住民参加」によるアフリカ熱帯雨林の保全と開発に向けて ——ガボン南西部ムカラバ・ドゥドゥ国立公園の事例から——

アフリカレポート

No.52

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■ 論考:「住民参加」によるアフリカ熱帯雨林の保全と開発に向けて
■ 松浦 直毅
■ 『アフリカレポート』2014年 No.52、pp.88-97
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要 約

アフリカ熱帯雨林とそこにすむ野生動物の保全は喫緊の国際課題であるが、政情不安や経済の停滞にくわえ、地域住民との軋轢が保全政策の大きな障害となっている。有効な保全体制を構築するためには、地域の社会的文脈をふまえ、地域コミュニティごとに固有の特徴と地域住民の多様性を理解することが重要である。そこで筆者は、ガボンの国立公園を対象に、地域コミュニティの歴史的・文化的背景および住民生活の実態について調べた。その結果、(1)地域コミュニティは、その歴史的・文化的背景により、出自や経歴が多様な人々から構成される流動的なものであること、(2)住民生活は、伝統的な自然資源利用を基盤としながらも、伐採事業や保全事業に強く影響を受けていることが明らかになった。一枚岩的な地域住民を前提とした「住民参加」概念を外部から当てはめるのではなく、地域社会の実態に即して内部からコミュニティを抽出し、それをもとに保全と開発事業を進める必要があるといえる。

はじめに

アフリカ熱帯雨林は、人口増加にともなう農地拡大や商業伐採などによって急速に減少している[FAO 2010]。伐採事業の拡大とともに多くの労働者が森林地帯に移住し、食料供給のための狩猟活動や伐採インフラを利用した都市との獣肉交易も活発化した[Laurance et al. 2006]。森林伐採による生息地の減少と狩猟圧の増大で、アフリカ熱帯雨林にすむ希少種の多くが絶滅の危機に瀕している。このような危機に対する国際的な取り組みとして、アフリカ熱帯雨林地域でも保護区の拡大と管理体制の整備が進められているが、有効に機能している保護区は現状ではほとんどない。政情不安や経済の停滞にくわえ、保全と地域住民の軋轢が大きな障害となっているからである[Hulme and Murphree 2001]。アフリカ熱帯雨林の16の保護区の状況を比較したStruhsaker et al.[2005]は、「保護区の成功」と「住民の態度」が強く相関していることを示している。有効な保全体制を構築するためには、地域の社会的文脈をふまえた政策が必要不可欠である[Waylen et al. 2010]。

そこで本稿では、ガボンの国立公園を対象に、地域コミュニティの特徴と住民生活の実態を明らかにすることで、有効な保全と開発のあり方を探る。まず第1節では、アフリカにおける保全政策と地域住民の関係を概観し、保全推進と住民擁護の対立図式を乗り越えて保全と開発の両立を図るために、地域コミュニティ固有の特徴と地域住民の多様性を理解することが重要であることを示す。つぎに第2節では、ガボン南西部の国立公園に焦点をあて、地域社会の歴史的・文化的背景をまとめ、住民の生活および人と動物の関係について述べる。それをもとに第3節では、一枚岩的な「地域住民」を前提とした「住民参加」概念を批判的に検討し、当該地域の社会的文脈をふまえた保全と開発の方向性を議論する。
1.アフリカにおける保全政策と地域住民

アフリカの環境保全の歴史は長く、植民地時代に遡る。19世紀後半以降、アメリカの自然保護思想の影響を受けて多くの森林保護区や狩猟保護区が設置され、規制と罰則によって原生自然をまもる「要塞型保全」が実施されてきた。このような植民地型の保全政策は、20世紀なかば以降のアフリカ諸国の独立後にもそのまま引き継がれた。しかしながら、トップダウンの保全政策は、自然に依存して暮らす地域住民の抵抗を招き、十分な成果をあげられなかった[Western et al. 1994; Hulme and Murphree 2001]。そのため1980年代以降、保全パラダイムは、地域住民への権限移譲と公正な利益配分を掲げた「住民参加型保全」へと転換した[Western et al. 1994]。また、開発分野で人間開発・社会開発を重視した参加型開発[Chambers 1983]が主流になると、保全と開発の両立を目指したプロジェクトが展開した[Wells et al. 1992]。

