銀行・保険業の改革・発展情況

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2021年3月2日


はじめに

1月22日、銀行保険監督管理委員会は、2020年の銀行業・保険業の改革・発展情況について、記者会見を行った。本稿では、その概要を紹介する。

1.概況

2020年は歴史上極めて平凡ならざる一年であり、習近平同志を核心とする党中央の堅固な指導の下、銀行業・保険業は努力して新型コロナ肺炎疫病の衝撃を克服し、各種リスク・試練に穏当に対応し、引き続き穏健な運営・良好な態勢を維持し、改革・発展は新たな成績を得た。

(1)資産・負債、業務は着実に成長した

2020年末、銀行業金融機関の総資産は319.7兆元で、前年同期比10.1%増であった。総負債は293.1兆元で、10.2%増であった。

保険会社の総資産は23.3兆元で、13.3%増であった。保険料収入は4.5兆元である。保険資金の運用残高は21.7兆元、17%増であった。

(2)実体経済へのサービスの質・効率は引き続き高まった

2020年、人民元貸出は19.6兆元で、前年比2.8兆元増となった。民営企業向け貸出は5.7兆元増、製造業向け貸出は2.2兆元増である。小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスは30.9%増、科学研究・技術サービス業向け貸出は20.1%増、情報技術サービス業向け貸出は14.9%増である。

銀行・保険機関の新たな債券投資は9.5兆元増であった。保険業が提供した保険金額は8710兆元で、34.6%増である。保険金支払は1.4兆元であった。

(3)主要経営・リスク指標は合理的区間にある

2020年、銀行業は不良債権3.02兆元を処理した。2020年末、不良債権残高は3.5兆元で、年初より2816億元増えた。不良債権比率は1.92%で、年初より0.06ポイント低下した。90日以上徒過した貸出と不良債権の比率は76%で、年初より5.1ポイント低下した。

銀行・保険機関の流動性は総体として平穏を維持し、商業銀行の流動性カバー率は146.5%、保険会社の経営活動キャッシュフローは106.5%増となった。

(4)多くのルートでリスク抵抗能力を増強した

2020年、優先株・永久債・二級資本債発行等の手段を通じて、商業銀行の資本1.34兆元を補充し、銀行業は新たに引当金1.9兆元を取り崩し、前年より1139億元多く取り崩した。2020年末、引当カバー率は182.3%、貸出引当率は3.5%で、かなり高い水準を維持した。

初歩的な統計では、商業銀行の純利潤は2兆元で、前年比1.8%減となった。2020年末の商業銀行自己資本比率は14.7%である。現在、保険会社の総合支払能力充足率は242.5%で、コア支払能力充足率は230.5%である。

(5)改革開放は積極的進展を得た

銀行・保険機関のコーポレートガバナンスの整備を常に推進し、党の指導とコーポレートガバナンスの有機的な融合を深化させ、株主権の管理を厳格に規範化し、取締役・監事のハイレベルガバナンス主体の職責履行への監督を強化した。

中小銀行改革深化と資本補充施策方案を公布し、都市商業銀行・農村信用社の改革・リスク解消政策を全面的に手配・推進した。

保険メカニズムの改革を全面推進し、自動車保険総合改革指導意見を公布し、年金保険の第3の支柱(商業保険)を検討・推進し、想定外保険と農業保険の改革を加速した。

金融の対外開放を着実に拡大した。更に多くの対外開放措置を推進し、外資機関の市場参入申請を積極的に審査した。2018年以降、外資銀行・保険会社の100社近い各種機関設立を批准した。

2.金融機関のリスク

現在、我々が20年初に予想していたよりも良好で、銀行業・保険業のリスクは総体としてコントロール可能である。それは、以下の方面の原因があるからである。

(1)常に銀行・保険機関が実体経済をサービス・支援することを出発点・着地点とした

実体経済への支援を増やしてこそ、銀行・保険機関のリスクはコントロール可能となる。実体経済の発展が良好であれば、銀行・保険機関のリスクは自然と小さくなる。実体経済の発展が好くなければ、リスクは自然と増大する。

