低成長時代を迎えた韓国の社会経済的課題

調査研究報告書

安倍 誠  編

2016年3月発行

表紙 / 目次 (265KB)
序章
韓国の低成長をめぐって (539KB) / 安倍誠
近年、韓国の低成長が顕著になっているが、「失われた20年」と呼ばれる1990年以降の日本と、少子高齢化や生産性の低下といった面で似通っている部分が多い。日本のようにデフレに陥るまで深刻化していないものの、圧縮型発展と呼ばれるほど成長が急であったために成熟過程も急速であり、そのために技術基盤や対外資産などストックが十分に蓄積されないままに成長が落ち込む「早老化」も懸念される。

第1章
本章では韓国における長期的な人口変動や世代間の経済関係について、日本との比較のなかで考察する。超長期的な人口変動から見える少子高齢化の行方を概観するとともに、消費関数の推定によって年齢階層別の消費構造を分析し、国民移転勘定(NTA: National Transfer Accounts)から見える世代間移転の状況について考察を行う。

第2章
韓国では今後高齢化が急速に進み、2060年には日本を抜いてOECD加盟国で最も高齢化比率が高い国となる。また高齢化にともなって潜在成長率も低下する。このようなマクロ経済の環境の下で、現行の負担水準と社会保障水準を維持すれば、2060年を待たずして財政は持続可能ではなくなり、債務危機を引き起こす可能性が高まる。この状況を避けるためには、国民負担の引き上げが現実的である。

第3章
輸出主導の経済発展政策の結果、韓国の貿易依存度は高まったが、2015年には輸出減少で成長率が落ち込んだ。産業別貿易収支の要因分解の結果、半導体・電子デバイス、情報通信機器などで競争力を持つが自動車、造船では競争力に陰りが見えることが示された。競争力の対中優位、対日劣位が緩和される兆候が示されたほか、FTA発効を境に対EU貿易の性格が大きく変化したことも示された。ASEANに関しては韓国の海外投資の影響がみられた。

第4章
韓国産業の競争力再考 (499KB) / 安倍誠
本稿では輸出成長に陰りが見えるなかでの韓国産業の競争力を考える。韓国の競争力の問題点は、輸出構造が新興国向けの特定品目に偏重していることである。大型設備による少品種大量生産の製品が輸出の中心である一方で、十分な競争力を持っていない製品は開発プロセスにおいて多くの経験の蓄積が必要とされるものである。同じ化学産業のなかでも分野によってこの違いが明瞭に現れている。この問題を考える上での有用な先行研究として服部民夫の「組立型工業化」論とソウル大学校工科大学の『蓄積の時間』における概念設計についての議論を検討する。