しかしながら、保全と地域住民の対立は依然として解消されておらず、保全と開発の統合プロジェクトの成功例もほとんどない[Hackel 1999; Hughes and Flintan 2001; Hulme and Murphree 2001]。もともと相対立する保全と開発の両立という考え自体が幻想であるという指摘[Christensen 2004]や、住民参加をうたった開発事業が地域に内在する支配構造や援助者と受益者の不均衡な権力関係を強化するという意味で、「参加」の名を借りた強者による「専制」にすぎないという批判もある[Cooke and Kothari 2001]。実際に、地域住民が主体的に環境保全の担い手になる場合もあるが、個人レベルの行動から組織的・政治的な運動にいたるまで、さまざまなかたちで保全政策に抵抗する例も少なくない[岩井 2014; 西崎 2009]。

熱帯雨林地域においても、保全政策の主導権は政府や国際NGOなどが握っており、住民に付与された権限は部分的である[Hulme and Murphree 2001]。近年になって森林に新たな経済的価値を付与する国際的な枠組みが構築されているが、森林の所有権は国家が保持しており、住民への利益還元システムも整っていない。資源を持続的に利用して自然と共生してきた地域住民像は矮小化され、人と野生動物のかかわりにもとづく文化の価値は捨象される。かりに自然と調和した住民像を認めるとしても、それは人口や経済活動の規模が小さいからにすぎず、近代化が進んで市場経済が浸透すれば、生物多様性に悪影響をおよぼすとみなされがちである[Wilshusen et al. 2002]。こうして保全政策から排除された地域住民は、政治・経済的にますます周縁的な立場に追いやられている。

保全政策が地域住民に与える負の影響に対し、文化人類学者や人権活動家からは厳しい批判もなされている。彼らは、保護区の設置にともなって地域住民が強制的に移住させられたり、生業活動が著しく制限されたりしている事例をあげ、グローバルな価値にもとづく保全政策が人権を侵害していると非難する[Cernea and Schmidt-Soltau 2006; Schmidt-Soltau 2009]。しかしながら、こうした批判は単なるアドボカシーにとどまり、保全政策の見直しを迫るには至っていない。保全を推進する側の政府および国際NGOの関係者や保全生物学者らは、現代の保全政策において地域住民に配慮することは共通理解になっていると反論し、指摘されるような人権侵害を否定しており[Curran et al. 2009; 2010]、両者の主張はどこまでも平行線をたどっている。

では、どうすれば保全と地域住民の対立図式を乗り越え、住民参加による保全と開発の両立を図ることができるのだろうか。そこで必要なのは、地域コミュニティごとに固有の特徴と地域住民の多様性を重視する視点である。住民擁護の側が描くような「保全政策から排除される脆弱な人々」であれ、保全推進の側が描くような「保全政策に包摂されて主体的に参加する人々」であれ、そこには一枚岩的な地域住民像が想定されているが、実際には同じコミュニティの中にも多様な思考と行動様式をもった人々がいる。一方で地域コミュニティは、地域住民のみで構成されているわけでは決してなく、さまざまな外部アクターが関与する多層的で動態的なものである[Berkes 2007]。そして、そのあり方は、地域の社会的文脈によって大きく異なるのである。そこで以下では、ガボンのひとつの国立公園に焦点をあて、複雑な歴史的・文化的背景をもった地域コミュニティの特徴を示し、多様な地域住民の生活実態を明らかにすることで、住民参加による保全と開発の可能性を検討する。
2.ガボン、ムカラバ・ドゥドゥ国立公園周辺の社会と文化

(1)民族と社会システム
ムカラバ・ドゥドゥ国立公園(Le Parc National de Moukalaba-Doudou: PNMD)は、ガボン南西部に位置し、面積は5028平方キロメートルである(図1)。1962年に設立された保護区が2002年に国立公園化されて成立した。森林とサバンナのモザイク状の景観が特徴で、生物多様性が高く、大型類人猿をはじめとする絶滅危惧種が多数生息している。周辺地域の人口密度は0.8人/平方キロメートル[Thibault and Blaney 2003]と低い。村落の分布はまばらであり、行政村のほかにいくつかの小集落が点在している(図1)。人口が少なく人間活動の影響が小さいことが、高い生物多様性が維持されている要因のひとつであると考えられる。
図1 ガボン南西部ムカラバ・ドゥドゥ国立公園と周辺の集落
図1 ガボン南西部ムカラバ・ドゥドゥ国立公園と周辺の集落
(出所)筆者作成。
地域住民は西バントゥー系の言語グループに分類され、多数派であるプヌ(Punu)のほか、ブング(Vungu)、バラマ(Varama)などの民族によって構成される[Guthrie 1967-71; Perrois and Grand-Dufay 2008]。彼らは、数百年前にコンゴ共和国側から移住してきた人々であり、現在はガボンの中南部およびコンゴの南部に分布している[Perrois and Grand-Dufay 2008]。母系制社会で夫方居住の婚姻形態をとるため、土地や財産が父から子へと直線的に相続されないこと、焼畑農耕や狩猟採集という移動をともなう生業を主としていることなどから、この地域の社会には、人と土地との結びつきが弱く、社会階層が発達していないという特徴がみられる。このような特徴が、上述の村落の分布形態にも反映されていると考えられる。民族境界が重視されないことも大きな特徴である。民族間の言語の相違は小さく、日常のコミュニケーションに支障はない。民族を越えたクランの紐帯が築かれており、異なる民族間の婚姻に対する文化的障壁もみられない。