我々は、20年初、いくらかの特殊な政策、とりわけ小型・零細企業と民営企業の困難緩和を支援する政策を採用した。たとえば、元本償還・利払猶予政策、いくらかの監督管理措置の柔軟な調整である。これらは、いずれも銀行・保険機関に十分な空間・時間を与え、自身の経営管理を通じて、実体経済に更に好くサービスすることを促し、実体経済の成長を促進するものである。

20年、わが国のGDP成長率は2.3%の水準に達し、予想を上回った。わが国は世界の大型経済体で唯一経済がプラス成長となった国家である。

(2)既存のリスクへの防止・処理を重視し、多くの措置を採用した

たとえば、我々は不良債権3.02兆元を処理し、完全回収・償却・譲渡等多様な形式を通じて、これほど多くの不良債権を処理した。程度は未曾有のものであり、金額も史上最高である。

我々は、ハイリスク機関に対して更に厳格な洗い出しを進めた。このプロセスにおいて、ハイリスク機関のリスクを処理し終わった。包商銀行・錦州銀行・恒豊銀行及びいくらかの信託会社・一部の保険機関などハイリスクの中小金融機関のリスクは有効に解消され、あるものは身軽になって出陣している。

(3)展望性をもっていくらかのリスク予防措置を採用した

重点分野のリスクについて、あらかじめ転ばぬ先の杖で手配した。

不動産分野では、我々は不動産融資の全方位・全範囲の統計体系を確立した。銀行保険監督管理委員会は人民銀行と一緒に不動産融資への集中管理通知を公布した。たとえば、銀行は、露見した不動産リスクの金額が純資本の一定割合を超えた場合には、関連措置を採用しなければならない。同時に、我々は異なる地域、異なる都市の住宅価格の変化の情況に密接に注意を払い、都市の事情に応じて施策を実施し、その他部門・地方政府と一緒に相応の措置を採用した。これらの措置は、いずれも動態的であり、各地方の情況に基づいて随時調整した。

我々はシャドーバンキングについて常に警戒を維持し、2020年に最初の中国シャドーバンキング報告を公布した。我々はずっとシャドーバンキングに対して非常に警戒の態度を採用しており、2017年以降、我々はシャドーバンキングの整理に大いに力を入れ、非常に大きな成果を得た。2017年以降、20兆元のハイリスクのシャドーバンキング業務を排除した。この成果を引き続き強固にしなければならない。20年も我々は手を緩めることなく、断固シャドーバンキングを再び興隆させなかった。

我々は、銀行・保険機関のリスク抵抗能力を増強し、20年は多くの措置を採用して、銀行に資本を補充するよう要求し、戦略的投資家の引き入れ、二級資本手段の発行、永久債の発行等の方式を通じて、異なる市場で異なるルートを通じて資本を補充させた。このほか、我々は地方政府の特別債発行を推進し、中小銀行とりわけ地方性銀行の資本金を補充した。現在、これらの政策はなお進行中であり、既に好い効果を得て、銀行の資本実力は大きく増強されている。我々は引当金の取り崩し増加を通じて、銀行のリスク抵抗能力を増強した。我々は、不良債権を処理する際、引当金を用いると同時に、引当金の取り崩しを増やし、銀行のリスク対応の基礎を打ち固めた。

3.インターネットプラットホーム企業への対応

民営経済は、わが国発展に不可欠なパワーであり、民営企業はわが国経済の重要な構成部分であり、金融監督管理部門はこれまで民営経済の発展を支援し、民営経済の発展を重点政策の一つとして、金融機関が民営経済のために全方位の金融サービスを提供するよう誘導してきており、顕著な効果があったと言ってよい。

最近、金融管理部門はアントグループ等いくらかのインターネットプラットホーム企業を呼び出して指導した際、彼らは、フィンテックの発展・金融サービスの効率向上・包摂性の方面でイノベーションの役割を発揮し、金融サービスの効率・包摂性を高めていると指摘した。しかし、彼らには、規定に違反する監督管理の隙間を利用した利鞘稼ぎ、独占経営、消費者の合法権益に損害を与える等の問題が存在することをも指摘した。

