調査研究

研究会一覧2023年度

2014年ウクライナ危機後の旧ソ連中央アジアの人口移動

概要

ソ連崩壊によって、旧ソ連地域には大きな人口移動が発生した。そのひとつはロシア人をはじめとした民族的な「帰還」であり、もうひとつは各国間の経済格差に起因する恒常的な出稼ぎである。中央アジア諸国にとって、ロシアは出稼ぎの主たる受け入れ先であった。2014年のウクライナ危機後に国際的な制裁を受けた際には、ロシア経済は一時的な混乱の後に輸入代替を一定程度達成した。中央アジアからの労働移民も大きな意味を持ち続けた。

しかし、2022年のロシアによるウクライナ侵攻は、旧ソ連諸国間の人の移動に大きな変化をもたらしつつある。ひとつは金融制裁を回避するために、経済活動を行うロシア人が旧ソ連諸国に移動する事例である。もうひとつは9月の部分的動員令を受けてロシアを出国する人の流れである。後者の動きの規模は無視できないものであり、例えばウズベキスタンの諸都市では賃貸住宅の価格が高騰していることが報告されている。このような急激な変化は、2022年の状況を直接的な原因とするが、ロシアの文脈からは2014年のウクライナ危機以降の状況から位置付けることが必要となろう。また、中央アジア側の変化も重要である。特にウズベキスタンにおいては、ミルジョエフ政権下で経済と社会の自由化が急速に進展しており、ロシアに出ていた労働移民の一部が国内に戻ってきているとされる。ロシアのウクライナ侵攻に対しても、中央アジア各国政府は一般に慎重な姿勢を維持しており、ロシアおよび西側との距離感は複雑なものである。付言すれば、ロシア帝国・ソ連の下での100年以上の統合によって、リンガフランカとしてのロシア語、都市部における世俗文化と一定のロシア人人口が形成されていることは、ロシアと旧ソ連諸国間の人の移動の容易さの文化的な前提である。これらの経済的、政治的、文化的要因を踏まえて、2014年から2023年の旧ソ連中央アジアの人口移動を整理し、それぞれ動きの要因を解明することが本研究計画の目的である。

旧ソ連地域は境界研究の主要なフィールドの一つであり、当該地域を対象とした事例研究および理論的検討が蓄積されてきた。人口移動に関しても、ソ連崩壊後に発展してきた境界研究の先行研究は理論的な検討を重ねてきており、本研究でもその成果を十分に参照する。

期間

2023年4月~2025年3月

研究会メンバー
役割 メンバー
[ 主査 ] 植田 暁
予定する研究成果
  • アジア経済