(2)歴史
PNMD周辺地域の集落は、古くから現在の位置にあったわけではなく、20世紀前半頃まではサバンナや森林に散在していた。1960年のガボン独立後、散在する複数の集落をひとつにまとめる集村化政策が実施されて、現在のような分布になった。1962年には伐採会社が操業を開始し、ドゥサラ村周辺(図1)は伐採基地として栄えた。ガボン中から伐採労働者が集まり、近隣諸国やヨーロッパをふくむ外国人も合わせて千人以上が居住していたという。この時期に伐採道路、診療所、小学校などが建設され、貨幣経済が深く浸透した。現在の国立公園内でも、この時代に伐り開かれた森が二次林へと遷移している様子がみられる。

1989年に伐採基地が閉鎖されると、若年~壮年世代を中心とした伐採労働者の多くが雇用の機会を求めて地域を離れ、維持管理されなくなった道路や建物などは荒廃した。人口が激減し人間活動が著しく衰退する一方、高い生物多様性を誇る有力な保全地域としての注目が高まる。上述の通り、すでに保護区に指定されてはいたものの、伐採事業にみられるように、かならずしも実質をともなっていたわけではなかった。しかし1990年代以降、国際的な研究組織や自然保護NGOによる研究や保全活動が活発化した。日本人研究者らも1999年から大型類人猿の研究に着手し、現在まで継続的に調査を実施している。

21世紀に入ってガボン政府は、豊富な天然資源の輸出に依存した開発政策から資源の持続的利用を目指す政策へと転換し、2002年にはPNMDをふくむ13の国立公園が設立された。公園内および周辺の緩衝地帯での人間活動に対する規制が強められ、保護動物の狩猟が厳しく取り締まられるようになった。一方で、資源の持続的利用にもとづく開発手法として、エコツーリズム開発が推進されている。PNMDでは、日本の類人猿研究者が中心となり、2009~2014年の5年間にわたって日本政府の国際科学技術協力事業が実施され、日本とガボンの双方からさまざまな分野の研究者が参画した。保全と開発の両立を掲げたローカルNGOも2004年に設立されており、エコツーリズム開発が着手されつつある。

(3)生業活動
PNMD周辺住民の生業活動の中心は焼畑農耕である。主要作物であるキャッサバとプランテンバナナのほか、トウモロコシ、サトウキビ、ラッカセイなどが混作栽培されている。都市に近い一部の村では、バナナを大規模に栽培して都市に輸送・販売する例もみられるが、地域全体ではほとんどの作物が自家消費されている。ドゥサラ村における筆者らの調査では、90%近くの炭水化物食料が畑から収穫されており、購入品は10%未満であった[Matsuura and Moussavou in press]。採集活動は森とサバンナでおこなわれ、食用植物、キノコ、ハチミツなどが獲得されている。食料だけでなく薬用植物や薪も採集されており、建材やカゴなどの日用品の素材にも自然資源が使われる。飲用水として乾季は川の水、雨季には雨水が利用されている。

動物性タンパク質食料は、ほとんどが漁撈と狩猟によって獲得されている。ヤギやニワトリも飼育されているが、儀礼や祭祀などの特別な機会に消費されることが多く、日常の食卓にはあまりのぼらず、昆虫類やハチュウ類の利用も少ない。魚と獣肉を比べると魚の方が圧倒的に多く、動物性タンパク質食料の86%を占める[Matsuura and Moussavou in press]。これには、国立公園化をはじめとする近年の保全活動が影響している。国立公園化以前の1998年に調査をおこなったBlaney and Thibault[2001]によると、魚が38%に対して獣肉が62%であり、全体の53%が保護動物であった。国立公園化を境に取り締まりが強化された結果、住民は獣肉から魚へと資源利用形態を変化させていったのである。