金融管理部門は、「反独占、資本の無秩序な拡張の防止強化」という基本要求に基づき、規範的な措置を採用し、整理・整頓を展開した。これらの措置は、反独占・反不当競争等、市場経済の発展ルールと法治の要求に合致し、人民大衆と各種市場主体の根本利益に合致しており、民営企業の長期に安定した健全な発展支援という目標と完全に一致している。  当然、関連措置は民営企業に対するものではないし、ある企業に対するものでもなく、関連企業の正常な業務の発展に影響を与えるものではない。

個別銀行が関連分野の民営企業に貸し惜しみ、貸出中止を行っていることについては、確かに個別の情況がある。我々は、これは「いささかも動揺することなく、公有制経済を強固にし発展させ、いささかも動揺することなく、非公有制経済の発展を奨励・支援・誘導する」という基本精神に合致せず、是正すべきだと考えている。銀行保険監督管理委員会は、銀行・保険機関が法・規定に則り、呼び出し指導を受けた企業を含むインターネットプラットホーム企業と協力を展開するよう奨励しており、金融支援政策に変わりはなく、程度を減じることはない。

呼び出し指導を受けた後、一部インターネットプラットホーム企業の是正の態度がかなり積極的であることに、我々は注意しており、初歩的な効果はあった。我々は、自身の是正・規範化を経て、インターネットプラットホーム企業が実体経済と人民大衆へのサービスという根源を堅守し、公平競争の市場意識を擁護し、実体経済へのサービスとプルーデンス監督管理への服従の前提の下、正しいイノベーションを守り、国民経済の発展支援、国内・国際2つの循環の推進助力の重要なパワーとなると信じている。

4.民営企業の資金調達難

2020年末、全国民営企業向け貸出残高は50兆元、前年同期比14%増であり、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス残高は15.3兆元であり、伸びは各貸出の伸びより18.1ポイント高かった。しかし、市場には確かに、依然として民営企業とりわけ民営企業の資金調達難問題が存在する。

民営企業は、膨大な企業群であり、国民経済の各分野をカバーしており、大中型企業もあれば、小型・零細企業もある。民営企業の資金調達難の原因は、やはり客観的に分析しなければならない。情報の非対称問題もあれば、民営企業自身の経営管理とも一定の関係がある。

一部の大中型民営企業が資金調達の困難に遭遇しているのは、①あるものは、コーポレートガバナンスが不健全で、財産権が不明確であり、②あるものは、片面的にグループ化・多元化を追求し、本業から乖離しており、③あるものは資金調達構造が不合理で、資金源・コスト期限について統一的考慮に欠けており、やや経営が慎重ではなく、あるいは市場の変動により資金チェーンの逼迫が出現している。

リスクがかなり高い民営、小型・零細企業の資金調達問題は、世界的な難題であり、全社会のパワーを動員して共同で解決を検討する必要がある。

今後、銀行保険監督管理委員会は制度・措置を一層整備し、その重点は政策の実施を推進することである。現在、既に多くの政策があり、カギはやはり施策を分類し、民営企業の健全な発展を支援することである。

私は、以下のように分類が必要と考えている。

(1)本業が際立っており、財務が健全で、大株主と実際のオーナーの信用が良好な民営企業

銀行・機関が、最初の償還資金源を審査し、担保への過度な依存を減らし、無担保貸出を強化するよう要求する。

(2)先進製造業、戦略的産業、産業チェーン・サプライチェーンを自主的にコントロールできる民営科学技術型企業

銀行・保険機関が、中長期貸出支援を大幅に増やし、科学技術保険を積極的に発展させ、科学技術イノベーションへの金融サービスを引き続き改善し、カギ・コアとなる技術の堅塁攻略・基礎研究・成果の実用化を支援し、無形資産を担保とした融資商品の刷新を支援するよう奨励する。

