新5カ年計画党中央建議の説明

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年11月17日


はじめに

新華社北京電2020年11月3日は、党19期5中全会における習近平総書記の「国民経済・社会発展第14次5カ年計画と2035年長期目標に関する党中央建議」の説明全文を公表した。本稿では、このうち党中央建議の中身を説明した部分の概要を紹介する。

1.建議の主要な考慮と基本枠組
(1)総体考慮

第19回党大会が第2の百年奮闘目標の実現について行った、2段階で推進するという戦略手配に基づき、将来一時期の内外発展趨勢とわが国発展の条件を総合的に考慮し、わが国社会の主要矛盾をしっかり把握し、新発展理念を深く貫徹し、第14次5カ年計画期間のわが国発展について、系統的な計画と戦略手配を行った。

(2)原則

建議稿起草プロセスで、以下の原則を注意して把握した。

①継承と刷新の関係をうまく処理し、「2つの百年」奮闘目標の有機的にしっかりリンクさせる。

②政府と市場の関係をうまく処理し、わが国の制度の優位性を更に好く発揮させる。

③開放と自主の関係をうまく処理し、国内・国際の2つの大局を更に好く統一する。

④発展と安全の関係をうまく処理し、現代化プロセスに影響を与える可能性のあるシステミックリスクを有効に防止し、これに対応する。

⑤戦略と戦術の関係をうまく処理し、高所から長期を見据え、実務面でも効果のある計画建議を制定する。

(3)構成

15章から構成され、3部に分かれる。

①第1部 総論

2章に分かれ、主として小康社会の全面実現決勝で得た決定的成果、わが国の発展環境が直面する深刻・複雑な変化、2035年までに社会主義現代化を基本的に実現する長期目標、第14次5カ年計画期間の経済社会発展の指導思想、遵守すべき原則と主要目標について述べている。

②第2部 各論

総体として、新発展理念の内容に基づいて組織し、分野別に第14次5カ年計画期間の経済社会の発展・改革開放の重点任務を述べ、12の章を手配し、科学イノベーション・産業発展・国内市場・改革深化・農村振興・地域発展から、文化建設・グリーン発展・対外開放・社会建設・安全発展・国防建設等に至る重点分野の考え方と重点政策を明確にし、政策手配を行っている。

③第3部 結論

第15章と結語を含み、主として党中央の集中・統一的な指導の強化、社会主義政治建設の推進、計画の制定・実施の健全なメカニズムの整備等の内容を述べている。

2.説明が必要な重点問題

建議稿は、重要な観点・論述を提起した。そのうちの何点かを簡単に説明する。

(1)質の高い発展の推進をテーマとすることに関して

建議稿は、第14次5カ年計画期間の経済社会の発展は、質の高い発展の推進をテーマとすることを提起した。これは、わが国の発展段階・発展環境・発展条件の変化に基づいて行った科学的判断である。わが国は、なお長期に社会主義初級段階にあり、わが国は依然として世界最大の発展途上国であり、発展は依然としてわが党の執政・興国の第一の重要任務である。

強調すべきことは、新時代・新段階の発展は、新発展理念を貫徹し、発展の質を高めなければならないということである。現在、わが国社会の主要矛盾は、既に人民の日増しに増大する素晴らしい生活への需要と、アンバランス・不十分な発展との間の矛盾に転化しており、発展における矛盾・問題は発展の質に集中的に体現されている。これは我々に、発展の質の問題を更に際立てて位置づけ、発展の質・効率を高めることに力を入れなければならないと要求している。

現在、世界は百年未曾有の大変局を経ており、わが国の発展の外部環境は日増しに複雑化している。各種リスクの隠れた弊害要因を防止・解消し、外部環境の変化がもたらす衝撃・試練に積極的に対応するカギは、自身の事柄にしっかり取り組み、発展の質を高め、国際競争力を高め、国家の総合実力とリスクの制御能力を増強し、国家の安全を有効に擁護し、経済の長期にわたる安定運営、社会の調和・安定を実現することにある。経済・社会・文化・生態等の各分野は、いずれも質の高い発展の要求を体現しなければならない。

質の高い発展の推進をテーマとし、新発展理念を断固貫徹し、サプライサイド構造改革を主演とし、「質第一、効率優先」を堅持し、発展方式を確実に転換し、質の変革・効率の変革・動力の変革を推進して、発展の成果の恩恵を更に好く人民全体に及ぼし、素晴らしい生活へ向かう人民の願望を不断に実現しなければならない。

