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権威主義的反動と新自由主義――ドゥテルテ政権の6年――

一般書

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権威主義的反動と新自由主義――ドゥテルテ政権の6年――

著者/編者

川中 豪、鈴木 有理佳

出版年月

2023年12月

ISBNコード

978-4-258-04658-4

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内容紹介

内容紹介

2016年から6年間、フィリピンで政権を担ったドゥテルテ大統領は、それまでのアメリカ寄りの姿勢から中国寄りへと外交政策を大きく転換した。また、国内では司法手続きを無視した暴力的な手法で麻薬取締を断行した。一方、経済政策については新自由主義的政策を推進するテクノクラートに政策立案・実施を全面的に委ね、社会政策の進展には積極的なイニシアティブを取らなかった。民主化後のフィリピンが掲げてきた民主主義・法の支配の強化と新自由主義的な競争確保という路線に対し、ドゥテルテ政権は、政治外交面では大きく修正を迫る一方、経済社会においてはその強化が進められてきたといえる。本書は、このドゥテルテ政権下の政治、経済、社会、外交の特徴を整理して描き出すことで、民主化後のフィリピンにとってこの政権が持つ意味を明らかにしようとする。さらにこの政権の登場の背景にあるもの、すなわち、民主化後フィリピンの政治経済の抱える課題を理解するための手がかりを示そうと考える。それは、今後のフィリピンの進む先を探るとともに、同様の課題を抱える新興民主主義国を理解することにも資するだろう。

目次

まえがき

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序 ドゥテルテ政権のもたらしたもの

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第1章 政治――権威主義的反動――

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第2章 経済――新自由主義の深化――

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第3章 社会――福祉国家の消極的受容――

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第4章 外交――米中のはざまで――

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結 転換点としてのドゥテルテ政権

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まえがき

まえがき

2016年10月、フィリピンで政権が発足してからほどなく、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領は日本を訪問した。連日、大きく報道され、久しぶりに日本のメディアに大きく取り上げられるフィリピンの大統領となった。

その理由はとてもわかりやすい。これまで親米・親日で、中国の南シナ海進出に強く抵抗してきたフィリピンだったが、ドゥテルテはその外交姿勢を大きく変更させ、アメリカとの関係見直しを宣言し、中国に急接近していった。アジアでの日本の地位に大きく影響するのではとの懸念が生まれた。

また、ドゥテルテ政権の国内での暴力的な麻薬取締が国際的にも問題視された。民主主義を標榜する国で、大統領自らがあからさまに司法手続きを無視する行動は、いうまでもなく大きな驚きだった。こうした状況と合わせて、大統領個人のいくつもの過激な発言がメディアにとっては格好の素材だっただろう。

しかし、ドゥテルテ自身の言動の奇抜さからドゥテルテ個人にもっぱら関心が集まったことで、フィリピンの政治経済の構造的な問題や制度的特徴が生み出す影響には、部分的にしか注意が払われてこなかったようにも思う。大統領の個性に焦点を当てた理解の仕方は一般にわかりやすい一方で、複雑な現実が横に置かれてしまう。

そこで、本書は、もう少し俯瞰的にドゥテルテ政権を見ることで、1986年の民主化以降、フィリピンが抱える状況を描くことを試みる。ドゥテルテ政権が誕生し、高い支持率を維持し続けたことは、フィリピンの政治経済が持つ特徴を大きく反映している。その特徴を明らかにしたい。
本書は2021-2022年度に実施したアジア経済研究所研究会「権威主義的反動と新自由主義―ドゥテルテ政権の6年」(主査:川中豪)の成果である。また、一部にはJSPS科研費JP20K01466、JP19H00582の助成を受けた。この間、アジア経済研究所の関係者をはじめ多くの方々にお世話になった。深く感謝申し上げたい。

2023年8月
筆者