(3)法・ルールに則り業務を展開し、科学技術イノベーションの責任を負担できる民営企業・民営インターネットプラットホーム企業

銀行・保険機関が、法・ルールに則った既往の業務協力を展開し、質の優れた金融サービスを提供するだけでなく、実体経済を更に好く支援することを支援する。

(4)市場に将来性があり、雇用吸収能力が強く、包摂型小型・零細企業基準に合致した民営小型・零細企業

小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの元本償還・利払い猶予政策と無担保貸出支援計画を延長し、引き続き銀行の「初めての貸出、継続貸出、無担保貸出、中長期貸出」の実施を強化する。

(5)暫時困難に遭遇している民営企業

銀行・保険機関が市場化・法治化の原則に基づき、「一企業一施策」で支援処置・措置を採用し、企業の流動性リスク解消に力を入れるよう誘導する。

経済構造の最適化・グレードアップ方向に合致し、一定の競争力があるものの、暫時困難に遭遇している民営企業については、銀行・金融機関が債権者委員会を組織して、統一協調を強化し、盲目的な貸出停止・貸出圧縮・貸出引き剝がしを行わず、必要な融資支援を提供し、企業の正常な生産経営の維持・回復を支援するよう奨励する。

(6)リスクが出現した民営企業

企業が困難解決と発展を結びつけ、積極的に身を切って自ら救済し、非本業資産を剥離し、精力を集中してリスクを緩和するよう要求する。同時に、現地政府に依拠して救済活動を展開し、銀行・保険機関が平等・自発的な前提の下、増資・財務再編・合併再編あるいは市場による債務株式転換等の方式を総合的に運用して企業の負債構造の最適化を支援し、コーポレートガバナンスを整備するよう奨励する。

5.不動産融資

これまでに、銀行保険監督管理委員会は人民銀行と共同で不動産融資の集中度通知を公布した。この中には、いくらかの規程があり、我々は集中度への監督管理について、単に不動産向けのみならず、すべての業種の企業に対し、銀行の取引相手の視点で、業種・単一企業あるいは単一グループについて集中度の監督管理規定を設けている。

この集中度は、そのリスク資産の暴露と純資本をリンクさせている。たとえば、我々は過去に単一企業への集中度は資本の10%を超えてはならず、グループは15%を超えてはならず、業種は25%を超えてはならないと規定している。

このため、不動産業も例外ではない。不動産業自体に集中度があり、統一集中度監督管理の要求に基づき、単一不動産企業に対しても同様に、統一した集中度監督管理要求を遵守しなければならない。実際、不動産開発についての通知では、過去からずっと集中度管理が存在している。したがって我々は今後、ずっとこれまでの集中度管理規定と今回発せられた通知の要求に基づき、銀行業の不動産融資を密接にモニタリングし、不動産融資の平穏・秩序を確保しなければならない。

個人住宅ローンへの影響は大きくはなく、ローンは非常に分散しており、規模からしても範囲からしても、集中度内での影響はそれほど大きくはない。

6.2021年の不良債権の見通し

数字から見ると、我々の20年の不良債権比率は0.06ポイント低下した。原因は多い。

①我々は銀行がリスク管理・コントロールを強化し、貸出に対する「貸出前調査・貸出中審査・貸出後検査」を強化し、リスクを厳格に防止し、リスクをしっかり防止しなければならないと要求した。

②銀行に不良債権処理を強化させた。20年に3.02兆元の不良債権を処理した。これは空前のものである。

③20年の経済成長は予想を上回った。経済成長率は2.3%となり、銀行の不良債権に大幅な反動増が出現しないために、良好な基礎を創造した。

しかし、そうはいっても、監督管理は慎重・周到の角度から出発して、この問題を観察し、必ず将来の銀行の不良債権の情勢が比較的峻厳で、潜在的な不良債権がなお増加する可能性があることを見て取らなければならない。我々は、ストレステストを実施しており、相応の準備を行っている。