東アジアの人文社会科学における論文データベースと評価制度

調査研究報告書

佐藤 幸人  編

2016年3月発行

全文 (900KB)
第1章
中国における雑誌評価——人文社会科学系雑誌の核心期刊と来源期刊—— / 狩野修二
本稿は、中国で学術評価のツールとして使用されている核心期刊(コアジャーナル)について、その種類、評価方法について主に社会科学系の分野を対象として整理する。核心期刊は複数の機関により選定・公表されているが、その選定方法、評価方法は異なる。また中国国内において、核心期刊それ自体とそれによる評価について交わされている賛否両論の議論についても整理を行う。

第2章
中国の社会科学分野における論文データベース / 澤田裕子
本稿では、まず、中国のデータベース利用と開発の概要を述べ、次に、電子ジャーナルと引用文献データベースを中心に主要なデータベース製品の特色と開発元の発展過程について概観する。また、無料の人文社会科学分野の電子ジャーナル、およびインターネット上の学術情報サービスについて紹介する。最後に、まとめとして、これらのデータベースおよび学術情報サービスの中国の学術界への影響について考察する。

第3章
韓国の学術雑誌引用索引データベースと研究評価 / 二階宏之
韓国では研究成果の質的水準を把握するために海外の学術雑誌引用索引に依存してきた。しかし、国内論文が海外に流出し、論文の質が低下したことなどから、韓国研究財団は、韓国学術雑誌引用索引を構築し、定性的評価が可能な複合引用指標を開発した。各大学における教員業績評価制度では、教育、研究、奉仕の領域の中で研究の比重が高い。その中で雑誌論文の評価は海外の学術雑誌引用索引への掲載の方が国内より高くなっている。韓国雑誌を国際水準に高めるために、研究評価や学術雑誌引用索引は重要な役割であり、今後は量的評価から質的評価への転換を迫られている。

第4章
社会科学分野に関する日本の学術論文データベースと研究評価 / 岸真由美
本稿は、日本の学術論文データベースの整備が学術情報流通推進を目的として進められてきたことを明らかにするものである。また、日本の研究評価制度は、学術情報流通とは異なる文脈、すなわち大学設置基準の大綱化や国立大学法人化の文脈において導入が進んだことも示す。

第5章
インパクトファクターを使った研究評価制度に対する諸批判 / 佐藤幸人
本稿はSSCIやインパクトファクターに対する諸批判を整理し、それが2つのタイプに分けることができることを明らかにした。1つは学術誌を評価するために考案されたというインパクトファクターの性格から、それを論文、研究者、大学および研究機関の評価に用いることは誤りであるというタイプの批判である。もう1つは、SSCIおよびインパクトファクターに基づく評価制度は負の副作用をもたらすというものである。特に英語を母語としない社会では、SSCIやインパクトファクターに基づく評価制度が導入されることによって、研究のアメリカ化、英語化が助長され、研究者と自らが属する社会とのコミュニケーションが圧迫されることになるという懸念や不満が表明されている。

2つの批判は異なるディメンションにあるが、評価制度に対する姿勢は近似している。ともに論文をはじめとする研究成果、研究者、大学および研究機関を評価する場合、インパクトファクターのように学術誌ベースの数量的指標を用いることは不適切であり、最も望ましいのは論文等の研究成果自体を直接、評価することであると考えている。そのためには、まずはSSCIやインパクトファクターを使った評価制度の問題点に対する理解を広めることが必要であろう。