資料紹介:栗田 和明『アジアで出会ったアフリカ人——タンザニア人交易人の移動とコミュニティ——』

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介: 栗田 和明『アジアで出会ったアフリカ人——タンザニア人交易人の移動とコミュニティ——』
■ 岸 真由美
■ 『アフリカレポート』2013年 No.51、p.33
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しばしば東アフリカの空港で大きな段ボールや荷物を受け取る乗客を見かけることがある。荷物少なく身軽な旅行を旨とする者としては、その荷の多さに首を傾げることが多かったが、本書がその理由を説明してくれた。彼らの多くが観光客でなく、実は商品を仕入れて帰ってきた交易人(こうえきにん)たちだったようだ。

本書はタンザニア人交易人を徹底的に調査し、彼らの商活動や交易ネットワークを実に詳細に描き出している。本書が調査に用いる手法はインフォーマントからの聞き取りである。

I部では香港、広州、バンコクといったアジアの諸都市で、衣料品、靴、鞄、携帯電話、中古自動車、化粧品などの買い付けを行うタンザニア人交易人たち、さらにこれらの地域に定住するタンザニア人たちと交易人たちが作り上げているタンザニア人コミュニティの様子を描く。多くの交易人の滞在期間は5日〜1週間、長くても2週間。買い付け資金は大抵現金で持参し、出入国管理上は観光客として扱われる。中には買い付けた商品を海上輸送用のコンテナを利用せずに、交易人自身が乗る航空機で運ぶものもいる。交易人たちはアジアとアフリカの小売値の価格差を利用して儲けを得る。買い付け価格の2〜3倍の値段で販売すれば、航空旅費、滞在費、貨物輸送費、関税などの必要経費を吸収できるという。

II部では、交易人たちの活動を通してアジアで買い付けられた商品が、タンザニアのダルエスサラームを結節点とし、遠距離をさらに移動して隣国ザンビアやマラウィの首都にあるマーケットへと、あるいは、やや小規模な形でその他の小売用商品とともに国境付近の地域やタンザニア国内の地方へと流通していく様子が描かれる。

こうしたタンザニア人交易人が行う交易は、国際的な交易であれ国内交易であれ、交易人個人が自ら移動し、自らの資金と責任で買い付けと販売を行い、経営も家族・親族形態が多いというインフォーマルな形態を取っている。実はこうした移動は決してタンザニアだけの話ではない。近年は、他のアフリカ諸国からアジアに向かう人々も増えており、逆の流れでアフリカ諸国に向かう中国人交易人も増えている。著者によればこうした動きは「地球規模の人々の動きの一端にすぎない」が、人々の移動の詳細は政府の公式文書や統計データからは見えてこない。その意味で本書は、交易人たちのライフヒストリーを通して人の移動の実像にせまる好著である。

岸 真由美(きし・まゆみ/アジア経済研究所)