資料紹介:ロメオ・ダレール『なぜ、世界はルワンダを救えなかったのか——PKO司令官の手記——』

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介: ロメオ・ダレール『なぜ、世界はルワンダを救えなかったのか——PKO司令官の手記——』
佐藤 章
■ 『アフリカレポート』2013年 No.51、p.32
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本書は、1993年に活動を開始した国連平和維持活動(国連PKO)である、国連ルワンダ支援団(UNAMIR)の司令官による手記である。第2次大戦に従軍した父に憧れて軍人を志し、カナダ陸軍でマイノリティ(フランス語系カナダ人)ゆえの不利な立場と闘いながらキャリアを積み上げてきた著者は、ある日、上官からの一本の電話で、ルワンダでの任務を命じられる。不偏中立の監視部隊に徹する古典的な平和維持任務は最早有効でないと感じながらも、司令官になるという軍人としての喜びに胸を膨らませ、彼はルワンダに着任する。しかし、そこで彼が直面したのは、和平協定がまったく尊重されず、紛争当事者間の緊張が激化していく状況に、お粗末な体制の部隊で対処しなければならない現実であった。

車両・装備の調達はままならず、ただでさえ少ない隊員の多くは十分に訓練されていない。隊員用の食糧や医薬品も事欠くなか、大虐殺発生とともに保護を求める人びとが押し寄せる。紛争当事者双方から執拗に攻撃を受けるが、国連憲章第6章に基づく部隊として武力行使は堅く制約されており、反撃できない。危険をおして救出に駆けつけると、保護されるべき人物は命を落としている。救えなかった事実が日々積み上がり、神経をすり減らす。UNAMIRは、ルワンダ大虐殺(1994年4~6月)時に駐留していながら、虐殺を止める手立てを持たず、結果的に「傍観」した国連PKOとして語られることが多い。この「傍観」が、どれだけの軋轢と苦悩をうちに秘めたものだったのかが、本書では克明に描かれている。

冷戦終結直後の1990年代前半に、アフリカでは、国連やアフリカ域外の主要国が中心となって、軍事要員を使った紛争解決が試みられはじめた。UNAMIRはその試みのひとつであり、「国際の平和と安全」に積極的な役割を果たそうとする当時の国連の方向性と、これに対する一定の国際的支持の産物として実現した。しかし同時に、UNAMIRは、同時期にソマリアで行われた国連・アメリカなどによる軍事介入の失敗を受け、現地情勢への介入を極力さけるべしとの国連首脳の慎重姿勢を忠実に守らされたうえ、優れた軍事的能力を持つ大国からの直接の支援も得られなかった。UNAMIRの「傍観」の本質は、ほかでもなく、このような矛盾に満ちた当時の国際政治にこそある。本書は、ひとりの人間の姿をとおして、この矛盾そのものを描きだしているのである。

佐藤 章(さとう・あきら/アジア経済研究所)