このようにPNMD周辺住民は、自然資源に頼った生活を営んでおり、自家消費するのに十分な量の食物が地域内で獲得されている。しかしながら、食料レパートリーは十分とはいえない。とりわけ動物性タンパク質食料の種類が少なく、栄養も不足しがちである。そして、それを補う現金収入が著しく限られているのが問題である。村長などの行政職の給料、年金、小規模な商店経営以外に地域内で現金を獲得する機会はほとんどなく、インフラの荒廃のために町との行き来も困難である。そのため、研究活動にともなう雇用や保全事業から得られる収入がきわめて大きな位置を占めるようになり、それらがなければ安定した生活が成り立たないともいえる状況にある。とはいえ、すべての住民が十分な収入を得ているわけではなく、住民のあいだに経済的格差も生じている。

(4)人と動物の関係
PNMD周辺の住民にとって野生動物は単なる食料源ではない。日常的な利用を通じて動物に関する豊富な民俗知識が蓄積されており、トーテムによる摂食忌避や動物が登場する民話にみられるように、動物にはさまざまな文化的な意味が付与されている。PNMD地域の豊かな生物多様性は、人間活動の影響が小さいという生態学的要因だけでなく、こうした文化的要因によって支えられてきた。しかし人と動物の共生関係は、伐採事業の時代に大きく変化した。伐採活動だけでなく、食料供給のための焼畑拡大や食物禁忌をもたない民族の流入によって、野生動物の数は大きく減少したと推測される。

20年以上つづいた伐採事業が終了して人間活動が衰退するとともに、保全政策が強化されると、野生動物の数はふたたび増加していく。すると今度は、住民と動物のあいだの軋轢が高まった。そのひとつが獣害である。ゾウやゴリラ、チンパンジーは、保護動物である一方で、住民にとっては畑に深刻な被害をもたらす害獣でもある。法律上、野生動物を所有するのは国家であるが、その野生動物がもたらす被害に対して、政府による対策や補償はほとんどなされておらず、住民は自助努力によって畑を守らざるをえない。だが、トタン板で囲ったり、かかしや鳴りものを設置したりするといった対策では被害軽減の効果はあがらず、唯一の対策として、多くの住民が収穫期には畑に泊まり込んで被害を防いでいる。世帯内で労働力を確保できない場合は、賃金を支払って他の村人に泊まり込みを頼むこともある。被害を防ぐための肉体的・時間的コストが、住民にとって大きな負担となっているのである[Walker 2012]。しかしながら、他の仕事や社会的行事のために畑を空けざるをえないことがあり、その短いあいだに被害にあってしまう。すなわち、被害を防げるかどうかは住民の水際での努力に依存しており、彼らはつねに獣害の脅威にさらされているのである。畑の被害のかわりに狩猟によって獣肉を獲得するという関係は崩れ、一方的に被害にあう不均衡な関係となっており、野生動物に対する住民の感情が悪化している。

3.保全と開発における「住民参加」概念の批判的検討

PNMD周辺地域の住民は、もともと土地との結びつきが弱く、社会階層が発達していないという社会的特徴をもっており、移動性が高く住民間の連帯は希薄であった。くわえて20世紀なかば以降、集村化政策にはじまり、伐採事業の時代から保全の時代へという大きな転換を経験し、それにともなって外部から多数の伐採労働者の移入、伐採基地の閉鎖による人口激減、保全活動の進展によるさまざまな外部アクターの進出という社会変化があった。住民生活は、伝統的な自然資源利用を基盤としながらも、伐採事業や保全事業に強く影響を受けており、こうした事業によって地域経済が支えられてきた。結果として、現在のPNMD周辺の地域コミュニティは、出自や経歴が多様な人々で構成される流動的なものとなっており、研究や保全活動への参加の度合いによって政治・経済的格差が生じるとともに、野生動物に対する理解や許容性も異なっている。したがって、長いあいだその土地に暮らし、同様の生活水準と強い紐帯をもった人々からなる「地域コミュニティ」なるものを措定して保全政策との対立図式を当てはめることはできず、地域住民を一括りにして「住民参加」を考えることもできないのである。

近年に実施された保全と開発のための事業経験もそれを物語っている。2010年には、ローカルNGOの主導により、観光客に歌と踊りを見せるために伝統的な集会所を整備する事業がドゥサラ村でおこなわれた。外部から資金援助を受けたこの事業は、村人がみな同様に伝統的な生活や文化を保持しており、みな同様に低収入であるという前提のもとで、定型的な地域開発計画に沿って実施された。しかし、賃労働によってすでに十分な収入を得ていた人々は事業への参加に消極的であり、一方で、生活水準が比較的低い人々は、コミュニティ全体の資産になるとともに将来的に利益が望まれるという説明では納得せず、労賃が支払われないことを理由に集会所の建設作業を放棄した。儀礼結社に属し、伝統文化を重視する一部の人々は、儀礼の場である集会所が村には欠かせないとして事業に賛同していたが、そうでない人々は集会所に実質的な価値を見いだせず、事業に対する関心度が低かった。また、ローカルNGOのメンバーとは疎遠な関係にある人々の中には、事業によってローカルNGOが私腹を肥やしているという疑念をもつ者さえおり、かえって住民同士の対立が深まる結果となった。現在は、作業途中で放棄された集会所が草むらに埋もれている。

