中国の「新型都市化」:政策と現状

調査研究報告書

岡本 信広 編

2016年3月発行

表紙 (149KB)
目次 (157KB)
全文 (1.83MB)
第一章
中国における地方主体の地域発展戦略の展開(2008~2015年) / 穆 尭芊
本稿は中国の地域開発政策の展開に関する先行研究を踏まえ、地域発展戦略における中央と地方の役割及びその変化という視点を取り入れて、中華人民共和国建国直後の1950年代から現在までの地域開発政策の新しい時期区分を提起した。2008年から2015年までの期間は地方主体の地域発展戦略の時代であったと主張し、この時期の地域発展戦略の枠組み、展開の背景、戦略の承認状況、実施の実態や課題などを明らかにした。また、地方主体の地域発展戦略は、新型都市化とは相互補完的な関係にあり、都市化に対して経済・産業の基盤を提供するという重要な役割があると指摘した。

第2章
内陸部の都市化——貴州省を事例に—— / 岡本信広
本稿では、2015年11月に実施した貴州省の都市化の現地調査結果を事例とし、内陸部の都市化の状況をあきらかにする。
中国国内でもっとも発展の遅れている貴州省の課題は、その位置と地形にあり、そのため貴州省の工業化、それに伴う都市化が進展することは難しかった。近年貴州省では大量の資本投下が行なわれ、急速な経済発展を実現してきた。都市化の事例として、国家級新区となった貴安新区の産業誘致、失地農民への新社区建設、国家都市化計画の試点・安順市における農村観光化をとりあげた。しかし、上からの都市化がもたらす非効率性、「コピー農村」の増加、内陸開発自体がもつ問題、などの課題がある。

第3章
外資企業の内陸進出と地方政府の都市化戦略——富士康のケースを中心に—— / 山口真美
改革開放期に中国沿海部に進出した外資企業の多くは、2004年の「民工荒」以降、第三国や中国の内陸地域への工場移転を迫られている。本稿が注目した台湾資本の富士康科技集団は2010年の事件を契機に、内陸進出を開始した。このとき、富士康の誘致に成功した四川省成都市、河南省鄭州市という労働力資源の豊富な二大地域の地元政府の誘致活動と富士康への優遇、協力措置に、中国の地方政府の都市化戦略と独特な政府行動が垣間みられる。両省政府ともに、用地確保やインフラ整備、優遇税制などの一般的な企業誘致活動の他、富士康のためのワーカー斡旋を請け負い、多大なコストを負担した。さらに、続いて富士康が進出した貴州省貴安新区では、地元政府が同様に富士康に対して、充実した行政支援を提供している。これらの成果と課題から、地方政府による都市化政策の可能性と限界を考察した。

第4章
中国の都市開発と産業事故リスク——天津港 8・12 爆発事故調査報告書を中心に—— / 大塚健司
本稿では、2015年8月12日に天津港の危険化学物質保管倉庫で発生した爆発事故を事例として、中国の都市開発と産業事故リスクをめぐる諸問題を検討していくことを目的として、国務院事故調査報告書を中心に事故の経緯、原因、背景に関して整理、検討を行った。爆発事故が発生した天津市濱海新区は、中国で上海浦東新区と並んで国家級新区として比較的早くから開発された地域であり、中国の新型都市化政策における「持続可能な発展能力の向上」という課題の実現可能性を考える上で重要な地域である。そこで同新区で発生した爆発事故の原因を究明するとともに、教訓と課題の社会的共有を図っていくことは欠かせない。事故調査によって新区を中心に安全生産管理体制上の多くの問題が明るみになったが、補償の全体像など明らかにされていない点も少なくない。今後の課題としては、天津港爆発事故の事例について、被害への補償、問責のあり方など事故対応をめぐる諸側面の検討に加えて、環境保全及び防災・減災を連続した問題としてとらえる「リスク・ガバナンス」の視点から、長年にわたって経済発展を急いできた中国都市が抱える社会的課題として検討していくことが求められる。