(2)国内大循環を主体とし、国内・国際の2つの循環が相互促進する新たな発展の枠組の構築に関して

新たな発展の枠組の構築は、時代と共に進み、わが国経済発展水準を高めるための戦略的選択であり、わが国の国際経済協力・競争の優位性を築くための戦略的選択でもある。

改革開放以降とりわけWTO加盟後、わが国が国際大循環に加入し、市場と資源の「2つを外に求め」、「世界の工場」の発展モデルを形成したことは、わが国の経済実力の急速な向上、人民生活の改善にとって重要な役割を発揮した。

ここ数年、グローバルな政治・経済環境の変化に伴い、反グローバル化の傾向が激化し、ある国家は一国主義・保護主義を大いに進め、伝統的な国際循環は顕著に弱体化した。このような情況下、発展の立脚点を国内に置き、国内市場に更に多く依拠して経済発展を実現しなければならない。

わが国は14億の人口があり、1人当たりGDPは既に1万ドルを突破している。これは、世界最大で最も潜在力のある消費市場であり、巨大な成長の余地がある。改革開放以降、我々は多くの外部のリスク・衝撃に遭遇してきたが、最終的にすべて危機を切り抜けることができた。依拠すべきは、自身の事柄にしっかり取り組み、発展の立脚点を国内に置くことである。

新たな発展の枠組の構築は、内需拡大という戦略基点を堅持し、生産・分配・流通を更に多く国内市場に依拠し、国民経済の良性の循環を形成しなければならない。

サプライサイド構造改革という戦略方向を堅持し、供給体系の内需への適応性を高め、経済循環の詰まりを打開し、産業チェーン・サプライチェーンの完全性を高めて、国内市場を最終需要の主要な源泉とし、需要が供給を牽引し、供給が需要を創造するハイレベルの動態的バランスを形成しなければならない。

新たな発展の枠組は、決して閉鎖的な国内循環ではなく、開放的な国内・国際2つの循環である。幅広く円滑な国内経済循環の形成を推進すれば、世界の資源・要素を更に好く吸収でき、内需を満足するだけでなく、わが国産業技術の発展水準を高め、国際経済協力・競争に参加する新たな優位性を形成することになる。

(3)第14次5カ年計画と2035年までの経済発展目標に関して

意見徴求プロセスにおいて、一部地方・部門は、第14次5カ年計画の経済成長速度目標を明確に提起し、2035年までの経済総量あるいは1人当たり所得の倍増目標を明確に提起するよう建議した。

文件起草グループが真剣に研究・試算を経た結果は、経済発展の能力・条件から見て、わが国経済は長期に平穏に発展する希望と潜在力があり、第14次5カ年計画末に現行の高所得国家基準に達し、2035年までに経済総量あるいは1人当たり所得の倍増を実現することは、完全に可能である。

同時に、将来一時期の外部環境において、不安定・不確定要因がかなり多く、国内経済発展に打撃を与える可能性のある、少なからぬリスク・隠れた弊害要因が存在し、新型コロナ肺炎疫病の世界大流行の影響は深遠であり、世界経済は引き続き低迷する可能性があることを考慮すれば、中長期計画目標は、経済構造の最適化を更に重視し、各方面を誘導して政策の重点を発展の質・効率の向上に置かなければならない。

党中央の建議は、主として大方向を掴み、大戦略を定めるものである。各方面の要因を総合的に考慮して、建議稿は第14次5カ年計画と2035年までの経済発展目標について、定性的な記述を主とし、定量を含ませる方式を採用した。

計画「要綱」の編成の際には、真剣な試算の基礎の上に、相応に定量化した目標を提起して構わない。

(4)人民全体の共同富裕の促進に関して

共同富裕は社会主義の本質的要求であり、人民大衆の共同願望である。我々が経済社会の発展を推進するのは、とどのつまり人民全体の共同富裕を実現することに帰する。

新中国とりわけ改革開放以降、わが党は人民を団結させ牽引して、共同富裕の目標の実現に向けてたゆまず努力し、人民の生活水準は不断に高まった。18回党大会以降、我々は脱貧困堅塁攻略を重点中の重点としており、現行基準下の農村貧困人口を全部貧困から脱却させることは、人民全体の共同富裕を促進するための重大措置である。

現在、わが国の発展のアンバランス・不十分の問題が依然際立っており、都市・農村、地域間の発展と所得分配格差はかなり大きく、人民全体の共同富裕の促進は長期の任務であるが、わが国が小康社会を全面実現し、社会主義現代化国家を全面建設する新たな征途を開くに伴い、我々は人民全体の共同富裕の促進を更に重要と位置づけ、しっかりと地を踏みしめ、根気よく頑張り、この目標が更に積極的な成果を上げるよう努力しなければならない。