一方、筆者をふくむ日本人研究者がおこなった事業のひとつに共同畑がある。村全体でひとつの大きな畑をつくり、得られた利益を地域に還元するというものであり、国家の保全政策によって設置された地域の資源管理委員会が主体となった。しかしながら、村出身ではあるが町に出るなどして長いあいだ外にいた委員会の代表は、村でリーダーシップを発揮する資質と信頼をそなえた人物ではなかった。政策で選出された委員会のメンバーも、いわば「寄せ集め」であった。そのため、委員会に対して他の住民たちは不信感をもっており、作業をボイコットするなど非協力的であったため、事業は何度も頓挫しかけた。現在は、地元女性からなる住民組織が事業を引き継いで一定の進展がみられているが、十分な成果があがっているとはいいがたく、コミュニティに利益が還元されるには程遠い状況である。

こうした保全と開発のための事業の失敗や停滞は、これまで述べてきたような地域の社会的文脈をふまえず、住民の多様性な思考と行動様式を十分に考慮しなかったことに起因すると考えられる。そもそも「住民参加」という概念自体が外部由来で、住民から主体的に発せられたものでもなければ実際の地域コミュニティの特徴にもとづいているわけでもなく、そのために「トップダウンで住民参加を促す」という矛盾した状況に陥っている[Cooke and Kothari 2001; 岩井 2014]。したがって、保全と開発を目指すのであれば、本稿で試みたように、「コミュニティ」や「地域住民」という概念自体を問い直し、地域社会の実態に目を向けるところからはじめなければならない。

それでは、PNMD地域の社会的文脈をふまえた有効な保全と開発のあり方とはどのようなものだろうか。流動的で多様な住民からなり、連帯が希薄で強力なリーダーをもたないことを考慮すれば、地域、民族、行政単位などの外在的な基準にもとづくのではなく、連帯と統合が可能な範囲の小さなコミュニティを内部から抽出し、「身の丈にあった」小さな事業を積み重ねることが求められる。上記の事例でいえば、伝統的な儀礼結社や互助講などで結びついた女性組織があげられ、それぞれの特性に合わせて、前者は集会所建設、後者は共同畑の管理の主体となることが望まれる。また、賃労働の機会をもたず、生活水準が比較的低い農民らには生計向上を目指した経済開発、研究や保全事業で雇用され、一定の収入をあげている人々にはキャリア形成や能力開発というように、必要とされる事業も違ってくるだろう。さまざまな外部アクターの複雑な関与を考え合わせれば、コミュニティが既存のものであるという前提を捨て、事業を実施する過程で新たなコミュニティを構築するところからはじめる必要もあるかもしれない。一方、住民生活が自然資源の利用だけで成り立っているのではなく、すでに研究や保全事業と不可分に結びついていることをふまえれば、研究や保全によって得られる利益が住民間の対立を生むことを避けるための公正な配分と持続的な活用こそが検討されなければならない。保全と開発の両立の可否を検討するとき、そこには保全と開発は別個のものという想定がある。しかしPNMD地域では、研究や保全事業が地域経済の中核を成しており、それらの事業の発展が貧困削減と生活向上の鍵を握っている。だとすれば、保全と開発を一体のものとして捉え、両者が相互に裨益するような仕組みを考えることこそが重要である。

おわりに

本稿では、ガボンのひとつの国立公園を対象に、地域コミュニティの特徴と住民生活の実態を示すことで、従来の「住民参加」概念を批判的に検討し、当該地域の実情に即した保全と開発のあり方を議論した。本稿で提示した考えを具体的な実践へと結びつけ、アフリカ熱帯雨林の保全政策に反映させることが今後の課題である。一方、地域コミュニティの固有性と地域住民の多様性への配慮が重要なのは他の保護区でも共通するとしても、それを過度に強調すれば、それぞれの地域にそれぞれのやり方があると主張するだけにとどまり、保全政策の適用範囲を狭める恐れがある。今後は、地域の個別性を担保しながら、アフリカ熱帯雨林地域を包括的に捉えた保全政策の可能性も合わせて検討していくつもりである。

(まつうら・なおき/静岡県立大学国際関係学部)
参考文献
〈日本語文献〉
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