途上国農業の新たな担い手

調査研究報告書

清水 達也  編

2016年3月発行

第1章
近年、農業とそれを取り巻く環境が大きく変化している。その中で途上国には、この変化に対応して成長し農産物供給を拡大している農業経営体がみられる。本稿では、このような経営体を途上国農業の新たな担い手とよぶ。そして先行研究を参照しながら、新たな担い手が拡大する要因やその特徴を研究するための分析視角を提示する。まず、生産要素市場、農業生産、農産物市場で近年みられる変化を指摘した。次に、農業経営体を分析する視角として、構造、機能、他の経済主体とのつながりに注目し、先行研究でどのように分析されているかを提示した。

第2章
ベトナム農業経営の新動向 (503KB) / 荒神衣美
本章ではベトナム農業経営の新たな動向を概観した。ベトナムの農業経営の主流をなすのは家族経営であるが、その在り方はより外部経済に依存する方向に変わりつつある。また、企業経営が増加傾向にあり、不動産事業などで財を成した大企業がかなり大規模に農地を集約して農業生産に参入するという事例も出てきている。

第3章
近年中国農業は農業経営の零細性に起因する生産性の低さ、多様化・高度化する消費者の需要への対応という問題に直面している。これらの問題に対処するため、近年農業インテグレーション、生産者の組織化、農地流動化が政策的に推進され、従来の小農経営を主体とした農業構造から近代的な経営モデルへの転換がはかられている。本稿では、中国における農業インテグレーションの発展のなかで新しい農業経営モデルの代表的な担い手として位置づけられている専業合作社、大規模専業農家に加え、依然大多数を占める小農経営を支えている農業機械作業の請負業者を取り上げる。新しい農業の担い手に関する研究の準備として、本稿では関連政策をレビューし、統計や各種資料を用いてこれらの主体の発展状況と特徴の把握を試みる。