「文化の測定と比較、形成要因に関する予備的考察」 基礎理論研究会成果報告書

調査研究報告書

明日山 陽子

2024年3月発行

第1章

本章では、主に経済学分野の論文において、「文化」および「文化の影響」がどのように計測されてきたか、主な先行研究を紹介・整理する。まず、回帰分析によって文化がアウトカムに与える影響を正しく推定するためには、アウトカムと文化の両方に影響する環境要因を完全に制御する必要がある。このため経済学では、文化が異なる人々が同じ環境に直面している状況、つまり環境要因が全員同一のため完全に制御できる状況を見つけ出して利用してきた。主に移民データを用いた疫学的アプローチの他、文化の異なる人々が同じ行政区内に長年住んでいる状況に空間回帰不連続デザインを適用した研究などが該当する。また、「文化」の計測手法として本章では、①国(集団)ダミーを使用する、②文化を体現する国(集団)の客観的指標を用いる、③質問紙調査の回答の国(集団)平均値を用いる、④実験室(ラボ)実験またはフィールド実験で測る、⑤その他(主観的厚生との相関から推定、インターネット上でのデータ収集など)の手法を簡単に紹介する。

第2章

本章では、文化研究でよく用いられる順序尺度(ordinal scale)を使用して個人や集団間の平均値を比較したり、回帰分析を行ったりする際に、どのような問題が生じるのか、またそれらの問題にどう対処すればよいのか、既存研究をもとに検討する。順序尺度の番号と、その背後にある計測したい概念の真の値の対応関係をreporting function (RF)と呼ぶ。本章では、このRFの形状が不明だが回答者全員同一の場合と、回答者によって異なる場合に分けて、問題を整理する。結論としては、様々な対処方法が検討されているものの、現状、完璧な対処方法はないといえる。順序尺度を用いた分析をする際には、可能な限り様々な対処手法を試して結果の頑健性をチェックするのが、現時点におけるベストな手法であると思われる。