資料紹介: 新生アフリカの内発的発展 ——住民自立と支援——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:大林 稔・西川 潤・阪本 公美子 編 『新生アフリカの内発的発展 ——住民自立と支援——』
牧野 久美子
■ 『アフリカレポート』2014年 No.52、p.34
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「内発的発展」とは、地域固有の資源をベースとして、地域住民の主導により内発的に進められる発展のことを指す。内発的発展論は、単線的な近代化論への対抗理論として長い歴史を持つものであり、日本においては鶴見和子、そして本書の編者のひとりである西川潤が代表的な論者となってきた。本書は、この内発的発展論を、21世紀のアフリカの文脈で改めて検討する試みである。

本書は2部構成になっており、序説(西川潤・阪本公美子)に続く第1部「各国・地域に見る内発的発展——住民自立に根ざす自前の民主主義」では、さまざまな国・地域における内発的発展の可能性を探っている。そこでは、アルジェリアの資源ナショナリズムを基盤とした工業化の経験(勝俣誠)、エチオピアの開発主義と民主主義(西真如)、エチオピアのコミュニティ種子システム(西川芳昭)、ニジェール農民の生計戦略(関谷雄一)、ザンビアのアンゴラ移住民の適応戦略(村尾るみこ)、タンザニアの自然保護への地域住民の抵抗(岩井雪乃)、タンザニアの周辺化された社会における共同体の再構築(阪本公美子)が事例として検討されている。第2部「内発的発展と外部支援——相克と協働」では、開発援助が内発的発展といかに両立しうるかを検討している。扱われているのは、日伯連携ODAによるモザンビークのプロサバンナ事業の問題点(舩田クラーセンさやか)、初等教育の無償化がもたらした新たな課題(石田洋子)、内発的発展の考え方に沿って変化したかに見える開発援助政策の限界(尾和潤美)、内発的なガバナンス政策の可能性(笹岡雄一)、内発的発展のための可能環境アプローチ(大林稔)である。

本書の副題が示すように、内発的発展の視点から外部支援の役割を批判的に検討していることが本書の大きな特徴となっている。開発援助が内発的発展を阻害する可能性は大いにある一方で、もともと内発的発展論は外来の知識や技術などを地域の人々が自律的に取り入れ、新たな活動を生み出すことを理論の射程に含んでいる。外部支援と内発的発展の関係を正面から扱っているのは第2部だが、第1部も援助機関や国家による外から、上からの開発圧力のなかで、いかに地域住民が主体性や創造性を発揮しているかが主要なテーマとなっている。地域住民による内発的発展の可能性を信頼し、外部者が果たし得る役割とその限界について真摯に考えた好著である。

牧野 久美子(まきの・くみこ/アジア経済研究所)