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財政・金融

金融-債務問題 Debt Problems of Developing Countries

「国の借金」でクビが回らなくなってしまったら

ブラジルのリオデジャネイロ市のスラム
ブラジルのリオデジャネイロ市のスラム
経済発展を促進する目的で、自国・外貨建て国債の発行、開発機関・先進国からの援助(融資)、民間金融機関からの借入など、財政・財務制約の厳しい開発途上国の政府や企業はさまざまな手段を用いて資金調達を行います。特に1980年代以降、世界的な金融自由化の潮流は、途上国の資金調達手段の多様化を可能にしました。しかし、その償還や元利返済が常に設定されたスケジュール通りに実現するとは限りません。税収基盤の脆弱さに代表される内生的問題や、外貨獲得産品の価格下落や災害などの途上国政府自身にはコントロール不可能な外生ショック、あるいは通貨・金融危機を契機として債務超過となり、債務不履行(デフォルト: default)に陥る場合が往々にしてあるからです(このような状況を「債務危機」とも呼びます)。
債務不履行の発生は、債権機関にとって回収率の低下と業績悪化を意味する一方、債務国側には直近の返済資金の手当てから将来的に開発資金の調達コストが上昇する(最悪の場合、調達不能になる)可能性まで、看過できない多くの問題を生み出します。累積債務問題が顕在化した1970年代後半には、その原因は債務者である途上国の一時的な流動性不足と考えられていましたが、1980年代後半には、返済に十分な経済パフォーマンスの不足がもたらす構造的な問題として認識されるようになり、国際社会で対応する必要性が議論されました。そこで、IMFや世界銀行を中心として(1)元利払いのスケジュールを返済可能なものに変更する(リスケジューリング:rescheduling→債務繰り延べ)、あるいは(2)元利の一部の返済を免除する(ヘアカット: hair-cut→債務削減)を内容とし、債権者グループに一律の対処を行わせるベーカー提案(1985年)や、さらに、債権者間の交渉取りまとめに時間を要する(1)(2)の他に、(3)債務を証券として組み直し、リスク選好の高い投資家に売却する(証券化: securitization)手法も採用したブレイディ提案(1987年)などがまとめられ、ラテンアメリカや東南アジア諸国に適用されました。1997年に発生したアジア通貨・金融危機の影響を受けた諸国の殆どでは、公私企業の不良債権処理にこの証券化(例えば資産担保証券)が利用されています。

債務問題は、返済に関する対外的な問題以外にも、国内的な影響を及ぼします。そもそも開発金融の目的は、経済力と国民の厚生を向上させ、貧困を削減する(関連テーマ:「経済成長」、「貧困」、「不平等」)ことにあるはずですが、重債務最貧国(heavily indebted poor countries: HIPCs、例えばアフリカ諸国)では債務残高および貧困削減の両面で目立った成果が見られないのが現実であり、また、債務危機の状況にあっては、生活基盤の脆弱な貧困層がより深刻に影響を受けることが、これまでの研究で明らかになっています。このような事態に鑑み、IMFと世銀は1996年にHIPCイニシアティブを開始しました。このスキームは各国政府や民間債権機関との協働で実行され、一定の要件を満たしたHIPC諸国の債務を返済可能な水準にまで削減することを目的としており、2009年6月までに35か国が暫定的措置を含めた債務削減を受けています。また、ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)の一つとして盛り込まれた国際機関の対HIPC債権放棄を促進するため、2005年にはG8合意に基づくマルチ債務救済イニシアティブ(Multilateral Debt Relief Initiative: MDRI)が同様のスキームで発足しました。対IMF・IDA・アフリカ開発基金債務を全額免除されたのは非HIPC国を含め26か国(2009年6月時点)、さらに16か国が対象となる予定です。2007年以降の世界同時不況の影響もあり、このような動きは、米州開発銀行など他の国際機関にも波及しています。

それでは、債務危機の予防や重債務状態の緩和には、何が必要なのでしょうか。開発経済学の観点からは、上記のような債務額自体の削減など歳出(支出)面からの対策と同時に、歳入(収入)面の改善、すなわち、財政(財務)基盤の安定化や債務額の管理なども重要な分析・研究対象となります。1990年代後半からは特に、MDGsの設定を受けた「経済開発に伴う債務と貧困削減」や、1980年代以降に構造調整の一環として進められた公営企業民営化(とその失敗)等の結果として発生する「偶発債務(contingent liabilities)」の問題などがイシューとして注目されているほか、累積債務が維持可能なレベルを超えないよう、中央政府が抱えるさまざまな債務関連リスクの数値化を可能にする指標の開発が試みられています。
柏原 千英