このため建議稿は、2035年までに社会主義現代化国家を基本的に実現する長期目標において、「人民全体の共同富裕が、更に顕著な実質的進展を得る」ことを提起し、人民生活の質の改善部分では、「共同富裕を着実に推進する」ことを際立てて強調し、いくらかの重要要求・重大措置を提起した。このような記述は、党の全会文件では初めてであり、前進方向と奮闘目標を明確に指し示すだけでなく、実際に基づいて正確な方法を見出し、発展のルールに合致したものであり、必要性と可能性を併せ考慮し、施策において積極かつ適切に把握し、人民全体の共同富裕を促進する道を不断に前へと邁進することに資するものである。

(5)発展と安全を統一することに関して

安全は発展の前提であり、発展は安全の保障であることを、我々はますます深刻に認識している。現在及び今後一時期は、わが国の各種矛盾とリスクが発生しやすい時期であり、予見可能・予見し難い各種のリスク要因が顕著に増大する。

我々は、発展と安全を統一することを堅持し、チャンスの意識とリスク意識を増強し、(最悪事態を想定して)最低ラインを守る考え方を樹立し、困難をより十分推し量り、リスク思考を更に深め、「遺漏を塞ぎ、脆弱部分を補強する」ことを重視し、先手を打ち、主動的にしっかり戦い、各種リスク・試練を有効に防止・解消し、社会主義現代化事業の順調な推進を確保しなければならない。

上述の認識に基づき、建議稿は特別の章を設け、発展と安全の統一、国防と軍隊の現代化加速等について戦略的手配を行い、総体としての国家安全観を堅持し、国家安全システムと能力建設を強化し、国家安全のための障壁を堅固に築かなければならないと強調している。

(6)システムの概念を堅持することに関して

建議稿は、第14次5カ年計画期間の経済社会発展は、システムの概念の原則を遵守し堅持しなければならないと提起している。

18回党大会以降、党中央は系統的な計画、党と国家の各事業の統一推進を堅持し、新たな実践の必要に応じて、一連の新配置・新方略を形成し、全党・全国各民族・人民を牽引して歴史的な成果を得た。このプロセスにおいて、システムの概念は基礎的な思想と施策の方法である。

小康社会の全面実現後、我々は社会主義現代化国家を全面建設する新たな征途を開くが、わが国の発展環境は深刻・複雑な変化に直面しており、発展がアンバランス・不十分の問題が依然際立ち、経済社会の発展における矛盾は錯綜し複雑である。システムの概念から出発して計画・解決し、各分野の政策と社会主義現代化建設を全面協調させて推進しなければならない。

(7)小康社会の全面実現の達成情況と宣言のタイミングに関して

建党100周年の際、十数億の人口に恩恵を及ぼすハイレベルの小康社会を全面実現することは、わが党が新世紀に入って後、小康社会の基本的実現の基礎の上に提起した奮闘目標であり、人民に対する厳粛な約束である。

改革開放の初めに、党中央が小康社会の戦略構想を提起して以来、我々は人民の素晴らしい生活への願望を奮闘目標とし、数代にわたりこれを貫き、継続奮闘してきた。

第13次5カ年計画期間は、小康社会の全面実現の決勝段階であり、我々は「重点に取り組み、不足部分を補充し、脆弱部分を補強する」ことを際立たせ、「重大リスクの防止・解消、精確な脱貧困、汚染対策」の堅塁攻略戦を断固しっかり戦い、一連の新たな重大成果を得た。

突如やって来た新型コロナ肺炎疫病は、わが国経済社会の発展に大きい不利な影響をもたらした。党中央の堅固な指導の下、全国人民の共同努力を経て、新型コロナ肺炎疫病防御は重大な戦略的成果を得て、わが国経済社会の回復は世界の前列を歩み、主要経済指標は好転し、社会の民生は有効な保障を得た。

今年、わが国のGDPは100兆元を超えると予想され、人民の生活水準は顕著に高まり、現行基準下での農村貧困人口は全面的に貧困を脱し、第13次5カ年計画が確定した発展目標は期限通り達成でき、小康社会の全面実現の目標は期限通り実現できる。

現在なお小康社会の全面実現が進行していることを考慮し、建議稿の記述は「小康社会の全面実現の決勝は、決定的成果を得た」としている。

2021年上半期、党中央は小康社会の全面実現について、系統的な評価・総括を進め、その後、わが国が小康社会を全面実現したと正式に宣言する。